日本男道記

ある日本男子の生き様

片棒

2009年05月31日 | 私の好きな落語
【まくら】
ケチの話は多いが、これは少し形が変わっている。
ケチ比べ、あるいはケチの金を使って困らせるものではない。
三人の息子に問題を出して、その答えの面白さを楽しむというもの。

【あらすじ】
石町(こくちょう)の赤螺屋吝兵衛(あかにしや・けちべい)さん。一代で身代を築き上げた人なのですが、その名の通りけちな方でございました。
この吝兵衛さんには三人の息子さんがあった。問題はこの内、誰に店を継がせるかでございます。不心得の息子に継がせたら、せっかく苦労して築いた身代をいっぺんに潰される。順に行けば長男ですが、ここは分け隔てなく三人の息子の内で一番見所のある者に譲ろうと一人一人の考えを聞く事にしました。
まず長男の一郎を呼んで、
 私が死んだら、葬儀はどの様に出すかと訪ねると、
「通夜はしないが、日比谷公園を借りて、歳も不足がないので紅白の幕を張り巡らして、花輪も派手に飾って、呼び込みの音楽に”軍艦マーチ”をかけます。」、「まるでパチンコ屋の開店だな。」
「祭壇の中央には金を握りしめ、誰にもあげないぞ~という写真を飾り、僧侶を50人ほどお願いし、一流レストランで料理を作らせ、銀座のホステスをずら~っと列べます。棺桶も鋼鉄で立派な物を造り、夕方から出棺となります。棺を飛行機に 乗せて、会場の上空に来たら、陽気に花火を揚げます。宙返りをしたのを合図に、仕掛け花火で赤螺屋吝兵衛告別式と出します。飛行機の後ろからは”南無阿弥陀仏”と出ると、会葬者が、天をあおいで『バンザ~イ』と叫びます。」、「バカやろ~、祝賀会じゃねぇや」。そこで次男の次郎を呼んで、
 「お前だったらどうするね。」
「私だったらお兄さんとは違います。」、「違ってくれなくてはいけないよ。」
「”練り”でやります。要は行列を作って練り歩きます。お祭りの太鼓を先頭に、東京中の組頭、鳶を集めて木遣りを歌いながら進み、それで新橋、柳橋、芳町、赤坂の芸者を総動員して、手古舞が続きます。その後に山車 (だし)が続きます。山車の上にはお父様にそっくりな人形がソロバン片手に立っています。神田囃子がはやしながら、それに併せて人形が動きます。(仕草が入り、人形の動きや 、電線をくぐる様子が入る。場内大爆笑)。続いて、揃いのハッピを染め抜いて、景気よく御輿が出ます。」
唾を飛ばすほどお囃子のテンポが速くなり、葬列か祭列か解らなくなってきた。吝兵衛あきれてものも言えずにいると、弔辞の文句も「・・・ケチだ、栄養不良だ、挙げ句には山車の人形になって面白くも愉快なり。」と来たから、怒鳴りつけた。
最後の息子に聞くと、
 「もっと質素にしたい。」、「いいね!その調子」。
「チベットでは”鳥葬”と言うのがありますが、ハゲ鷹に食べさせよと思いましたが、親戚がうるさいので、やめます。出棺は午後1時と言う事にして、実際は明け方に出してしまいます。」、「参列者が困るだろう」
「文句が出ても、お茶を出さずに済みます。棺桶も燃やしてしまうので、勿体ないから裏のタクアン樽に入ってもらいます。死んでいるから臭くありません。」、「分かった、古いのから使いなさい。」
「荒縄で縛って丸太を通します。人足を頼むとお金が掛かります。で、前棒は私が担ぎますが、後棒が・・・。」、
「心配するな、その片棒は私が担ぐ。」

出典: 落語の舞台を歩く

【オチ・サゲ】
途端落ち(終わりの一言で話全体の結びがつくもの)

【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『争えと 言わんばかりに 貯めて死に』

【語句豆辞典】
【石町(こくちょう、中央区日本橋本石町)】赤螺屋吝兵衛さんが住んでいた所。今は、三越・日本橋本店の裏が本石町。金融界の重鎮「日本銀行」本店が有る。
【手古舞(てこまい)】 江戸時代の祭礼の余興に出た舞。もとは氏子の娘が扮したが、後には芸妓が、男髷に右肌ぬぎで、伊勢袴・手甲・脚絆・足袋・わらじを着け、花笠を背に掛け、鉄棒(カナボウ)を左に突き、右に牡丹の花をかいた黒骨の扇を持ってあおぎながら木遣(キヤリ)を歌ってみこしの先駆をする。現在も神田祭などで見られる。

