(3月25日、シリアの首都ダマスカスの反政府デモ。 この日、「尊厳の金曜日」と銘打った全国的な反政府デモが呼びかけられ、南部のダラアでは数万人がデモに参加、治安部隊の発砲により多くの死傷者が出ました。 “flickr”より http://www.flickr.com/photos/ahmadzog/5558765130/ )
【アサド父子の強権支配に拡大する抗議行動】
“わが国ではチュニジアやエジプトのような騒乱は起きない・・・シリアのアサド大統領は今年1月、欧米系メディアにそう豪語した。「国民の感情と尊厳」を重視した改革が進み、既に「国民が国の決定に参加」しているからだとか。”【4月6日号 Newsweek】
もちろん、シリアで騒乱が起きないとしたら、アサド大統領の言う“改革の進展”や“国民の政治参加”ではなく、軍や秘密警察を使った強権支配の結果に過ぎませんが、確かに中東・北アフリカ民主化ドミノの初期段階においては、シリアは“無風区”の感もありました。
政権側も余裕からか、他国の騒乱をよそに、民主化運動の起爆剤となるファイスブックをも解禁しました。
****シリア、フェイスブック解禁 デモ不発、統制に自信?*****
シリアからの報道によると、シリア当局がこれまで遮断してきたフェイスブックに、今週に入って同国でも接続が可能になった。フェイスブックを通じて呼びかけられたデモが不発に終わり、チュニジアやエジプトとは違って体制維持に自信を持っているのでは、との見方が流れている。
フェイスブックでは4日を「シリア怒りの日」と名付け、チュニジアやエジプトに続く市民デモを起こそうとの呼びかけが出回り、国内外で1万2千人以上が支持を表明。一方、デモに反対するグループも立ち上げられ、1万人以上が支持を示したという。シリアではこれまで、若者らの一部が遮断を回避する特殊なソフトを使い、フェイスブックなどに接続していた。
治安部隊や秘密警察が当日、シリア各地で警戒にあたったもののデモは起こらず、ネットでデモを呼びかけたとして75歳のイスラム主義者の男性が北部アレッポで逮捕されただけで終わった。
シリアではアサド大統領父子が約40年にわたり支配を続ける。若者の失業や貧富の差、言論の自由の欠如など、デモが起きた他のアラブ諸国と同じ条件がそろっているが、軍や秘密警察はアサド親子と同じイスラム教少数派のアラウィ派が主流を占め、体制に対して強く忠誠を誓っており、統制の度合いは強い。【2月10日 朝日】
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しかし、3月15日に首都ダマスカスで政治改革を求める数十人規模の民主化要求デモが起きたのを皮切りに、イスラム教金曜礼拝のあった18日には、デモ隊に治安部隊が発砲して4人が死亡、19、20日の両日もデモが続き、1万人が参加したとされる20日のデモの際にも1人が死亡、100人以上が負傷したと報じられています。
20日のデモでは、与党バース党の本部や裁判所、アサド大統領の親族が保有する電話会社の支店がデモ参加者らに放火されています。
南部ダラアを中心にその後もデモは拡大、当局はこれを厳しく弾圧する展開になっています。
****デモ弾圧で100人超死亡か=独裁体制への抗議、全土に拡大も―シリア******
シリアの南部のダラアで反体制デモが拡大し、AFP通信は人権活動家の話として24日までに100人以上が死亡したと伝えた。アラブ圏に広がる民主化要求デモを警戒するシリア当局は、ネット活動家らの摘発やデモ弾圧を強化している。
ダラアではアサド大統領の独裁体制に抗議するデモが1週間近く続き、23日に市中心部のモスク(イスラム礼拝所)に籠城するデモ隊に治安部隊が発砲。射殺された犠牲者の24日の葬儀に約2万人が参加した。(後略)【3月24日 時事】
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バーレーン同様にシリアも宗派問題があります。
“当局の強硬姿勢は、脆弱な権力基盤にしがみつくアサド家の危機意識の表れだ。この国ではイスラム教スンニ派が多数を占めるが、政治の実権はアラウィ派(シーア派の分派)が握ってきた。このアラウィ派の既得権益を死守することがアサド家の使命であり、アサド政権の存在理由でもある。
アラウィ派はシリアの総人口の8~12%を占めるにすぎない。対してスンニ派は70%以上を占めており、ほかにキリスト教徒も10%以上いる。
シリア社会は複雑に入り組んだモザイク社会だ。宗教や宗派、部族や民族などで色分けされた無数の集団があり、人々は複数の集団に帰属している、ひとたび中央政府が求心力を失えば、この国は分裂しかねない。” 【4月6日号 Newsweek】
【非常事態令解除検討や内閣総辞職も】
アサド大統領による強権支配に対する抗議デモが激化したことを受けて、“ムチ”だけでなく“アメ”も導入されました。24日には、1963年から続く非常事態令の解除の検討や、拘束されたすべての活動家の釈放、公務員給与引き上げ、政党結成や報道の自由の保証などの改革案が発表されました。騒乱が拡大して非常事態令が解除されるというのは、本末転倒の感もありますが、強権支配国家の実態でもあります。
しかし、抗議行動は拡大の一途で、犠牲者も増加。29日には、騒乱の責任を取らされる形で内閣総辞職も発表されています。
****シリア大統領「改革進める」 具体策には触れず*****
シリアのバッシャール・アサド大統領は30日、人民議会(国会)で演説した。「我々は改革を進める」と述べたが、具体的な内容には触れなかった。アラブ諸国でも屈指の強権国家とされるシリアでも3月中旬以降、中東政変に触発される形で民主化を求めるデモが発生。大統領は国民の要求を受け入れる姿勢を示すことで強権支配に対する不満をなだめる狙いだったが、デモが沈静化するかは不透明だ。
デモが始まって以降、大統領が演説するのは初めて。大統領は演説で、1963年に発令された非常事態令の撤廃を表明するとみられたが、「我々はすでに決定した改革を実行していく」と述べるにとどまった。(中略)
29日にはオタリ内閣が総辞職するなど、アサド政権は国民の不満をなだめようと躍起になっていた。
シリアでは71年にハフェズ・アサド氏が大統領に就任。同氏の死去に伴い、2000年に次男バッシャール氏が後継大統領になった。アサド大統領は就任後、民主化などの改革路線を打ち出したものの、前大統領時代から実権を握る守旧派の抵抗で進展しなかった。【3月30日 朝日】
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【これ以上の混乱拡大は避けたい周辺国・関係国】
リビア、バーレーン、イエメン同様に、国民の抗議行動によって強権支配体制が大きく揺らいでいるシリアですが、チュニジア・エジプト・リビアとは異なり、周辺国や関係国からは“民主化運動支援”の声は殆んど聞かれません。
かつてはイスラエルと事を構え、レバノンに介入し、イラク武装組織やヒズボラ、ハマスなどのイスラム過激派への武器援助などで、アメリカ・ブッシュ政権からは“ならず者国家”とも呼ばれていたシリアですが、近年はアサド大統領のもとで、アメリカ・イスラエルなどとの関係改善を進めてきました。(09年3月8日ブログ「シリア アメリカ急接近 イスラエルとの和平交渉加速か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090308)参照)
*****「政権転覆」に警戒感 シリア 周辺国、地域不安定化を懸念*****
反体制デモに武力弾圧を強めるシリアのアサド政権について、アラブ諸国だけでなく敵対関係にあるイスラエルや米国さえも「体制転覆」シナリオの封印にかかっている。イランやレバノン、パレスチナ問題に深く関与し、各勢力の利害の“結節点”となってきたアサド政権が崩壊すれば、地域が一気に不安定化しかねないとの警戒感があるためだ。
「アサド大統領は改革者だ」。クリントン米国務長官は27日、こう述べて現時点でのシリアへの介入を否定した。そこには、リビアに軍事介入したばかりで、戦線を拡大したくないとの思惑のほか、同盟国イスラエルの事情も見え隠れする。
シリアは1980年代以降、イスラエルとの正面からの対立を避けるため、隣国レバノンでイスラム教シーア派組織ヒズボラを支援。その半面、ヒズボラが自らの統制下を離れることがないよう、勢力伸長に歯止めをかけてきたとされる。
やはりヒズボラを支援するイランとは友好関係を保ちつつも、昨年10月、同国のアフマディネジャド大統領がレバノンを訪問し、ヒズボラへの影響力を誇示した際には不快感を示した。
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの関係も同様の構図で、ヒズボラやハマスを脅威ととらえるイスラエルにとってシリアは、自国の安全保障の「安全弁」(28日付イスラエル紙ハアレツ)の役割も果たしてきたといえる。
一方、クウェート、カタールやイラク、バーレーンの首脳が相次いでアサド大統領への支持姿勢を表明。共通するのは、シリアの不安定化で現在の力の均衡が変化することへの懸念だ。29日付ハアレツは「ユダヤ(イスラエル)だけでなく、多くのアラブもアサド政権の生き残りを祈っている」と指摘。政権による改革の遅れがデモを激化しかねないことに周辺国も神経をとがらせている。
シリアでは、シーア派の一派アラウィ派出身のアサド父子の政権が多数派のスンニ派を支配する構図が40年以上続く。現体制が崩壊した場合、次期政権の性格については予測がつかず、各国はチュニジアやエジプトに続く政変でさらに混乱が拡大するのを避けたいのが本音といえそうだ。【3月31日 産経】
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これ以上の混乱の拡大、パワーバランスの揺らぎを起こしたくない周辺国・関係国ですが、国民の行動がその思惑・枠組みにおさまるかどうかは不透明です。
もし、シリア・アサド政権崩壊ともなると中東情勢は新たな段階に入ります。