【まくら】
元来上方の噺だが、上方では途絶えてしまっていた。それを桂米朝が、十代目金原亭馬生が演じているのを聞き、面白い噺だと思って速記が残っていないかと探したところ、明治時代のものがり、それをもとに復活させた。
【あらすじ】
うたた寝をしている亭主熊五郎が、ブツブツ言ったりニヤニヤしているので何か夢でも見ているのかと思って起こしてみると、亭主は夢は見ていないと言う。「そんな事無いでしょう、夫婦の間で隠し事をするなんて・・・。」見ていないと亭主は言うが、「ヤキモチ焼きの私だが、そんなにも言えない夢でも見たのか」、と詰め寄った。「見てないものは見ていない」、と言うのを、「アンタはいつもそうなんだから・・・、私がこれだけ切り盛りして家計を助けているのに薄情なんだから」と、涙声になってきた。見てないものは言いようがないと、亭主の声が大きくなって喧嘩腰になってきた。「アンタは都合が悪くなってくるとそうなんだから」。亭主も売り言葉に買い言葉「はり倒すぞ!」、「殴るなり蹴るなりして貰おうじゃないか。この人殺し~~ぃ!」。
「オイオイ喧嘩はいい加減によせよ」、と隣家の男が仲裁に入った。
事情を聞くと夢の話であった。あまりにもバカバカしいので男の家に泣くおかみさんを行かせて、亭主を諌めた。「で、どんな夢を見たんだ。」、夢は見ていないと言ったが、「女房にも言えない夢を見る事があるし、俺はどんな事があっても他言はしないし、昔からの親友だろ。」と詰め寄った。昔話を持ち出して恩や義理があるだろうと更に詰め寄ったが、らちがあかず、ついに手が出て、仲裁の氏神が喧嘩の主になってしまった。
そこに家主が仲裁に入った。今までのいきさつを家主に聞かせたが、あまりにもバカバカしいので、隣家の男を家に帰した。
「そんな事で喧嘩なんてするな。でも、お前は偉かった。あいつは口の軽いので有名だ。明日になれば町内中に知れ渡ってしまう。そこいくと、私は・・・歳だし、他言はしない。。。で、どんな夢を見たんだい」。見ていないと言ったが、それでも町役だからとか家主は親だからとか、詰め寄ったが聞き出せなかった。最後には「店(たな)空けろ!」。その上、お上に訴え出ても店空けさせてやると乱暴な事になってしまった。
奉行所でも、あまりにもバカバカしい訴えなので、即却下。熊五郎だけをそこに残し、口の堅いのを褒めたが、その夢の話を奉行にだけに話して見ろと、詰め寄った。見てないものは話せないと言うので、人払いもして聞き出そうとした。見てない夢は話しようが無いので、断ると拷問にかけてもと、庭の松の木にぐるぐる巻きに縛られてしまった。
そこに一陣の風が吹き、天高く舞い上がり、高尾の山中に連れてこられてしまった。その主は天狗であった。町に出たら不思議な話を聞いたと言う。「始め女房が聞きたがり、隣家の男が聞きたがり、家主が聞きたがり、奉行が聞きたがった夢の話。私は天狗だ、そんな夢の話は聞きたくもない」。と前置きした ・・・が、話したくなったら、話しても良いという。見てない夢は話しようがないと言うと、脅かしに掛かった。「天狗を侮ると八つ裂きにしてしまうぞ!」と胸ぐらを捕まえ、脅し始めた。「痛いイタイ!助けてください!勘弁して~くださいよ~」。
「何だね。この夫(ひと)、うなされて? チョイと~、お前さん、どんな夢見ていたんだい?」
「夢? ・・・夢なんて見ていないよ。」
「ウソだよ。見てたよ。ブツブツ言ってたよ」
「見ていないよ」
「アンタって、いつもそうなんだから。夢の話ぐらいしてくれたって良いだろ」と詰め寄った。
(演者・権太楼 )この噺、ず~~っと続くんです。m(_ _)m ・・・さようなら__ _ _
出典: 落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
不明
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『大家といえば親も同然、店子(たなこ)といえば子も同然』
【語句豆辞典】
【天狗】深山に住むという想像上の怪物。姿は人に似て、鼻が高く翼があり、常に団扇を持ち、自由に空を飛ぶ。
【かきもち】もちを薄く切って乾燥したもの。
【時の氏神】タイミングよく出てきて仲裁などをしてくれる人。
【町役(ちょうやく)】町役人。江戸時代に町奉行の支配下で町を治めた町人。
【この噺を得意とした落語家】
・五代目 古今亭志ん生
・十代目 金原亭馬生
・三代目 柳家権太楼