(中国広東省仏山市の路上で今月13日、車にひき逃げされ、通りかかった18人にも放置され、更に別の車にひかれてしまった悦悦ちゃん 21日未明死亡しました。 “flickr”より By TOrebelXTguy http://www.flickr.com/photos/torebelxtguy/6267891426/ )
【6中全会:「ソフトパワー」の国内外への影響力強化を確認】
中国共産党の中央委員会は、18日、中華文化や言語、映画製作などの「ソフトパワー」の国内外への影響力強化を確認しました。また、「文化強国」実現のため、2020年までの文化改革発展目標を提起するとしています。
****中国:文化の影響力強化を確認 6中全会閉幕****
中国共産党の重要方針を決める第17期中央委員会第6回総会(6中全会)は18日、「文化体制改革の深化と社会主義文化発展・繁栄に関する決定」を採択し、中華文化や言語、映画製作などの「ソフトパワー」の国内外への影響力強化を確認して閉幕した。
胡錦濤国家主席や温家宝首相ら最高指導部が含まれる中央委員202人と中央候補委員163人が出席。文化をテーマに集中的に議論したのは96年以来で、現指導部が発足した07年以降では初めて。
公表された総会コミュニケでは「ソフトパワーや中華文化の国際的影響力の増強はさらに緊急課題となっている」と分析。「文化強国」実現のため、2020年までの文化改革発展目標を提起するとした。「報道や世論に関する活動を強化」や「インターネット文化の健全な向上」も明記し、報道やネットの規制強化を示唆した。
背景には、政治や軍事面でも国際的な影響力が強まっているものの、中国は欧米の英語中心の文化に後れを取っているとの危機感がある。世界中の報道が欧米メディア発の情報に偏り、中国の関連報道が正しく伝わっていないとの不満もある。
「文化体制改革」の意味について、北京のメディア関係者は「文化の市場経済化を一層進める考えだが、政治や党にかかわるもので管理を緩めることはないだろう」と話した。
総会では、第18回共産党大会を来年後半に開くことも決めた。【10月18日 毎日】
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【「報道番組の増加」と「過度の娯楽化や低俗傾向を防ぐ」】
中国の政治用語は非常にわかりづらいものが多く、政治文書の日本語訳を読んでも理解できないことが多々あります。
「文化体制改革の深化」も何のことかよくわかりませんが、現実面の動きとして“報道やネットの規制強化”が進行しているのは間違いないようです。
****中国:娯楽番組を制限 報道番組は増加…管理強化方針****
中国政府で放送メディアや映画産業を管轄する国家ラジオ映画テレビ総局は、来年1月から衛星テレビの娯楽番組を一定数に制限する管理強化方針を打ち出した。
25日の新華社通信によると、新方針では、国内34の衛星テレビの総合チャンネルについて、「報道番組の増加」と「過度の娯楽化や低俗傾向を防ぐ」ことを明記。午前6時から翌日午前0時までに2時間以上の報道番組を放送し、「中華民族の伝統と社会主義の核心的価値体系思想」を高めるコーナーを設けるよう求めた。
恋愛関連などの娯楽番組は毎週2シリーズまでとし、午後7時半~午後10時に放送する場合は90分を超えてはならないとした。【10月26日 毎日】
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共産党による管理社会の面目躍如といったところです。
【「世論に関する活動強化」と「ネット文化の健全な向上」】
従来から規制に縛られていることで悪評の高い中国ネット事情ですが、中国版ツイッター「微博」などを含めたインターネット規制がさらに強められるようです。
****中国:メディア統合へ 締め付け強化、ネットも規制****
中国共産党の重要方針を決める第17期中央委員会第6回総会(6中全会、15~18日)で採択された「文化体制改革の深化と社会主義文化発展・繁栄に関する決定」に、通信社やテレビ局など大衆に影響力を持つメディアの整理・統合を進め、管理を強化すると明記されていたことがわかった。国営新華社通信が25日夜、決定の全文を配信した。
