孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア・リビア国境 大量の避難民で混乱  国籍で対応に差も

2011-03-04 21:11:15 | 国際情勢

(押し寄せるリビアからの避難民で溢れかえるチュニジア側国境のラスジディル 3月1日 “flickr”より By IFRC http://www.flickr.com/photos/ifrc/5491606000/ )

【「危機的状況」】
リビアでの政権側と反体制派との一進一退の攻防、兵器、特に空軍力に勝る政権側の住民虐殺を防ぐための飛行禁止区域設定に関する議論、野党・市民社会の基盤のないリビアの今後の“ソマリア化”への懸念などが報じられていますが、こうした混乱から逃れるため出稼ぎ労働者を中心とした多数の避難民が隣国チュニジア・エジプトに押し寄せています。
しかし、隣国チュニジア・エジプト自体が政変のさなかにあることもあって、特にチュニジア側の避難民受入れは困難を極めているようです。

****リビアからの避難民14万人超に=チュニジア側「危機的状況」―国連****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は1日、リビアの混乱で隣国チュニジアとエジプトに逃れた避難民が同日までに14万人以上に達したことを明らかにした。特にチュニジアのリビアとの国境付近は大量の避難民で「危機的状況」にあると訴えた。
チュニジア側には2月20日以降7万~7万5000人、エジプト側にもこれまでに7万人近くが出国。出稼ぎ労働者を中心とした避難民が隣国に殺到する状況は長期化しそうだ。【3月2日 時事】 
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避難民の人数が多すぎるためチュニジア入管当局はパスポートチェックをやめたとも報じられています。
****国境にリビア避難民殺到 4万人がチュニジア入国待ち*****
・・・・人数が多すぎるためチュニジア入管当局はパスポートチェックをやめた。それでも避難民が国境エリアに入りきれず、入境制限を始めた。このため、大勢がゲート前のリビア領内で野宿しており、ボランティアがチュニジア側から水やパン、毛布を投げ入れている状態だ。

世界食糧計画(WFP)のシーラン事務局長は1日、国境を訪れて「(リビア危機で)最大50万人が影響を受ける。国際的な緊急事態だ」として、今後3カ月で3800万ドル(31億円)分の食糧を集中配布する緊急プロジェクトを始めたと表明した。UNHCRも国境から数キロ離れた避難民キャンプを1万人規模に拡大。だが、リビアのカダフィ体制が揺らいだ場合、傭兵(ようへい)たちが国境に殺到することも想定されており、国連は速やかな避難民の保護と帰還のための支援を訴えている。

国際移住機関(IOM)によると、リビアから逃れてきたエジプト人やバングラデシュ人、ベトナム人らの出稼ぎ労働者たちを数百人単位でチャーター船や航空機で帰還させ始めているが、とても追いつかない状態で、各国政府に移動手段の支援などを訴えている。
トリポリから逃れてきたエジプト人男性(23)は1日朝、国境にたどり着いた。3時間かけて人ごみをかき分け、ゲートを乗り越えてチュニジア側に入った。「国境前は全くの無秩序。チュニジアに入ってもどうすればいいのか何の説明もなく、いつ帰宅できるのかさっぱり分からない」と話した。【3月2日 朝日】
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避難民の多くは、リビアに100万人いると言われるエジプト人労働者です。エジプトも艦船を派遣したりはしていますが、ムバラク政権崩壊の混乱とあまりの人数の多さに対応しきれていません。そのため多くは自力で脱出を試みていますが、受け入れ能力を上回る人員の殺到で、キャンプ周辺では「エジプト政府はどこだ」と叫ぶデモも起きているそうです。

****チュニジア側国境、外国人労働者押し寄せ混乱****
リビアの騒乱から逃れるため、外国人労働者らが押し寄せるチュニジア側国境で、混乱が拡大している。
騒乱発生以来の入国者が1日、7万人を超過。国境での受け入れは限界に達し、リビア出国後、チュニジア側に入れず、国境線付近で待機する人々が急増している。
チュニジア側国境の村ラスジディル。出入国管理機関の門の外は先週末から、入国を待つ数万人がすし詰め状態で待つ事態に陥っている。

「早く入れてくれ」。荷物を頭に載せ、絶叫する人がいる。門の横の塀を乗り越え、入国手続きに走る人もいる。人並みに押しつぶされて卒倒し、運び込まれる中年の男性――。
「門の外で3日待った。チュニジア側からパンや水が投げ込まれ、飢えはしのげたが、くたくただ」。入国したエジプト人建設作業員男性(30)が話した。【3月2日 読売】
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避難民の多くを占めるエジプト人の帰国用にエジプト軍が艦船を派遣したほか、米英やスイスの資金援助で国際移住機関(IOM)がチャーター機を用意して対応にあたっていますが、“IOMによると、チュニジア側には出稼ぎ労働者を中心に7万5千人以上が逃れ出たが、1日までに帰国できたのはわずか約3850人。寝起きする施設も足りず、増え続ける避難民で混乱し始めている。近辺に大きな空港や港がないため少しずつ帰国させるしかなく、IOMは各国に支援を訴えている。”【3月3日 朝日】と言う状況です。

