(3月16日 バーレーンの首都マナマ 仲間兵士に見守られながら戦車の前で祈るサウジなど湾岸協力会議(GCC)からの介入軍兵士 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5533691520/ )
【モニュメント破壊・・・「嫌な記憶だから」】
淡路島ほどのペルシャ湾の小さな島国バーレーンで起きている民主化運動については、隣国サウジアラビアに波及すると、原油供給面での世界経済、中東におけるパワーバランスに多大な影響を与えることから国際的に注目されており、3月19日ブログ「バーレーン 小さな島国の民主化運動がサウジ、イラン・イラクをも巻き込む宗派対立へ拡大する懸念」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110319)でも取り上げました。
その時のタイトルにもあるように、バーレーン国民の7割を占めるシーア派住民と少数派スンニ派王室という宗派対立の側面が強く、波及を警戒するスンニ派サウジアラビアや湾岸諸国は軍事介入を開始、これにシーア派イランやイラクが反発を強めるという、周辺国を巻き込んだ宗派対立の様相を深めています。
その後も政府側はシーア派住民を中心としたデモに対する強硬姿勢を強めています。
****バーレーン政府、デモ拠点の広場破壊 弾圧姿勢鮮明に****
バーレーンの首都マナマで続くデモの拠点だった真珠広場が18日午後、政府によって取り壊された。ハリド外相は記者会見で理由を問われ、「嫌な記憶だから」と答えた。
真珠広場には、石油発見まで同国の特産品だった真珠をモチーフにした、高さ90メートルのモニュメントが立っていた。2月からのデモの拠点になり、デモ隊が泊まる数百のテントで埋まっていたが、軍や機動隊が16日に広場を封鎖していた。モニュメントや緑地帯は、重機で次々破壊された。
国営放送は「GCC広場」と呼び始めた。GCCはバーレーンなどペルシャ湾岸6カ国でつくる「湾岸協力会議」の略称。サウジアラビアなど加盟国は自国へのデモの波及を恐れており、バーレーン王政に協力して派兵している。
広場のモニュメントはそもそも、同国で1982年にあったGCC首脳会議を記念して設置されており、政府は「本来の名称はGCC広場」と主張している。だが「新名称」は、「湾岸の君主たちによる民衆デモの徹底鎮圧」を思わせる結果を招いている。
シーア派住民が多いシトラ地区では18日、治安部隊の発砲で死んだ青年の葬儀があり、約3千人が集まった。参加者らは「我々の意思までは消せない」と叫んだ。
国内各地には戦車や装甲車が配置され、目出し帽をかぶった軍の兵士が検問するなど、厳戒態勢が敷かれている。【3月19日 朝日】
****************************
【クウェート海軍の軍艦数隻が入港】
首都マナマではサウジアラビアなどが政府支援のため派遣した外国兵1500人が各所に展開し、厳戒体制を敷いており、一方、政府の強硬姿勢に野党は対話拒否を続け、緊張が高まっています。
21日には、サウジアラビアとUAEの軍や警察1500人に続き、クウェートも軍艦を派遣しています。
****クウェート:バーレーンに軍派遣*****
ペルシャ湾岸の小国バーレーンに21日、クウェート海軍の軍艦数隻が入港した。バーレーン国営通信が伝えた。イスラム教シーア派住民による反政府デモが続いた同国の治安維持が目的とみられ、外国軍が入るのはサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)に続き3カ国目。
バーレーン情勢を巡っては、サウジなど6カ国で作る湾岸協力会議(GCC)が軍派遣を決定。これまでサウジとUAEの軍や警察1500人が入国し、首都マナマの主要拠点や郊外のシーア派住民居住区で、目出し帽をかぶり機関銃を手にした兵士らが厳戒態勢を敷いている。
