■今年も居るのか?■
2年連続で思うような展開にならなかった玄達瀬の釣りも終了し、これからは同じ福井沖の鷹巣沖に舞台を移して、“居着き”のヒラマサを狙って釣行してゆく。この釣りの対象は85~105cmほどなので、サイズ的には申し分ないが、数は期待できない。従って、出会うためには幸運と細かな努力が必要になる。しかし、それが実れば「今か今か」と待ちわびていうちに、突然「ブーンッ!」とリールが急速逆転し、次いで年中で最もパワフルなヒラマサが暴力的に「グワンッ!」と、竿を絞り込んでゆく様を目の当たりにできるのだ。それまでの我慢の展開から解放され、脳内に、一気にアドレナリンが放出される瞬間は正に快感。「一度味わえば病み付き」になること受け合いだ。
「そんなヒラマサたちが、今年も入ってるのか?」それを探りに鷹巣沖へと向かった。
■遠いアタリ■
いつもの晴海丸さんに乗船し、午前5時に出港。台風10号+前日まであった前線の影響で北東からのウネリが残ってはいたが、航海に支障はなく、アッという間にポイントに到着。早速マキエサを打つが、程良い潮が流れており、続いて実際に仕掛を入れてみると100mあたりの経過時間は7分ほどだった。
予想よりも潮が速いため、感度のあった位置との距離をとるために船長がアンカーを打ち直した。こういった船長の対応の早さには、いつもながらに感心させられる。
本格的にこの時期の鷹巣沖を攻めるようになって3年目だが、この釣りは高水温期であるにも関わらず、不思議とエサ取りは少なく、サシエサが盗られっぱなしになって手こずることはないから、じっくりと攻められる。
アンカー位置の調整後、ボクの中ではミディアム・タックルである、道糸7号、ハリス8号(6m、2本バリ)に6番の発泡ウキを装着して本格的な投入を開始した。
上潮と底潮との差もあまり感じず、その意味では理想に近い状態だった。まずはサシエサが盗られる層を探すため、最初の送り出し量を20mとし、160m流した時点で回収する。するとサシエサが残ったので、次回は送り出し量を25mとし、180mまで流しても同様に残るため、その次は…。と、「サシエサが残れば、送り出しの量と流す距離を増やす」という方向で探っていった。
マキエサが入るのは恐らく久しぶりのことであり、そのせいか、魚の反応が鈍いようで、エサ盗りたちの動きもいつも以上に活発ではなかった。そのため、サシエサが盗られ始めるまでに時間が掛かったが、一旦盗られ出すとそれが続いたため、「距離を縮め、浮かせる」方向へとシフトする。
紆余曲折の結果、セッティングとして落ち着いたのは「発泡ウキ6番、送り出しが25m、流す距離が200m」といった線だったが、この仕掛が160m付近に差し掛かった頃、この日初めてリールの逆転数が僅かに加速した。(正確には「ように思った」程度だが…)
いつものように、アクセルレバーをフルにして道糸が張った状態でアワセを入れたが、締め込みも僅かで、大した魚ではなかった。
●今年、鷹巣沖の初曲がり●
正体は小型のマダイでガックリとする。
続いてのアタリは無く、またしばらくの間、上述したような調整を繰り返す。そして、しばらく間を置いて同様のアタリが出るものの、魚までもが同様だった。
●続いても小型のマダイ●
■辛抱の後■
アタリが少ない中、流す距離を200~220mとして、セッティングをこまめに変えて探り続けていた。午前8時を前にして、発泡ウキ6番、送り出しを20mとした仕掛が160mに差し掛かった頃に、スプールの回転が「スルスルッ・スルスルッ」と何かが引っ張るような不自然な回転をし始めた。
「大したことのない魚が引っ張っているのか?」と思い、スプールを指で押さえてからクラッチ・オン。電動リールのスロットをフルにして、道糸が張った瞬間に大アワセを入れてみた。すると、見る見るうちに竿が銅まで絞り込まれていった。
「ホンマモンかいな~!」と、ファースト・ランに対処するべく、体勢を整えた。ここから採る最初の行動はいつも通りで、以下のようになる。
まずはドラグはキツ目(決してフル・ドラグではない)にしてフル・スロットルで巻き上げるが、相手が80cm台後半以上のヒラマサであれば、ダイワ500番、シマノ3000番のリールだと、ドラグが滑ったり、モーターが引きに負けて巻き上げられないことが多い。一瞬の判断だが、ただ巻けない場合は、フォア・グリップを左手で握って竿の角度をキープしたまま、右手で道糸を掴んでリール側に手で引き込む、“糸抜き”を行うが、相手が道糸を勢いよく引き出しているようであれば、こちらを向いていないことが多いと思うので、無理な糸抜きは行わない。その対処法を言葉で表現するのは難しいが、竿の絞り込まれ具合に応じて「騙し騙し」といった感じだ。
この時は、ヒラマサの引きにモーターが負けているだけのようだったので、すかさず糸を抜いて相手との距離を詰めた。ファースト・ランを凌ぐと竿の角度を保持したままで一旦は電動リール任せで巻き上げ、途中の締め込みに対しては、ファースト・ラン時よりも一段緩めたドラク設定でイナしていった。
そして足下の水深分を切る頃になると、相手は思い出したように締め込むことが多い。この時点では道糸の距離が減ってショック吸収性能が落ちることと、ハリスが根ズレで傷ついている可能性を含めて、ドラグは更に緩める。
そして、船際へ。ここでは電動巻き上げは止まっているが、ドラグはユルユルで、かろうじて手巻きができる状態にする。春先にボクは、これをやって大失敗しているが、この時、ウマく手で巻けないからと言ってドラグを締めるのはヤメた方がイイ。左手の親指でスプールの逆転を押さえながら魚を持ち上げる要領でポンピングを繰り返す方が安全だ。
