
(3月20日 多国籍軍の空爆で爆発炎上する政府軍戦車 ベンガジとアジュダビヤの間で “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5547037917/ )
【飛行禁止空域設定に「人間の盾」で対抗】
国連安保理決議に基づく多国籍軍によるリビア爆撃について、武力行使への参加を国連事務総長室に届け出た加盟国は、英仏米、カナダ、イタリア、デンマーク、カタールの7カ国となっています。
英仏による空爆、米の巡航ミサイル「トマホーク」による攻撃によって、反政府派拠点都市ベンガジを防衛し、ベンガジ上空に飛行禁止区域を設定するに至っています。
****ベンガジ上空に飛行禁止空域、多国籍軍設定****
米アフリカ軍のカーター・ハム司令官は21日記者会見し、米英仏軍を主体とする多国籍軍による対リビア軍事作戦で同日、反体制派の拠点である東部ベンガジ上空に飛行禁止空域が設定されたと発表、近日中には首都トリポリ上空まで拡大させるとの見通しを明らかにした。(中略)
ベンガジ上空では英仏とスペイン、イタリア、デンマークに加え、21日からカナダとベルギーの航空機が警戒飛行を実施。仏伊両国は空母各1隻をリビア沖に展開させた。多国籍軍は今後、リビア最高指導者カダフィ氏派の移動式対空火器に対する攻撃を続けつつ、中部のブレガ、ミスラタからトリポリへ飛行禁止空域を順次拡大させる方針。【3月22日 読売】
****************************
一方、カダフィ政権側は、多国籍軍の空爆や反体制派の攻撃を避けるため、民間人を「人間の盾」にする戦術をとっているようで、地上軍を伴わない多国籍軍の作戦を困難にしています。
****リビア:市民を「人間の盾」に 政府軍が強要****
リビアの最高指導者カダフィ大佐率いる政府軍が、多国籍軍の空爆や反体制派の攻撃を避けるため、民間人を「人間の盾」にするなど巧妙な戦術をとり始めた模様だ。空爆のためリビア上空に向かった英機は20日、攻撃目標の周辺に市民を確認したため引き返しており、カダフィ政権のなりふり構わぬ生き残り作戦が多国籍軍の攻撃もかく乱しつつある。
「人間の盾」作戦が行われているとの見方は、ロイター通信が21日、北西部ミスラタの反体制派報道官や地元住民の話として伝えた。同日には市中心部で政府軍が非武装の住民を攻撃。少なくとも9人が死亡し、50人以上が負傷したという。
反体制派報道官が電話でロイターに伝えたところによると、政府軍は近隣の街の住民にカダフィ氏のポスターや国旗を持つよう強要し、ミスラタまで運んで反体制派の攻撃に対する「人間の盾」にしたという。報道官は「政府軍は我々が女性や子ども、老人を撃てないことを知っている」と非難した。(中略)
政府軍は強力な地上部隊を有しながら、多国籍軍の空爆にさらされ、従来型の軍事作戦をとれない状態に追い込まれている。このため、空爆を避けるために民間人の多い都市部へ入り込み、「人間の盾」を使うなどして反体制派を排除する戦術に転じた模様だ。(後略)【3月22日 毎日】
*****************************
【国際社会の『市民を保護する責任』】
こうした多国籍軍の軍事介入について、国連の潘基文事務総長は20日、「国際社会が『市民を保護する責任』を実践している」と位置づけ、不当な内政干渉にはあたらないとしています。
****国連総長、リビア空爆を擁護 「内政干渉にあたらず」*****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は20日、朝日新聞の単独インタビューに応じ、リビアのカダフィ政権は「軍隊を使って自国民を多数殺害し、統治の正統性を失っている」と指摘した。米英仏などによるリビアへの軍事介入は「国際社会が『市民を保護する責任』を実践している」と位置づけ、不当な内政干渉にはあたらないとした。
中東歴訪に向かう途中のパリで語った。ただし潘氏は、軍事行動の目的はカダフィ政権の打倒ではなく、あくまで「一般市民の保護」にとどまるとした。
「保護する責任」は、ルワンダの虐殺などを教訓に、危険にさらされた人間を国家だけでなく国際社会も守る責任がある、という考え方。2005年の国連総会の特別首脳会議が採択した「成果文書」に理念として盛られ、必要な場合は安保理を通じ共同行動をとる、とうたっていた。
潘氏は自らが07年の就任以来、「この理念への安保理理事国の認知を高め、実践可能なよう発展させてきた」と主張。「リビアのように主権国家でも、自国民を虐殺する場合はこの理念が優先される。リビアは初めての実践例で非常に意義がある」と説いた。
