■解禁期間の後期■
たった2ヶ月しかない、玄達瀬の解禁期間も中期を過ぎて、ついに後期に入った。この時期のヒラマサの動きを追うには、やはり産卵&放精行動を頭に置いておかねばならない。
産卵&放精と言っても、一斉かつ同時にそれが行われるワケではないので、中期~後期はまだ産後の休息中の個体や、既にアフターとなって体力回復のために荒食いを始めた個体が入り交じり、狙いを定めるのが難しくなる。そのため、釣果にムラが出る傾向がある。
因みに、前回に釣った96cmは、腹を割くと精巣もしくは卵巣は空っぽだったことと、アタリの出具合等から、「アフター+荒食い」の条件に入りつつある中で釣った個体のようであった。(「荒食い」と言う割に数を釣っていないところにはツッ込まないで欲しいが…)これからの後期は、こんな「アフター+荒食い」の個体の割合が徐々に増えて来るのだが、これらをウマく追うことが出来れば、昨年の8月に入ってからのように、中型以上の釣果が回復してくるようになる。ただし、前期までとは違って、浅場に入るのは小マサ達が殆どで、良型クラス以上は中深~深場に移動していることが多いようだ。マキエサにつられて浮いてくる層が前期よりも浅くはないので、潮が速くなると狙い辛くなることは必至となるし、着き位置が根に近くなることが多いため、掛けても根ズレでやられることがどうしても増えてしまうから注意が必要だ。
そんな時期に入った今回、果たして釣果は思ったように出てくれるのだろうか…。
■ヒラマサ感ゼロ■
上述したように、釣果ムラがあって、メーターオーバーのヒラマサはしばらくの間、出ていなかったため、「キビシそうかな?…。」という予想の下での釣行だった。
今回も、いつもの晴海丸さんに乗り込み、1時間近い航海を経て現地に到着。まずはこの時期実績のある足下の水深60mラインで実釣がスタートした。
開始時の潮流は前回よりもやや速く、100m流すのに4分弱だったが、攻略するのに困るほどではなかった。開始後数投で隣(左舷トモ=ボクの釣り座は右舷トモ)の釣り人がアタリが無いままに50cm台後半のマダイをゲットするが、この状況から「もしかして?」と思っていた二枚潮が証明された。しかし、前回同様に差が激しいと言うほどではなかったため、この時点では「フツーに釣っても何とかなるさ。」と思っていた。
玄達瀬の中深場ではマダイの群れの中にヒラマサが入ってくることが多く、その登場に皆が期待に胸を膨らませたが、その一枚のみで、まるでボヤが消えるように反応が無くなった。そのため、以後の2時間ほどはエサが盗られるか盗られないかの、ギリギリの層を探り続ける作業のみに終始した。
たまらず、船長は小移動を行い、またもや同じようなタイミングで隣の釣り人が60cm台前半のマダイをゲットするが、その後の展開も1箇所目と同じような状況だった。
どうやら、ヒラマサの体内時間は進んでいるらしく、前回釣果を得たポイントと似た条件のところからヒラマサたちは移動している様子だった。そのため、船長は大移動を敢行した。
■浅場も…■
移動先は比較的浅場に近いところだったが、船団のある位置とは違ったポイントだった。ここではポツポツと各自がアタリを拾い始めた。
しかし、ボクが掛けた55cm級のチビマサ以外はメジロ(ワラサ)がポツポツとアタるのみで、思わしい状況ではなかった。そして2回目の大移動となった。
■着き場が見つかる■
次なるポイントは、中深場といった感じのところで、そこから仕掛が入って行く先に単独の根が数個連続して隆起していた。根の起伏は激しく、高低差が10~15mもあるので、掛けてからが厄介そうだったが、その根の間にそれらしき反応があるため、船長曰く「そこから出てくるヤツを狙うイメージで。」とのことだった。
そして実釣開始数投目で、ボクのリールが「ブーンッ!」ではなく、「スルスルッ、スルスルッ」と変な回転を始めた。すかさずアワせを入れてみると、竿が殆ど曲がらないままにグレが上がってきた。磯釣りでの経験から、この魚の良型クラス(40cm以上)は、潮況が良くないとエサを拾わないことを知っているので、ほくそ笑むと同時に「そろそろかも?」と同船者全員に伝えた。
そしてその予想が的中した。とは言っても、またもや隣の竿が大きく曲がっただけの話なのだが…。
