
(被災住民の救援にあたる米軍 “flickr”より By The U.S. Army
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/4885278634/)
【「水が引いても農地が地雷原・・・」】
パキスタンでは7月28日ごろの北部の大雨で国土を南北に貫くインダス川が氾濫。
地元メディアの推計では死者2000人超とも言われており、被災者は2000万人を超えています。
最大の産業である農業被害も30億ドル(2500億円)を超える見通しで、「冬の飢饉(ききん)」への恐れも広がっています。【8月25日 毎日より】
そんなパキスタン洪水被害について、物騒な・・・と言うか、被災者にとっては“踏んだり蹴ったり”の事態が広がっているようです。
****パキスタン:洪水1カ月 地雷や爆弾が河川に大量流出*****
建国史上最悪の洪水被害から1カ月となるパキスタン北西部で、国軍と戦闘を続ける武装勢力が埋設したとみられる地雷や手製爆弾、砲弾がはんらんした河川に大量に流出した。米国主導の「対テロ」戦が続く同国だが、大半の国民には地雷被害を回避する知識はない。水害によって拡散した地雷は、遅れている救援活動をさらに遅らせ、水が引いても新たな「戦争被害」を招く恐れがある。
洪水被害が深刻なカイバル・パクトゥンクワ州の警察によると、インダス川が決壊した州南部デライスマイルハーンで9日、土砂に埋もれていた物体に男児3人が触れた途端、爆発した。3人は手の指を失うなどの大けがをした。
数日前にも同じ地域で60歳代の女性が水の引いた畑を歩いている時に突然爆発。足を切断するなどした。
いずれも地雷被害とみられ、パキスタンで医療活動を続ける赤十字国際委員会(ICRC)は、「流れついた地雷で流域の人々の命が危険にさらされている」と警告。地雷被害が「洪水の2次被害」として急浮上した。
地雷は、米国の圧力を受けたパキスタンが武装勢力掃討作戦を始めた02年以降、武装勢力側がアフガニスタン国境の支配域周辺に埋めたとみられ、推定数万個。インドと領有権を争う北部カシミールの境界付近にも大量の地雷が埋まっているとされる。
デライスマイルハーンで相次いだ爆発は、河川を通って地雷が運ばれてきたことを証明しており、同州政府の救援当局者は「水が引いても農地が地雷原になっているかもしれない。これは戦争の弊害だ」と訴えた。
こうした中、ザルダリ大統領が深刻な被害が出ているさなかに欧州を外遊したこともあり、政府の救援活動の遅れは国民の反政府感情を決定的にし、05年のパキスタン地震の時に多くの国民が寄付した政府の「災害被災者救援基金」には今回、寄付者がいない状態となっている。半面、掃討作戦の即時中止と対話解決を求めるイスラム勢力の基金には寄付が集まっており、被災者への炊き出しなどを通じて影響力を高めている。【8月25日 毎日】
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「水が引いても農地が地雷原・・・」とは、不幸は弱者を狙い撃ちにするもののようです。
【アメリカ・イスラム勢力の援助合戦】
この災害を、住民支持拡大のための戦略的一環として位置づけ、救援活動に力を入れているのが、上記記事にもあるイスラム勢力と米軍です。
****パキスタン:洪水援助、目立つ米国 イメージ改善狙う*****
パキスタンを襲った大雨洪水被害への国際社会の支援が遅れる中、米国の積極さが目立っている。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、これまで各国が表明・拠出した支援額は計約1.5億ドル(約129億円)。米国の支援額は14日の発表で7600万ドルに達し、半分近くを占める。テロ対策のパートナーながら国民の反米感情が強いパキスタンに対し、積極支援で米国のイメージを改善させたいとの狙いもありそうだ。
OCHAは被災者を1400万人超と推測。だが、国際協力団体によると、国際社会が表明・拠出した支援額(発生から10日後)は、05年のパキスタン大地震=2.9億ドル、今年のハイチ大地震=16.6億ドルに大きく及ばず、反応の鈍さが目立つ。
米国は今回、支援金の支出だけでなく、被災者4000人を救助し、食糧や毛布などの救援物資約180トン分を届けた。19機の米軍のヘリコプターが機動力を発揮している。
AP通信によると、米軍の活動中心地の一つは、武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の勢力圏である北西部。パキスタン軍が昨年、掃討作戦を実施したばかりの地域だ。米国は、洪水被害に伴うパキスタン経済と国軍の疲弊が、治安悪化につながりかねないとの懸念を抱いている。ゲーツ国防長官は12日、「オバマ大統領からは、最大限の支援をするように頼まれている」と語った。【8月15日 毎日】
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【まく立ち回る国軍】