しかし、安保理決議がめざす目的は「カダフィ政権に市民を殺害するのをやめさせること」だとして「リビアがどんな政治システムを望むかは、リビア国民が決めることだ」とだけ述べた。軍事行動については、安保理決議が定める範囲で、「参加国が決めること」と一線を画した。
リビア政府との間では、首相が18日に電話で「国際社会による軍事力行使を止めるため、仲裁してほしい。安保理決議に従い、即時停戦する」と要請してきた、とした。
潘氏は「あなた方はまだベンガジで市民への攻撃を続けているではないか」と指摘したが、「そんな事実はない」と否定されたという。リビア政府はなお国連による仲介を求めているが、潘氏は、即時停戦の意思が実際にあるかどうか、慎重に見極めなければならないとの考えを示した。【3月21日 朝日】
*******************************
【アラブ連盟のムーサ事務局長、空爆を批判】
国際社会による「保護する責任」の実行としてのリビア軍事介入ですが、アラブ諸国から反発を防ぐため、事前にアラブ連盟の支持を取り付けたうえで決行されました。
しかし、アラブ連盟のムーサ事務局長は20日、米英仏軍などが19日に開始したリビア政府軍への攻撃について、「現在起きていることは、飛行禁止区域の設定という目的とかけ離れている」と非難しており、足並みの乱れが露呈しています。
リビア反体制派のスポークスマンは「事務局長の発言は驚きだ」とし、空爆に反対するムーサ事務局長の姿勢を批判しています。【3月21日 ロイターより】
エジプトの大統領選挙出馬を目指しているムーサ事務局長の発言には、エジプト国内事情が反映されているとも指摘されていますが、基本的にはアラブと欧米の微妙な関係が背景にあります。
****アラブ、空爆に温度差 民主化刺激懸念/「反米欧」を考慮****
米英仏などの多国籍軍によるリビアへの軍事介入が開始したことで、飛行禁止区域設定を支持する立場を示したアラブ連盟(本部・カイロ)の加盟国間で、空爆の是非をめぐり温度差が生じている。そこには、チュニジア政変を発端とした中東各国に広がる民主化運動の流れを大きく刺激したくないという政府側の思惑が見え隠れし、それぞれの国内事情と打算が交錯している。
多国籍軍の攻撃に対してアラブ連盟事務局長でエジプト出身のアムル・ムーサ氏は「われわれが求めているのは飛行禁止区域だ。空爆ではない」と不快感を示した。しかし、ムーサ氏はアラブ諸国のとりまとめ役として、空爆直前の19日にパリで開かれた緊急首脳会議に出席。飛行禁止区域設定には防空施設破壊などの攻撃が不可欠であることは、承知していたはずだ。
こうした態度の背景には、ムーサ氏が次期大統領選出馬を目指すエジプト国内の事情がある。
リビアには、騒乱発生後も数十万人の出稼ぎエジプト人が残留しているとみられ、最高指導者カダフィ大佐側の攻撃から自国民を保護するには飛行禁止区域設定が必要というのがエジプトの立場だ。ただし、多国籍軍の空爆でエジプト人を含む民間人に死者が出れば、軍事介入に“ゴーサイン”を与えたと批判を受ける恐れもある。
アラブの盟主を自認するエジプトは、カダフィ氏が政権を維持した場合も想定してリビアとの関係悪化を最低限に食い止めようとしているほか、アラブ社会に根強い反米欧感情を考慮しているとみることもできる。シリアやアルジェリアなど、飛行禁止区域設定自体を反対した他のアラブ諸国への配慮もうかがえる。
一方、当初から多国籍軍への参加を表明したカタールに続き、21日にはアラブ首長国連邦(UAE)の参加も明らかになった。政治的には保守的なこれらの湾岸諸国では国民の間に民主化を求める声が強まっている。両国政府には、反体制派に同情的だとのスタンスを国内的に示したいとの思惑もありそうだ。【3月22日 産経】
*******************************
なお、カイロを訪問中の潘基文国連事務総長が21日、国連安保理決議に基づくリビアへの軍事介入に抗議するデモ隊に取り囲まれ避難する一幕があったことも報じられています。
デモ隊はリビアのカダフィ大佐の支持者らで、介入に参加した米国を非難するスローガンを叫ぶなどしたとも。【3月22日 毎日より】
【一枚岩ではない参加国】
また、多国籍軍内部、欧米社会の反応も必ずしも一枚岩とはなっていません。
カダフィ政権の打倒の本音が窺える当初からリビア介入に積極的だった英仏に対し、イラク・アフガニスタンを抱えるアメリカは突出することを避けています。