【この噺を得意とした落語家】
・三代目 三遊亭金馬
・九代目 桂 文治
・八代目 雷門助六
 



Daily Vocabulary(2009/05/31)

2009年05月31日 | Daily Vocabulary
7596.surrender charge(解約料)
Are theresurrender charge.
7597.go over(~をよく調べる)
Not to sign anything until I'd had a chance to go over the documents.
7598.fleece(~から金品を巻き上げる)
The company fleeced me for several thousand dollars at an all day seminar.
7599.gullible(だまされやすい、のろまな、頭がとろい)
He is so gullible that when I told him I was the prime minister's best friend, he believed me.
7600.sophisticated(巧妙な)
I saw right away that this was a sophisticated con job aimed at fleecing gulible retirees.
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旅する力―深夜特急ノート

2009年05月30日 | 読書日記
旅する力―深夜特急ノート
沢木 耕太郎
新潮社

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【一口紹介】
◆内容(「BOOK」データベースより)◆
旅に教科書はない。しかし、偉大な先達の残したノートを参考にすることはできる。
『深夜特急』では書かれなかったエピソードや、旅に出るまでの経緯、沢木耕太郎ができるまでとも言うべきデビュー直後の秘話など、旅に関する文章の総決算となる初の長編エッセイ。

【読んだ理由】
久しぶりの沢木 耕太郎作品。

【印象に残った一行】
いま、私はいかに自分が無力かを知っている。できることはほんのわずかしかないということを知っている。しかし、だからといって、無力であることを嘆いてはいない。あるいは、無力だからといって諦めてもいない。無力であると自覚しつつ、まだ何か得体のしれないものと格闘している。無力な自分が悪戦苦闘しているところを、他人のようにどこからか眺めると、少しばかりいじらしくなってきたりもする。おいおい、そんなに頑張らなくてもいいものを、と。
しかし、そのように頑張ることができるのも、もしかしたら自分の無力さを深く自覚しているからかもしれないのだ。 
私が旅という学校で学んだのは、確かに自分は無力だということだった。しかし、それは、新たな旅をしようという意欲を奪うものにはならなかったのだ。

【コメント】
サラリーマン生活最後になる東京出張の行き帰りに読んだ。
『深夜特急』全編を読んでいないので是非とも読んでみよう。
 


劇的紀行 深夜特急 '96 熱風アジア編 OP



Daily Vocabulary(2009/05/30)

2009年05月30日 | Daily Vocabulary
7591.financially literate(財政金融に通じている)
My father is quite financially literate.
7592.tactics(作戦、戦術)
The alliance demanded a transition to civilian rule and denounced the military's stalling tactics.
7593.put the squeeze on (人に圧力をかける)
They really put the squeeze on her then.
7594.fall for(策略・宣伝文句などにだまされる、引っ掛かる、つられる)
Elderly citizens are falling for a number of crimes.
7595.sleazy(ふまじめな、誠意がない、たちの悪い)
Chinese women, especially those who work at the clubs, are all sleazy.
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観音経8

2009年05月29日 | お経を読む・理解する
【原文】
或被悪人逐 堕落金剛山 念彼観音力 不能損一毛

【読み】
わくひーあくにんちく だーらくこんごうせん ねんぴーかんのんりき ふーのうそんいちもう  

【通釈】
或いは、悪人に追われて金剛山から落とされようとしても、かの観世音菩薩の力を念じるならば、毛筋一本でも害を与えることはできない
 
観音経の正式お名前は、「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五」という。観音信仰の基本経典。「妙法蓮華経」とは、有名な法華経のこと。法華経は二十八品(二十八章)からなり、観音経は(普門品)はそのうちの第二十五番目の章であるということ。その内容は、ひと言で言えば「観音様はどんな菩薩さまか」が説かれたもの。





観音経(偈)Avalokite醇{vara


Daily Vocabulary(2009/05/29)

2009年05月29日 | Daily Vocabulary
7586.supposedly(たぶん、恐らく)
The product also supposedly helps increase beauty.
7587.wheedle one's way into (うまいことを言って~を得る)
They have wheedled their way into house.
7588.foolproof(誰にでもできる[扱える]、間違えようのない、しくじりようのない)
The public deserves a foolproof system of checking.
7589.nest egg(将来のための貯蓄)
We have to make a nest egg for our retirement.
7590.annuity(年金、年金保険)
You cannot surrender a retirement annuity.
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春の歌 「無言歌集」より作品62-6

