【葉の落ちたケヤキの枝にアシナガバチの巣が揺れる】
年末に、長い間ほこりをかぶっていた本棚の整理をしている。
何気なく手に取った文庫本は、ほとんど忘れていた小林秀雄のエッセイ、懐かしい名前だ。茶っぽく変色した本は時代の臭いさえした。
かつてページをめくったのだろう、ぽつりぽつりくねくね曲がった傍線やチェックが入っている。かすかな記憶の中に数行の文字をたどるも、読んだ覚えは浮かんでこない。
しばらく読み進めながら、よくこんな難解な文章を読んだことかと感心した。40年の歳月は、目を悪くさせ、頭の回転も鈍らせたに違いない。やがて静かなまどろみさえ誘発するのだった。
よく経験することだが、かつて明らかに目で追った文字も、また新鮮に思えことがある。
しばらくは冬の季節に、昔手に取った、我が家の床が抜けんばかりの蔵書を再探検してみようと思っている。