****多国籍軍、カダフィ氏施設破壊 米、英仏に指揮権移譲へ****
リビアでの飛行禁止空域設定を目的とした軍事行動を始めた米英仏中心の多国籍軍は、21日までに巡航ミサイルや爆撃機による攻撃でカダフィ大佐の防空設備や関連施設に大きな打撃を与えた。米軍は「飛行禁止空域が整いつつある」とし、リビア上空で偵察飛行を開始。作戦指揮権を数日中に英仏両国軍などに譲る方針を示した。
(中略)
今回の軍事介入の目的は「一般市民の保護」だが、戦況の泥沼化を懸念する米国をよそに、英仏政府高官からは「カダフィ政権の打倒」の本音が漏れる。20日には、トリポリにあるカダフィ大佐の関連施設にも巡航ミサイルを撃ち込み、破壊した。多国籍軍側は英BBCに「カダフィ大佐の指揮・命令系統を破壊した」と説明している。
(中略)
一方、米国は、カダフィ政権の打倒という本音が透ける英仏を横目に、軍事行動を飛行禁止空域の実施に限定する方針を強調している。ゲーツ国防長官は20日、「我々は国連安保理決議の範囲内で行動することが大切だ。達成できるかどうか分からない目標を設定することは、賢明ではない」と述べた。
アフガニスタンとイラクという「二つの戦争」に15万人にのぼる米兵を投入するゲーツ長官は、リビアでの軍事介入が泥沼化することに強い警戒感を示してきた。地上軍は投入せず、数日中に指揮権を英仏や北大西洋条約機構(NATO)に譲り、舞台裏に回る意向を明らかにした。(後略)【3月22日 朝日】
*******************************
オバマ米大統領は、「数週間内ではなく、数日内に指揮権を移譲する」との見通しを示していますが、権限移譲先に関しては「北大西洋条約機構(NATO)が調整機能を担う」と述べるにとどめています。
今後どのような形でどこが指揮権を担うのか、関係国でも意見の相違があるようです。
****NATO主導を主張=リビア攻撃で仏と食い違い―伊****
伊ANSA通信によると、ベルルスコーニ首相は21日、米英仏軍を軸とした多国籍軍による対リビア軍事作戦について「北大西洋条約機構(NATO)に指揮権を移すべきだ」と主張した。多国籍軍の枠組みを主導するフランスとの立場の違いが鮮明になった形で、NATO内部で対立の火種となる恐れもある。
首相は、作戦に参加する伊軍機がリビア上空に設けられた飛行禁止空域のパトロールに徹し、攻撃は行わないと強調。「飛行禁止、一般市民の保護、商業取引禁止を盛り込んだ国連安保理決議の範囲内で、作戦目標を明確にしなければならない」と訴えた。【3月22日 時事】
**************************
【NATO内部にも意見の相違】
一方、NATO内部では、仏英米が主導する軍事介入にドイツやトルコが反対するなど足並みがそろっていません。
****NATO足並み乱れ リビア介入、独・トルコ反対*****
北大西洋条約機構(NATO)は20、21の両日、ブリュッセルの本部で大使級会合を開催、多国籍軍による攻撃が始まったリビアへの対応を協議した。同国の最高指導者カダフィ大佐側への武器禁輸を実行することでは合意したが、仏英米が主導する軍事介入にドイツやトルコが反対するなど足並みがそろっておらず、軍事作戦にはNATOとして参加しない見通しが強まっている。
多国籍軍にはNATO加盟国から10カ国が参加。空爆に参加した仏英米とデンマーク、カナダ、イタリアのほか、上空に設定された飛行禁止区域の監視にベルギー、ギリシャ、ノルウェー、スペインが加わる。
大使級会合では、英米、カナダが飛行禁止区域にかかわる軍事行動をNATO任務とするよう求めた。しかし、トルコのエルドアン首相が軍事行動の停止を要求。リビアへの武力行使を認めた国連安全保障理事会決議を棄権したドイツも軍事介入に改めて反対、ポーランドも慎重論を述べた。
NATOは現在、空と海からリビアへの警戒活動を続けているが、意思決定は全会一致が原則のため、飛行禁止区域に絡む軍事作戦には関与しない見通しだ。
一方、多国籍軍は、今のところ統合司令官が決まっておらず、指揮系統もはっきりしていない。ゲーツ米国防長官は20日、英仏か、NATOが多国籍軍を指揮する考えを示したが、加盟国間で分裂するNATOが軍を指揮するのは困難だ。【3月22日 産経】
**************************
なお、世論調査結果によると、リビア軍事介入に賛成する意見はアメリカでは54%、イギリスでは35%という数字が報じられています。
ロシア・プーチン首相の“十字軍”発言をメドベージェフ大統領が批判したというニュースも興味深いものがありますが、長くなったのでまた別の機会に。