![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/1f/44fc2c40ce121957d3dfbb52cf2a48b7.jpg)
(オバマ米大統領と会談するブラジル・ルラ大統領 オバマ米大統領はブラジルの経済・社会政策を称賛していますが、その立場は必ずしも一致はしないことも
“flickr”より By Embaixada dos EUA - Brasil
http://www.flickr.com/photos/embaixadaeua-brasil/3354935802/)
【「痛みを与えるに十分なほど大きく、即死させるほどは大きくない」】
イランで姦通罪を問われている女性が「胸まで地中に埋め、石を投げつけてなぶり殺す」石打ち刑による死刑を宣告されている件については、刑の残虐性に対して国際的に批判が起きており、刑の執行が保留されていることは周知のとおりです。
“2人の子供の母でもある彼女は06年5月、姦通罪で有罪となり、99回のむち打ち刑を宣告された(不倫の自白は強要されたものだと彼女は主張)。それ以来投獄されている。同年、夫を殺害した罪にも問われたが、それは無罪になった。
だが姦通罪についての審理は再開された。英ガーディアン紙によると、「裁判官の知識」に基づいて証拠なしで判決を出せるという規則の下、死刑判決が下された。
彼女の代理人は人権派弁護士モハマド・モスタフェが務めているが、控訴しても認められなかった。早ければ7月10日にも政府が彼女の処遇を決めると、AOLニュースは伝えている。”【7月8日 Newsweek】
なお、イランの刑法では、石打ち刑で使う石は「痛みを与えるに十分なほど大きく、即死させるほどは大きくない」とされ、「1回か2回で人が死ぬほど大きくてはならず、石の定義に当てはまらないほど小さくてもいけない」と規定しているそうで・・・・。
“アムネスティが今年6月末にイラン政府に執行中止を求めたことから欧米メディアが報道し、「露骨な人権無視」(へイグ英外相)、「残酷で忌まわしい行為」(米国務省報道官)との批判が起きていた。
イラン司法府のジャバド・ラリジャニ顧問は10日、国営イラン通信に「石打ち刑は法律に明記されており、欧米の圧力で変えることはない」としつつも、「彼女の判決が見直されることもあり得る」と発言。最終的には、司法府長官のサデク・ラリジャニ師が判断するとみられる。”【7月13日 朝日】
【「わが友人、アフマディネジャド」】
欧米諸国の批判は、内容的にも、また、相手がイランということもあって、当然予想されるものですが、ここにきて、イラン・アフマディネジャド大統領を「わが友人」と呼ぶブラジル・ルラ大統領が、女性の身柄をブラジルが引き取る形での仲介を申し出ています。
****姦通罪で死刑宣告のイラン女性、ブラジル大統領が受け入れの意志*****
イランで姦通罪により石打ち刑による死刑を宣告された女性について、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領は31日、「亡命を受け入れる用意がある」とイランの指導部に呼び掛けた。
ブラジルのエスタド通信によるとルラ大統領は、11月の次期大統領選へ向けて自らが選んだ後継者ジルマ・バナ・ルセフ官房長官の選挙集会で行った応援演説の中で、「わが友人、アフマディネジャド(イラン大統領)とイランの最高指導者(アリ・ハメネイ師)、そしてイラン政府に訴えたい」と切り出し、このイラン人女性をブラジルが受け入れることを認めて欲しいと切り出した。(中略)
演説でルラ大統領は「一国の法律は尊重しなければならない。しかしイラン大統領、そしてイラン国民に感じているわたしの友情と敬意に何かの価値があり、この女性が(イランで)不快の念を引き起こしているのならば、われわれは彼女をブラジルに受け入れる用意がある」と語った。【8月1日 AFP】
****************************
イランとしても、欧米の批判に屈する形でいつまでも刑を保留するのは立場上難しいところでしょうから、欧米とは一線を画するブラジルの仲介は乗りやすいのではないでしょうか。
【独自の立場を主張する新興国】
ブラジルは、国連安保理の対イラン追加制裁決議の前にも、トルコとともにイラン核問題で仲介に入りましたが、このときはイランがウラン濃縮を継続させるということもあって、欧米側には受け入れられませんでした。
ブラジルは、国連安保理の決議では、トルコとともに反対票を投じています。
こうしたイランへの対応や、温暖化対策を巡る前々回COP14での新興国・途上国代表としての「活躍」など、新興国としての存在感を高めつつあるブラジル・ルラ大統領は、欧米とは立場を異にする独自の立場を明確に主張することが多くなっています。
その点は、イラン問題で一緒に仲介に入った地域大国トルコも同様です。かねてよりEU加盟を悲願として欧米からの指摘に従うことも多かったトルコですが、エルドアン政権は対イスラエル強硬路線など、欧米とは異なる主張を強めています。欧米からは「最近、トルコは東を向くことが多くなった」との声もあるようですが、地域大国としての自信を深めているトルコとしては、西一辺倒ではなく、西にも東も、独自の判断で顔を向けるだけ・・・といったところでしょう。