中国 脱出作戦成功を誇示
避難民もその国籍によって待遇が変わってきます。
多くの企業が進出している中国は、独自に艦船・輸送機を派遣する自国民救出作戦を敢行し、その成果を誇っています。

****中国人3万5千人、リビア脱出完了…軍隊も投入****
中国政府が海空軍を投入して展開した自国民約3万5000人のリビアからの脱出作戦が2日夜までに完了した。
胡錦濤政権は成果を大々的に報じ、「作戦成功」を宣伝している。国際社会には「責任ある大国」を誇示し、国内的には「親民路線」を示すことで国民の不満緩和を図る狙いがある。
中国は今回、民間のチャーター機、船舶に加え、空軍の輸送機4機と護衛のためのフリゲート艦まで派遣した。中国外務省によると、脱出作戦責任者の一人、宋濤・外務次官は「新中国建国以来、最大規模の脱出行動」とし、「成功は共産党の正確な指導の結果だ」と強調した。
中国紙「国際先駆導報」によると、リビアには石油や建設、鉄道関係の大型国有企業13社が進出し、75社が50件のプロジェクトに投資しているという。【3月4日 読売】
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韓国も艦船を派遣しているようですが、改めてリビアへの中国・韓国の進出ぶりを印象づけるものがあります。
一方で、こうした救出の余力がない国の出稼ぎ労働者は出国もままならず、混乱のリビアに取り残されています。

取り残される貧困国労働者
****リビアの外国人労働者、「出身国の貧富差」で多数が脱出できず*****
カダフィ政権と反体制派が激しい攻防を繰り広げるリビアでは治安の悪化が懸念されているが、同国で働く多くの外国人労働者が、出身国の「貧富の差」によって国外脱出できない状況に追い込まれている。

インド出身の運転手、オマール・チャンドさん(50)は27日、ベンガジの港に停泊する英国の戦艦を、数百人の外国人労働者とともに見つめた。アジアの貧しい国々から出稼ぎに来た同僚たちと同様、彼もまたリビアから脱出できないでいる。こうした外国人はほかにも数多くおり、そのほとんどがアフリカや南アジアの出身者だ。
チャンドさんは、小雨が降る港で「金はないし、何もない」と語り、「船はおそらく明日来る。多分。でも分からない」と、わずかな期待に希望をつないだ。

リビアの外国人労働者は推計150万人とみられ、多くが石油や建設関連の職に就いている。出身国はベトナム、バングラデシュ、エジプト、マルタ、オーストラリア、ブラジル、ガーナなど、多岐にわたる。
他の労働者と同じく、チャンドさんもパスポートを会社に預けていたため、手元にはない。その会社の事務所は、騒乱の中で炎上してしまったという。

ベンガジの住民らは港にキッチンや病院を設置し、行き場をなくした労働者を診察するために医師を派遣している。反体制派が採用した王政時代の旗のバッジを身に付けたボランティアたちが、ツナサンドイッチを配る姿も見られ、支援団体の代表は「隣人が困っていれば、人種や言語や宗教にかかわらず、支援するべきだ」と語る。
外国人労働者らを支援するリビア人技術師、ハイサム・ジャディルさん(36)によると、ベンガジの港や大学構内にとどまっている人は3000人から5000人に上り、その多くがバングラデシュ、ベトナム、ガーナ、エリトリアなどの出身者だという。
こうした人たちの帰国の見通しは立っておらず、ジャディルさんは「中国やトルコの会社はすべての責任者が脱出し、バングラデシュやベトナムなどの人たちが残された」と話している。【2月28日 ロイター】
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アフリカ人の入国を拒否
また、避難民を受け入れる側にも、アフリカ系避難民への厳しい対応が報じられています。
****チュニジア:リビアから避難のアフリカ人 国境で入国拒否*****
チュニジアの国境ゲートの向こう、リビア側に不安そうな顔のアフリカ人がいた。中国人やエジプト人などが続々とリビアから避難してきているが、マリやチャド、スーダンなどの118人は入国を拒否されたのだ。チュニジア入管当局者は、大使館の身元保証がなければ入国させられないという。「雇い兵だった疑いもあり、不法移民として居座られると困る」そうだ。
チュニジア赤新月社のラドゥアンヌさんは「食料だけでも渡したいが、リビア領なので近づくこともできない」と10メートルほど先にたたずむ彼らを見やった。【3月1日 毎日】
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スーダンの南北対立やダルフールでの虐殺でもそうですが、同じ“アフリカ”とは言いながら、北アフリカのアラブ系住民とサハラ以南のアフリカ系黒人の垣根は高いようです。
カダフィ政権の“アフリカ人傭兵”使用、その傭兵による反体制派への攻撃は、更にこの垣根を強固にしたように思えます。

(追記)
“ジュネーブ(Geneva)の国連難民高等弁務官事務所(UN High Commissioner for Refugees、UNHCR)は同日、リビアとチュニジアの国境のチュニジア側には現在も1万2500人がとどまっているものの、国際社会の支援によってエジプト人など外国人のチュニジアからの出国が進み、国境付近の混雑は大幅に改善されつつあると述べた。”【3月4日 AFP】ということのようです。
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