総会終了直後のコミュニケでは「世論に関する活動強化」や「ネット文化の健全な向上」とえん曲的な表現だったが、全文では、世論やネット規制の内容に具体的に言及。中国版ツイッター「微博」などを含めたインターネットの規制をさらに強める方針を鮮明に打ち出したものだ。
全文は「ニュース発表制度を改善し、情報の透明度を高める」とする一方、「世論の監視を強化し、報道に携わる者は責任感と職業道徳を持ち、真実で正しい情報を伝えるべきだ」とした。
ネットに関しても「法制や大衆の管理を速やかに進める」とし、「ポルノ情報や低俗な内容は改め、法に基づいて処罰する」と規定。対象となる情報の基準は明示していないが、当局に批判的な内容が含まれるとみられる。
これに関連し、中国各紙は26日、ネット上で「事実と異なる内容を発信した」として、情報を流した人物やサイト管理者が相次いで処罰されたと報じた。
税務当局が所得税に関する規定を改めたとする情報を流した人物が15日間拘束されたほか、中国の戦闘機が墜落してパイロットが犠牲になったと書き込まれたサイトの管理者やその関係者がけん責されるなどした。
6中全会での採択を受けた管理強化策が早くも実行されたものとみられる。【10月26日 毎日】
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【「冷漠社会」の「義を見てせざる勇なき人々」】
一方で、中国社会の現状を反映した事件として最近取り沙汰されているのが、13日、中国広東省仏山市でひき逃げされた2歳の女児(21日死亡)を18人の通行人が放置した事件です。
事件の一部始終が防犯カメラに映っており、保身のため他人のトラブルや困難に関わるのを避けようとする風潮の象徴だとして中国国内で大きな関心を呼んでいます。
この事件については、10月29日 日経ビジネスオンライン 北村豊の「中国・キタムラリポート」 『2歳児ひき逃げ事件「我関せず」映す 中国社会にはびこる「義を見てせざる勇なき人々」』(http://news.goo.ne.jp/article/nbonline/world/ecoscience/nbonline-223391-01.html)で詳しく紹介されています。
同リポートによれば、事無かれ主義から危機にある同胞を救助しない中国人に代わって、外国人が“見義勇為”(「義を見てせざるは勇なきなり」)を実践して負傷者を助ける事例が多発しているようです。
仏山市での2歳女児ひき逃げ事件のようなことが起きる社会背景として、南京市で2006年、バス停で転倒して骨を折った女性を病院に運んだ男性が、「押し倒した」として訴えられて一審で約4万5千元(約54万円)の賠償を命じられたという事件があり、これが人々の「転倒した老人を見ても助けるな」といった事なかれ主義を助長していると各紙で報じられています。
北村氏のリポートによると、こうした非常識な老人の存在については
“この主たる原因は中国における高額医療費にある。少ない年金に頼って暮らす老人たちにとっては、転倒による負傷に対して高額な医療費を負担することは難しく、かといって子供に負担させれば迷惑がかかるので、“見義勇為”で助けてくれた赤の他人に責任を負わせて医療費を負担させようとする者が大部分と推測できる。何とも浅ましい老人たちだが、こうした不心得者がいるために、すべての老人が同一視されてしまっていることは悲しい限りである。”【10月29日 日経ビジネスオンライン 北村豊の「中国・キタムラリポート」】
とのことです
また、北村氏は、かつての中国人について、自分の経験も照らし合わせて
“中国人とは他人のことも自分のことのように考えて心配するお人好しでお節介な国民性を持つ人々という認識を持ったものである。それは言ってみれば、落語に登場する陽気でお節介な長屋の住人に近いものに思われ、既に日本からは消失したものだった。”とも述べています。
その“お人好しでお節介な”中国人が、拝金主義と事無かれ主義に漬かってしまった背景として、文化大革命による倫理観の破壊をあげています。
