(アフガニスタン最初の私立大学であるカブールのAmerican University of Afghanistan(AUAF)のキャンパス “flickr”より By AUAF http://www.flickr.com/photos/21901417@N02/2774414300/ )
【女性の地位向上は政治体制の民主化を準備する】
今年のノーベル平和賞が、女性の地位で問題が多いアフリカと中東の女性3人に授与されることになった件については、各メディアで多数報じられているところです。
****ノーベル平和賞 女性進出、民主化の土台****
◇「アラブの春」後押し
ノルウェーのノーベル賞委員会は7日、2011年の平和賞をアフリカと中東の女性3人に授与することで、途上国における女性の権利擁護と地位向上を全面的に支援する姿勢を打ち出した。
旧弊を打破し、平和を構築する可能性を秘めた「女性の力」にエールを送った形だ。女性の社会進出は民主化の土台でもあり、中東で現在進行中の民主化運動「アラブの春」を後押しするメッセージも込められている。今後、国際社会が文化や宗教の壁を乗り越え、平和賞を真の女性解放につなげることができるかどうかが焦点だ。【草野和彦、岩佐淳士】
「社会で女性が男性と同じ機会を得られなければ民主主義も恒久平和も達成できない」。ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は女性3人への授賞理由をそう強調した。「女性」をキーワードにアフリカなどの途上国の民主化運動への支援を打ち出したい思惑が透けて見える。
17カ国が一斉に独立し、「アフリカの年」と呼ばれた1960年から半世紀以上が過ぎても、アフリカ諸国では中東のアラブ諸国以上に長期独裁と腐敗、暴力がはびこる。87年の大統領就任以来、ムガベ氏の圧政が続くジンバブエがその典型だが、「安定国」と呼ばれたケニアでも07年末の大統領選を機に、民族対立で1000人以上の死者が出た。
その中でリベリアは、7月に独立を果たした南スーダンが目標に掲げるアフリカの「民主化モデル」。その象徴がアフリカで初めて民主的な選挙を経て選ばれた女性指導者のエレン・サーリーフ大統領であり、平和活動家のリーマ・ボウイーさんはリベリアの民主化を裏で支えてきた。
女性の地位向上は政治体制の民主化を準備するという側面を持つ。「女性の識字率が上昇し、出生率が低下すると、その国では変革が起きる」。フランスの歴史人口・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏は女性問題と民主化の相関関係をそう指摘する。
欧米から「女性抑圧」が指摘されることが多いアラブ・イスラム世界にあって、中東の民主化運動「アラブの春」の先駆けとなったチュニジア、エジプトでは女性の社会進出が進んでいた。今回の女性政治家・活動家への授与には「アラブの春」に代表される民主化運動を間接的に鼓舞する効果もありそうだ。
先行きが不透明な「アラブの春」で国際的に注目された人物を選べば議論を巻き起こす可能性があったという事情もある。
また、若者たちがインターネットを通じて結集したアラブ革命では運動に影響を与えたブロガーが多く、ヤーグラン委員長は「受賞者を絞るのは難しい」と胸の内を打ち明ける。
受賞が決まった女性たちは「アラブの春」を先取りしていた格好だ。「アラブの春」関係者から歓迎の声が上がる中、「革命の何年も前から立ち上がった」(ヤーグラン委員長)イエメンの人権活動家、タワックル・カルマンさんはAP通信に「イエメンで革命に参加する若者に賞をささげたい」と語った。
【10月8日 毎日】
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何の実績も示していないオバマ大統領への授与については異論も多くありました。また、昨年の中国の人権活動家、劉暁波氏の場合は人権問題への牽制として、本人の活動よりも中国政府の対応が焦点となりました。
そうした最近の事例に比べると、今年の選定は、地道に民主化運動に取り組む女性が選ばれたことで、過度の政治性を排して、雑音の少ないものとなっています。
【「状況は大きく改善されたが、十分にはほど遠い」】
今回の受賞が女性の地位向上を目指す運動の後押しになれば幸いですが、世界の女性の置かれている現状については、依然厳しいものがあります。
社会進出の壁、教育機会の差別にとどまらず、出生児の男女比率に不自然な差があるというような、生まれてくる時点での差別の問題もあります。
最近数日に目にした、アフガニスタンとケニアの女性に関する話題2件です。
****この地で生きていく 〈アフガン 復興と戦乱:上〉****
■女性の尊厳 進歩と足踏み