2009年05月28日 | 世界の愛唱歌
F.Mendelssohn: Songs Without Words "Spring Song"

[無言歌集」とは文字通り「言葉のない歌」という意味で、歌曲風のメロディに簡単な伴奏をつけただけの、形式もごく単純な短い曲のことをいう。
この名称はメンデルスゾーン(1809-47)自身が考え出したものとされており、普通の人が日々の出来事や感想を日記(現在ならブログ?)に書くのと同じような感覚で、「無言歌集」を書いていったようだ。
時には旅先からの手紙の中に、楽曲の一部が書かれていたこともあった。
そして、どの標題も分かりやすい名前がついていますが、メンデルスゾーン自身がつけたものはほんのわずかで、ほとんどは出版時に関係者がつけたもの。
全部で48(49?)曲もの小品を集めたこの「無言歌集」のなかでも、1842年に作曲されたこの『春の歌』は特に有名で、ピアノ以外にも、ヴァイオリンや他の楽器などでも演奏されている。その流れるようなロマン的でのどかなメロディは、いつも聞く者を楽しい平和な気分にさせます。形式は単純ですが、その伴奏様式は、メンデルスゾーンの天才を思わせるもので、装飾音符を巧妙に使って今までにない美しい効果を出した。
「無言歌集」はメンデルスゾーンが20歳の頃から書き始め、6曲まとまると出版という形で全部で第8集まである(遺作を入れると49曲)。
『春の歌』以外には、「紡ぎ歌」「狩の歌」「ヴェニスの舟歌」なども有名で、どれも上品でロマンに溢れた作品ばかり。
メンデルスゾーンは小さいときからピアノと作曲の才能が素晴らしく、神童と呼ばれていたが、わずか38歳で亡くなりました。その短い生涯で多くの優れた作品を残し、また当時あまりメジャーではなかったJ.S.バッハの作品をコンサートプログラムに入れるなど、指揮者としても大活躍した。



Daily Vocabulary(2009/05/28)

2009年05月28日 | Daily Vocabulary
7581.retiree(退職者)
I have been hearing a lot lately about retiree.
7582.life savings (老後の蓄え)
He gambled his life savings down the drain.
7583.prospect of (~の見通し)
Aside from the prospect of a gourmet meal at no charge.
7584.pique(興味・好奇心をそそる)
This information piqued the curiosity of scientists.
7585.smell a rat(うさんくさいと思う、何か怪しいと感じる)
Listening to her vague testimony, he began to smell a rat.
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Daily Vocabulary(2009/05/27)

2009年05月27日 | Daily Vocabulary
7576.tease(しつこくいじめる、からかう、悩ます)
I was only teasing you.
7577.vim(精力、活力)
After a week in bed with a severe cold,Tom bounced back to work with vim and vigor.
7578.unscrupulous(無節操な、恥知らずな)
I feel sickened by the way some unscrupulous con artist tried to rip off my mother.
7579.economic meltdown (経済破綻)
My mom has seen the value of her retirement investment decline dramatically because of the economic meltdown.
7580.find a way out of (解決法を見いだす、~から脱する道を探す)
She's been trying to find a way out of her swamp.
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学而第一10

2009年05月26日 | 論語を読む

【原文】
子禽問於子貢曰、夫子至於是邦也、必聞其政。求之與、抑與之與。子貢曰、夫子温良恭儉讓、以得之。夫子之求之也、其諸異乎人之求之與。

【読み下し】
子禽、子貢に問いて曰わく、夫子の是(こ)の邦に至るや、必らず其の政を聞く。これを求めたるか、抑々(そもそも)これを与えたるか。子貢が曰わく、夫子は温良恭倹譲、以てこれを得たり。夫子のこれを求むるや、其れ諸(こ)れ人のこれを求むるに異なるか。

【通釈】

子禽が子貢にたずねていった、「うちの先生(孔子)はどこの国にいかれても、きっとそこの政治の相談を受けられる。それをお求めになったのでしょうか、それとも[向こうから]持ちかけられたのでしょうか。」子貢は答えた、「うちの先生は、温(おだやか)で良(すなお)で恭々(うやうや)しくて倹(つつま)しくて譲(へりくだり)であられるから、それでそういうことに[どこの国でも政治の相談をうけられることに]なるのだ。先生の求めかたといえば、そう、他人のもとめかたとは違うらしいね[無理をしてことさらに求めるのとは違う。]」

【English】
Zi Qin asked Zi Gong "When the Master arrives in a state, he invariably gets to know its politics. Did he seek this information or was it give to him?"
Zi Gong replied "The Master get it through being cordial, kind, courteous, modest, differential. The Master's way of enquiry should be different from others."