サウジ軍入国直後の16日には治安部隊が反政府デモ隊を強制排除し多数の死傷者が発生。同日以降、大規模なデモは収束した。【3月22日 毎日】
*****************************
【アメリカ:サウジの介入とリビアへの欧米介入を取引か?】
上記記事には“同日以降、大規模なデモは収束した”とありますが、22日には、治安部隊から狙撃されて死亡した女性の葬儀があり、葬儀後に数千人の参列者が王室解体などを求める抗議デモに発展しており、予断を許さない状況が続いています。
****バーレーン:狙撃死女性の葬儀後、デモ 王室解体の声も*****
ペルシャ湾岸、バーレーンの首都マナマで22日、治安部隊から狙撃されて死亡した女性の葬儀があり、葬儀後に数千人の参列者が王室解体などを求める抗議デモに発展した。
3月中旬以降、同国内ではサウジアラビア軍も加わった治安部隊による、イスラム教シーア派住民への弾圧が続く。市民の間ではスンニ派主導の政府・王室への反発だけでなく、サウジ軍介入を「黙認」する米国への不信が強まっている。
「ハリファ王室に死を」「サウジ軍は撤退しろ」。マナマ市中心部のモスク(イスラム礼拝所)であった主婦バヒア・アラディさん(51)の葬儀の後、参列者の怒りの声が周辺に響きわたった。
地元紙によると、デモに関連した死者は21人目。親族らによると、アラディさんは15日夜、マナマ市内で買い物のため車を運転中、頭と肩を警戒中の治安部隊に銃で撃ち抜かれた。21日に搬送先の病院で死亡したが、家族には直前まで何も知らされず、遺体の引き取りの際には「死因は交通事故」と書かれた文書に署名をさせられたという。
葬儀に参列した友人女性のバグナムさん(46)は「デモと関係ない彼女がなぜ撃たれたのか」と語り、サウジ兵の関与を疑った。ゲーツ米国防長官が12日、バーレーンでハマド国王と会談してまもなく、サウジ軍介入と市民弾圧が始まったため、「弾圧にゴーサインを出したのは米国だ」と語気を強めた。
バーレーンに米海軍第5艦隊司令部を持つ米国は、バーレーン政府に市民との対話の必要性を説く一方で、混乱の背景にシーア派が多数を占めるイランの介入を指摘する。アラディさんの親類で雑貨商の男性(37)は「米国はいつもイランを敵国に仕立て、政府やサウジの行動を擁護する。しかし、一般のシーア派住民とイランは全く関係ない。なぜ我々住民を見捨てるのか」と怒りを込めた。
リビア空爆を前に、クリントン米国務長官は19日、パリでの会合で、周辺の湾岸諸国の支持を取りつけた。これに先立ちサウジ軍介入があり、バーレーン国内では「(空爆への了解がほしい)米国と(バーレーン介入の容認を求める)サウジなど湾岸諸国の間で取引があったのでは」との疑念が強まっている。【3月23日 毎日】
******************************
「弾圧にゴーサインを出した」とは言いませんが、リビアにおける反政府派支援の空爆にたいするアラブ諸国の了解と引き換えに、アメリカがサウジアラビアなどのバーレーン介入を認める取引をした・・・というのは、バーレーン反政府派住民ならずとも容易に想像するところです。
バーレーンでの政変は、アメリカにとって中東戦略の要である(バーレーン同様にシーア派住民を抱えるスンニ派王制の)サウジアラビアの混乱につながるものであり、また、宿敵シーア派イランの影響拡大をも意味しますので、望まない事態でしょう。
もっとも、もしそういうことであれば、リビアでの住民虐殺を防止するため(と言うか、カダフィ政権を叩くため)にバーレーン民主化運動を犠牲にしたということにもなります。
真相はわかりませんが、ダブルスタンダードは別に珍しいことでもありませんので、そんなこともあるのかも・・・とつい思ってしまいます。
内戦状態の戦闘が続くリビア、サレハ大統領が年明け退陣表明に追い込まれたイエメン、デモへの治安部隊の発砲で死傷者が増加しているシリア・アサド政権・・・中東・北アフリカの民主化ドミノは収まる気配がありません。
ベンアリ、ムバラクの次は誰でしょうか?