孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米露の思惑一致で、イランの原子力発電所への核燃料搬入開始

2010-08-22 21:20:08 | 国際情勢

(07年の建設段階のブシェール原発 “flickr”より By kana_ratnam
http://www.flickr.com/photos/kana_ratnam/1763480430/)

【アメリカ、ロシアと取引】
ロシアによって建設が進められてきたイランのブシェール原子力発電所への核燃料搬入が始まり、イラン初の原発稼働がまもなく始まるようです。

ブシェール原子力発電所は、1974年、パーレビ国王体制下でイラン初の原子力発電所としてドイツ企業が建設を開始しましたが、79年のイラン革命を受け、開発が中断。
その後、95年にイランとロシアの間で建設協力の合意がなされて建設が再開されましたが、強く反対するアメリカと建設を急ぎたいイランを天秤にかけるロシアは何かと理由をつけて先延ばしにする形で、当初の2000年代前半の完成が見込みが大幅に遅れていました。

国際関係の波に翻弄されてきた同原発ですが、ここにきての稼動へのゴーサインは、対イラン制裁へのロシアの協力を取り付けたいアメリカとイランとの関係を修復したいロシアの間で思惑が一致したことがあるようです。

*****イラン:米露思惑一致で前進 初の原発稼働******
イラン南部のブシェール原発への核燃料搬入が始まり、イラン初の原発稼働が目前に迫った。建設に協力するロシアの意向と、対露関係を重視した米国の姿勢転換があり、大国による思惑の一致が原発計画のゴーサインにつながった。一方で、同原発はイランへの対抗を強めるイスラエルを刺激するなど、今後の火種になる可能性もある。

「西側諸国による圧力、制裁にもかかわらず、我々は象徴的な核の平和利用のスタートを見届けることができる」。イランのサレヒ原子力庁長官は21日、核燃料搬入にあたり、国際社会に翻弄(ほんろう)され続けた同原発の経緯に触れた。(中略)
同原発稼働に難色を示してきた米国だが、今年6月、対イラン制裁決議を急ぐため、ロシアに決議への協力を要請。ロシアが協力に応じれば同原発支援を容認するとして取引した可能性がある。

またロシアは米国の意向を受けてイランへの対空ミサイルシステム「S300」の納入も現在延期しており、イラン側が不満を強めている。原発稼働で、制裁決議賛成で生じたイランとの亀裂の修復につなげる狙いは明らかで、大国の思惑の一致が原発稼働につながったといえる。

一方、ブシェール原発をめぐっては、イランの核開発計画に強く反発するイスラエルの動向も注目された。イスラエルはイラクのオシラク原子炉を稼働直前の81年6月に爆撃。ブシェール原発の稼働前にも施設攻撃があるのではとの観測も流れた。原発稼働によって核兵器関連の技術の蓄積が進むとの見方もあり、イスラエルが今後も神経をとがらせる恐れもある。【8月21日 毎日】
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【ロシアの思惑】
従来から関係の深かったイランとの関係を、アメリカに対し“イランカード”として使ってきたロシア側の思惑については、次のとおりです。
****イラン・ブシェール原発稼働へ 露したたか 利権と影響力両立*****
・・・・ロシアの狙いは、イランとの関係を修復してこの国への影響力を強め、同時にロシアが国策として進める原発ビジネスで利権を確保することにある。対イラン追加制裁で圧力を強める米欧が反発しないことも織り込み済みだ。

露外交筋は「イラン問題を含め、核不拡散に関する米露の基本的立場は一致している」と強調する。ただ、米欧が「圧力」路線に傾くのに対し、ロシアはイランへの関与と影響力を強めることで「聞く耳を持たせる」(専門家)アプローチを重視する。
ロシアは6月、国連安全保障理事会による4度目のイラン制裁決議に賛成してイランとの関係を悪化させた。さまざまな口実で延期してきたブシェール原発の稼働に踏み切るのも、イランに“あめ”を与えて対イラン政策を立て直すためだ。

ロシアは2007年末、国策原子力統合企業「ロスアトム」を設立し、新興国を中心に原発の受注攻勢をかける。「原発への核燃料供給を保証し、使用済み核燃料は引き取る」というのがロシアの売り込み方だ。
この“核燃料リース方式”をイランにも適用することで、ロシアは米欧が抱く軍事転用懸念を封じながら原発利権を拡大できる。「ブシェール原発は国際原子力機関(IAEA)の監督下にあり、問題が生じてもロシアの責任ではない。いざとなれば核燃料供給をやめればよい」(専門家)との見立てもある。