新興国の雄、中国がアメリカを向こうに回してのパワーゲームを展開していますが、中国だけでなく、こうしたブラジルやトルコといった新興勢力が、それぞれの立場から外交を展開する時代になってきています。
価値観・利害を共有することが多い欧米や日本の合意だけでは世界は動かない時代になってきています。
【大統領選挙 元ゲリラの与党女性候補追い上げ】
ブラジルは現在、大統領選挙が進行しています。
ルラ大統領は労働組合運動出身の左派で、03年の大統領就任直後は、急進左派的な経済政策を取るのではないかという否定的な観測があり、市場は大混乱したこともありました。
しかし、ルラ大統領は現実的な経済政策を取って自由市場のルールを堅持し、国外からの投資を呼び込みました。また、低所得者層への生活手当の充実や最低賃金の引き上げなどの政策に力を入れ、貧しい人々から絶大な支持を確立。これらの政策は、貧困層の消費意欲をかき立てブラジル経済の活性化につながりました。
世界的な金融危機への対応も素早く、ダメージを最小限に食い止め、経済界のルラ政権に対する評価は高いものがあります。
中南米諸国からの信頼も厚く、中南米では「ルラ大統領を見本としたい」という左派系指導者が目立っています。【09年10月3日 毎日より】
更に、2016年のオリンピック招致にも成功しています。
そんな実績も挙げ、国民からの支持も高いルラ大統領ですが、憲法の規定で大統領(任期4年)の連続3選は禁止されており、今回の大統領選には出馬できません。
ルラ大統領の圧倒的人気にもかかわらず、今年4月頃までは後継者の与党候補より、野党候補(前サンパウロ州知事)が大差でリードする展開で、ブラジルの左派政権も終わるのでは・・・というのが、もっぱらの観測でした。
しかし、ここにきて、与党・ルセフ候補が追い上げ、むしろリードを見せる展開になっています。
****ブラジル大統領選、与党ルセフ候補が野党候補を5ポイントリード*****
ブラジル国家産業連盟(CNI)の依頼で調査会社イボペがまとめた世論調査によると、10月3日に行われるブラジル大統領選で、与党労働党のジルマ・ルセフ候補が、ライバルである野党ブラジル社会民主党(PSDB)のジョゼ・セラ前サンパウロ州知事に対し、初めて支持率で大きくリードを広げた。
調査では、ルセフ候補の支持率が40%、セラ候補が35%と、その差は5ポイントとなった。
ルセフ候補の人気上昇の背景には、第1・四半期の経済成長率が14年ぶりの高い伸びとなるなど、好調な景気があるとみられている。
CNIの運営担当ディレクターRafael Lucchesi氏は、ルセフ候補の支持率上昇の理由として「景気、政府と大統領の人気、選挙過程に対する大統領の影響力」を挙げた。
昨年の調査でルセフ候補は、セラ候補に支持率で2けた台の差を付けられていたが、5日の調査では両社とも37%と互角になっていた。今回の調査は19─21日、2002人を対象に行われた。【6月24日 ロイター】
******************************
与党候補のルセフ官房長官は1964年から85年まで続いた軍政下で左翼ゲリラの抵抗運動に加わり、3年間の投獄経験もある女性です。経済学者でもあり、鉱業・エネルギー相も務めています。当選すれば、ブラジル初の女性大統領になります。
ルセフ候補は、ルラ大統領の中道路線を継承するためゲリラとの関係は絶ったと世間にアピールしています。
今年に入ってからの支持率上昇ぶりを見ると、初の女性大統領誕生の可能性が高いようにも見えます。
【「チェンジ」なき退屈な選挙】
ただ、両候補とも基本的に「ルラ路線」継承では同じです。
“変化を求めない世論のムードは、中南米の政治が成熟した表れとも言えるだろう。10年以上前にベネズエラのチャベス大統領が21世紀型の社会主義革命を掲げて登場し、イデオロギー戦争が激化したが、そんな時期は終わったようだ。
アルゼンチンやボリビアを除けば、中南米諸国の大半が急速に中道路線へと移行している。チリとコロンビアで今年行われた選挙では保守派が勝利。パラグアイやウルグアイなど、急進的ではない社会主義が主流派を占める国も穏健路線を歩んでいる。
こうした状況を生んだのはブラジルだ。自由市場のルールに従い、インフレ率と国の債務を低く抑える──ルラがこの信条を固く守った結果、ブラジル経済は安定した。ルセフもセラもルラと同じ路線の政策を唱えている。「チェンジ」なき退屈な選挙こそ、今のブラジル国民の望みかもしれない。”【7月23日 Newsweek】
【残された課題も】
ルラ大統領のもとでの経済成長(「ルラ大統領はブラジルの成長期にちょうど就任するという幸運に恵まれた」という見方も多いようですが)によって、絶対的貧困者数は減少しました。
しかし、比較的豊かな南部と貧しい北部アマゾン地方との格差は、むしろ拡大しています。
“同国北部、北東部のアマゾン地方には全国平均を上回る比率で最貧困層が暮らす。北東部では、収入の90%を年金に頼る家族が多いが、南部では家族収入に占める年金の割合は平均20%だ。手厚い社会保障政策のおかげで、与党・労働党の支持率はアマゾン地方で高まったものの、経済成長からより大きな恩恵を受けたのは南部、南東部だった。”【6月24日 オックスフォード・アナリティカ】
誰が次期大統領になろうとも、こうした格差問題に加えて、財政問題、産業構造の転換など、難題への対処を迫らます。