■イーグルスのコンサート■
またまたインドアな話。
3月1日は待ちに待ったイーグルスの大阪公演の日。妻と二人で連れ立って、会場である大阪ドームへと向かった。
ドーム球場内に反射する残響音が大き過ぎて音響的には劣悪な環境だったのと、残念にもグレン・フライとティモシー・B・シュミットの声に陰りがみえていたことを除けば、コンサートの内容は、ほぼ完璧な内容だった。特にジョー・ウォルシュに至ってはDVD(2005年の映像)を見た時よりもパフォーマンスがパワーアップしており、コレには正直言って驚かされてしまうほどだった。
一曲目の「Seven Bridges Road(セヴン・ブリッジズ・ロード)」に始まり、途中で休憩を挟みつつ、ラストの「Desperado(ならず者)」まで全27曲、約3時間に及ぶコンサートだったが、気になることが…。メンバーの年齢は、もう63歳前後。何かの記事で「もう日本に来るのは最後かも知れない。」と書かれていただけに、ボクにとっては「最初で最後の出会い」になるかも知れないのだ。だから燃え残って後悔しないよう、コンサートを思う存分楽しんできたのである。
特に感動したのは、現在東京で暮らす友人が大好きなジョー・ウォルシュの名曲「Walk Away(ウォーク・アウェイ)」が生で聞けたことだ。実は、その友人も東京でのコンサートを見に行くそうだ。今の彼には、ボクなんか比べものにならないくらいのパワーが必要だから、ジョー・ウォルシュには大阪でのコンサート以上のパフォーマンスを発揮して、彼にフル・パワーを与えてくれることを願っている。「頼んだゾ!ジョー!」
■イーグルスからのメッセージ■
イーグルスの代表曲と言えば、誰でも真っ先に思い浮かぶのは何と言っても「Hotel California(ホテル・カリフォルニア)」だろう。かく言うボクもロックという音楽に興味を持ったのが中学1年生頃であり、その年=1976年にイーグルスの5thアルバム「Hotel California」が発売されたので、言わばボクのロック歴は、そのアルバムのタイトルナンバーである名曲「Hotel California」と共にあるのだ。
「Hotel California」の美しいというか、怪しげというか、そのメロディにつけられている歌詞は「愛」だとか「恋」だとかといったものではなく、そのストーリー性のある歌詞の展開の中には深い意味が込めてあり、それは当時のアメリカ合衆国の状況や音楽業界に対する批判のメッセージだというのは、ファンや英語に通じている人にとっては周知の事実だとは思う。
英語は直には理解できず、歌詞カードを見るしかないないボクではあるが、そんな歌詞の中で一番印象的な部分は、ホテルで主人公が支配人と言葉を交わした、
So I called up the Captain
"Please bring me my wine"
He said ,"We haven't had that spirit here
Since nineteen sixty nine"
「”ワインを飲みたいのだが”と支配人に告げると
”1969年からというもの
酒は一切置いてありません”と彼は答えた」
という部分だ。
1969年といえば、ボクの敬愛するジミ・ヘンドリックスがトリをつとめた「ウッドストック・フェスティバル」の年にあたる。
1960年代後半におけるロックのパワーは、特にベトナム戦争に対する反戦という部分では政治を揺るがすほどになっていた。そしてそのピークであったとされるのが、そのウッドストック・フェスティバルだと言われているのだが、フェスティバルの裏側では既に退廃した空気が渦巻き、その実情はロックの掲げる理想とはかなりかけ離れたモノになっていたのだそうだ。
そして、同じ1969年の暮れには意見が合わず、ウッドストック・フェスティバルへの出演を拒否したローリング・ストーンズが中心になって独自に立ち上げたコンサートが行われた。しかしそこでは一部のファンが暴徒化して、ついには死者までが出てしまう。コレを「オルタモントの悲劇」というのだが、その結果に絶望したのか、ストーンズはロックのパワーに懐疑的になり、元々持っていた反体制的な部分が影を潜めるようになっていったのだそうだ。そして他のロック・ミュージシャンも同様に…。
これら1969年に催されたロックフェスティバルの背景に広がる闇や退廃によって60年代に高まっていった理想は見事に打ち砕かれ、70年代のロックは商業主義とも言えるエンターテーメント性を重視した、新たな時代へと突入していくのだが、イーグルスはこの時失われたスピリット=魂をスピリット=酒に置き換えてホテル・カリフォルニアで表現しているということだ。
そして歌詞のラストは
"We are programmed to receive
You can check out any time you like
But you never leave"
「我々はここに住み着く運命なのだ
いつでもチェックアウトできるが、
立ち去ることは出来ないんだ」
で締めくくられている。
check out (チェックアウト)「自殺する」のスラングということだから、最期の一節は「死ぬまで逃げられない」を意味しているということだそうだ。
因みに今回のコンサートでの最初の曲は上述した「Seven Bridges Road」も1969年の作品ということであり、歌詞の内容は「恋に破れた男が失意の内に道を下りつつ、その先に希望を見出す」内容だ。コレは単なるボクの勘ぐりなのかも知れないが、こうやって考えてゆくと彼らの69年という年へのこだわりは、かなりのように思えてしまう。
「The Best of My Love(我が至上の愛)」や「Desperado」に代表されるように、愛や友情を描いた曲も多いイーグルスだが、反面、上述の「Hotel California」をはじめ、痛烈な風刺や揶揄が入る歌詞を通して自分たち自身や社会のあり方、そして自分たちの祖国のあり方を問いかけ続けている。その証拠に最新アルバムである「Long Road Out of Eden(ロング・ロード・アウト・オブ・エデン)」でもイラク戦争や自然破壊、社会に対する思いを綴る歌詞が全体の2割ほどを占めているのだ。
勿論、ボクが青年期だった頃は、イーグルスの曲をかじりつくように聞き入り、やがては当時組んでいたバンドでコピーして演奏をしたりで、ただただ「カッコイイ!」と思っていただけであり、当然その歌詞に込められた深い意味に気付くはずもなかった。
しかし自分が年を食い、挫折を含めた多くの経験をしてゆく途中で、ふと歌詞カードを手にとってみると、様々なことに思いが巡る。そして、愛ばかりではなく、数が減ったとは言え、ロックには歌詞に込めたメッセージを通じて社会に問い掛ける姿勢が生き残っており、それを受け入れる土壌がファンの方にも残っているということが嬉しく思えてもくる。
何はともあれ、名曲は何年経っても名曲であり、ボクはこれから死ぬまで幾度となくイーグルスの曲を聴くであろう。そしてその度に日本語訳された歌詞カードと「にらめっこ」をしつつ、その時の心で歌詞に込められたメッセージを解釈するだろう。今回はそのことを再確認させてくれた、素晴らしい「EAGLES TOUR 2011」だった。