孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トラブルを招く国際河川  インドのダム放流でパキスタン洪水被害拡大

2010-08-27 21:22:39 | 国際情勢

(インドからパキスタンへ流れるサトルジ川 “flickr”より By Somesh Kumar
http://www.flickr.com/photos/someshk/4434285377/# )

【「義援金と引き換えに洪水被害を悪化させた」】
パキスタンの洪水被害に関して、犬猿の仲であるインドからの義捐金受け取りが微妙な雰囲気のなかで決まったというニュースは先日取り上げたばかりです。

****パキスタン:インドの義援金 受け入れへ*****
パキスタンのクレシ外相は20日、同国の洪水被害に対しインドが表明した義援金500万ドル(約4億2600万円)について、パキスタン政府が受け取ることを決めたことを明らかにした。AP通信などが伝えた。
インド側は義援金の提供を13日に伝えており、パキスタン政府は受諾を決めるまで約1週間かけた。被災者が1500万人を超えた洪水被害のさなかにもかかわらず、カシミール地方の領有権争いなどを抱える両国関係の複雑さを示した。
ニューヨークを訪問中のクレシ外相は、インドのテレビに対し「パキスタンは非常にありがたく思っている」と語った。
インドのシン首相は、19日にパキスタンのギラニ首相へ電話し、洪水被害の救助活動を支援する用意があることも伝えている。【8月21日 毎日】
************************

その後日談とも言うべきニュースがありました。
*****インド:洪水のパキスタンに義援金 直後にダム放流*****
インドが、大洪水に見舞われたパキスタンに救援金500万ドル(約4億2500万円)の供与を表明し、パキスタン外相が受け入れを表明した直後、インドがパキスタンへ流れる河川の大規模ダムを放流。パキスタン側で「通報義務を怠った放流で、義援金と引き換えに洪水被害を悪化させた」と報じられ、騒動に発展している。

パキスタンの保守系英字紙ネーションは23日、「インドの不誠実な意図」と題する社説を掲載。「(インドは)500万ドルの見返りにパキスタン政府に通報することなくダムを放流した」と批判。パキスタン側で多くの住民が避難を強いられたと指摘し、米訪問中の20日に救援金受け入れを表明したクレシ外相を「現実を知らない」とこき下ろした。
一方、インド西部パンジャブ州当局者は取材にサトゥルジ川にあるダムの放流を認め、「決壊の危険が高まったため21日から放流を開始した」と明らかにした。放流量は25日までに計約6800万立方メートルに達し、かんがい運河を通じてラビ川にも流入。これら下流域のインド領内でも「13の村で洪水被害が起きた」と語った。
パキスタンを流れる大規模河川のほとんどがインドから流入しているため、両国は60年、河川ごとに取水権などを取り決めた「インダス水条約」を締結している。今回放流されたサトゥルジ川はインドに取水権がある。
しかし、大雨でダム決壊の恐れなどが高まって放流が必要になった場合、インドはパキスタンに24時間前に通報するよう規定している。
これに対し、インド外務省広報担当者は取材に「(外務省として)放流の事実は把握していない」述べた。パキスタン外務省は「(義援金の)受け取りの最終決定はまだ」としており、義援金と放流を巡る問題は両国関係を一層こじれさせる恐れがある。
義援金は13日、インド政府が支給を表明し、20日にパキスタン外相が受諾を表明した。印パ関係の改善を狙ったケリー米上院議員の働きかけがあったとされている。【8月26日 毎日】
**********************************

事実関係はよくわかりません。インド中央政府がパキスタン側に被害が及ぶ事態を把握していたとは思えませんが、「ダム決壊の危機」という非常事態において、現地当局の対応にパキスタンへの配慮を欠いた対応があった可能性もあります。
せっかくの義捐金が、「義援金と引き換えに洪水被害を悪化させた」といったに火をつけるような結果なったのは残念なことです。

【「中国が水という武器を手にした」】
複数の国を流れる国際河川は、とかくトラブルの種になります。
今回はダムの放水の問題でしたが、今後の国際間の最大の問題のひとつになることが予測されているのが水資源の利用に関する問題です。
中国を源流として東南アジア各国を流れるメコン川の水利用に関する中国と下流国の対立、アフリカの大河、ナイル川をめぐるエジプト・スーダンと上流国の対立について、これまでも取り上げたことがあります。

同様の問題が新興国の両雄、中国とインドの間にもあります。
****アジア、水争奪戦 中国のダム開発、流域国との火種に******
国境をまたぐアジアの大河で、新たな対立の火種が生まれようとしている。
チベットからインド、バングラデシュに流れるブラマプトラ川。「上流で中国がダムを建設中」とインド紙が1面トップで報じたのは、昨年10月のことだ。人工衛星で着工が確認されたのだ。

中国側は、5基のダム建設計画が進んでいることを認め、電力需要の増加に対応する水力発電用のダムで、常時放水するため下流域に影響はないと説明した。
しかし、中国側の思惑次第で水量をコントロールされてしまうのではないか、とインド側は懸念を募らせる。1962年に、国境紛争で戦った両国。インド国内の研究者からは「中国が水という武器を手にした」という論調さえ出てきた。

懸念はダムにとどまらない。インドのエネルギー資源研究所の水問題担当、アショク・ジェトリー部長は「中国はブラマプトラ川の水を、自国へ引き込もうとしているのではないか」と話す。
彼が指摘するのは、中国政府が進める「南水北調」計画。水資源の豊かな中国南部の水を、水不足の北部に送る大事業だ。現状では国内河川から取水する計画だが、国際河川からも取水する案がくすぶる。そうなれば根こそぎ水資源が奪われる、とインド側は恐れている。

英国国防省の2007年の報告書も「水問題は、軍事行動や人口移動を誘発する可能性を高める。中国がブラマプトラ川の流れを変えようとすれば、リスクは大きい」とこの問題を取り上げている。
中国外務省は「中国は責任ある国家だ。他国の利益は損なわない」とインドの懸念を否定している。
中印は、雨期に水利情報を交換する覚書を結んでいるが、インド外務省のゴータム・バンバワレ東アジア局長は「今後は中国との(開発問題を協議する)河川協定が必要になる」と語る。(後略)

アジアには世界人口の6割が暮らすが、地球上で利用できる水資源の36%しかない。今後の経済発展や地球温暖化の進行で、水不足はいっそう深刻化するだろう。水問題は、アジアの安全保障の課題になりつつある。【8月15日 朝日】
****************************

「中国は責任ある国家だ。他国の利益は損なわない」・・・・そうであってたいところですが、南シナ海での影響力拡大の動き、メコン川やブラマプトラ川をめぐる動きなど、自国利益優先しか念頭にないのでは・・・との懸念も感じます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする