孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  連邦保安庁(FSB)強化で懸念される自由圧殺

2010-08-03 22:57:24 | 国際情勢

(5月27日のふたり “flickr”より By Tin Mot Tam Muoi
http://www.flickr.com/photos/tin180/4646240765/

【「私かもしれないし、プーチン首相かもしれない。」】
ロシアのメドベージェフ大統領とプーチン首相による二頭政治の今後がどうなるのか、両者の関係は本当のところどうなのか、メドベージェフ大統領はプーチン首相と異なるリベラルな路線を出そうとしているのか、それとも単なる役割分担にすぎないのか・・・という話は、いささか手垢のついた話題でもありますが、次期大統領選挙にどちらが立つかは明確にしない方針に変わりはないようです。
そうしないと権力バランスが崩れてしまいますので。

****ロシアのメドベージェフ大統領、2期目の出馬は未定*****
ロシアのメドベージェフ大統領は2日、2012年の大統領選出馬については未定と語った。ただ、プーチン首相が出馬する場合は出ないという点は確認した。
大統領は5月に4年の任期の折り返し点を迎える。次回2012年の大統領選に再出馬するのか、それともプーチン首相に大統領の座を返還するのかをめぐって憶測が広がっている。
国営ロシア通信(RIA)とタス通信によると、大統領は「2012年には何が起こるか、誰が出馬するかわからない。私かもしれないし、プーチン首相かもしれない。誰か別の人間の可能性もある」と述べた。【8月3日 ロイター】
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ロシアの最高権力者がプーチン首相であることは誰しも認めるところですが、また、「プーチンの操り人形」と言われながらも、やはり表舞台に立つ機会が多いメドベージェフ大統領の言動はそれなりに国内外の注目を集めます。プーチン首相がそういう状況をどのように考えているのか・・・
ふたりしか知る由のないところです。ひょっとしたら、ふたりの間でも、お互いの本音を探り合っている状況かも。

【KGB化するFSB】
29日、ロシアの情報機関である連邦保安庁(FSB)の権限強化を定めた法改正案にメドベージェフ大統領が署名しました。
この案件には、次期大統領選挙を意識して「強い指導者」というイメージ作りを進めようとするメドベージェフ大統領の思惑もあるのでは・・・といった憶測もありました。

****ロシア:情報機関に強権付与の動き 大統領、再選へ布石か*****
ロシアの情報機関である連邦保安庁(FSB)に、前身の旧ソ連国家保安委員会(KGB)が持っていたのと同じような強い権限を与えようという動きが、ロシアで強まっている。改革派イメージの強いメドベージェフ大統領が反対するという観測も出ていたが、大統領は今月に入って、議会で審議されているFSBの権限強化を図る法案への支持を明言した。
ロシア下院は16日、「犯罪につながるような容認できない行動」を取った個人に「警告」を与える権限をFSBに与える法案を可決した。「警告」の具体的内容には触れていない。法案にはさらに、FSBの活動を妨害した個人を拘束したり、罰金を科す項目も含まれている。上院は19日に採決する予定で、可決が有力視されている。
ロシア国内の人権団体は、KGBが同じような権限を使って反体制派のソ連国民を弾圧した前例を取り上げ、法案が人権状況の悪化につながる恐れがあると警告する。議会内でも与党系の「公正ロシア」が下院採決で反対に回るなど、警戒論が根強い。
メドベージェフ大統領は08年5月の就任以来、司法制度の改革や市民社会の創出を唱えてきた。そのため、今回の法案をめぐっても「人権活動家や野党関係者は大統領が拒否権を発動すると期待していた」(コメルサント紙)という。だが、大統領は今月15日の会見で「情報機関に関する法律を含め、法を定めるのは主権の問題だ。自分が法案提出を指示した」と発言。議会を通過すれば、署名する方針を明らかにした。

大統領の強硬姿勢の背景には、今年3月にモスクワで起きた連続地下鉄爆破テロで約140人が死傷するなど、同国にテロの脅威が残されていることがある。国民は取り締まりの行き過ぎを懸念しつつ、同時に「政府のテロ対策は効果的でない」(モスクワ市警官)という不満も強いからだ。政権内でも、FSB出身のプーチン首相に代表されるシロビキ派(情報機関出身者)が発言力を強めているとみられる。
ロシアでは次期大統領選が2012年に行われることになっており、メドベージェフ氏は再選に意欲を示している。経済政策では「ロシア版シリコンバレー」の建設計画を打ち上げるなど功績作りを急いでおり、治安面でも、対テロ問題で強い姿勢を打ち出すことで「強い指導者」というイメージ作りを進めようとしているようだ。【7月17日 毎日】
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【圧殺されかねない「自由」】
上記記事は下院可決時のものですが、19日には上院で可決され、大統領署名に至っています。
メドベージェフ大統領の大統領選挙に関する思惑はわかりませんのでさておき、ただでさえ評判の良くないFSBが更に強化され、かつてのソ連KGBのようにもなりかねないというのは、ロシア国民にとっても、また、ロシアに普通の国になってもらいたい日本を含めた周辺国にとっても、いささか懸念される話です。
与党系の「公正ロシア」が反対したというのは、必ずしも大政翼賛会ではないようで、その点は意外な感もしましたが。

