孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  プーチン首相、単一経済圏「ユーラシア連合」創設の構想発表  現実性には疑問も

2011-10-09 20:09:14 | ロシア

(09年1月、ロシアとウクライナの天然ガス価格をめぐる対立から、ロシアからの欧州向けガス供給がストップし、欧州各国を震撼させました。このときロシア・プーチン首相(写真右)と交渉にあたったのがウクライナのティモシェンコ前首相(写真左) 両者の合意でガス供給は再開されましたが、ティモシェンコ前首相が失脚した今、このときの交渉が職権乱用にあたるとして裁判にかけられています。
この裁判の行方・影響がウクライナの政局に影響し、ひいてはウクライナとロシアの関係、更にはプーチン首相の「ユーラシア連合」構想の現実性にも影響します。 “flickr”より By Jedimentat44 http://www.flickr.com/photos/jedimentat/3237346117/ )

【「ソ連の再建ではない」】
来春の大統領復帰が確実視されているロシアのプーチン首相が、旧ソ連諸国を単一経済圏「ユーラシア連合」(【毎日】では「ユーラシア同盟」)に再統合する構想を打ち出しています。

ロシアとカザフスタン、ベラルーシで構成する関税同盟が来年1月に人、商品、資本の移動を自由化する単一経済圏に移行する予定ですが、これに他国も加えた「より高度な統合」が次の課題だとしています。
プーチン首相は、「ユーラシア連合」は「ソ連の再建ではない」とも主張、新しい価値観に基づき、「経済・通貨政策の緊密な協調」を伴った「完全な経済連合」を想定していると主張しています。【10月5日 産経より】

****ロシア:プーチン首相 「ユーラシア同盟」創設構想*****
ロシアのプーチン首相は4日付のイズベスチヤ紙に論文を発表し、20年前に崩壊したソ連の再統合を念頭に、ロシアと周辺諸国による「ユーラシア同盟」の創設構想を打ち出した。確実視される来年5月の大統領復帰に向けた新たな外交政策として注目される。

プーチン氏は論文で、ロシアとカザフスタン、ベラルーシで構成する関税同盟や、この3国で来年発足する「統一経済圏」など旧ソ連の経済的再統合の動きに触れたうえで、ユーラシア同盟構想は「より高いレベルの統合に進む野心的な目標」と強調。ユーラシア同盟は「ソ連の再建ではない」としつつ、「新たな価値や政治・経済的な土台に基づく緊密な統合は、時代の要請だ」と述べた。

プーチン氏はまた、旧ソ連に残るインフラなどの遺産を活用するのは「我々の共通の利益」であり、世界的な経済危機の影響を克服し、成長を続けるには、大国ロシアを中心に旧ソ連諸国が再結集すべきだとの考えを示した。
旧ソ連では、ロシアが主導する関税同盟に中央アジアのキルギス、タジキスタンが加盟を検討。ロシアはウクライナにも加盟を求めており、プーチン氏としては関税同盟を将来的にユーラシア同盟へ発展させたい考えとみられる。

一方、旧ソ連11カ国でつくる独立国家共同体(CIS)は形骸化が進んでおり、新たな同盟構想を打ち上げることで、ロシアが勢力圏とみなす旧ソ連での求心力を高める狙いもありそうだ。
プーチン氏は大統領時代の05年、1991年12月のソ連崩壊について「20世紀最大の地政学的な悲劇だ」と発言していた。【10月4日 毎日】
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欧州のEUが債務危機にあえぎ、アメリカも長期的な経済停滞の恐れを指摘されている中で、プーチン首相の構想は旧ソ連圏で存在感を増していた欧米や中国への対抗心をあらわにしたものとの見方があります。
また、こうした経済圏がソ連の復活に当たるのではないかという欧米からの懸念を念頭に、民主主義や市場経済のルールなど共通の価値観を共有するものだとして、「ソ連の再建ではない」とも強調しています。

非効率な国家統制型経済を自ら変革する方が先決
しかし、「ユーラシア連合」の現実味にはロシア国内からも疑問の声が相次いでいるようです。

****旧ソ連圏再統合」疑問の声 プーチン首相、ユーラシア連合構想*****
20年間で求心力低下…周辺国はダンマリ
・・・・「ユーラシア連合」について、周辺諸国からの公式な反応は示されていない。だが、露国内では早くもプーチン氏の構想が「言葉による示威行動」にすぎず、「ロシアには(旧ソ連圏を再統合する)手段がない」(独立新聞)といった異論が続出している。

ロシアの旧ソ連圏での求心力はこの20年間で大きく低下し、露・ベラルーシの「連合国家」や両国と中央アジア諸国の「ユーラシア経済共同体」といった過去の“再統合組織”にはほとんど実体がないためだ。
これまでに「関税同盟」への関心を示したのは最貧国のキルギスとタジキスタンの2カ国のみ。これらと「連合」を形成しても「問題を抱えるだけ」であり、経済発展のためにはロシアが非効率な国家統制型経済を自ら変革する方が先決だとも指摘されている。