●足下の水深を切ったあたりの攻防●
そして、このパターンで無事にゲット。上げてビックリ。今までに見たことのないほどに体高のある、ヒラマサだった。
●87cmの大マサならぬ、デブマサ●
一呼吸おいて同じセッティングのままで仕掛の投入を再開したが、その2回目、180m流したまたもや同様のアタリが出て、これまた同様の締め込みがボクの竿を襲った。ファースト・ランを無事にやり過ごし、順調に距離を詰めていったが、1本目のデブマサもそうだったが、140mあたりに何かあるらしく、そこで執拗に締め込んでくる。何とかそれも凌ぎ、「もう獲れるだろう。」と思った矢先にクチュンッとした感触が手元に伝わった。無念のハリハズレである。
貴重なヒラマサをバラした後に続く者はなく、しばらくは沈黙の時間が続いたが、ようやく同船の兄にもアタリが出たと言うか、本人曰く、巻いたら着いていたそうだが、対処が遅くて根に潜られて、これまたバラしてしまった。
勿論、2本のバラシの影響は大きく、その後は海からの活性感は伝わらず、沈黙の時間が訪れてしまった。
■粘り続けるも■
昼近くになった段階で何とか50cm程のマダイを釣っていたが、下唇にハリが掛かっていた。コレは下層に落ちたオキアミをついばむような食い方をしていたからに違いなく、この日は潮流に問題はなくとも、ボクらが理解できない理由で魚の活性が落ちていたのだと思う。また、ヒラマサのアタリが大きくなかったのも同様だろう。
その後、一旦は潮流がやや緩む時間帯があったが、時間経過と共に回復し、そうなると現金なもので、エサが活発に盗られ始めた。
それを受けて発泡ウキのサイズを8番にアップ。この仕掛が状況に合致したのか、この日初めて「ブーンッ!」という、急速逆転が起こった。
重々しい感触のファースト・ランをかわすと、またもや140mあたりで強烈な突っ込みがあったが、そこを越えると何故だか巻き上げに素直についてくるようになった。
●素直になってからのやり取り●
それもそのハズで、上がってきたのはメジロ(ワラサ)だった。ボクとしては途中までヒラマサだと思っていたのでガックリ気落ちの瞬間だった。
●75cm程のメジロ●
仕掛を点検すると、枝バリが根ズレで飛んでいたため、もしかすると140mあたりの根への突っ込みで上バリのヒラマサが逃げて、それ以降は残ったメジロ単独の引きに変わったのかも知れない。切れた枝ハリスを眺めつつ「掛かる順番が逆になってくれれば…。」と思ってみてたが、選んで食わせるなんてことはできるハズもなく…。
メジロの後は、兄に50cm程のマダイが来たが、それ以外はエサが残ることも多く、くすぶりも無い、火が消えたような状態のままで納竿時間を迎えた。
■居る居る!■
兎にも角にも、今年もこの海域に良型のヒラマサが入っていることが確認できた。結果が出て本人的には「ヤレヤレ」と思っていたが、実はこの日、ボクらが去った後の夕マヅメにこの海域を攻めた僚船が、「ナ・ナ・何と!102cm!」の大マサをゲットしたのだ。それを聞いたボクの釣り人魂は「アフター・バーナーに火が着くが如く」になっている。
当然、これからしばらくの間、ボクは一昨年の101cmを越える大マサを狙ってこの海域を攻め続けてゆくが、この記事を読み、「よーし、オレも一発!」と思う釣り人が居るのなら、次に記すことを念頭においてチェレンジして欲しい。
第一には、ボーズ覚悟で挑むことだ。釣果があった日でも一船で1~3本程度の釣果しか得られず、そうなると当然ボーズの人も出る。コレに耐えられず、「せめて、おみやげでも…」と、スケベ根性を出してしまうと、チャンスは極端に減る。と言うのも、時合いは短く、それが納竿時間寸前の正午近くになってから起こることも多いからだ。
第二に、いつものことだが「仕掛は太目に!」と言っておきたい。船下までに複雑な地形が続く玄達瀬とは違って、根ズレの確率は下がるが、秋のヒラマサはパワー全開で走るため、ファースト・ランは強烈であり、途中で潜り込めそうな根を見つけた際の締め込みも、これまた強烈だ。「ドラグ・ワークを駆使して…」と言っても、食う位置は魚礁や根周りの障害物近辺だから、ヒラマサが初めからコッチを向いている等、運が良くなくては成立し辛いのだ。
また、上述したように、一日にアタリが1回のみという日もあるため、バラすともう後がないと思った方がイイから、歩留まりを考えると選択肢は自ずと決まる。この釣りでは少しでも釣り人側が優位に立てるよう、太目のハリス使用が必須なのだ。
第三に粘って攻め続けることだ。本命のヒラマサであれ、外道のマダイであれ、一度アタったからと言って、同じタナばかりを攻め続ける釣り人も多いが、例えば玄達瀬のようにヒラマサのストック量の多い海域であれば、それが最大公約数的に働いて、結果が良くなることもある。しかし、ストック量の少ないここでは、コンディションの違う個体がポツポツと根周りをウロついているような感があるため、時間帯ごとの潮具合にあった浮力調整を小マメに行う方が、チャンスが増える傾向にあるのだ。
ここまでに挙げた点を読んでも解るように、かなりM的にならないと成就しないという、言わば、変態チックな釣りなのだ。コレを読んだ変態趣向のアナタには、かなりオススメできる釣りだが、ノーマルな釣り人の場合は、小マサが回遊している海域やマダイの多い海域に向かうことをオススメしたい。