(「ハッカニ・ネットワーク」指導者のスィーラジュッディーン・ハッカーニー ラバニ元大統領暗殺事件で、同氏は英BBC放送に対し「われわれは殺害していない」と犯行を否定しています。 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6194930396/ )
【「ハッカニは紛れもなく、ISIの一部門として活動している」】
アフガニスタンのタリバンと連携して、パキスタン北西部の山岳地帯を拠点に活動するイスラム過激派「ハッカニ・ネットワーク」の活動活発化、その「ハッカニ・ネットワーク」を支援していると見られるパキスタン情報機関へのアメリカ側の苛立ちについては、
9月23日ブログ「パキスタン テロ組織との繋がりをアメリカが厳しく批判 昨年に続き洪水被害拡大」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110923)
10月2日ブログ「パキスタン イスラム過激派支援を巡り、アメリカとの関係悪化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111002)
でも取り上げてきました。
「ハッカニ・ネットワーク」は、アフガニスタン東部を中心にアフガニスタン政府や駐留国際部隊に攻撃を行ってきましたが、最近は首都カブールを取り囲む中部の州まで勢力を拡大しています。
6月28日、アフガニスタンの首都カブールのインターコンチネンタルホテルを襲撃・占拠し、警察と銃撃戦を展開した事件
9月10日、中部ワルダク州のNATO軍基地でトラックによる自爆攻撃を行い、80人近くの米兵を負傷させた事件
9月13日、カブールのISAF本部や米大使館をロケット弾などで攻撃した事件
9月20日、タリバンとの和平交渉の責任者を務めていたラバニ元大統領がカブールで自爆テロにより暗殺された事件など、一連のテロ事件に「ハッカニ・ネットワーク」が関与したとアメリカ側は見ています。
以前から、「ハッカニ・ネットワーク」の背後にはパキスタン情報機関(ISI)が存在していることは知られていましたが、米軍制服組トップでもあるマイク・マレン米統合参謀本部議長が先月の上院軍事委員会の公聴会で「ハッカニは紛れもなく、ISIの一部門として活動している」、「ISIの支援の下、ハッカニの工作員がトラック自爆テロや米大使館攻撃を行った。インターコンチネンタルホテル襲撃など、数々の活動の背後にこのグループがいることを示す信憑性の高い証拠がある」と、パキスタン・ISIを名指しして批判、これにパキスタン側が「事実無根だ」(キヤニ陸軍参謀長)と反発する形で、パキスタン・アメリカ両国の関係が悪化してしています。
なお、「ハッカニ・ネットワーク」とISIの関係については、“消息筋によると、アハメド・パシャーISI長官が先頃訪米してデービッド・ペトレアスCIA(米中央情報局)長官と会談した際は、ISIがかつてハッカニに物資と訓練を提供していた事実を認めた。しかし、1年余り前に関係を完全に断ったと説明したという”【10月12日号 Newsweek日本版】とのことです。
また、パキスタン政府は、アメリカが要請する「ハッカニ・ネットワーク」掃討に消極的な態度を取り続けており、“ある米政府高官によれば、アメリカ政府はパキスタン軍への弾薬やヘリコプターの提供について協議する用意があるが、具体的な話は進んでいないという。
ハッカニが拠点にする北ワジリスタンに攻勢をかける兵力の余裕がないのだと、キヤニ(陸軍参謀長)は言い続けている。しかし別の消息筋によると、パキスタン陸軍第14歩兵師団は、ハッカニの本拠と2キロも離れていない場所に約1万5000の兵力を配備している。パキスタン軍の士官学校の目と鼻の先に、国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディンが長い間潜んでいたて件を連想させると、この消息筋は言う“【同上】とも。
【オバマ大統領:「パキスタン軍・ISIが武装勢力と関係していることは疑いない」】
ただ、パキスタンはアメリカのアフガニスタン戦略にとって必要不可欠なパートナーですので、10月2日ブログでも取り上げたように、オバマ大統領は、9月30日、マレン統合参謀本部議長の議会証言について、「両者の正確な関係についての情報は、われわれが望むほど明確ではなかった」と述べ、マレン氏の証言内容を事実上修正し、パキスタンとの関係の沈静化を図っていました。
しかし、どういう事情があったのかはわかりませんが、6日の記者会見で、パキスタン軍やISIがアフガニスタンの武装勢力と関係していることは「疑いない」と明言して、パキスタンへの強硬姿勢を強めています。
****米大統領:武装勢力との断絶、パキスタンに要求****
オバマ米大統領は6日の記者会見で、パキスタン軍や軍情報機関・ISIがアフガニスタンの武装勢力と関係していることは「疑いない」と明言し、パキスタン側に武装勢力との関係を断つよう求めた。
パキスタン軍当局と武装勢力の関係を巡っては、先月30日に退任したマレン米統合参謀本部議長が在任中、アフガンの首都カブールの米大使館襲撃事件について「ISIの支援を受けた武装勢力ハッカーニ・ネットワークが計画、実行した」と述べ、パキスタン側の猛反発を招いた。
