エッセイ  - 麗しの磐梯 -

「心豊かな日々」をテーマに、エッセイやスケッチを楽しみ、こころ穏やかに生活したい。

ウスバシロチョウの楽園

2009-05-11 | 昆虫


春から夏への青空に、芽吹きの遅い桐も花が咲き始め、フジが美しく垂れ下がっている。
何年かぶりで思い出の自称「ウスバシロの楽園」を訪ねてみた。この季節、ウスバシロはヒメジョオンやセイヨウカラシナに止まり無心に蜜を吸っているが、今年は少し早いようだった。でも、20年前と同じように、数十頭の白いチョウがたおやかに舞っていた。

この楽園に初めてきたのは20年も前か、静かな林の中に寝ころんで、さわやかな初夏を楽しんだ。あのときの思いが蘇ってきた。そのときの思いが短い文章に残っている。

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「ウスバシロチョウに考える」
風がかすかに頬を撫でる爽やかな初夏の一日、旧滝沢峠を歩いた。途中、林の中を可憐に舞うウスバシロチョウに出会った。まだ若いはぜの林の下草は、一面ハコベ、スイバ、ギシギシ、ヒメシオンのじゅうたん。ウスバシロチョウの食草ムラサキケマンの紅色と、無心で吸密するカントウタンポポの群落の黄色は初夏の色だ。林の間を二、三十頭のウスバシロチョウが静かに、可憐に舞っている。
 この楽園に約二時間、カメラと野帳を手に寝ころぶ。一人目をつぶり、音、臭い、空間をこころから感じる。四十五億年もの気の遠くなる歳月が造った万物のバランスを思う。営々と生き延びたこの女神をいとおしく思いつつ、あらためて人と自然の関わりを考える。
 地球環境保全の対象としてのハードな自然と共に、こうした生き物の観察から生まれる感動の対象としてのソフトな自然があると思う。自然に包まれ、自然を観察し、知覚することから自然保護の思想が生まれると考える。 (1993.6)
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何年も繰り返された光景が、今もここにあった。嬉しかった。
ウスバシロチョウは私にとって、かけがえのないチョウだ。春の野山をたおやかに舞う。たおやかという表現がぴったりの飛び方だ。約1時間、時間を忘れてウスバシロチョウの飛翔を撮った。なかなか思い通りには撮らせてくれない。
 大きく育った木々の間を、止まることなくたおやかに舞い続けるウスバシロチョウ。伴侶を見つけるでもなく、食草を探すでもなく、咲くタンポポに吸蜜するでもなく、ただたおやかに舞っていた。蛹を脱ぎ捨て、生を喜びながら楽園に舞う。多分、初めて見る楽園を楽しんでいるのだろう。

 たおやかだが、思うように速度をゆるめない。方向を定めずに舞う。ピントも合わせにくい。結局、思うような写真は撮れずじまいだった。飛翔を撮ることはとても難しかった。