Tsze-ch'in asked Tsze-kung saying, "When our master comes to any country, he does not fail to learn all about its government. Does he ask his information? or is it given to him?"
Tsze-kung said, "Our master is benign, upright, courteous, temperate, and complaisant and thus he gets his information. The master's mode of asking information,-is it not different from that of other men?"
『論語』とは、読んで字の如く「論じ語る」、孔子と弟子達や要人達との間に交された対話録。
『論語』は私たちの生き方の原点を見つめた思索の宝庫であり、人間性を磨く叡智が凝縮した永遠の古典。
読めば読むほど胸に深く沁み込む簡潔な言葉の数々。
『孟子』『大学』『中庸』と併せて儒教における「四書」の一つに数えられる。
全20編(学而第一~堯曰第二十) 構成され、編の名称は各編の最初の二文字を採ったものであり内容上の意味はない。
したがって、学而第一から順に読む必要はなくどこから読んでもかまわない。







Daily Vocabulary(2009/05/26)

2009年05月26日 | Daily Vocabulary
7571.designated(指定された)
Tom is the designated pinch hitter.
7572.alert(機敏な、警戒した、注意を怠らない)
During the riot,all police officers were on the alert to prevent looting.
7573.looting(略奪)
Looting has become widespread in the country after the collapse of the Hussein Government.
7574.make fun of (~を物笑いの種にする)
Are you not trying to make fun of me?
7575.pull someone's leg (人をからかう)
You are not pulling my leg, are you?
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The Temptations - My Girl (Movie version...

2009年05月25日 | 私の好きな歌
The Temptations - My Girl (Movie version)

I've got sunshine on a cloudy day.
When it's cold outside I've got the month of May.
I guess you'd say
What can make me feel this way?
My girl (my girl, my girl)
Talkin' 'bout my girl (my girl).

I've got so much honey the bees envy me.
I've got a sweeter song than the birds in the trees.
I guess you'd say
What can make me feel this way?
My girl (my girl, my girl)
Talkin' 'bout my girl (my girl).

Hey hey hey
Hey hey hey
Ooooh.

I don't need no money, fortune, or fame.
I've got all the riches baby one man can claim.
I guess you'd say
What can make me feel this way?
My girl (my girl, mt girl)
Talkin' 'bout my girl (my girl).

I've got sunshine on a cloudy day
with my girl.
I've even got the month of May
with my girl (fade)

Daily Vocabulary(2009/05/25)

2009年05月25日 | Daily Vocabulary
7566.all the angles(あらゆる面)
Sounds like you've got all the angles covered.
7567.trial-and-error method (試行錯誤(法)、手探り法、暗探法)
I used thetrial-and-error method to find a bikefriendly route.
7568.be in the habit of(~の習慣がある)
You have been in the habit of exercising.
7569.disassemble(分解する、バラバラにする)
To avoid spilling of ink, never attempt to disassemble the ink container.
7570.put back together(元通りにする[組み立てる])
You can get be easily disassembled and put back together.
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六尺棒

2009年05月24日 | 私の好きな落語
【まくら】
道楽息子と父親の争いを描いた噺。結局息子が父親をからかった形で終わっている。およそ教育的ではないが、落語が説教じみていては面白くない。

