(アフガニスタンの孤児たち “flickr”より By tracingtea.images
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【支持率41%】
中間選挙を控えて、アメリカ・オバマ大統領の立場は苦しさが増しています。
米紙USAトゥデー(電子版)は3日、ギャラップ社との合同世論調査で、オバマ大統領の支持率が政権発足後最低の41%に下落したと報じています。
(なお、ギャラップ調査によれば、オバマ米大統領の7月の黒人の支持率は88%で、白人の支持率(38%)を50ポイント上回っており、人種間での評価の違いが鮮明になっています。ただ、黒人の月間平均支持率も6月に続き90%を割る水準に低下しています。【8月4日 共同より】)
与党民主党の退潮も著しく、全議席が改選される下院はもちろん、一部改選の上院ですら与野党逆転の可能性も取り沙汰されるようになっています。
オバマ大統領の支持率低下には多くの要因があります。
大規模な経済刺激策にもかかわらず景気回復に勢いがみられないこと、こうした公共投資や医療保険制度改革が財政赤字を膨らませ、社会主義的な「大きな政府」を目指すものとして、ティーパーティーなどの保守層からの反発を受けていること、「オバマの戦争」とも呼ばれるアフガニスタンでの戦闘で犠牲が拡大しているにもかかわらず戦況が好転しないことなど・・・。
【イラク撤退を中間選挙に向けてアピール】
特に、外政においては、アフガニスタンの苦境を打ち消すためにも、イラク撤退を国民にアピールする必要に迫られています。
****イラク撤退、不安視も 米大統領 中間選挙へ“得点稼ぎ”*****
オバマ米大統領は2日行った演説で、イラク駐留米軍の戦闘部隊を公約通り8月31日までに撤退させると言明した。しかし、イラクでは治安悪化の兆しがあることに加え、連立協議の不調で5カ月以上も新政権が発足していないため、米軍戦闘部隊の撤退を不安視する見方もある。
イラクの治安状況はここ数年で大幅に改善されたものの、市民がテロの恐怖におびえる現実に変わりはない。フランス通信(AFP)は、イラク政府の発表として、7月のテロなどによる死者数が535人と、1カ月間としては過去2年で最悪になったと伝えた。
大統領も演説で、「厳然たる事実は、米国の犠牲の終わりはまだ見えていないということだ」との認識を示した。
しかも、イラクでは3月の国民議会選挙後、主要政党による連立交渉が難航、政権発足は9月にずれ込むとの懸念が高まりつつあり、戦闘部隊撤退には不安が絶えない。
大統領がそれでも戦闘部隊の撤退を改めて表明したのは、2008年の大統領選で得た無党派支持層を11月の中間選挙で再び取り込みたいとの思惑もあったからだといえそうだ。【8月4日 産経】
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【出口の見えない“オバマの戦争”】
イラクの新政権樹立が予想通り難航していること、このところテロ犠牲者が増加していることは上記記事のとおりですが、それでもまだアフガニスタンよりはましとも言えるでしょう。
アフガニスタンについては、国民の厭戦気分も高まっています。
冒頭の調査結果によれば、「アフガン戦争は誤り」との回答は43%に上昇しているそうです。
アフガニスタンではタリバンの攻勢が続いており、米軍犠牲者も7月は66名に達し、01年の米軍によるアフガニスタン攻撃開始以来の月間死者数が2カ月連続で最悪を記録していますが、マクリスタル前司令官の辞任や機密情報の流出などの不祥事も相次いでいます。
更に、オランダ軍の撤退で同盟国の協力もますます困難な状況になりつつあります。
****アフガン:米軍負担増でオバマ政権苦境 オランダ軍撤退で****
オランダ軍のアフガニスタンからの撤退は、小規模ながら、武装勢力タリバンの攻勢を印象付け、NATO各国の撤退機運の加速など影響を及ぼす恐れがある。アフガン戦争を主導する米軍は負担が増し、オバマ政権は米世論対策でも苦しい状況に追い込まれそうだ。
現在のアフガン駐留外国部隊は約15万人。うち、間もなく10万人規模になる米軍が3分の2を占める。約3000人のカナダ軍が来年の撤退を決定し、英国が15年までの撤退、ドイツも11年からの段階的撤退を表明しており、「米軍色」が次第に濃くなっていく。
オバマ大統領は来年7月に米軍撤退を始めるとしているが、ゲーツ国防長官は1日放映の米テレビ番組で、初期の撤退規模は「極めて限定的になる」との見通しを示した。背景には、悪化する一方の戦況がある。