もっとも、イランがロシアの思惑通り、核兵器開発放棄に向かうかは全く不明だ。テヘランからの報道によると、イラン原子力庁次官は14日、ブシェール原発の稼働にもかかわらず、自前のウラン濃縮活動は継続する考えを示した。ブシェール原発で発電が始まる来年初頭までには、なお曲折も予想される。【8月15日 産経】
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【懸念されるイスラエルの動向】
アメリカ、ロシアと並んでイランの原発に並々なぬ関心を持っている国がもうひとつ、イスラエルです。
イランの核開発を阻止したいイスラエルは、ブシェール原発についても、これを爆撃するのでは・・・との懸念が持たれています。

こうしたイスラエルの核施設攻撃にイランも警戒感を強めています。
*****原発攻撃は「国際犯罪」=イスラエル・米をけん制―イラン高官*****
イランのサレヒ原子力庁長官は17日、国営通信に対し、21日に稼働するイラン初のブシェール原子力発電所に対する攻撃は「国際的な犯罪だ」と述べ、対イラン攻撃も辞さない構えのイスラエルなどをけん制した。
サレヒ長官は「攻撃の結果は世界的な影響をもたらすため国際的な犯罪だ」と語った。米国連大使を務めたボルトン氏は先に、原発の稼働開始後の攻撃は放射能をまき散らす恐れがあり、イスラエルに残された攻撃可能な日数はわずかだと述べていた。 
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“残された攻撃可能な日数はわずか”というのも物騒な話ですが、イラク・アフガニスタンで手一杯のアメリカはイラン攻撃にはやるイスラエルをなだめたいところです。
****米国:「イラン核開発に1年以上」イスラエルに伝達*****
オバマ米政権がイスラエル政府に対し、イランが核兵器を開発するのに1年以上かかるとの見方を、証拠を添えて伝達していたことが分かった。20日付の米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。米側には、イスラエルによるイラン先制攻撃を抑止する思惑があるとみられる。
ホワイトハウスで大量破壊兵器・安全保障・軍備管理担当の調整官を務めるゲーリー・セイモア氏は「核兵器開発にだいたい1年以上かかるとみている。1年というのは長い」と同紙に証言した。
同紙はウラン濃縮作業で問題が生じて作業が遅れているとしたが、詳細は不明とした。イスラエル側は分析に同調しつつ、未発見のウラン濃縮施設が存在する疑念を指摘した。
匿名の米政府当局者は、イランが武器転用可能なウラン濃縮に成功しても国際機関が「数週間以内」に発見し、イランに対して軍事力を行使すべきかどうか判断する時間があると述べた。
報道によると、米政府は、イラン政府内部でただちに核弾頭をつくるべきかどうか、意見対立があるとみている。こうした分析は策定中のイラン核兵器開発に関する国家情報評価(NIE)に盛り込まれる。【8月21日 毎日】
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イランはウラン濃縮を続ける意向を明らかにしています。
****イラン、新たなウラン濃縮施設の11年建設を表明*****
イランが、新たなウラン濃縮施設の建設を来年初頭に開始することを明らかにした。イラン国営テレビのウェブサイトが15日夜、アリ・アクバル・サレヒ原子力庁長官の発言として伝えた。
新たに建設予定のウラン濃縮施設10か所の候補地の選定が完了し、「施設のうちの1か所」の建設を2011年初頭にも開始するという。イランはすでに中部ナタンツの主要核施設でウラン濃縮を行っているほか、テヘラン南西部のフォルドの山間部に2つ目の濃縮施設を建造中。イランの核開発をめぐっては国連が6月9日、4回目となる追加制裁決議を採択したほか、米欧などが独自の追加制裁を発表したばかり。
サレヒ長官は、3つ目となる新たなウラン施設の建設予定地は明らかにしなかったが、空爆の標的にできない場所だと先に述べている。【8月16日 AFP】
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イランのアフマディネジャド大統領もアメリカとの破局は避けたい模様ですが、国内保守派の強硬論もあって、なかなか妥協が難しい情勢です。
イスラエルはシリアの核施設も攻撃した「実績」がありますが、イランの場合はシリアのように穏便にはすまないのではないでしょうか。イランはもし攻撃を受ければ、国家の面子をかけて反撃を行うのでは・・・。そうなれば中東情勢は一気に混乱し、日本にも「油断」の悪夢が再び襲います。

関係国が振り上げたこぶしをなかなかおろせず、チキンレースを続ける先にそうした破局が訪れることのないように、冷静な判断を望みたいものです。

コメント
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