日本男道記

ある日本男子の生き様

み吉野の・・・巻一・七四 文武天皇

2011年01月21日 | 万葉集
み吉野の・・・巻一・七四 文武天皇
み吉野の・・・巻一・七四 文武天皇
「み吉野の 山の嵐の 寒けくに はたや今夜も わが独り寝む」

校訂原点(漢字)
「見吉野乃 山下風之 寒久尒 為當也今夜毛 我獨宿牟」

現代語訳と解説
「吉野の山の嵐は寒いのに、また今夜も私はひとりで寝るのだろうか」

吉野の山から吹き下ろす、夜の激しい風。カラダは冷えきってしまうほどの寒さなのに、今夜もまたひとりで寝なければならないのでしょうか。
これは天皇自身の歌というより、旅をする人に共通する感情として詠まれた歌です。
万葉の頃は、よく旅をしました。天皇に従う旅、地方に赴任する旅、行商などもあったでしょう。 愛しい人を恋しく想ったり、ひとり寝を寒く、寂しく感じることは旅を経験する人たちにとって、一般的な感情として共有できたのです。
季節や環境など、カラダで感じる寒さだけでなく、ココロで感じてしまう寒さもある。
ひとり寝をより一層寒くするのは、寂しさ。
愛する人と一緒に眠れないのが旅路なのです。
いつの時代も、カラダとココロを温めるチカラは大切な人の存在がいちばん強いのかもしれません。


相思はぬ・・・巻四・六〇八 笠女郎

2011年01月14日 | 万葉集
相思はぬ・・・巻四・六〇八 笠女郎
相思はぬ・・・巻四・六〇八 笠女郎
「相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後方に 額づくがごと」

校訂原点(漢字)
「不相念 人乎思者 大寺之 餓鬼之後尒 額衝如」

現代語訳と解説
「思ってもくれない人を思うなんて、大寺の役にも立たぬ餓鬼像を、しかも後ろからひれ伏して拝むみたいなものです」

どんなに思っても、遂げることのない想い。
どんなに虚しくても、簡単にあきらめることのできない恋だったのでしょう。
この歌で、恋の相手である大伴家持を餓鬼と例えたのは、笠女郎です。
万葉集の巻の四には彼女が家持に贈った歌、二十四首が収められています。
その中で、彼女の移り行く恋心は、「思う」と「恋」という言葉と共に表現されました。
「思う」とは、遂げられないからこそ心が重く沈むこと。
「恋」とは、相手の魂を乞うことです。
ところが二十四首の最後の歌になると「思い」も「恋」も出てこなくなり、結局、この恋は成就せずに終わりを告げました。
しかし、歌の才能は認められていたようです。
家持に歌を贈った女性の中で、最も多く万葉集に収められているのが笠女郎の贈った恋の歌なのです。



ももづたふ・・・巻三・四一六 大津皇子

2011年01月07日 | 万葉集
ももづたふ・・・巻三・四一六 大津皇子
ももづたふ・・・巻三・四一六 大津皇子
「ももづたふ 磐余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 雲隠りなむ」

校訂原点(漢字)
「百傳 磐余池尒 鳴鴨乎 今日耳見哉 雲隠去牟」

現代語訳と解説
「百に伝う磐余の池に鳴く鴨を見るのも今日を限りとして、私は雲の彼方に去るのだろうか」
  
謀反のかどで処刑される、大津皇子の臨終の歌です。
香具山の北にある磐余の池で、鴨が鳴いていました。
鴨は、万葉集では雄と雌が仲の良い鳥として詠まれています。
愛を象徴する鳥。
作者は鴨に妻のイメージを重ねました。
仲良く鳴いている鴨を見られるのも今日限り。
自分は、妻を残して死んでゆく。
もう妻の姿を見ることもない。
それは、命とともに愛までも失うことを意味するのです。
時に大津皇子24歳。
その若き妃の山辺皇女は髪を振り乱し、はだしのまま屍に走りより、ともに命を絶った。
これを見ていたものは皆すすり泣きしたと、日本書紀には綴られています。

敷栲の・・・巻四・五〇七 駿河采女

2010年12月31日 | 万葉集
敷栲の・・・巻四・五〇七 駿河采女
敷栲の・・・巻四・五〇七 駿河采女
「敷栲の 枕ゆくくる 涙にそ 浮宿をしける 恋の繁きに」

校訂原点(漢字)
「敷細乃 枕従久々流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尒」

現代語訳と解説
「やわらかな枕からこぼれおちる涙が溢れて、私は水に浮かぶ思いで寝ていることよ。絶えぬ恋の苦しさで」

逢いたい、逢いたいという想いから、涙がとめどなくあふれて洪水になってしまいました。
だから私は泣きぬれてその涙に浮いて寝しまったのだと、報われない恋のせつなさを歌っています。
しかし、これは架空の恋だったのでしょう。
そうでなければ采女である作者は、罪になるような秘かな恋をしていたことになります。
采女とは、国々から天皇に献上され、仕えている女性のこと。
容姿端麗で 宮中でも華やかな存在ですが、天皇以外の方に恋をするなど、とんでもないことでした。
実際に、采女は人数も多く、その中で、直接天皇にお目通りすることなど、なかなか叶いません。
だから采女には“待ち続ける女性”というイメージもあるのです。
恋とは遂げても、遂げられなくても涙するもの。激しい涙から悲しみでおぼれてしまいそうな心が垣間見えてくるのです。