旧ソ連諸国の多くは独裁・強権体制を敷く点で共通するものの、「ソ連復活」には警戒感が強い。
「ユーラシア連合」の行方を左右するとみられる地域大国、ウクライナでは親露派とされていたヤヌコビッチ大統領が対EU接近路線に転じており、同国をめぐるEUとロシアの駆け引きも焦点になるとみられている。【10月9日 産経】
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欧米・ロシア双方からの批判を受けるウクライナ
“EUとロシアの駆け引きも焦点になる”とみられているウクライナですが、こちらは微妙な情勢です。
親露派政権として誕生したヤヌコビッチ大統領ですが、最近は欧州との関係拡大に乗り出しています。
ロシアと欧米双方を天秤にかけるような外交は、ロシアに隣接する国としてはある意味当然の外交でもあり、ベラルーシのルカシェンコ大統領や、キルギスのバキエフ前大統領などにもみられたことです。

しかし、ティモシェンコ前首相に対する裁判(首相在任中の09年1月にロシアと天然ガス購入合意を結んだ際、内閣の承認を得ないで不利な条件を受け入れたとして職権乱用に問われています)が、“政治的”として欧米からの批判にさらされています。

また、ロシアも、ヤヌコビッチ大統領がティモシェンコ氏を裁判にかけることで、09年に合意されたガス価格を引き下げようと恫喝を始めたと受け止めており、ロシアも欧米に協調する形で、「ガス取引に違法性はない」とティモシェンコ前首相の裁判を批判しています。
ロシアは「関税同盟」にウクライナが加わることなどを価格見直しの条件に突きつけています。

こうして、ヤヌコビッチ大統領は欧米・ロシア双方からの批判を受ける状況となっています。

****ウクライナ:ティモシェンコ前首相判決へ 職権乱用で起訴*****
「職権乱用罪」で起訴されたウクライナの野党政治家、ティモシェンコ前首相(50)に対する判決が、11日にも首都キエフの地区裁判所で言い渡される。

欧米諸国はヤヌコビッチ政権が政治圧力をかけていると批判しており、有罪判決の場合は関係冷却化が避けられない。ヤヌコビッチ政権は最近、欧米との関係強化に乗り出したが、一方で来年に議会選をひかえ、「政敵」への譲歩は支持者の反発を招く恐れがあり、難しい立場に追い込まれている。

ウクライナ最高検察は、前首相が在任中の09年1月にロシアと天然ガス購入合意を結んだ際、内閣の承認を得ないで不利な条件を受け入れたとして今年5月に在宅起訴。先月27日の公判で禁錮7年を求刑し、合意がウクライナ国営企業にもたらした「損害額」として15億1600万フリブナ(約150億円)の賠償も要求した。

前首相は「すでに判決が決められている典型的なリンチ裁判」と無罪を主張。前首相を支持する野党は「政治裁判」と批判している。「政敵」の失脚を狙うだけでなく、ロシアに対してガス合意の見直しと価格引き下げを求める交渉材料に裁判を使おうとする政権の狙いもうかがえるからだ。
裁判所は今月11日に審理を再開し、即日で判決を下す可能性がある。野党支持者はキエフで断続的に抗議活動を行っており、各地に拡大する恐れも出ている。

昨年2月に就任したヤヌコビッチ大統領は「親露派」とみられてきたが、最近は欧州との関係拡大に乗り出している。だが欧州連合(EU)のファンロンパウ欧州理事会常任議長(大統領)は先月30日、ティモシェンコ前首相の「処遇」に懸念を表明。クリントン米国務長官も先月末、ウクライナのグリシェンコ外相との会談で懸念を伝えた。

一方で、ヤヌコビッチ氏の支持基盤であるウクライナ東部のエリート層が前首相の失脚を求めており、ティモシェンコ氏が有罪になれば国内でも政権への支持が広がるとの見方がある。ヤヌコビッチ氏は前首相からの要請があれば恩赦も考慮する考えを示しているが、ティモシェンコ氏は拒否している。

ティモシェンコ氏は04年の大統領選で反露改革派のユーシェンコ大統領を生んだ民衆運動「オレンジ革命」の立役者として脚光を浴び、ユーシェンコ前政権(05~10年)で2回にわたり首相を務めた。だが昨年2月の大統領選では決選投票でヤヌコビッチ氏に小差で敗れ、「選挙に不正があった」と現政権を批判してきた。
ウクライナ最高会議は来秋までに選挙を行うが、ヤヌコビッチ氏が率いる与党・地域党と、野党・ティモシェンコ連合への支持が20%前後で拮抗(きっこう)している。【10月6日 毎日】
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「オレンジ革命」の“ジャンヌダルク”、そして“ガスの王女”とも呼ばれる美貌の政治家、ティモシェンコ前首相とその裁判については、これまでも再三取り上げてきましたので、今回は割愛します。
(8月23日ブログ「ウクライナ  職権乱用罪で公判中のティモシェンコ前首相 闘い日々」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110823)参照)

なお、09年のティモシェンコ前首相のロシアとのガス価格交渉、その後の価格合意については、すでに当時から、政敵関係にあったユーシェンコ大統領(当時)からも「大統領の提示と大幅に異なる」として違法性が指摘されていました。

11日判決ということで、その行方が注目されます。
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