中部バーミヤンから24キロ離れたシャイダン村。土を固めた壁の自宅で、6児の母ファティマさん(35)は日本ではもう見かけない手回しのミシンを操り、3時間で1枚の服を仕上げる。すべて近所からの注文だ。普段着なら60~70アフガニ(100円前後)、礼服でその2~3倍を受け取る。
縫製を始めたのは今年初め。周りの村でも、仕立屋は男性ばかりで、女性から人気が集まる。「同じ女性だから体に直接触れて寸法を測れる。やはり体形に合った服を着たいですから」
月の平均収入は5千アフガニ、9月の断食明けは7千アフガニを超えた。夫のモハマドさん(40)の月給が7千アフガニだから、収入はほぼ倍になった。
きっかけは2年前、日本の資金で国連教育科学文化機関(ユネスコ)が始めた識字教室だった。子供のころは旧ソ連のアフガン侵攻でイランで難民生活。帰国後も、女性の教育を禁じたタリバーン政権下で学校に通う機会はなかった。
10カ月、読み書きを学ぶ。病院でもらう薬の飲み方も、市場の看板も、人に読んでもらう必要がなくなった。成績優秀者が対象の技術研修で裁縫を学んだ。
以前は隅で小さくなっていた結婚式などの集まりで、ドレスを作った人として皆が尊敬の念で接してくれる。「人としての自信や尊厳を得た実感がします」
タリバーン政権崩壊後、それまで顧みられなかった女性に対する施策が相次いで実行された。首都カブールやバーミヤンなど、タリバーンの影響力が大きくない地域では、女性の地位は格段に向上した。
教育省によると、2002年に初等教育を受ける子供は100万人に満たなかったが、今年は800万人に。うち35%が女性児童だ。首都カブールでは男女比率が均等にまでなった。
だが、取り組みは最近、頭打ちの傾向にある。治安の悪化に加え、保守的な文化が妨げになっている。
女性教師がいない地区は全国398のうち240。女子生徒は中等教育になると男性教師から教えを受けられないため、進学できないのが実態だ。教育省は教師の夫婦が赴任した場合、給与を倍増する措置を打ち出すが、効果はあまりないという。
シディク・パトマン副大臣は「状況は大きく改善されたが、十分にはほど遠い。今後、国際社会の支援がどの程度続くかも大きくかかわっている」と話す。【10月6日 朝日】
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女子教育を否定してきたタリバンが方針転換して、女子教育を認める動きが出ているという報道が今年7月あり、このブログでも取り上げたことがあります。
“(アフガニスタン東部の)クナール州の“影の政府”(ほぼ全州に設置されているタリバンによる非合法政府)は今年に入ってから、州内14地区にある州政府の教育担当者に学校再開を“通達”。以降、女子教育に反発する武装勢力が学校運営を妨害しないよう、タリバン兵による警備を行うだけでなく、教師の質や勤務態度も監視しているという。“【7月14日 産経】
こうした動きは、今どのようになっているのでしょうか?
【「徐々に変わることが望ましいのです」】
アフリカにおける女子割礼の問題は、08年3月9日ブログ「「国際女性の日」に女子割礼を考える」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080309)でも取り上げたことがあります。
下記は、ケニアにおける女子割礼の最近の情勢です。
****女子割礼禁止に直面するマサイ、遠い道のり ケニア****
ケニア南西の町ナロク(Narok)にある小さな教会では、女子割礼(女性器切除)から逃れてきたマサイ人(Maasai)の少女十数人が保護されている。女子割礼はマサイ人の古くからのしきたりだが、ここにきて、健康上の懸念や新法の制定により伝統にほころびが生じつつある。
マサイの長老たちは女子割礼を文化だとして強く擁護している。そんな中、この教会の牧師ら一部のマサイ人たちは伝統に背を向け、2007年、ナロクに少女たちの「駆け込み寺」として教会直属の保護センター「マサイの少女たちの希望(Hope for the Maasai Girls)」を設立した。
だが、運営はスムーズではない。怒った男たちがしばしば設立メンバーを脅迫したり、逃げ込んだ娘を親が勘当したりするためだ。
■早ければ9歳から、割礼が根付いた社会
マサイ社会の伝統では、少女は結婚する前にまず割礼を済ませなければならない。そして親にとって娘を嫁に出すことは、婚資(夫方から妻の実家への贈り物)をもらえることを意味する。婚資はたいてい、牛数頭。半遊牧民のマサイにとっては大きな財産だ。
「未割礼の少女を嫁にもらうと、男の価値が下がるとみなされます。割礼を受けていないと参加できない儀式もあるのです」と、保護センターを運営するマーティン・オロロイゲロさんは説明した。
