【まくら】
原話は、文化年間に出版された笑話本『写本落噺桂の花』の一遍である「乗り合い船」。
別題は『五目講釈』や『桑名船』など。主な演者として、東京の5代目三遊亭圓楽や上方の6代目笑福亭松鶴などがいる。
【あらすじ】
八と熊、そして与太郎の三人が旅に出た。お江戸日本橋七ツ立ち、京都大阪を見物し、四国へ向かって金比羅参り。
その帰り道、兵庫と神戸の境にある、鍛冶屋町の浜というところに来て…。
「出すぞぉ、出すぞぉ…」
「待ってくれーぇ!!」
船に乗って、渡し場からツー。こうなると船頭も乗客も心が落ち着き、勝手な話をやり始める。
「あんさん、兄さんは江戸っ子でしたな」
「ええ、八五郎と申します。何でしょうか?」
「いやぁ、あまりにも退屈ですからな、ひとつ、謎かけでもやろかと思いましてな」
まずは難波っ子から出題。
「まずは、伊呂波の『イ』からいきまほか」
「『イ』のじ。へぇ、あげましょう」
「これをもろて、茶の湯の釜ととく」
「その心は?」
「炉の上にあり…どうでっしゃろか?」
「面白いですなぁ」
八公はそれを受けて、朝露と解いた。
「ほぅ、その心は?」
「葉の上にあり、どうでしょうか?」
こんな感じで『ニ』・『ホ』とやっているうちに、横で見ていた与太郎が「あたいもやりたい」と言い出した。
「『ニ』を受けて、褌の結び玉の上…」
「おもろ解きまんな、そのこころは?」
「屁の上!」
「くだらない事を言うな!」
わぁわぁ言っているうちに、なぜか船がぴたっと止まった…。
「船頭さん、如何したんだい?」
「いやぁ、あんさんがた、えらい事になりましてな」
なんと、このあたりの船には悪い鮫が大量におり、そいつが船を見込んで止めたというのだ。
「何とかしろ!」
「船の中のどなたかが、海の中に飛び込んでもらうしか…」
その者を見分けるには、乗客のめいめいが持ち物を海へ投げ込み、沈むか浮くかで『生贄』を見分ける…。
「浮けば助かり、沈めば魅入られたと諦めてドボン? トホホホホ、えらい事になっちゃったなぁ」
「八っつぁん、沈んだ!!」
「何!? 与太郎、何を放り込んだんだ?」
「煙管」
「馬鹿!! 鉄を放り込んだら沈むだろ!」
みんなが持ち物を放り込んでいった。そんな中、みよし端に座っていた、40がらみの男が投げた扇子がブクブクと沈んだ…。
「悪いんだが、沈んでくれないかなぁ?」
「これも災難だと諦めて、皆さんのために沈みましょう。しかし…その前に、ひとつお願いがあるんです」
「お願い? 何?」
男は旅回りの講釈師。死ぬ前に、皆さんに一席聞いてもらいたい。
「講釈師、名前は?」
「はい、一龍斎貞山の弟子で…」
「おぅ」
「一龍斎貞船と申します」
「テイセン? 船が止まるわけだ」
船端をシャク台にみたて、貞船先生の講釈が始まった。
「では、『五目講釈』という物をやらせていただきます」
「五目? 何だよ」
「いろいろな講釈を張り混ぜにしたものです」
「面白いな、やってみろ」
「はい、では…」
ころは元禄十五年、極月中の十四日打ち立つ時刻丑三つの軒の棟木に降り積もる…とやりはじめたが、途中からおかしな事になってくる。
突然吉良邸が安宅関になって武蔵坊弁慶が登場し、扉が開いたら赤間源左衛門が出てきたり…。
(パパン・パン!)「初音の鼓たずねんと、はるばる来るは紀伊の国。(パパン・パン!)粋な黒塀見越しの松に(パパン・パン!)あだな姿の洗い髪(パパン・パン!)、やぁやぁ宮さん何処行くの?(パパン・パン!)」
五右衛門が出てきて辞世の句を『石川や 浜の真砂は尽きるとも むべ山風を 嵐というらむ』…。
「凄い講釈だねぇ。本当に張り混ぜになってるよ。あれ? 鮫がいねぇぞ!!」
船はスーッと動き出した。そのまま安治川へ入って、陸に上がってみんなで祝杯…と、人間様のほうはこれで住んだが、済まないのが鮫のほう。
「何で逃げたんだ!? たかだか講釈師の一人で情けない!!」
「あれ、講釈師!?」
あんまり講釈師がバタバタ叩いたので、鮫は蒲鉾屋と間違えたらしい。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
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【この噺を得意とした落語家】
・六代目 笑福亭松鶴
・二代目 桂 枝雀