孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「アラブの春」 未だ道半ば エジプトでは選挙を巡る混乱も

2011-10-01 20:59:00 | 北アフリカ

(7月29日 改革が遅れる軍政を批判して、カイロのタハリール広場を埋め尽くす民衆 この人々の意思を民主的にまとめあげていくことができるかが今問われています。“flickr”より By andveritas http://www.flickr.com/photos/64224860@N02/5988380030/

ノーベル平和賞
中東・北アフリカにおける民衆の反政府・民主化要求運動、いわゆる「アラブの春」関連者が今年のノーベル平和賞を受賞するのでは・・・との観測もあるようです。

****ノーベル平和賞は「アラブの春」立役者へ****
オスロで10月7日に受賞者が発表される今年のノーベル平和賞に、「アラブの春」と呼ばれる一連の民主化運動の立役者が選ばれるのでは、との観測が浮上している。
オスロ国際平和研究所は、エジプトの民主化組織「4月6日運動」と、組織創設者の一人イスラア・アブデルファタさんが「最有力」だとした。また、チュニジアでブログを通じて民主化運動を行ったリナ・ベンムヘンニさんら中東地域の3人の名も挙げた。(後略)【9月30日 読売】
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「アラブの春」が受賞対象となるなら、昨年12月17日、女性警官の対応に抗議して焼身自殺を図り、1月4日に死亡したチュニジアの野菜売りの青年モハメド・ブアジジさん(当時26歳)も、その後の「アラブの春」の引き金を引くことになったということで、その対象になるかも。

また、民衆の抗議にあっけなく政権を捨てて国外逃亡し、世界に民衆のパワーと変革の現実性を印象付けたチュニジアのベンアリ前大統領の功績も小さくないでしょう。

リビア:イスラム勢力によるジブリル氏暗殺を警戒する声も
ただ、チュニジア、エジプトでは大きな暴力を伴わずに成就した「春」も、リビアではNATOを巻き込む内戦となり、シリア・イエメンでは今も厳しい弾圧が続いています。
バーレーンのように国外からの圧力で潰された国もあります。

内戦の末に反政府勢力が勝利したリビアでは、世俗主義とイスラム主義の路線対立、部族間の争いなどの内部対立から暫定政府の早期樹立が断念され、今後の道筋への影響が懸念されています。

****リビア暫定首相「新政権参加せず」 対立激化 早期樹立を断念****
リビアの反カダフィ派代表組織「国民評議会」のジブリル暫定首相は9月29日、首都トリポリで記者会見し、フランス通信(AFP)によると、今後発足する暫定政権には「参加しない」と述べた。背景には暫定政権の人事をめぐる反カダフィ派内の対立があるとみられる。
また同氏は、暫定政権の発足時期についても、これまで目指してきた早期樹立をあきらめ、全土制圧後に先延ばしすることが決まったと明らかにした。

評議会はもともと、全土制圧から30日以内に暫定政権を樹立し、8カ月後をめどに行われる制憲議会選に向けた準備を進めるなどとしていた。
しかし8月下旬のトリポリ陥落後も、かつての最高指導者カダフィ大佐の出身地である中部シルトやトリポリ南方のバニワリードでカダフィ派の抵抗が続く中、全土制圧に先立って暫定政権を発足させると方針転換。今回、それを再度、変更せざるを得なくなったことで、評議会指導部の求心力を低下させ混乱に拍車をかける可能性もある。

経済専門家であるジブリル氏は、カダフィ政権で要職を務めた経歴がありながら、内戦中は寄り合い所帯の評議会をまとめ上げた手腕を高く評価された。リビアに軍事介入した欧米諸国との関係も良好で、暫定政権では引き続き首相職に就くと目されてきた。

だが、世俗主義的な傾向が強いとされるジブリル氏に対しては最近、リビア社会に大きな影響力を持つイスラム指導者アリ・サラビ氏が公然と辞任を要求するなど、よりイスラム色の濃い国を目指すべきだとする勢力からの風当たりが強まっていた。
評議会内では、イスラム勢力によるジブリル氏暗殺を警戒する声さえ上がっていた。
ジブリル氏が今回、暫定政権に参加しない意向を示したのは、こうした内部の異論に抗しきれなくなったという側面があるほか、権力闘争の激化で、評議会が機能不全に陥ることを避ける狙いもあるとみられる。

暫定政権の首相には、同氏のほか、法律専門家のハディ・シャルーフ氏や、イスラム勢力の支持を受けるムハンマド・ハライジ氏らの名前も取り沙汰される。ただ、ジブリル氏がこのまま“退場”しても、「新生リビア」のあり方をめぐる路線対立が解消されるわけではなく、今後も反カダフィ派内の駆け引きが激しさを増す可能性がある。【10月1日 産経】
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チュニジア:10月に選挙延期
チュニジアでは、当初5月の選挙実施が予定されていましたが、準備不足を理由に10月23日に延期されています。
****チュニジア、選挙を延期 7月予定を10月に****
チュニジアのカイドセブシ首相は8日、7月に予定していた制憲議会選挙を、10月23日に延期すると発表した。選挙管理委員会が「有権者登録の時間が足りない」などとして選挙の延期を求め、これを受け入れた形。新党が乱立する中、今年初めのベンアリ前政権崩壊の勢いを維持したい複数の有力政党は、予定通りの選挙実施を求めていた。【6月8日 朝日】
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その後の情勢はあまり報じられていませんが、選挙管理委員会は9月1日に1日に、議会選挙の候補者名の受付を始めると発表しています。候補者の要件は、は23歳以上で、かつてベンアリ政権及び旧与党の要職についていないことが条件とのことです。
選挙の結果、どういう勢力が政権を握るのかは不明です。