竿の曲がり具合からヒラマサとすぐに判ったが、本人曰く、マダイの時と同じで「アタリは出て無くて、巻いたら付いていた。」のだそうだ。登場したのは、中マサクラス(70cm台半ば)だったが、次の流し以降も同じパターンで計3本がその釣り人に集中した。その間、ボクにはメジロの単発のみだったというのに…。
その様子と、「時合いだからデカイのも入ってくるよ。」と船長が言い始めたことも手伝って、焦り始めたが、それをこらえてボクは一旦、「いったい何が違うのか?。」と、隣(ボクの釣り座はいつもの右舷トモ)との違いを冷静にチェックしてみることにした。
■糸送り機能■
まず、道糸は同一メーカーの10号だったので、そこはクリアできた。但し、リールとそれへの巻き糸量が違っていた。
ボクはシマノ製のビーストマスター6000に下巻き込みで520mほど巻いていたのに対して、隣はダイワ製のシーボーグ750MT(レッド・カラーの最新モデル)に下巻きを行わず、本線を300mだけ巻いていたため、スプールに糸が巻かれた道糸だけでもボクの方がかなり重い。加えてこちらは大径スプール仕様のために、その重量が更に嵩んで、かなりヘビーな状態だった。
また、装着されているリールの基本ポテンシャルも違っていた。隣のリールは船長の口から「○○さんの750は大当たり。」と言わしめるほど、製品ブレがイイ方に振れた、スプールフリー性能が高いと言われている旧型の750MTをも凌ぐ“高回転型リール”だったのだ。
そんなリールと、巻き糸量+大径スプールによる初速の立ち上がりの悪さが影響するボクのリールでは、仕掛の落ちる位置が全く違うのは当たり前だった。この日に狙っていたヒラマサのコンディションは産卵直後だったのか、根回りからあまり離れず、二枚潮の下側にある遅い潮の層から出てこない状況だったため、あまり回らないリールを使用したボクは勿論のこと、比較的よく回る旧型750MT(オレンジ・カラー)を使用したミヨシ側の釣り人も上層を滑って仕掛が入らず、掛かるのはメジロばかりだった。
「水中の抵抗を増せば…」と思い、水中ウキ(浮力ゼロの潮受け=パラシュート・タイプ)を装着したが、全く変化はなく、「何かイイ方法はないものか?」と、思い巡らせる中、前回の釣行時に船長から「糸送り機能はないの?」と問われていたことを思い出していた。そこで「ダメ元だ。」とばかりに、隣と同じ発泡ウキが8番、ハリスをそれまでの12号から10号に落とし、同時に竿の番手も一段柔らかい物に交換してから、糸送り機能を最弱にセットして流すと、驚いた事に隣とドンピシャのスピードで道糸が出て行くようになったのだ。
そうなればコッチの物。その流しですぐに答えが出た。と言っても、同じようにアタリは全く感じられず、道糸が250m出た後に、220m巻くと「付いていた」という、釣趣に欠ける何とも頼りない展開だったが…。
大した引きではないが、この日のボクにとっては貴重なヒラマサの引きなので、味わうようにやり取りをしたが、難なくゲット。登場したのはいわゆる中マサクラスだった。
ようやくのゲットに安心し、次なる流し以降の数投目までは、アタリのあった220mの20~10m手前でスプールを押さえて一旦停止30秒を加えて糸フケを取ってみたが、アタリ自体が出なかった。そこで、また頼りない流し方に戻してみると…。
■大バラシ■
そいつは急に襲ってきた。220m付近まで巻き上げてみると、抵抗感が増したため、「何かが掛かっている!」と察知したボクは、急いで糸フケが取った後に渾身のアワセを入れた。
しかし、「グワンッ!」と竿を絞り込まれたかと思った瞬間、そこからもう一段強烈に締め込み始めた。キハダマグロ師の御用達というビーストマスターのドラグをややキツ目にセッティングしていたので、最初のうちは巻き上げてくれていたが、更なる締め込みで一旦ズルッと滑ったかと思うと見る見るうちに、巻き上げスピードが落ちて行った。そこで、今度はいつものように手で道糸を掴んで糸抜きを試みることに…。だが、強烈な引きに翻弄されて、ぎこちない動きしかできなかった。
