孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  中国・アメリカ・日本との関係今昔

2010-08-26 20:08:55 | 国際情勢

(8月22日 ホイアン 浴衣姿ではしゃぐベトナムの女の子)

【日本人町と日本橋】
日曜日からベトナム中部のホイアンを観光しています。ホイアンの街を歩いているとこの地と外国の関係が窺える場所がいくつもあります。
日本との関係で言えば、この地には16から17世紀頃にはアユタヤやマニラと並んで日本人町がつくられていました。ホイアンの代表的な観光スポットのひとつに、当時の日本人町と対岸をつなぐ通称「日本橋」があります。
今も残る古い建物にも日本建築の影響が見られるとか。

また、東南アジア地域の常として、華僑とのつながりを物語るものも多く、福建省、潮州、広州などの同郷人の集会所「会館」が散在しています。

ホイアン郊外のチャンパ王国(マレー系海洋民族による国家で、ベトナム中部で2世紀から19世紀の長い期間勢力を保つ)の遺跡「ミーソン遺跡」は、ベトナム戦争の際のアメリカ軍による爆撃の爪あとを残しています。また、遺跡の彫像の多くが旧宗主国フランスによって持ち去られ、その傷跡も痛々しいものがあります。

【「後悔することになる」】
時代は下って現代。
ベトナムは隣の大国・中国と同じく共産党一党独裁の国で、経済的にも同じような開放政策で成果をあげていますが、隣国の仲が悪いのは古今東西の常で、ベトナム・中国の関係も歴史的には侵略と抵抗の歴史です。
ベトナムのカンボジア侵攻の際には、中越間で戦火を交えたこともありました。近年は首脳の相互訪問などで関係修復が進んでいましたが、南シナ海への権益拡大を目指す中国の脅威を感じてベトナムは対抗的に旧敵アメリカと接近、これに中国が反応するなど、微妙な対立が見られます。

****ベトナム:米と国防次官級協議 南シナ海巡り中国けん制も*****
ベトナムと米国は17日、ハノイで95年の国交正常化後、最高レベルの防衛対話となる国防次官級協議を開催した。かつて米国と戦い南北統一を果たしたベトナムは、急速に米国との軍事協力を推進。中国とは南シナ海の領有権問題で対立し、歴史的にも警戒感が強いだけに、中国封じ込め姿勢を強めるオバマ米政権の思惑を巧みに利用しているとみられる。

「両国間の防衛協力強化へ向けた歴史的なステップだ」
ベトナムのグエン・チ・ビン国防次官と協議に臨んだ米国のシャー国防副次官補は、対話を高く評価した。
両国は南シナ海情勢について協議し、国際法に基づいた平和的解決の必要性で一致。また、人道支援や災害救援などでの協力で合意した。AFP通信によると、シャー副次官補は「中国軍が近代化を図っているとの見方で一致した」と述べた。
両国間では今月上旬、国交正常化15年の祝賀行事の一環として、米原子力空母「ジョージ・ワシントン」が、ベトナム戦争時に米軍の一大拠点となった中部ダナン沖合の南シナ海に到着。ベトナム政府や軍の幹部らが空母に乗り込み、軍事協力強化をアピールしたばかり。

中国は今年3月、南シナ海について初めて、領土保全に関する「核心的利益」と表明。中国政府の同海域の権益獲得に臨む強い姿勢の表れと受け止められた。
中国の南進圧力に抵抗してきた長い歴史を持つベトナムが、これを深刻な脅威ととらえたのは明らかで、ベトナムを議長国に7月、ハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議では、東アジアサミットに来年から米国とロシアを参加させる方針が決まった。
米空母のベトナム訪問に関し中国は「米越両国がそれぞれを利用して中国をけん制しようとすれば、後悔することになる」(楊毅・中国海軍少将)と強い調子で警告。ベトナムにとっては中国との経済関係は自国の経済成長に欠かせないものでもあり、ビン次官は17日の防衛協議後、「協力強化は他国の利益を侵害するものではない」とも強調している。【8月18日 毎日】
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ベトナムの抱える対中国問題と戦略については、下記のようにも報じられています。
*****3つの問題 3つの戦略*****
ベトナムにとって、対中関係には3つの大きな問題がある。第1は貿易問題だ。中国はベトナムが輸出に成功するとただちに貿易障壁を設けるのに対し、ベトナムは障壁を設けないため国内で不満が募っている。
第2の問題は、メコン川上流部(中国名・瀾滄江)のダム開発だ。中国は、南西部の雲南省内のメコン川上流で巨大なダムと水力発電所を建設している。ここ数年、メコン川下流のベトナム、タイ、ラオス、カンボジアでは水位が下がり、水不足が生じている。
第3は、南シナ海の領有権問題だ。石油や天然ガス資源があるとみられ、戦略的にも重要なスプラトリー(中国名・南沙)諸島とパラセル(同・西沙)諸島をめぐり、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を争っている。
中国がいなければ、国連海洋法条約に基づいて、それぞれに近接する大陸棚を「排他的経済水域(EEZ)」として分割することもできる。しかし、中国はベトナムがEEZを主張する海域で探査契約を結ばないよう、国際石油企業に警告し続けている。

