近世・奄美流人の研究 (日本語) 単行本 – 2018/1/23
箕輪 優 (著)
amazon 内容(「BOOK」データベースより)
西郷隆盛をはじめ多くの者が、江戸期、奄美諸島に遠島に処せられた。だが、その実態はほとんど知られていない。著者によって掘り起こされ、初めてまとめられた奄美流人史。巻末資料に「奄美各島流人一覧」を収録
出版社からのコメント
もうひとつの西郷本です。
これは脚色された小説ではありません。史料に基づく歴史的事実によって、衝撃の西郷像が浮かび上ります。
出版の2018年といえば大河「西郷どん」放送年。
名瀬の書店の特設コーナーに本書があったかどうか、記憶にない。
著者は、奄美大島名瀬に出自を持つ、経歴もユニーク、ということで図書館で手にした。
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”はじめに”で奄美の歴史書をよんで、漠然と感じていたモヤモヤ感について
「薩摩藩」か、「鹿児島藩」か
「侵略」という表現について
「僭称」や「蔑称」の表記について
を見て読んでみる気になった。
あと、流人の種別で
公儀流人
薩摩藩内からの流人
奄美諸島間における流人
琉球からの流人
とあって、薩摩藩内からの流人以外にも書かれてあり、
他の島、佐渡や八丈島なととの比較もあって
あって新鮮だった。
(流人史に限らず、よそとの比較は郷土史では難しいのか。あったら是非読んでみたい。)
郷土研究会報
市町村誌
刊行本
個人所蔵文書
など現地にも足を運んでの資料蒐集の徹底ぶりにもおどろいた。
脚注での参考文献での概要説明も親切で流人史だけでなく、奄美の歴史も学べる。
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5章 名越左源太と西郷隆盛
アマゾンにある、出版社からのコメント
もうひとつの西郷本です。
これは脚色された小説ではありません。史料に基づく歴史的事実によって、衝撃の西郷像が浮かび上ります。
奄美への流人は「西郷隆盛」だけではない、ということを本書では、訴えたいと著者は”はじめに”で述べているのだが。5章 名越左源太と西郷隆盛 はp271~p297。
島民に慕われた名越左源太と、そうでもなかった"衝撃の西郷像”が描かれている。
おもに、筆まめであったがゆえに残ってしまった西郷の奄美大島遠島当初の島蔑視の手紙と、明治5年の「大島商社」設立の勧奨と大蔵省にたいする税の誤魔化しについての引用文など。
この"衝撃の西郷像”は、奄美大島での西郷不人気と、西郷研究が進まない理由としてネットなどでも見ることができる。
また、たまたま同じ日に借りて、今読んでいる
『西郷内閣』 明治新政府を築いた男たちの七〇〇日 (双葉文庫) – 2017/10/11
にも、大蔵大臣兼務の西郷の、矛盾した脱税方法としてノンフィクションノベルで、1ページほど描かれている。西郷のセリフあり194
大島商社設立によって浮いた島の砂糖利益で士族救済するためだろうが、
いずれにしても西郷の真意は、よくはわからない。
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奄美流人と言えば
喜界島へ遠島され、西郷とともに鹿児島に帰り、使節団の一員に加わり、西南戦争に薩軍として
従軍して自決した村田新八の事績についても知りたいところだ。
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6勝 流人がもたらした奄美の教育文化
流人史研究における、この締めは、すこし意外だっが、しかし言われてみれば、頭を揺さぶられる、
私にとっての一番の衝撃だった。
明治以降の奄美における”教育沸騰”とその批判
p118
2 奄美の”教育沸騰”に対する、島内外からの様々な批判について
その中でとくに、強烈だったのは、次の引用文。(いまでは直言がはばかられる指摘かもしれないが昭和2年にすでにこんなことが))流人の子孫たちも、やはり公務員志向だったのか?
(昭和2年来島の下田将美著『南島経済記』)
p320 (前略)学問させることはいい。しかし学問さえさせれば人間は偉い地位が得られ、金が沢山儲かるという迷信から覚めねばならない。
学問をさせたが故に労働をすることをいとって、月給取りの楽な身分だけを希望するような誤った考えから脱却せしめなければならない。
私は大島に奨学の気風の盛んなることを悦ばしいことに思う。しかし、その奨学が労働回避になる時に、大島は不幸なる陥穴に自ら落ちるのだと評せざるを得ない。その土地を耕し、その国土から実益をうませることが、大島の今日の急務である。私は徒に官吏になり、月給取りになることを希望する子弟ばかり多くなることを大島の不幸であると思う。(昭和2年来島の下田将美著『南島経済記』)