それを見かねた船長がドラグを締め込んでくれたお陰でリールは再び巻き上げを開始したが、180mまで巻いた時点で、そこに逃げ込み易い目標物があるのか、猛烈なトルクの締め込みに襲われてまたもやスピードダウン。そして次なる締め込みで…。「ブツンッ!」という感触の後、抵抗感が消えてしまった。仕掛を回収すると根ズレではなく、10号の道糸がサルカンの上30cm辺りでブツリと切れていた。
力負けによる大バラシである。これまで玄達瀬では’14年に118cmと、結果はバラしたものの、“それ以上の引き”は味わったが、“それ以上の引き”級のパワー感だっただけに、ゲットできれば自己記録更新級だったに違いない。
悔やむ間もなく、船長の「まだ食う。」との言葉と、ただならぬ予感から、変な力が入った後の震える手を抑えつつ、仕掛を結び直し、すぐに同じセッティングで投入を再開した。すると、今度は220m付近で「スルスルッ」と弱いながらもリールの逆転数が上がるのを確認した。
「アタリや!」と竿に飛びついてリールを巻き始めるが、先程と比較すると弱めではあるが、それでもメーターは軽くオーバーしていることが確実な引きで竿を大きく絞り込んでいる。先程は強引にやり取りしての敗北だったため、少し遠慮気味にドラグワークでその引きをいなそうと考えていた。これまた180mまでの引き寄せに成功したが、ここで相手に猛ダッシュをしかけられたため、決して弱くは無いがほんの少しセッティングを緩めていたドラグがスピンし始めた。先程の経験からも、そこに逃げ込める根があるのは判っていたので、防戦体勢から攻勢に入ろうとした途端にまたもや抵抗感が消えてしまった。
大バラシの連続である。仕掛を回収すると、10号ハリスが根ズレで飛び、更には道糸も15mにわたって根ズレを起こしていた。1回目の失敗のために、「ドラグワークを」と考えたが、それは甘い考えだった。相手が走り始めた際の対処が、1テンポ遅かったことが大きな敗因だったように思うが、そんな小細工をするくらいなら、一か八かの強引さで挑んだ方が、良い結果を産んでいたのかも知れない…。
しばし呆然とするも、まだチャンスがあると信じて次の手を打ってゆくが、連続バラシが祟って、ついに時合いは遠退いてしまった。
■楽々モード■
アタリが途絶えてからバラした状況を冷静に振り返っていると、やり取りの途中で、船長が「シマノのリールは何で止まるの?」と言ったことを思い出していた。
バラした際、ボクはいつものように、リールの巻き上げ設定を楽々モードにしていた。これを設定すると、「相手の引きが強まれば、電子制御でリールの回転を落とすことで、ドラグが正確に出る」ようにリール側が制御してくれる。この制御は中型の3000番(ダイワで言うところの500番)クラスでメーター前後までのヒラマサを6~7号の道糸のセッティングで獲る際にはかなり有効で、これと手で道糸を抜き取る“引き抜き”を駆使することで、いくつもの勝利を得てきた。
だが、玄達瀬、特にこの日のような根回りの釣りで、しかも、200m以上も離れた位置から必死で逃げる巨マサの頭をこっちに向かせるような力対力の勝負の場合、“柔よく剛を制す”タイプの、この楽々モードは通用しなかったのだ。ここはセッティングを回転制御が掛からない速度一定モードにしておいて、強引に距離を詰め、足下の水深分を切った頃に楽々モードに切り替えるのが一番の方法だったに違いない。
しかし、よく考えてみると、この、パターンの切り替えは去年の釣行でお勉強していたのだ。当時はダイワ社のレオブリッツ750MTを使用していたが、距離を詰めるまではスピードモード、詰めてからはパワーモードに切り替える方法だ。リールを変えたことでその経験は頭から飛んでいたのだが、モーターの出力をギアで変えるダイワと強力モーターを電子制御するシマノではアプローチは違えど、理屈は同じだったのだ。
■狙い続けるも…■
バラした事による精神面のダメージは計り知れなかった。一昨年以来、ようやく巡ってきたチャンスを生かせず、悔やみきっていたのだ。また、その影響が大きかったのか、その後はチビマサとメジロがポツポツとアタったのみで、失意のままにこの日の釣りが終わった。
■反省すること頻り■