大統領が両者の関係に言及したことで、パキスタン側が改めて態度を硬化させる可能性がある。大統領は会見で「米国民や国益の保護に資するかどうかという観点でパキスタンとの関係を検証する」と指摘した。【10月7日 毎日】
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「ハッカニ・ネットワーク」と背後でつながるパキスタンの狙いは、アフガニスタンの和平交渉を潰すことにあるとの指摘があります。
****パキスタンが和平つぶし?****
・・・・米政府としては、アフガニスタン政府とタリバンの和平を実現させるためにパキスタンの協力を取り付けたい。しかしパキスタン軍とISIが、自分たちの影響力が及ばない和平交渉を支持するとは考えにくいとみている。
実際、昨年初めに、当時タリバンのナンバー2だったアブドル・ガニ・バラダルがアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領の兄弟とひそかに話し合いを行っているとの情報を得ると、ISIは直ちにバラダルの身柄を拘束。以来、彼は外部との接触を断たれている。ラバニ元大統領の暗殺もこの延長線上に位置付けられる。・・・・【10月12日号 Newsweek日本版】
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【パキスタンに最大限の圧力をかけ、パキスタン側から問題に対処させる】
上記Newsweek記事は、今後のアメリカ側の選択についても、下記のように指摘しています。
****脅しの効果に望みを託す*****
アメリカが単独で軍事行動を取ることになれば、どう転んでも好ましくない状況に陥る
こうした状況で、オバマに何かできるのか。「目下の最優先事項は、パキスタンに最大限の圧力をかけ、パキスタン側から問題に対処させること」であると、レオン・パネッタ国防長官は上院軍事委員会で語った。
もしパキスタンが協力しなければ? 「その場合にどのような選択肢があるのか、どういう措置を取る可能性があるのかないのかを、現時点で論じることは好ましい結果につながらない」と、パネッタは言葉を濁した。
アメリカがパキスタンでの軍事攻撃という選択肢をちらつかせていることに、パキスタン側は激しく反発する。「われわれの国土を踏むことをパキスタン国民は許さない」と、レーマン・マリク内相はロイター通信の取材で述べた。「絶対に、だ」。パキスタンには「主権の一部として、国益と国民の願いに従って政策を決める権利がある」と、キヤニも言い切った。
米政府は、軍事攻撃の脅しをかければ、ISIがハッカニを抑え込むのではないかという期待をまだ捨てていない。しかし、その作戦が失敗し、アメリカが単独で軍事行動を取る事態になれば、どう転んでも好ましくない状況に陥る。パキスタンでは、激しい反米感情が湧き起こるだろう。
米軍無人機による上空からの攻撃を強化すれば、ハッカニの拠点を破壊できるだろうが、どうしても民間人に多くの犠牲が出てしまう。特殊部隊を送り込む場合は、極めて充実したリアルタイムの情報が不可欠だし、ハッカニの拠点近くに展開しているパキスタン軍部隊と衝突する危険もある。
最悪なのは、大規模な地上部隊を投入するパターンだ。19世紀後半から20世紀前半にかけて、パキスタン北部の部族地域を平定しようとして泥沼にはまり込んだイギリス軍の二の舞いになりかねない。
いずれにせよ、パキスタンが報復を行うのは簡単だ。手っ取り早いのは、アフガニスタン駐留部隊に補給物資を運ぶトラックの通行を遮断することだが、パキスタンがもっと過激な報復を行えば、双方が甚大な打撃を被る。
自爆テロや大使館攻撃のような「この手の攻撃が続く状態を許すつもりはない」と、パネッタは一貫して述べている。この言葉の本気度が試される状況を、パキスタンとハッカニがつくり出さないよう願うばかりだ。【10月12日号 Newsweek日本版】
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ビン・ラディン容疑者殺害でも両国関係は悪化しましたので、再度特殊部隊を送り込んで・・・というのは、現実的ではないように思われます。
何とかアフガニスタンの泥沼からはい出そうとしているのに、パキスタンに大規模な地上部隊を投入云々は論外です。
上記記事にもあるように、また実際にこれまでも実行されたことがあるように、アフガニスタンへの補給路を止めるというパキスタン側の報復は容易です。
アメリカ側としては、巨額の支援の更なる凍結などをちらつかせながら、これまで同様、粘り強く対応するしかないようにも思われます。
なお、パキスタンでは、5月のビンラディン容疑者殺害作戦で米軍に協力した医師を「裏切り者」として処分する提言が調査委員会から出されています。
****対米協力の医師訴追を=ビンラディン殺害で調査委―パキスタン****
パキスタンからの報道によると、米軍が5月に実行した国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者殺害作戦について調査していたパキスタンの独立委員会は6日、同容疑者の潜伏場所特定で米国に協力したとして拘束中のパキスタン人医師を「反逆罪」で訴追すべきだと提言した。提言通り訴追される可能性もある。