AP通信によると、7月の米軍死者数は66人で、2カ月連続で01年の開戦以来の最悪を記録。米軍は今後、オランダ軍の駐留地を引き継ぐ上、タリバンの拠点である南部カンダハルでの掃討作戦も控え、死者数増加は避けられない。
オバマ大統領は1日放映のテレビ番組で、アフガン戦争の目的は、テロリストが米国を再び狙うのを防ぐ「困難だが、極めて控えめなもの」と述べ、国民の理解を求めた。だが、えん戦ムードは与党・民主党内で広がっており、ペロシ下院議長は同日、来年7月の撤退について「数千人以上を期待する」と大規模撤退を求めた。【8月2日 毎日】
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【今年12月には撤退開始の可否も含めてアフガン政策を再検討】
混迷するアフガニスタン情勢に、戦略見直しの声も高まっています。
****アフガン、どこへ行く 米国内で戦略の再考求める声*****
■タリバン自治認める分割構想
混迷を深めるアフガニスタン情勢を受け、米国内でオバマ政権にアフガン戦略の再考を求める声が強まっている。カルザイ同国政権と距離を置き、米国の予算や兵力を国際テロ組織アルカーイダの掃討に傾ける戦略への転換が必要との議論だ。6、7月と米兵の月間死者数が2カ月連続で最悪を記録する状況に対し、米国内の不満が強まっていることが背景にある。オバマ政権は当面、現行の包括的なアフガン支援を維持する姿勢だが、戦況次第では早期の戦略見直しを余儀なくされる可能性もある。
◆警鐘鳴らす
「目標を縮小し、米国の関与をはっきりと縮小させる時期が来ている」
ブッシュ前政権で国務省政策企画局長を務め、現在は米有力シンクタンク、外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏は最近、米国のアフガン戦略が「明らかに機能していない」と警鐘を鳴らす論文を米誌ニューズウィークに発表した。
ハース氏が特に疑問視するのは、息を吹き返し、各地に根をはりつつあるイスラム原理主義の反政府武装勢力タリバンを、実効支配する地域から軍事力で駆逐、行政機関を設け住民と一体で治安を維持する戦略だ。
伝統的な反政府武装勢力平定戦略といっていい。
「掃討、確保、構築」が柱となる戦術は、イラクでは治安向上に貢献するなど成果をみたものの、汚職がはびこり、国民の教育も行き届いていないアフガンでは効果が限定的である。2月に制圧したはずの南部マルジャでは今なお、タリバンの反撃が続いている。
氏はアルカーイダなどに「焦点を絞った対テロ戦」に重点を移すべきだと主張し、理想を追求するより現実に即した対応が不可欠だとの認識を示している。
1日付の米紙ニューヨーク・タイムズは複数の米政府高官の話として、オバマ政権内でも、反政府武装勢力に対する戦いよりも、対テロ戦を重視する傾向が強まっている、と伝えた。
◆厭戦ムード
こうした中で、アルカーイダとの縁切りを条件にタリバンに一部地域の自治を認める大胆な“アフガン分割構想”も浮上している。事実上の手打ちである。
ブッシュ前政権の大統領次席補佐官(国家安全保障・戦略計画担当)、ロバート・ブラックウィル氏は、政治専門サイト「ポリティコ」で構想を披露、タリバンとの共存は米兵死傷者を劇的に減少させ、米国内にくすぶる「拙速なアフガン撤退論のリスクを最小限に抑えられる」と解説した。
戦略見直し論は米国内の厭戦(えんせん)気分と無縁ではない。米紙ワシントン・ポストとABCテレビの最新の世論調査では、国民の44%がアフガンでの軍事行動が米国の長期的な安全に「貢献していない」と否定的だ。
米上院外交委員長のジョン・ケリー議員(民主)も「アフガニスタンでの成功とは何なのか、正確な定義を理解することが必要だ」と述べ、基本に立ち返った戦略再考を訴えている。
◆懐疑的見解
オバマ政権内でも、反政府武装勢力平定戦略に懐疑的な見解は当初からあり、特にバイデン副大統領がその筆頭格とされていた。
7月18日のテレビインタビューで、副大統領は「米国は(アフガン)国家構築に携わっているわけではない」と述べ、2011年7月の駐留米軍撤退開始に変更はないことを強調した。全土を覆う反政府武装勢力を押さえ込み、民心を掌握する戦略にはもともと長い時間を要し、中途での方針変更は混乱を助長するだけだとの見方も根強い。