エジプト:選挙法改正に野党勢力は選挙ボイコットも
エジプトでは、抑制がはずれた民意の表れとして、イスラエル大使館にデモ隊が乱入して警官隊と衝突し、死者が出る混乱もおきています。軍最高評議会は、ムバラク時代から続く非常事態令の適用強化を打ち出し、「民主化の流れに逆行している」といった批判も出ています。

選挙についても、組織力・資金力に勝るイスラム主義勢力のムスリム同胞団が議席の多数を占めることを恐れる世俗主義的な団体の多くは、議会選挙の遅れを望んでいるといった具合で、チュニジアより揉めています。

軍最高評議会は27日、11月28日から議会選挙を実施することを発表しました。
****人民議会選を11月28日から実施、エジプト軍最高評議会****
エジプトを暫定統治する軍最高評議会は27日、ホスニ・ムバラク前大統領政権の崩壊後初の選挙となる人民議会(国会)選を11月28日から3回に分けて実施すると発表した。中東通信が伝えた。

同評議会のムハンマド・フセイン・タンタウィ議長が出した布告によると、2回目の選挙は12月14日、3回目は来年1月3日に実施し、新議会は来年3月17日に召集する。
議会上院にあたる諮問評議会選も来年1月29日から3月11日の間に3回に分けて実施する。

評議会は選挙法の改正も発表した。それによると、人民議会の3分の2を比例代表制による議席とし、残り3分の1を小選挙区単純多数制による議席とする。小選挙区単純多数制の議席に立候補できるのは無所属の候補者だけ。また、各政党は比例代表名簿に女性候補者を必ず1人は含めなければならない。【9月28日 AFP】
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しかしながら、“小選挙区単純多数制の議席に立候補できるのは無所属の候補者だけ”という選挙法改正について、資金力や知名度のある旧与党勢力が有利になるとして、最大野党のムスリム同胞団が選挙ボイコットの構えを見せて変更を迫っています。
民主化の原動力となってきた若者たちのグループも、28日、同様に選挙法改正を批判し、大規模な抗議集会を開く考えを明らかにしています。
また、野党側は、ムバラク前大統領とつながりのある元議員の立候補を10年間にわたり禁じる法律の導入も求めています。
こうした野党勢力の反発に、軍最高評議会は強く警告しています

****ムバラク後初の選挙に野党反発で流血か****
軍が民衆への発砲を拒否し平和的に独裁政権を倒したエジプトで、軍と反体制派の対立が表面化。民主化の代わりに今度こそ暴力が吹き荒れる恐れがある

エジプトでは、2月のムバラク政権崩壊後初の人民議会選挙が11月28日に実施される。しかし選挙をめぐってはエジプト軍幹部が、ホスニ・ムバラク前大統領を支えた旧与党勢力が議会で大多数を確保できるよう企てている、と非難されている。
その結果、最大野党勢力「ムスリム同胞団」などのイスラム政党も世俗派政党もそろって選挙をボイコットする構えを見せている、と英デイリー・テレグラフ紙電子版は報じた。

同紙によればムスリム同胞団は、エジプトを暫定統治している軍最高評議会が10月2日までに選挙制度の見直しを行うよう要求。さもなければ、人々は大規模なボイコット運動を起こすだろうとしている。
これはエジプト史における、「非宗教的な反体制運動と国を統治する軍人の対立」という新たな章の始まりだ。

エジプトではリビアやシリアのような国と違い、多くの血が流れることなく革命が達成された。それは軍が果たした役割のおかげだ。エジプト軍は抗議デモを行う民衆への銃撃をはっきりと拒否し、ムバラクに退陣を迫った。だが大統領と親密な関係にあった軍に対しては、今も多くの人が疑いの目を向けている。

小選挙区では旧ムバラク派が有利
11月の選挙は、革命後のエジプトにとって最初の試金石となる。野党のボイコットが起きれば、この国はあっけなく暴力の渦に巻き込まれるだろう。
テレグラフは以下のような問題を指摘する。

60の政党からなる野党連合は、議席の3分の1は無所属の候補者による小選挙区制で選ぶ、という規定の撤廃を要求している。それでは金や知名度のある旧与党勢力が有利になるからだ。
野党側はさらに、ムバラクとつながりのある元議員の立候補を10年間にわたり禁じる法律の導入も求めている。

こうした動きに対し、エジプト軍はフェースブックで声明を発表。民主主義や国家の安全を脅かすいかなるものにも反対するとし、「議会選挙への要求から始まった民主的変革を妨げようとする人々」に対して警告すると、AFPは伝えている。
軍最高評議会は「抗議行動を呼び掛けた人々は、行動を計画し、安全を確保し、すべての私的・公的財産が守られるようにする義務がある」と述べた。「あらゆる軍事施設や重要建物への不法侵入は、エジプトの国家安全保障への脅威だとみなされ、厳格に対処される」【9月30日 Newsweek】
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テロによらない改革を示した「アラブの春」】
確かに、「アラブの春」は、9.11以後の閉塞した国際社会のなかでアルカイダのようなテロリズムに活路を求めようとしたアラブ・イスラム社会の人々に、暴力ではなく平和的な政治運動によって改革が可能なことを示したという点で、非常に大きな意義を持ったものです。

ただ、その結果、どのような政権が新たに生まれ、本当に民主化された政治が実現するのかということについては、いまだ答えが出ていない状態でもあります。





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