「糸送り機能」とは、リールのクラッチオフ時にアクセルレバーを入れることによって、逆転側にパワーを伝えて道糸の出を助けるシステムだが、これについては、偏見があった。と言うのもその昔に、こんな話があったからだ。
この釣りに電動リールが導入され始めた頃、当時よく乗船していた船長から、完全フカセ向きの電動リールは「シマノの電動リール=97年式3000XH(「洗ってメンテ」以前のモデル)のみ!。」と、教えられていたのだが、これは現在とは逆で、ダイワのリールのフリー回転性能が低かったからだ。
その後、ダイワは、欠点を補う対抗策として、今で言うところの糸送り機能を利用した「電動フカセ(パワーレバー・フカセだったかも?)」というのを一時的にだが、提唱するようになった。しかし、これの評判は悪く、その船長からは「根掛かりばかりになるから、やめておけ」と言わる程だった。
そして、その3000XHを手に入れて以降、ボクが実際に手にした電動リールがシマノ製ばかりだったことと、その後のダイワ製電動リールの性能向上があったために「糸送りって、そんなもんなんや。」と解釈し、その必要性に気付かないままに頭の引き出しの奥に仕舞い込んでいたのだ。今から振り返ると、恐らくこの時代はアクセルレバー制御に、きめ細かさが無かったために、道糸の出が速過ぎて悪影響ばかりが前面に出ていたのだと思うが…。
しかし今回、これを利用することで釣果を得たことから、と言うか、利用しなければヒラマサ・ボーズになるところだったので、その利用価値の高さを痛感した次第だ。
若い頃なら、この「糸送り機能」は、前回の釣行で船長から問われた時点ですぐに使っていただろうし、今回、思い至らずに大バラシの原因になった「速度一定モードへの切り替え」についても、リールを変えた時点で気付いていただろう。中年の後期に入って思考にキレが無くなってきているのか、今年はヘボな展開ばかりで落ち込んでしまいそうだ。だが、チャンスはあと2回残っている。時期的に可能性はかなり低いが、何とか今期のうちに努力が実って「一発逆転!」で締めくくりたいと願うばかりだ。
たった2ヶ月しかない、玄達瀬の解禁期間も中期を過ぎて、ついに後期に入った。この時期のヒラマサの動きを追うには、やはり産卵&放精行動を頭に置いておかねばならない。
産卵&放精と言っても、一斉かつ同時にそれが行われるワケではないので、中期~後期はまだ産後の休息中の個体や、既にアフターとなって体力回復のために荒食いを始めた個体が入り交じり、狙いを定めるのが難しくなる。そのため、釣果にムラが出る傾向がある。
因みに、前回に釣った96cmは、腹を割くと精巣もしくは卵巣は空っぽだったことと、アタリの出具合等から、「アフター+荒食い」の条件に入りつつある中で釣った個体のようであった。(「荒食い」と言う割に数を釣っていないところにはツッ込まないで欲しいが…)これからの後期は、こんな「アフター+荒食い」の個体の割合が徐々に増えて来るのだが、これらをウマく追うことが出来れば、昨年の8月に入ってからのように、中型以上の釣果が回復してくるようになる。ただし、前期までとは違って、浅場に入るのは小マサ達が殆どで、良型クラス以上は中深~深場に移動していることが多いようだ。マキエサにつられて浮いてくる層が前期よりも浅くはないので、潮が速くなると狙い辛くなることは必至となるし、着き位置が根に近くなることが多いため、掛けても根ズレでやられることがどうしても増えてしまうから注意が必要だ。
そんな時期に入った今回、果たして釣果は思ったように出てくれるのだろうか…。
■ヒラマサ感ゼロ■
上述したように、釣果ムラがあって、メーターオーバーのヒラマサはしばらくの間、出ていなかったため、「キビシそうかな?…。」という予想の下での釣行だった。
今回も、いつもの晴海丸さんに乗り込み、1時間近い航海を経て現地に到着。まずはこの時期実績のある足下の水深60mラインで実釣がスタートした。
●EXヘビータックルは今度こそ、その能力を発揮するのか?●
開始時の潮流は前回よりもやや速く、100m流すのに4分弱だったが、攻略するのに困るほどではなかった。開始後数投で隣(左舷トモ=ボクの釣り座は右舷トモ)の釣り人がアタリが無いままに50cm台後半のマダイをゲットするが、この状況から「もしかして?」と思っていた二枚潮が証明された。しかし、前回同様に差が激しいと言うほどではなかったため、この時点では「フツーに釣っても何とかなるさ。」と思っていた。
