30数年ほど前 「文芸春秋」という雑誌を4年間ほど毎月定期購読していたことがある。
しかしどうもこの雑誌には偏った胡散臭い連中が巣食ってしまい まっとうな社員グループを隅においやったなぁと感じる号が続いて読むのを止めた。
それからは芥川賞や直木賞も雑誌を売るための販促ツールの一つと思うようになり 賞を取った小説が単行本になってもすぐ手を出さず
数年たっても時折興味深い書評が絶えない本だけを たまに読んだ。
しかしこの「バリ山行き」と言う小説は 六甲山の山登りの小説だと新聞記事で目にして興味を持った。
自分が六甲山の麓のエリアで通算すると40年ほど暮らしていたからだ。
図書館でネット予約を入れたら 単行本は40人待ちほどだったので 掲載号の文藝春秋の雑誌で申し込んだら即借り出し可能の状態だった。
読みだすとすぐに阪神御影や住吉川、ロックガーデンなどの活字が目に飛び込んできた。そして情景が目に浮かんだ。
主役の人物は社員50人ほどの工務店に転職して3年ほどの会社員だ。そしてもう一人の主役は❝妻鹿-めが❞という苗字の職人肌の先輩社員だ。
請負の建物修理工事の進捗や現場の段取りから引き渡しまで リアリティそのものの描写だ。
そして山行きの書きようが凄い。危険な状況に満ちた山行きの臨場感を猛烈に味わいながら読み進めた。
そのうちに書き手はほんまもんのプロの物書きだなと思うようになりながら読み進めた。
この作家は自分でも登山路ではないバリエーションルートを登る「バリ山行」をよくしている人だと思った。
そして彼が勤めている会社生活の不条理とその中で生きる日々は 阿智胡地亭が予測する展開を裏切り続けた。
まさに今の世の工事現場で働く人の日本と言う娑婆がこの小説の中にあった。
ラストの描写が不思議に清々しいのがいい。
作家本人が目指す『オモロい』小説が世に出たと思う。私の大好きな❝ハラハラドキドキ❞は 純文学とも両立するのだ。
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