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中国も時代が流れ、経済が発展するにつれて、人々が貧しい時代に共有していた相互扶助の精神が失われていっているのだと思うが、中国人が誇りとしていた“見義勇為”の精神だけは失わないで欲しいものである。1966年から1976年まで続いた“文化大革命”は、「封建的文化、資本主義文化を批判し、新しく社会主義文化を創生する」という名目の下、中国の古き良き精神文化までも破壊した。その時代に青春時代を送った人々が親となり、現在はその親に教育を受けた子供たちが社会の中堅となっている。だからこそ、今の中国には“見義勇為”を含む倫理観が欠如しているのであり、道徳教育を通じて人々に相互扶助の精神を植えつけることが必要なのである。考えてもみてほしい、上述した“見義不為、無勇也義(義を見てせざるは勇なきなり)”は『論語・為政編』の言葉なのである。 【10月29日 日経ビジネスオンライン 北村豊の「中国・キタムラリポート」】
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また、ひき逃げ事件を起こした運転手は前輪で悦悦ちゃんをひいた後、3秒間停止し、後輪でもひいているそうです。
“これが故意なら「殺人罪」、物をひいたと思っていたのであれば「過失致死」が適用される。同容疑者は後者を主張した。中国では交通事故で相手にけがをさせて支払う医療費や慰謝料が、死亡させた時の何倍もするといわれており、わざと何度もひいて被害者を死亡させる悪質な運転手が後を絶たない。”【10月26日 Record China】
【「中華民族の伝統と社会主義の核心的価値体系思想」を高めるコーナー】
苦しむ他人に無関心な「冷漠社会」の象徴として中国社会に大きな波紋を残し、今も、何が人々をそうさせるのか、原因を巡る議論はやんでいません。
ネット上の議論だけでなく、23日には、被害女児を悼み、「2度と見殺しはしない」と誓った仏山市の市民らによるデモも行われています。
政府の意を受けたメディアは、事件を糊塗するかのような報道を流しているとも。
“地元紙の南方都市報は23日、川に落ちた女性を助けようとして死亡した元兵士の遺族を広州市幹部が慰問したという記事を1面トップで扱った。中国メディアは、傷ついた国民のモラルへの自信を取り戻そうとするかのように、人助けをした庶民のエピソードをこぞって掲載している。”【10月24日 朝日】
共産党が掲げる「文化強国」は、先ずは拝金主義と事無かれ主義で崩壊した倫理観の再建から始めるべきでしょう。倫理観なき社会に「文化」などは存在しえません。
“「中華民族の伝統と社会主義の核心的価値体系思想」を高めるコーナーを設けるよう求めた”という施策は、管理社会の悪例としてイメージされますが、ひょっとしたら現在の倫理観なき社会の変革に必要なものなのかも。
なお、こうした事なかれ主義は決して中国だけの問題ではなく、日本でも散見されることです。
私自身についても、東南アジアの国々を旅行していると、路上に横たわっている、生きているのか死んでいるのかわからない人を見かけることもありますが、言葉もわからないこともあって、見て見ぬふりを決め込みます。中国社会をバッシングしてすむ話ではないということを、最後に確認しておきます。
なお、浙江省温州では死者40人を出す高速鉄道事故が起きたばかりですが、こんな記事も最近ありました。
****中国の鉄道、悪質な手抜き工事発覚 責任者は素人****
中国吉林省白山の一般鉄道の橋建設工事で、橋脚のセメントに大量の石やがれきを混ぜるなど悪質な手抜き工事が発覚し、工事が中断していることがわかった。地元メディアによると、「元料理人」というまったくの素人が工事責任者を務める孫請け業者が受注していたという。
中国では7月に浙江省温州で死者40人を出す高速鉄道事故が起きたばかり。今回の問題で、鉄道の安全性への不信感がさらに広がりそうだ。
問題の橋は、昨年着工した靖宇県と撫松県を結ぶ約74キロの区間にあり、総工費は23億元(約280億円)。地元メディアによると、建設会社「中鉄九局グループ」が落札し、区間ごとに下請け業者に発注した。このうち1社が橋の工事の一部を元料理人の孫請け業者に発注した。
労働者はみな出稼ぎ農民。本来高い強度が求められる橋脚の材料に、大量の異物を混ぜていた。労働者の1人は中国紙の取材に「ここが開通しても、私なら列車に乗らない」と話した。
この孫請け業者に発注したことになっている江西省の建設会社は「この鉄道建設工事は受注していない。犯罪分子が当社の印鑑を偽造して受注した」と釈明している。【10月24日 朝日】
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