オバマ大統領は今年12月には撤退開始の可否も含めてアフガン政策を再検討することになっており、その判断が注目されている。【8月4日 産経】
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【「勝ち目も意義もないオバマの戦争をやめる方法」】
ブッシュ前政権で国務省政策企画局長を務めた外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏は、【8月4日号 Newsweek】に「勝ち目も意義もないオバマの戦争をやめる方法」と題する文章を書いています。
このなかでハース氏は「ブッシュ政権はタリバン追放後のアフガニスタンに具体的な国家建設の構想を描かなかった」と指摘しています。ハース氏は、国家安全保障会議(NSC)の場で、タリバンが政権を追われた今こそ、それなりに機能する国家を建設するチャンスであることを訴えましたが、容れられず、結局そのチャンスを逃し、戦況は悪化の一途をたどっているとのことです。
中間選挙後の12月に戦略再検討が行われますが、ハース氏は4つの選択肢をあげています。
第1案は現状維持。この場合、費用は年間1000億ドルに達し、連邦予算の大きな負担になります。人的な被害も大きいですが、アフガニスタンにくぎ付けになることで、北朝鮮やイランへの対応も制約されます。
第2案は早期の全軍撤退。この場合、カルザイ政権は崩壊し、アフガニスタンは内戦状態になります。このことはテロリズムに対するアメリカの敗北とみなされることにもなります。
第3案は和解。しかし、有利に戦いを進めているタリバン側に和解を受け入れる考えがあるかは疑問です。
和解が困難なら、国を分割してしまおうというのが上記記事にもあるブラックウィル氏の提案です。パシュトゥン人が多数を占める南部をタリバンに委ねるというものです。しかし、パシュトゥン人国家建設はパシュトゥン人が多く暮らす隣国パキスタンに影響します。パキスタンからのパシュトゥン人の分離、タリバン・パシュトゥン人国家への合流という危険も出てきます。南部に暮らす非パシュトゥン人の抵抗も予想されます。
ハース氏が提案するのは第4案の地方分権。アルカイダに協力しないこと、パキスタンの安定を損ねないことを条件に、地方の現地指導者に武器と訓練を提供し、タリバンへの対応は地方勢力に任せ米軍は撤退するというものです。
この場合、中央政府・大統領権限は改憲して縮小されます。「弱い中央政府と強い周辺」というアフガニスタンの伝統に沿うものだとも。
南部の多くの地域でタリバン支配が復権しますが、もし、タリバンが非パシュトゥン人地域を襲撃したり、パキスタン反政府勢力の補給基地にしたり、アルカイダと協力したりすれば、アメリカ空軍・特殊部隊が制裁を加える・・・というものです。
よく中身がわかりませんが、ハース氏の「地方分権」案は、要はかつての軍閥が割拠する内戦状態に戻すということではないでしょうか?
アメリカにしてみれば、アフガニスタンでの戦いの目的はアルカイダを叩くこと、核保有国パキスタンを不安定化させないことであり、アフガニスタンでの民主国家建設には関知しないというでしょう。
現在アフガニスタンに残存するアルカイダは「60~100人、それ以下かもしれない」(CIA長官)ということですので、そんな少数の敵のために十万人の兵力を駐留させることはないという結論にもなります。
1日、オバマ大統領は“アフガン戦争の目的は、テロリストが米国を再び狙うのを防ぐ「困難だが、極めて控えめなもの」と述べ”【8月2日 毎日】、18日には、バイデン副大統領が「米国は(アフガン)国家構築に携わっているわけではない」と語っています。
アルカイダさえ叩けば、あとはどういう国家状態になろうが関知しない(アメリカも表向きは“関知しない”とは言わないでしょうが・・・)というのも無責任です。ただ、アフガニスタンのことは結局自国民が決めるしかない問題でもあります。いろんな理由でタリバンが復権するなら、それもやむを得ないものなのかも。
個人的にはあまりアルカイダにも9.11にも関心はありませんが、強権的・教条的なタリバン支配は好ましいものに思えないことから、アメリカがどういうつもりかアフガニスタンにのめり込み、結果的にタリバン勢力を一掃してくれれば幸い・・・というようにも見ていましたが、いったい何のために外国勢力がアフガニスタンで戦争を行っているのか?どういう理由ならアフガニスタンでの戦争が許容されるのか?という、もっとも素朴な問いかけに立ち返ります。