(昨年12月24日 カラチ イスラム教冒涜罪変更に反対する集会 “flickr”より By IPS Inter Press Service
http://www.flickr.com/photos/ipsnews/5323160653/ )
【「預言者を冒涜する者は死に値する」】
武装勢力とつながりがあるイスラム過激派や宗教右派を公然と批判する人物だったパキスタン中部パンジャブ州のサルマン・タシール知事が、イスラム教に対する冒涜法に批判的態度を理由に警護官に射殺された事件については、1月14日ブログ「パキスタン アメリカとの“危うい同盟”ますます脆弱化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110114)で取り上げましたが、そのパキスタンで再びイスラム過激派による同様の政治テロが起きています。
****パキスタン少数者問題担当相暗殺 イスラム教冒涜罪批判****
パキスタンの首都イスラマバードで2日、シャフバズ・バッティ少数者問題担当相(42)が銃で武装した男らに撃たれて死亡した。バッティ氏は同国少数派のキリスト教徒。イスラム教に基づく同国の冒涜(ぼうとく)罪に批判的な発言をしたため、イスラム勢力から脅迫を受けていた。
パキスタンでは、イスラム教の聖典コーランや預言者ムハンマドを侮辱した者に最高で死刑が科される。この法規定の改正を主張していたパンジャブ州のタシール知事(当時)が1月、警護役の警官に暗殺されている。国内ではこの警官を英雄視する動きが広がっている。
警察当局によると、バッティ氏はイスラマバード市内の母親宅から車で出勤しようとした際、3、4人の男から銃撃を受けた。男らは車で逃走したが、地元メディアによると、現場に「預言者を冒涜する者は死に値する」と書かれた紙を残した。紙には「アルカイダ・パンジャブ・タリバーン運動」との組織名が記されていたという。
バッティ氏は昨年11月に同罪でキリスト教徒女性が死刑判決を受けた後、「彼女は誤って起訴された」と発言していた。タシール知事が暗殺された直後には英BBCに対し、「私も冒涜罪への批判を続ければ殺すと脅されているが、暴力には屈しない」と語っていた。【3月2日 朝日】
*******************************
暗澹たる気分にさせる事件ですが、イスラム過激派との戦いを進めるアメリカが最重要同盟国と頼むパキスタンの内情はいよいよ混沌としたものになりつつあります。
【“外交官”はCIA契約職員】
そのアメリカとパキスタンの関係は、2月14日ブログ「パキスタン 「米外交官」による射殺事件で高まる対米批判 不安定社会で進む核開発」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110214)で取り上げた“米外交官が2人組の強盗を撃退しようとして射殺した事件”で、釈放を求めるアメリカ側と反米世論が高まるパキスタン側の対立が深まっています。
****パキスタンで2人射殺の米国人 CIA関係者と確認****
パキスタン東部ラホールで先月27日、パキスタン人2人を射殺し、逮捕された米国人レイモンド・デービス容疑者(36)が米中央情報局(CIA)の契約職員だったことが、米政府当局者によって確認された。米国メディアが一斉に報じた。
容疑者とCIAの関係が裏付けられたことで、米国側の求める容疑者釈放に、パキスタン世論がさらに態度を硬化させるのは必至。事件をめぐり、両国関係は一層厳しい状況に追い込まれそうだ。
米国メディアによると、元米陸軍特殊部隊員のデービス容疑者は、CIAの契約職員として大使館員や同国を訪問する米要人などの警護を担当していたという。また、武装勢力の偵察にあたっていたとの報道もある。
米国側は、容疑者は外交官で、ウィーン条約に基づく外交官の不逮捕特権が適用されるとの立場を崩していない。
一方、容疑者釈放のため、パキスタン政府が遺族に容疑者への訴え取り下げを求める動きも出ているようだ。これに対し、釈放反対を主張する宗教団体や政党が遺族に訴えを取り下げないよう圧力をかけていると同国のメディアは報じている。【2月23日 産経】
********************************
【対テロ戦での共闘に亀裂】