春日野の・・・巻四・五一八 石川郎女

2010年12月24日 | 万葉集
春日野の・・・巻四・五一八 石川郎女
春日野の・・・巻四・五一八 石川郎女
「春日野の 山辺の道を 恐なく 通ひし君が 見えぬころかも」

校訂原点(漢字)
「春日野之 山邊道乎 於曽理無 通之君我 不所見許呂香聞」

現代語訳
「春日野の、あの山ぞいの難路もおそれることなく通って来てくれたあなただったのに、お見えにならぬこのごろよ」


こもりくの・・・巻七・一二七〇 作者未詳

2010年12月17日 | 万葉集
こもりくの・・・巻七・一二七〇 作者未詳
こもりくの・・・巻七・一二七〇 作者未詳
「こもりくの泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常なき」

校訂原点(漢字)
「隠口乃 泊瀬之山丹 照月者 盈※為焉 人之常無」

現代語訳
「隠口の泊瀬の山に照る月は満ち欠けすることであった。人もまた常無きことよ」


ありつつも・・・巻二・八七 磐姫皇后

2010年12月10日 | 万葉集
ありつつも・・・巻二・八七 磐姫皇后
ありつつも・・・巻二・八七 磐姫皇后
「ありつつも君をば待たむうち靡く我が黒髪に霜の置くまでに」

校訂原点(漢字)
「在管裳 君乎者将待 打靡 吾黒髪尒 霜乃置萬代日」

現代語訳
「居つづけてあなたを待っていよう。長く靡くこの黒髪に霜がおくようになるまででも」


朝に日に・・・巻四・六六八 厚見王

2010年12月03日 | 万葉集
朝に日に・・・巻四・六六八 厚見王
朝に日に・・・巻四・六六八 厚見王
「朝に日に 色づく山の 白雲の 思ひ過ぐべき 君にあらなくに」

校訂原点(漢字)
「朝尒日尒 色付山乃 白雲之 可思過 君尒不有國」

現代語訳
「朝ごとに日ごとにもみじする山にかかる白雲のように、忘れがたいあなたよ」



月立ちて・・・巻六・九九三 坂上郎女

2010年11月26日 | 万葉集
月立ちて・・・巻六・九九三 坂上郎女
月立ちて・・・巻六・九九三 坂上郎女
「月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも」

校訂原点(漢字)
「月立而 直三日月之 眉根掻 氣長戀之 君尒相有鴨」

現代語訳
「新しい月になってたった三日ほどの月のような眉を掻きつつ、日々長く慕って来たあなたにお逢いしたいことよ」



稲つけば・・・巻十四・三四五九 作者未詳

2010年11月19日 | 万葉集
稲つけば・・・巻十四・三四五九 作者未詳
稲つけば・・・巻十四・三四五九 作者未詳
「稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ」

校訂原点(漢字)
「伊祢都氣波 可加流安我手乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武」

現代語訳
「稲を舂くとあかぎれが切れる私の手を、今夜も若殿さまは手にとって、嘆かれるだろうか」



夕されば・・・巻十五・三五八九 秦間満

2010年11月12日 | 万葉集
夕されば・・・巻十五・三五八九 秦間満
夕されば・・・巻十五・三五八九 秦間満
「夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り」

校訂原点(漢字)
「由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山 古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里」

現代語訳
「夕暮になるとひぐらしがやって来て鳴く生駒山を、越えては帰ってくる。妻に逢いたくて」




ささなみの・・・巻一・三〇 柿本人麻呂

2010年11月05日 | 万葉集
ささなみの・・・巻一・三〇 柿本人麻呂
ささなみの・・・巻一・三〇 柿本人麻呂
「ささなみの 志賀の辛崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ」

校訂原点(漢字)
「樂浪之 思賀乃辛碕 雖幸有 大宮人之 船麻知兼津」

現代語訳
「楽浪の志賀の辛崎はその名のとおり変わらずあるのに、大宮人を乗せた船はいつまで待っても帰ってこない」


淡海の海・・・巻三・二六六 柿本人麻呂

2010年10月29日 | 万葉集
淡海の海・・・巻三・二六六 柿本人麻呂

淡海の海・・・巻三・二六六 柿本人麻呂
「淡海の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 情もしのに 古思ほゆ」

校訂原点(漢字)
「淡海乃海 夕浪千鳥 汝鳴者 情毛思努尒 古所念」

現代語訳
「琵琶湖の夕波を飛ぶ千鳥よ。おまえが鳴くと心もしなえるように、昔のことが思われる」



春の日に・・・・巻十九・四一四二 大伴家持

2010年10月22日 | 万葉集
春の日に・・・・巻十九・四一四二 大伴家持

春の日に・・・・巻十九・四一四二 大伴家持
「春の日に  張れる柳を 取り持ちて 見れば都の 大路思ほゆ」

校訂原点(漢字)
「春日尒 張流柳乎 取持而 見者京之 大路所念」

現代語訳
「春の日に葉っぱがふくらんだ柳の枝を折って、手に取ってみると、都の大路がしのばれることよ」


春の苑・・・・巻十九・四一三九 大伴家持

2010年10月15日 | 万葉集
春の苑・・・・巻十九・四一三九 大伴家持

春の苑・・・・巻十九・四一三九 大伴家持
「春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ少女」

校訂原点(漢字)
「春苑 紅尒保布 桃花 下照道尒 出立※嬬 (※は女へんに感)」

現代語訳
「春の苑に紅がてりはえる。桃の花の輝く下の道に、立ち現れる少女」