ベトナムは3つの戦略で中国に対抗しようとしている。
第1は、抑止力の強化だ。ベトナムは、ロシアに6隻のディーゼル型潜水艦と数十機の新鋭戦闘機を、カナダに哨戒機を注文している。一方、ベトナム防衛当局者は、中国側と友好的な対話を通じて、衝突を避けるための信頼を醸成しようとしている。
第2は、ASEANや国連など、多国間機構の活用だ。ベトナムはスプラトリー諸島などの領有権について、まずASEAN域内で話し合い、共同で中国に対処するよう提案している。
ASEANと中国は2002年、「南シナ海における関係諸国行動宣言」に署名。すべての関係国が行動を自制し、領有権問題の解決に軍事力を行使しないことを誓った。しかし、中国は04年、懸案のASEANと自由貿易協定を結ぶと、領有権問題は2国間で話し合うと主張するようになり、ベトナムの戦略はうまくいっていない。
第3は、米国との関係緊密化による牽制(けんせい)だ。米国は南シナ海の領有権問題に巻き込まれないよう警戒しつつ、ベトナムとの防衛対話を積み上げている。
ゲーツ米国防長官は6月、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、南シナ海で合法的に活動する米国やその他の国の企業への「脅し」に米政府は反対すると述べ、中国に対する挑発ともとれる発言をした。【7月21日 オックスフォード・アナリティカ】
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【原発受注に各国参戦】
日本とは先述のようにつながりの深いエリアです。
街に浴衣姿のベトナムの女の子達が大勢いて「何事か?」と思ったのですが、21日から23日に催されていた「日越文化交流 ホイアン日本祭」というイベントの一環だったようです。イベントは全国放送のTVニュースなどでも紹介されるような盛大なものでしたが、23日午後は台風接近で土砂降りの悪天候。残念ながら多くの催しが中止になったのではないでしょうか。

原発売込みで直嶋正行経済産業相もベトナムを訪れていたようですが、こちらは現地のTVでは気付きませんでした。
*****ベトナム首相と会談=原発受注で直嶋経産相******
直嶋正行経済産業相は25日、ベトナムで計画中の原子力発電所の建設受注を目指し、同国のグエン・タン・ズン首相と首相府で会談した。ズン首相は受注に向けた日本の提案に対し、「真剣かつ前向きに検討していきたい」と述べた。
 直嶋経産相は官民一体の取り組みをアピールした上で、「10月に予定されている日越首脳会合で何らか進展させたい」と期待感を示した。
 会談には東京電力、東芝、三菱重工業、日立製作所など民間8社のトップも同席。官民一体で原発の建設受注だけでなく、運営についても保守を含めた長期的な視点で取り組んでいることをアピール。ズン首相は原子力協力協定をめぐる両国による現在の予備交渉について、「正式な協定締結に向け(事務方に)意見交換させていきたい」と述べた。【8月25日 時事】
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新幹線売り込みでは、日本側も懸念していた資金面で、ベトナム国会が政府の建設計画を否決する異例の展開となって今後に持ち越されています。
原発についてもベトナム政府は意欲的で、国会から慎重論が出ています。
****ベトナム、2030年までに原発13基建設*****
ベトナム政府は、2030年までに原子力発電所を8カ所(13基)で建設する方針を明らかにした。経済成長に伴って首都ハノイでも電力不足が深刻化しており、同年までに原発で、電力需要の10%にあたる1万5千~1万6千メガワットの発電を目指す。
ベトナムでは現在、南部ニントアン省で原発2基を建設する計画が進行中で、ロシアの協力で2020年の運転開始を目指している。当初は同年に4基の運転を始める予定だったが、国会審議で慎重論が出て、2基を先行して建設することになった。新たな政府の方針も、具体化の過程で変更される可能性がある。【6月23日 朝日】
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先行するロシアのあとを追って、欧米・日本勢の受注合戦が激化しています。
中国をけん制してベトナムに接近するアメリカは、以前も取り上げたように、ベトナムのウラン濃縮を容認しても原子力協定を進める意向と報じられています。
****ウラン濃縮容認か 核不拡散「二重基準」批判も 米、ベトナムと原子力協定交渉*****
米国が核燃料や原子力発電技術での協力を促進する協定締結に向け、ベトナムとの交渉を進めている。ベトナムは今後20年以内に原子力発電所を13基建設する計画で、協定締結はこうした事業への米国企業の参入に道を開く。
ただ、協定ではベトナム独自のウラン濃縮を例外的に容認する可能性があり、核不拡散に関する「二重基準」の批判を招く危険性もはらんでいる。ウラン濃縮容認の場合、核問題で米欧から非難されているイランが反発するのも不可避だ。(中略)
ベトナムは今年6月、原発建設計画を発表し、中国や日本企業などの高い関心を引きつけた。米国では複合企業のゼネラル・エレクトリックや建設大手ベクテルが参入に興味を示しており、協定締結はこうした企業の後押しにつながる。
一方、米メディアによると、ベトナムがウラン濃縮の放棄を受け入れる可能性は低く、米国も黙認する姿勢に傾いているとされる。
だが、米国はすでに原子力協定を結んだアラブ首長国連邦や交渉中のヨルダンには核不拡散を理由に濃縮放棄を求めており、ベトナムの特別扱いはオバマ政権の核不拡散戦略に影を落とすことになりかねない。【8月8日 産経】
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アメリカも「国益」のためには、「二重基準」もいとわないようです。

コメント
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