この事件を巡る対立は、アメリカとパキスタン双方の情報機関の間の確執を深め、対テロ戦の共闘を危うくしているとも指摘されています。
****情報機関の関係険悪化=CIA要員拘束、対テロ戦に影響も―米・パキスタン****
パキスタンで1月に射殺事件を起こして拘束された米国人の身元が中央情報局(CIA)契約要員と判明したことで、両国の情報機関の関係がかつてなく険悪化している。
パキスタンの3軍統合情報局(ISI)は、CIAが政府に圧力をかけて被告の釈放を求めているとして「横柄」だと批判、協力停止も辞さない構えを見せ、北西部などで続く対テロ戦での共闘に亀裂が生じかねない状況になってきた。
報道によれば、ISIは最近、CIAとの関係が「射殺事件前のレベルまで回復するか予測は困難だ」とする異例の声明を発表、関係修復はCIAの対応次第だとけん制した。
ISIは、CIAの隠れ情報員が国内で多数暗躍していることに不満を抱いているとされる。昨年12月には、CIAパキスタン支局長が身元を暴露されて出国を余儀なくされたが、米国に反発したISIの仕業との見方がささやかれている。【3月1日 時事】
********************************
ISIとアフガニスタンのタリバンなどイスラム過激派とのつながりは公然の秘密であり、ISIが“対テロ戦での共闘”をどこまで本気で考えているのかは怪しいところですが、今回事件でますます“共闘”は困難になっています。
パキスタン側の反米感情を刺激しないように、アメリカはパキスタン北西部で行われてきた無人機攻撃をこのところ停止しているとの報道もあります。
****アメリカが無人機攻撃を停止した理由*****
イスラム過激派が潜伏しているとされるパキスタン北西部で行われてきた米軍無人航空機の攻撃が停止している。
同地域に潜む武装勢カタリバンの戦闘員と地元住民は当初、悪天候が理由だと考えていた。「数週間前から無人機が飛ぶ音を間いていない。ここ数カ月、こんなことはなかった」と、ある医師は言う。「最初は曇天のせいだと思っていた」
だが今ではタリバンも住民も、約1ヵ月にわたる攻撃中断の理由は、アメリカ人の元特殊部隊員レイモンド・デービスをめぐるパキスタンとアメリカの外交的対立だと考えている。
デービスはラホールで1月末、強盗とみられるパキスタン人2人をピストルで射殺したという容疑でパキスタン警察に逮捕された。米当局によると、デービスは米大使館の職員だという。
無人機による攻撃は、過去にも悪天候のために中断されることはあったが、今回は事情が異なるようだ。パキスタンのある高官のみるところ、アメリカはデービスによるパキスタン人射殺でパキスタン人の反米感情がさらに悪化することを懸念している。デービスの件が攻撃中断に関係しているのは明らかだ。
アメリカ側は、射殺は正当防衛で、デービスには外交特権があると主張。直ちに披を釈放してアメリカ側に引き渡すよう圧力をかけている。
だがパキスタン警察は殺人罪での起訴を視野に入れている。ラホールの裁判所は先週、パキスタンのザルダリ政権に対して、拘束中のデービスに外交特権を認めるかどうかを3週間以内に決めるよう命じた。
このケースは弱体化の目立つザルダリ政権にとって政治的に難しい問題だ。パキスタン国民の多くはデービスの「衝動的な殺人」に激怒。無人機による攻撃と同じように、パキスタンの法律や主権を踏みにじるアメリカの傲慢さの象徴だとみている。
デービスの件に決着がつかないうちにアメリカが無人機による攻撃を再開すれば、反米デモを引き起こしかねないと、パキスタンとアメリカの当局者は恐れている。
「99%の国民はデービスを殺人犯だと考えている」とパキスタンのある情報当局者は言う。「だから、ただでさえ深刻な対米感情を悪化させないよう、無人機による攻撃は中断したほうがいいとアメリカに伝えた」
デービス問題が解決するまで、タリバンやイスラム過激派は無人機攻撃を受けずに済みそうだ。【3月2日号 Newsweek】
****************************
パキスタン国内でのイスラム過激派によるテロの横行、アメリカの“傲慢さ”に対する反米感情の高まり・・・両国の“共闘”“危うい同盟”はいよいよ難しい局面を迎えています。