玄達瀬の中深場ではマダイの群れの中にヒラマサが入ってくることが多く、その登場に皆が期待に胸を膨らませたが、その一枚のみで、まるでボヤが消えるように反応が無くなった。そのため、以後の2時間ほどはエサが盗られるか盗られないかの、ギリギリの層を探り続ける作業のみに終始した。
たまらず、船長は小移動を行い、またもや同じようなタイミングで隣の釣り人が60cm台前半のマダイをゲットするが、その後の展開も1箇所目と同じような状況だった。
どうやら、ヒラマサの体内時間は進んでいるらしく、前回釣果を得たポイントと似た条件のところからヒラマサたちは移動している様子だった。そのため、船長は大移動を敢行した。
■浅場も…■
移動先は比較的浅場に近いところだったが、船団のある位置とは違ったポイントだった。ここではポツポツと各自がアタリを拾い始めた。
●ようやくアタリは出始めたが…●
しかし、ボクが掛けた55cm級のチビマサ以外はメジロ(ワラサ)がポツポツとアタるのみで、思わしい状況ではなかった。そして2回目の大移動となった。
■着き場が見つかる■
次なるポイントは、中深場といった感じのところで、そこから仕掛が入って行く先に単独の根が数個連続して隆起していた。根の起伏は激しく、高低差が10~15mもあるので、掛けてからが厄介そうだったが、その根の間にそれらしき反応があるため、船長曰く「そこから出てくるヤツを狙うイメージで。」とのことだった。
そして実釣開始数投目で、ボクのリールが「ブーンッ!」ではなく、「スルスルッ、スルスルッ」と変な回転を始めた。すかさずアワせを入れてみると、竿が殆ど曲がらないままにグレが上がってきた。磯釣りでの経験から、この魚の良型クラス(40cm以上)は、潮況が良くないとエサを拾わないことを知っているので、ほくそ笑むと同時に「そろそろかも?」と同船者全員に伝えた。
●グレは合図●
そしてその予想が的中した。とは言っても、またもや隣の竿が大きく曲がっただけの話なのだが…。
竿の曲がり具合からヒラマサとすぐに判ったが、本人曰く、マダイの時と同じで「アタリは出て無くて、巻いたら付いていた。」のだそうだ。登場したのは、中マサクラス(70cm台半ば)だったが、次の流し以降も同じパターンで計3本がその釣り人に集中した。その間、ボクにはメジロの単発のみだったというのに…。
その様子と、「時合いだからデカイのも入ってくるよ。」と船長が言い始めたことも手伝って、焦り始めたが、それをこらえてボクは一旦、「いったい何が違うのか?。」と、隣(ボクの釣り座はいつもの右舷トモ)との違いを冷静にチェックしてみることにした。
■糸送り機能■
まず、道糸は同一メーカーの10号だったので、そこはクリアできた。但し、リールとそれへの巻き糸量が違っていた。
ボクはシマノ製のビーストマスター6000に下巻き込みで520mほど巻いていたのに対して、隣はダイワ製のシーボーグ750MT(レッド・カラーの最新モデル)に下巻きを行わず、本線を300mだけ巻いていたため、スプールに糸が巻かれた道糸だけでもボクの方がかなり重い。加えてこちらは大径スプール仕様のために、その重量が更に嵩んで、かなりヘビーな状態だった。
また、装着されているリールの基本ポテンシャルも違っていた。隣のリールは船長の口から「○○さんの750は大当たり。」と言わしめるほど、製品ブレがイイ方に振れた、スプールフリー性能が高いと言われている旧型の750MTをも凌ぐ“高回転型リール”だったのだ。
そんなリールと、巻き糸量+大径スプールによる初速の立ち上がりの悪さが影響するボクのリールでは、仕掛の落ちる位置が全く違うのは当たり前だった。この日に狙っていたヒラマサのコンディションは産卵直後だったのか、根回りからあまり離れず、二枚潮の下側にある遅い潮の層から出てこない状況だったため、あまり回らないリールを使用したボクは勿論のこと、比較的よく回る旧型750MT(オレンジ・カラー)を使用したミヨシ側の釣り人も上層を滑って仕掛が入らず、掛かるのはメジロばかりだった。
●ミヨシ側の釣果もメジロが中心だった。●