もうひとつ、うまく立ち回っているのがパキスタン国軍のようです。
****今のキヤニに怖いものは何もないだろう。パキスタン洪水救援で勢いづく軍部****
政府の被災者対策が遅れるなか、陸軍参謀長が強力なリーダーシップで支持を急拡大している
63年前にイギリスから独立して以来、パキスタン軍は約半分の期間この国を支配してきた。7月末に約600万人が被災する大洪水が発生してから、その軍部がまた権力を握ったのかと国民が錯覚するような事態が続いている。
連日テレビのニュース番組が流すのは、アシュファク・キヤニ陸軍参謀長が洪水被災者の元を訪れ、孤立した山間部の村々に軍のヘリコプターで食料や水を落とし、救援活動を行う場面だ。
その一方で、文民政府の高官の姿はほとんど目にしない。国土の5分の1が浸水した被災地をザルダリ大統領が訪れたのは、発生から2週間以上たってからだった。
洪水発生直後、ザルダリは側近の助言を無視して予定どおりフランスとイギリスへの外遊に出発。訪問先にはフランス・ノルマンディー地方のシャトーも含まれていた。その行動は国民に無関心と冷淡さの表れと受け止められ、「(被災者のため)他国の支援を集めようとした」という見え透いた言い訳を信じる者はいない。
文民政府よりずっと手際がよかったのがイスラム過激派組織だ。その救援チームは05年にカシミール地方で起きた大地震のときと同じように、今回も迅速な救援活動を行った。
だが今回政治的に最もうまく立ち回ったのは何といってもパキスタン軍だろう。キヤニが参謀長に就任した3年前、パキスタン軍は陸軍参謀長を兼任していたムシャラフ前大統領による長期支配によって大いに信頼を損ね、針のむしろ状態だった。
国民議会の野党議員アヤズ・アミルによれば、キヤニのリーダーシップで軍への支持が大幅に改善しており、キヤニが「間もなく他を圧倒し、政府をも手中に収めるのは形式的な手続きを待つばかり」な状態だという。
47年以来4回起きた軍事クーデターが新たに勃発する可能性は恐らくない。だが災害救援と復興支援によって軍の役割はさらに拡大しそうだ。その結果、キヤニは国内で最も信頼の置ける指導者として国民に強い印象を与えることになる。ザルダリ「死に体」政権の決定にキヤニの承認が必要になる可能性もある。
今のキヤニに怖いものは何もないだろう。【8月18日 Newsweek】
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どのニュースもザルダリ大統領の対応がお粗末だったという点では共通しています。
【宿敵インドも、日本も】
パキスタンの「宿敵」インドも義捐金を提供していますが、パキスタン政府の受入決定に1週間かかったとか。
*****パキスタン:インドの義援金 受け入れへ*****
パキスタンのクレシ外相は20日、同国の洪水被害に対しインドが表明した義援金500万ドル(約4億2600万円)について、パキスタン政府が受け取ることを決めたことを明らかにした。AP通信などが伝えた。
インド側は義援金の提供を13日に伝えており、パキスタン政府は受諾を決めるまで約1週間かけた。被災者が1500万人を超えた洪水被害のさなかにもかかわらず、カシミール地方の領有権争いなどを抱える両国関係の複雑さを示した。
ニューヨークを訪問中のクレシ外相は、インドのテレビに対し「パキスタンは非常にありがたく思っている」と語った。
インドのシン首相は、19日にパキスタンのギラニ首相へ電話し、洪水被害の救助活動を支援する用意があることも伝えている。【8月21日 毎日】
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安全面での懸念の割に自衛隊の存在感を示す効果が薄いことからスーダン住民投票支援を断った日本・防衛省ですが、パキスタンには自衛隊ヘリを派遣しています。場所は比較的安定している中部のようです。
*****自衛隊ヘリ部隊に派遣命令…パキスタン洪水*****
北沢防衛相は20日、深刻な洪水被害に見舞われたパキスタンを支援するため、国際緊急援助隊派遣法に基づき、自衛隊のヘリコプター部隊に派遣命令を出した。
ヘリの輸送や後方支援にあたる部隊も含め、計500人規模となる。第1陣約50人が21日午前、福岡空港から民間機で出国し、現地で受け入れ準備に当たる。
現地の活動には、陸上自衛隊の多用途ヘリUH1と大型輸送ヘリCH47を3機ずつ使う。
活動は、パキスタン中部パンジャブ州ムルタンのパキスタン軍航空基地を拠点に、半径約200キロ・メートルの範囲で、救援物資の輸送や負傷者の搬送などを行う予定。派遣期間は約1か月を想定している。防衛省はムルタンの治安状況について「比較的安定している。現時点で、差し迫った脅威の情報はない」としている。【8月20日 読売】
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各国・各勢力、それぞれの思惑ですが、最終的に被災住民の救済・支援につながれば結構な話です。