人権とか政治的自由については、日本や欧米諸国の考え方とロシアのそれにはまだ大きな開きがあるようです。
****露で「集会の自由」求め抗議、95人一時拘束*****
モスクワ中心部の広場で7月31日、政治団体などが「集会の自由」を求める抗議活動を行い、参加者35人以上が警察に一時身柄を拘束された。
インターファクス通信によると、この中には、エリツィン政権下で第1副首相を務めたボリス・ネムツォフ氏も含まれた。サンクトペテルブルクでも同様のデモが行われ、ロイター通信によると、60人が一時拘束された。【8月1日 読売】
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FSB強化が、このような政治体制をさらに閉鎖的な方向に持って行くのでは・・・とも懸念されるところです。

ロシア版シリコンバレーを提唱するメドベージェフ大統領ですが、FSB強化によってインターネット検閲も強化されます。
“法案は、政府高官の権限を妨げロシアの名誉を傷つける「過激派」と戦うという大義を掲げているが、成立すればウェブサイトの検閲はもちろん「捜査妨害」を理由にした逮捕も可能になる。FSBから警告を受けたプロバイダーは3日以内に「有害サイト」を閉鎖しなければならない上、再開したければサイト側が嫌疑を晴らすしかない。”【7月21日号 Newsweek日本版】

一方、メドベージェフ大統領は、地方首長の世代交代を進め、中央集権化を図っているとも報じられています。
****ロシア大統領:「長老」に次々引導…中央集権強化図る*****
ロシアを構成する共和国、州など83の連邦構成体の首長の中で、ソ連末期から20年余りにわたって君臨してきた「最長老」のラヒモフ・バシコルトスタン共和国大統領(76)が7月半ば、ついに辞任に追い込まれた。長期政権は汚職の温床になるとして地方首長の世代交代を進めるメドベージェフ大統領が、ラヒモフ氏の来年10月の任期切れを前に引導を渡したとみられている。大統領は08年5月の就任以来、エリツィン政権時代からの「大物」首長ら16人を解任し、中央集権の強化を図ってきた。次の標的としてルシコフ・モスクワ市長(73)の去就が注目されている。(後略)【7月31日 毎日】
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【ソチ五輪で危ぶまれる北カフカス情勢】
ロシアに関しては、人権・民主化の政治的問題、経済問題もありますが、治安面ではチェチェンから北カフカス地方に拡散した様相を呈しているテロの問題があります。
7月21日には、ロシア南部・北カフカス連邦管区のカバルジノ・バルカル共和国で、バクサン水力発電所に数人のグループが侵入し、警備員2人を殺害した後、機械室に爆発物を仕掛け爆破するという事件も起きています。

****2014年ソチ五輪に迫るテロの恐怖*****
2014年にロシアのソチで開かれる冬季オリンピックでテロが起きる危険性が高まっている。ロシア南部の北カフカス地方にあるカバルジノ・バルカル共和国のバクサン水力発電所が7月21日にテロ攻撃を受け、警備員2人が死んだことで、その懸念はさらに高まった。
イスラム教徒が大部分を占める北カフカス地方で発生したテロ事件の件数は09年に57%増加。94〜01年のチェチェン紛争と違い、実行犯の背景は過激なイスラム主義だけでなく、分離独立主義や部族闘争など多岐にわたっている。
北カフカスにカネと武器を投じ続けるロシア政府のやり方は裏目に出ている。人権団体メモリアルによれば、チェチェン共和国とダゲスタン共和国では夜間の誘拐やレイプ、政府が支援する暗殺部隊による「合法」殺人が以前から横行している。ダゲスタンのある警察関係者によれば、警察とつながりがある地元の部族が敵対する部族を混乱に陥れるため、暴力をあおっているという。
ロシア政府は何とかして暴力の連鎖を断ち切らなければならない。さもなくばソチで14年に開催されるオリンピックが狙われることになる。21日の事件があった北カフカスの丘陵地帯からソチまで約300キロしか離れていない。【8月4日号 Newsweek日本版】
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FSB強化は、こうしたテロ対策の一環でしょう。(チェチェン関連のテロはFSBによる自作自演だとの疑いも根強くありますが)
ソチ五輪成功のため、面子をかけたテロ封じ込めが取られることと思われますが、それによる政治的自由圧殺の影響も大きなものがありそうです。

コメント
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