「水中の抵抗を増せば…」と思い、水中ウキ(浮力ゼロの潮受け=パラシュート・タイプ)を装着したが、全く変化はなく、「何かイイ方法はないものか?」と、思い巡らせる中、前回の釣行時に船長から「糸送り機能はないの?」と問われていたことを思い出していた。そこで「ダメ元だ。」とばかりに、隣と同じ発泡ウキが8番、ハリスをそれまでの12号から10号に落とし、同時に竿の番手も一段柔らかい物に交換してから、糸送り機能を最弱にセットして流すと、驚いた事に隣とドンピシャのスピードで道糸が出て行くようになったのだ。
そうなればコッチの物。その流しですぐに答えが出た。と言っても、同じようにアタリは全く感じられず、道糸が250m出た後に、220m巻くと「付いていた」という、釣趣に欠ける何とも頼りない展開だったが…。
●久しぶりの曲がり●
大した引きではないが、この日のボクにとっては貴重なヒラマサの引きなので、味わうようにやり取りをしたが、難なくゲット。登場したのはいわゆる中マサクラスだった。
●75cm(ほど)●
ようやくのゲットに安心し、次なる流し以降の数投目までは、アタリのあった220mの20~10m手前でスプールを押さえて一旦停止30秒を加えて糸フケを取ってみたが、アタリ自体が出なかった。そこで、また頼りない流し方に戻してみると…。
■大バラシ■
そいつは急に襲ってきた。220m付近まで巻き上げてみると、抵抗感が増したため、「何かが掛かっている!」と察知したボクは、急いで糸フケが取った後に渾身のアワセを入れた。
しかし、「グワンッ!」と竿を絞り込まれたかと思った瞬間、そこからもう一段強烈に締め込み始めた。キハダマグロ師の御用達というビーストマスターのドラグをややキツ目にセッティングしていたので、最初のうちは巻き上げてくれていたが、更なる締め込みで一旦ズルッと滑ったかと思うと見る見るうちに、巻き上げスピードが落ちて行った。そこで、今度はいつものように手で道糸を掴んで糸抜きを試みることに…。だが、強烈な引きに翻弄されて、ぎこちない動きしかできなかった。
それを見かねた船長がドラグを締め込んでくれたお陰でリールは再び巻き上げを開始したが、180mまで巻いた時点で、そこに逃げ込み易い目標物があるのか、猛烈なトルクの締め込みに襲われてまたもやスピードダウン。そして次なる締め込みで…。「ブツンッ!」という感触の後、抵抗感が消えてしまった。仕掛を回収すると根ズレではなく、10号の道糸がサルカンの上30cm辺りでブツリと切れていた。
力負けによる大バラシである。これまで玄達瀬では’14年に118cmと、結果はバラしたものの、“それ以上の引き”は味わったが、“それ以上の引き”級のパワー感だっただけに、ゲットできれば自己記録更新級だったに違いない。
悔やむ間もなく、船長の「まだ食う。」との言葉と、ただならぬ予感から、変な力が入った後の震える手を抑えつつ、仕掛を結び直し、すぐに同じセッティングで投入を再開した。すると、今度は220m付近で「スルスルッ」と弱いながらもリールの逆転数が上がるのを確認した。
「アタリや!」と竿に飛びついてリールを巻き始めるが、先程と比較すると弱めではあるが、それでもメーターは軽くオーバーしていることが確実な引きで竿を大きく絞り込んでいる。先程は強引にやり取りしての敗北だったため、少し遠慮気味にドラグワークでその引きをいなそうと考えていた。これまた180mまでの引き寄せに成功したが、ここで相手に猛ダッシュをしかけられたため、決して弱くは無いがほんの少しセッティングを緩めていたドラグがスピンし始めた。先程の経験からも、そこに逃げ込める根があるのは判っていたので、防戦体勢から攻勢に入ろうとした途端にまたもや抵抗感が消えてしまった。
大バラシの連続である。仕掛を回収すると、10号ハリスが根ズレで飛び、更には道糸も15mにわたって根ズレを起こしていた。1回目の失敗のために、「ドラグワークを」と考えたが、それは甘い考えだった。相手が走り始めた際の対処が、1テンポ遅かったことが大きな敗因だったように思うが、そんな小細工をするくらいなら、一か八かの強引さで挑んだ方が、良い結果を産んでいたのかも知れない…。