学校が休みに入ると、マサイの少女たちは早ければ9歳で、大人への通過儀礼として割礼を受ける。これは自動的に、はるかに年配の男性のもとへ嫁がされる状態になったことを意味する。
「マサイは他の部族とは違って、割礼を済ませてもいないような娘を嫁には出さない。割礼が済めばその娘は成人だ。男に嫁ぐことができるんだから良いことだ」と、ナロクのある長老は語った。
保護センターにいる少女たちに、割礼から逃げた経緯について聞いてみた。15歳のマリーさんは、「両親が死んだあと私を引き取った保護者が私を結婚させようとしたから、ここに逃げてきたの」と語った。「割礼されて結婚させられた女の子は、苦しい生活を送ることになる。わずかな収入を得るために卑しい仕事もせざるを得なくなるから」
同じく15歳のサラさんも同意した。「割礼されたら、出産がとても困難になる。だから割礼を拒否したんです。それに、嫁ぐ相手はおじいさんで、もし死んでしまえば残された女の子は生き延びるために大変な苦労をしなければならなくなる」
■ファーストレディーも廃止に意欲
女子割礼の風習があるのはマサイだけではない。ケニアの他の部族も行っている。割礼では陰核を時には外陰部と一緒に切除するが、使われる刃物は消毒していないことも多く、麻酔なしに行われることも少なくない。その結果、合併症を起こしたり、出血多量で死亡する例もあり、NGOやケニア政府からは批判の対象となっている。
ケニア議会は先に、女性器切除(FGM)禁止法案を可決し、法制化した。違反者には禁錮7年または罰金5000ドル(約40万円)が科され、相手が死亡した場合は終身刑となる。
同国のルーシー・キバキ大統領夫人は9月、この新法の厳格な適用を呼び掛けた。「これらの罰則は、効果的に実施されれば十分な抑止力になる。FGMが一般的な地域では出産時の母親と新生児の死亡率が高いが、一因はFGMだ」
とはいえ、マサイ社会では女子割礼がいまだに広く行われており、支持する人も多い。保護センターのオロロイゲロさんは次のように話した。「すぐに廃止にはならないでしょう。時間がかかります。私たちは地域社会を混乱させたいわけではありません。私たちもその一員なのですから。徐々に変わることが望ましいのです」 【10月7日 AFP】
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08年3月9日ブログでも書いたように、“過去の習慣であっても、伝統として守るべきものと、悪しき因習として改めるべきものがあります。女子割礼は極めて危険な暴力である点、更に、この習慣が“女性は性的に快楽を得てはならない”“男性の性的自由は認められても女性の自由は認められない”といった男性の女性支配、女性は男性に従属すべきという考え方と結びつき、女性の社会的地位を低くとどめる社会構造と密接に関連している点で、“守るべき文化・伝統”とは容認できません。”
残念なことに、この先まだ多くの女性の地位に関する活動家の受賞が“必要”とされているのが現状です。
【民主化運動がこれ以上国内で高まるのは困る?】
なお、戒律の厳しいイスラム教ワッハーブ派の影響が強いサウジアラビアにおける女性参政権や自動車運転の話題について、このブログでも取り上げたことがありますが、禁止されている車の運転を強行した女性に裁判所が言い渡したむち打ち10回の判決について、アブドラ国王が撤回を命じたそうです。
****サウジ:車運転女性のむち打ち判決撤回 国王命令****
保守的なイスラム社会のサウジアラビアで、禁止されている車の運転を強行した女性に裁判所が言い渡したむち打ち10回の判決について、アブドラ国王が撤回を命じたことが28日、明らかになった。
サウジの富豪ワリード・ビンタラール王子の妻で女性の運転解禁論者でもあるアミーラ・タウィール王女が短文投稿サイト「ツイッター」で明らかにした。
サウジでは中東各地での民主化運動「アラブの春」の影響で、権利拡充を求める女性のデモが発生。国王は25日の演説で、4年後の自治評議会(地方議会)選での女性参政権付与など、女性の権利向上を表明したばかりだった。
国王が撤回を命じた理由は明らかにされていないが、判決が権利向上の方針に反すると判断したとみられる。米誌フォーブス(電子版)によると、王子自身も国王に撤回を働き掛けたという。
王女によると、被告は「この不当な判決が出てから抱いていた恐怖を国王の命令が消し去ってくれた」と喜んだという。
西部ジッダの裁判所は27日、女性の運転解禁を求める抗議行動の一環で、今年7月に運転中、当局に拘束されたシャイマ・ジャスタニア被告にむち打ち刑を言い渡した。【9月29日 毎日】
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