【あらすじ】
道楽息子の孝太郎が吉原からご帰還。
「あーあ、『床屋行ってくる』で十日間、吉原になだれ込んで居座っちゃったな。ちょっと長居だったよねぇ。親父、怒ってるだろうな…。
でも、うちは番頭さんがしっかりしているから大丈夫だ。出かける前にちゃんと打ち合わせしておいたから、きっと親父に黙って入れてくれるはず。
よ、家に着いた。戸口を…開かねぇぞ。鍵がかかってるよ」
戸口をどんどんたたく。やがて声が聞こえてくるが、それがなんと親父の声!
「ええ、夜半おそくどなたですな? 商人の店は十時限り、お買い物なら明朝願いましょう」
「いえ、買い物客じゃないんですよ。あなたの息子の、孝太郎でございます」
「ああ、孝太郎のお友達ですか。手前どもにも孝太郎という一人の倅がおりましたが、こいつがとんだ道楽者で、毎晩、夜遊び火遊び。
あんな者を家に置いとくってえと、しまいにゃこの身上をめちゃめちゃにしかねません。
末恐ろしいから、あれは親類協議の上、勘当いたしました。と、どうか孝太郎に会いましたなら、そうお伝えを願います。」
「勘当…。参りましたね。私は一人息子ですよ、私を勘当したら身代どうするんです?」
「そんなこと、お前が心配する必要はない!! …とお言伝を願います」
「だいたいね、『できが悪い』だなんて言ってお叱りになりますがね、私はなにも頼んで産んでもらったのではないのです。
あなた方が勝手に産んだんじゃないですか。それなのに"製造元"の不備を省みず、私ばかり糾弾するのは筋違いというものですよ?
出来がよければ受け入れて、悪ければ捨てるというのは身勝手だ…」
「やかましい!! 他人事に言って聞かせりゃいい気になりやがって!!
世間を見てみろ。たとえば隣の孝蔵さんは、親孝行で働き者じゃないか。
親の具合が悪ければ、『肩をたたきましょう』『腰をさすりましょう』、風邪をひけば『お薬を買ってまいりましょう』と尽くしてくれてるじゃないか。はたで見ていても涙が出らァ。少しは世間のせがれを見習え」
「そうですか…分かりました。勘当、結構です。できるものならやって見ろってんだ。
そのかわりね、どこの馬の骨とも牛の骨とも分からないヤロウに、この身代持って行かれるのはシャクですから火をつけます。放火します。
ちょうど袂にマッチがありますから、ひとつここに転がってる空き俵に火をつけて…」
マッチに火をつけてみせたから、戸のすきまから様子をうかがっていたおやじ、さすがにあわてだす。
「あれじゃ本当にやりかねないぞ。あのヤロウ…そうだ、ここに六尺棒があるから、こいつを使って向うずねでもかっぱらってやる! このヤロウ!!」
幸太郎、これはたまらんと逃げだして、抜け裏に入ってぐるりと回ると家の前に戻った。
いい具合に、おやじが開けた戸がそのままだったので、中に入るとピシャッと閉め込み、錠まで下ろしてしまった。
そこへおやじが腰をさすりながら戻ってくる。
「おい、開けろ」
「ええ、夜半おそくどなたですな? 商人の店は十時限り、お買い物なら明朝願いましょう」
「野郎、もう入ってやがる。客じゃない、お前のおやじの孝右衛門だ」
「ああ、孝右衛門のお友達ですか。手前どもにも孝右衛門という一人のおやじがありますが、
あれがまあ、朝から晩まで働いて、金儲けばかりに励みやがって困っております。
ああいうのをうっちゃっとくってえと、終いに日本中の金を集めかねません。
『宵越しの銭は持たない』という、江戸っ子の信条に反する極道者ですから、あれは親類協議の上あれは勘当いたしました…とお言伝を願います」
「勘当…。親父を勘当してどうするんだ?」
「そんなこと、お前が心配する必要はない!! …とお言伝を願います」
「幸太郎…、冗談を言ってないで開けておくれ。私は夜中に駆け出して疝気が…」
「やかましい!! 他人事に言って聞かせりゃいい気になりやがって!!
世間を見てみろ。たとえば隣の孝蔵さんの父親は、子供思いでやさしいじゃないか。
せがれさんが風邪でもひいたってえと、『一杯のんだらどうだ?』『小遣いをやるから、女のとこへ遊びにでも行け』。
はたで見ていても涙が出らァ。少しは世間のおやじを見習え」
「何を言やがんだ…。そんなに俺のまねをしたかったら、六尺棒を持って追いかけてこい!」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

【オチ・サゲ】
間抜け落ち(会話の調子で間抜けなことを言って終わるもの。また奇想天外な結果となるもの)

【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『親の脛かじる息子の歯の白さ』
(親の脛をかじる者が、かえって身奇麗にして遊び暮らすケースが多い事を皮肉ったもの)

【語句豆辞典】
【六尺棒】カシなどで作った長さ六尺(1.8㍍)の棒。防御に用いる。
【あんころ】あんころ餅。
【円タク】戦前にあった市内均一のタクシー。転じて流しのタクシーをみな円タクと呼んだ。

【この噺を得意とした落語家】
・五代目 古今亭志ん生
・九代目 桂 文治
・立川談志