しばし呆然とするも、まだチャンスがあると信じて次の手を打ってゆくが、連続バラシが祟って、ついに時合いは遠退いてしまった。
■楽々モード■
アタリが途絶えてからバラした状況を冷静に振り返っていると、やり取りの途中で、船長が「シマノのリールは何で止まるの?」と言ったことを思い出していた。
バラした際、ボクはいつものように、リールの巻き上げ設定を楽々モードにしていた。これを設定すると、「相手の引きが強まれば、電子制御でリールの回転を落とすことで、ドラグが正確に出る」ようにリール側が制御してくれる。この制御は中型の3000番(ダイワで言うところの500番)クラスでメーター前後までのヒラマサを6~7号の道糸のセッティングで獲る際にはかなり有効で、これと手で道糸を抜き取る“引き抜き”を駆使することで、いくつもの勝利を得てきた。
だが、玄達瀬、特にこの日のような根回りの釣りで、しかも、200m以上も離れた位置から必死で逃げる巨マサの頭をこっちに向かせるような力対力の勝負の場合、“柔よく剛を制す”タイプの、この楽々モードは通用しなかったのだ。ここはセッティングを回転制御が掛からない速度一定モードにしておいて、強引に距離を詰め、足下の水深分を切った頃に楽々モードに切り替えるのが一番の方法だったに違いない。
しかし、よく考えてみると、この、パターンの切り替えは去年の釣行でお勉強していたのだ。当時はダイワ社のレオブリッツ750MTを使用していたが、距離を詰めるまではスピードモード、詰めてからはパワーモードに切り替える方法だ。リールを変えたことでその経験は頭から飛んでいたのだが、モーターの出力をギアで変えるダイワと強力モーターを電子制御するシマノではアプローチは違えど、理屈は同じだったのだ。
■狙い続けるも…■
バラした事による精神面のダメージは計り知れなかった。一昨年以来、ようやく巡ってきたチャンスを生かせず、悔やみきっていたのだ。また、その影響が大きかったのか、その後はチビマサとメジロがポツポツとアタったのみで、失意のままにこの日の釣りが終わった。
●釣果の大半と同船者の方々●
■反省すること頻り■
「糸送り機能」とは、リールのクラッチオフ時にアクセルレバーを入れることによって、逆転側にパワーを伝えて道糸の出を助けるシステムだが、これについては、偏見があった。と言うのもその昔に、こんな話があったからだ。
この釣りに電動リールが導入され始めた頃、当時よく乗船していた船長から、完全フカセ向きの電動リールは「シマノの電動リール=97年式3000XH(「洗ってメンテ」以前のモデル)のみ!。」と、教えられていたのだが、これは現在とは逆で、ダイワのリールのフリー回転性能が低かったからだ。
その後、ダイワは、欠点を補う対抗策として、今で言うところの糸送り機能を利用した「電動フカセ(パワーレバー・フカセだったかも?)」というのを一時的にだが、提唱するようになった。しかし、これの評判は悪く、その船長からは「根掛かりばかりになるから、やめておけ」と言わる程だった。
そして、その3000XHを手に入れて以降、ボクが実際に手にした電動リールがシマノ製ばかりだったことと、その後のダイワ製電動リールの性能向上があったために「糸送りって、そんなもんなんや。」と解釈し、その必要性に気付かないままに頭の引き出しの奥に仕舞い込んでいたのだ。今から振り返ると、恐らくこの時代はアクセルレバー制御に、きめ細かさが無かったために、道糸の出が速過ぎて悪影響ばかりが前面に出ていたのだと思うが…。
しかし今回、これを利用することで釣果を得たことから、と言うか、利用しなければヒラマサ・ボーズになるところだったので、その利用価値の高さを痛感した次第だ。
若い頃なら、この「糸送り機能」は、前回の釣行で船長から問われた時点ですぐに使っていただろうし、今回、思い至らずに大バラシの原因になった「速度一定モードへの切り替え」についても、リールを変えた時点で気付いていただろう。中年の後期に入って思考にキレが無くなってきているのか、今年はヘボな展開ばかりで落ち込んでしまいそうだ。だが、チャンスはあと2回残っている。時期的に可能性はかなり低いが、何とか今期のうちに努力が実って「一発逆転!」で締めくくりたいと願うばかりだ。