独立委は米軍の一方的軍事作戦を許した当時のパキスタン軍や政府の対応の不備などを徹底調査するのが目的だが、提言は政府批判は避け、医師だけを「裏切り者」扱いする内容となった。【10月7日 時事】
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【アフガニスタン:「唯一の道は、武装勢力の拠点になっているパキスタンとの交渉だ」】
アフガニスタンでは、ラバニ元大統領殺害を受けて、カルザイ大統領がパキスタンへの批判を強めています。
タリバンは独自に和平交渉を行う権限を持っていないと、これまで進めてきたタリバンとの和平交渉を見直し、「我々はタリバーン指導部がどこにいるのかすらわからない」「唯一の道は、武装勢力の拠点になっているパキスタンとの交渉だ」と、パキスタン側へ圧力をかける方針に転換しています。
また、パキスタンへの牽制の一環として、パキスタンと宿敵関係にあるインドとの接近を進めています。
****アフガン大統領、インド訪問 パキスタン牽制の狙いか****
アフガニスタンのカルザイ大統領は4日、インドを訪問し、シン首相と会談、安全保障協力を含む戦略的協調関係を結ぶ合意文書に署名した。カルザイ氏は先月のラバニ元大統領の暗殺事件にパキスタンが関与しているとして、不信感を高めており、インドとの関係強化でパキスタンを牽制(けんせい)する形となった。
合意文書によると、インドはアフガン治安部隊の訓練や装備面で協力するほか、首脳会談の定例化や、経済、教育、人材交流の促進など包括的な協力強化で一致した。インド側がアフガンでの受注を目指す鉱山開発に関する文書にも署名した。アフガンが戦略的協調関係を結ぶのはインドが初めて。
会談後、シン氏は記者会見で「アフガンを支援するため、できる限りのことをする」と強調。カルザイ氏も「インドの鉱山技術はアフガンに間違いなく貢献する」と述べた。
アフガン国内では、反政府武装勢力タリバーンとの和解を目指す高等和平評議会の議長だったラバニ氏の暗殺に、パキスタン当局が関与したとの見方が広がっている。捜査当局はラバニ氏宅で自爆した男がパキスタン人だったと断定した。
和解路線を掲げるカルザイ氏は今年に入り、タリバーン指導部に影響力を持つとみられるパキスタンとの連携強化に動き、和解に関する協議機関を設置するなど協力を強く求めていた。
だが、暗殺事件以降は態度を一変。カルザイ氏は3日夜のテレビ演説で、「パキスタンはテロリストを使ってアフガンに対し裏表のある行動をとっている」と非難した。
同じ演説でカルザイ氏は「外国の干渉を防ぐために、(別の国々と)戦略的協調関係を結ぶ必要がある」と言及。インドや米国との関係強化でパキスタンに圧力をかける方針への転換を示唆した。
一方、タリバーン政権時代のようにアフガンがパキスタンの影響下に置かれることに警戒感を抱いてきたインドは、国会議事堂の建設を始め、道路、電力などの分野で主要援助国並みの総額20億ドル(約1500億円)の支援を約束するなど、カルザイ政権と関係を深めてきた。アフガンでは近年、インド大使館やインド人援助関係者を標的にしたテロが頻発。インド側はパキスタン当局の関与を疑ってきた。
インド側には、アフガンとの治安分野を含めた関係強化が、アフガンの治安に影響力を持つパキスタンを刺激する可能性は否定できないとの見方もある。【10月4日 朝日】
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カルザイ大統領は、「パキスタンは双子の兄弟、インドは偉大な友人。友人と結んだ合意は兄弟には影響を及ぼさないし、合意は外国に向けられたものではない」と述べ、合意に警戒感を示すパキスタンの懸念払拭に努めたと報じられています。
そのアフガニスタンでは、「ハッカニ・ネットワーク」と繋がるカルザイ大統領暗殺計画発覚が報じられています。
****アフガン大統領暗殺計画 護衛・教授ら6人逮捕****
アフガニスタンの情報機関、国家保安局(NDS)報道官は5日、首都カブールで記者会見し、カルザイ大統領の暗殺を計画した疑いで、大統領の護衛1人と大学教授、学生ら計6人を逮捕したと発表した。6人は、国際テロ組織アルカーイダと、パキスタンに拠点を置く武装勢力ハッカニ・ネットワークの両組織のメンバーとのつながりが確認されたという。
フランス通信(AFP)などによると、6人はカブール医科大の宗教学教授からアルカーイダに勧誘されたという。暗殺までの準備金として15万ドル(約1100万円)を受け取り、カルザイ氏が地方を訪問するタイミングを狙っていた。
アフガニスタンでは先月、ラバニ元大統領が暗殺されたほか、カルザイ氏の弟や大統領顧問など有力者の暗殺が相次いでいる。カルザイ氏自身も、これまで少なくとも3度命を狙われている。【10月6日 産経】
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アフガニスタンからの米軍撤退、その後のアフガニスタンでのパキスタン・インドの影響力争いもあって、ますます混迷の度を深めるパキスタン・アフガニスタン情勢です。