(今年5月、メキシコ中央部のメレロス州で、24歳の息子を銃撃で亡くしたメキシコ人詩人ハビエル・シシリアの呼びかけで始まった麻薬戦争に抗議する市民デモ “flickr”より By Gozilah52_Archive http://www.flickr.com/photos/42411259@N07/5808104457/ )
【「警察官は怖くなり辞職した」】
メキシコではカルデロン大統領が2006年末に麻薬組織の撲滅に治安部隊5万人を動員して以来、麻薬組織が原因とされる暴力事件による死者は4万1000人以上に上っているとされています。【8月7日 AFP】
しかし、犠牲者数の正確な把握は困難で、メキシコの国家統計地理院は7月、2010年1年間の殺人による死者数が前年比23%増の2万4374人なる見通しを発表しています。その多くは麻薬抗争がらみですが、この数字は従来の大統領府集計による麻薬抗争による死者数を大きく上回っています。従って、06年末以来の犠牲者数は4万1000人より実際は相当大きな数字かもしれません。
いずれにしても大変な数字で、単なる麻薬抗争ではなく、「麻薬戦争」と呼ばれる所以です。
このメキシコ麻薬戦争については、8月1日ブログ「メキシコ「麻薬戦争」 更に悪化、2010年の死者数2万4374人」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110801)など、これまでもたびたびこのブログで取り上げてきました。
以前、女子大生警察署長の話題なども取り上げましたが、多くの警官は麻薬組織と癒着しているか、その報復を恐れて隠れているかで、警察は殆んど機能していません。警官を辞職する者も後を絶たないようです。
****メキシコ北部の町、警官26人全員が辞職****
メキシコ北部チワワ州、アセンシオン警察署の警官2人が襲撃され死亡した事件を受け、同署の警官26人全員が辞職した。人口5000人の町、アセンシオンのドミンゲス・ロヤ町長が4日、語った。
ロヤ町長は「警察官は怖くなり辞職した」と語った。現在、州警察や連邦警察の協力を要請しているという。アセンシオンは、メキシコで最も治安の悪い都市とされるシウダフアレスと同じチワワ州にある。
同じチワワ州のVilla Ahumadaでも2009年に、麻薬組織によるとみられる襲撃事件を受けて警察官全員が辞職する出来事があった。Villa Ahumadaには現在、州警察と連邦警察が派遣されている。(後略)【8月7日 AFP】
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メキシコ警察の名誉のために言えば、警察が全く何もしていない訳でもないようです。
****メキシコ警察、犯罪集団トップを拘束 900人の殺害に関与の疑い****
メキシコ警察は11日未明、メキシコ市南部で急襲作戦を行い、900人の殺害に関与した疑いのある犯罪組織の指導者、オスカー・オスバルド・ガルシア・モントーヤ容疑者を拘束した。メキシコ市に隣接するメキシコ州のアルフレド・カスティジョ検事総長が会見で明らかにした。
ガルシア・モントーヤ容疑者は、300人の殺害に自ら関与し、600人の殺害を組織のメンバーに指示した容疑がもたれている。当局によると、「目のついた手」と呼ばれる組織を率いるガルシア・モントーヤ容疑者は元軍人で、グアテマラ軍の特殊部隊「カイビル(Kaibiles)」で訓練を受けたという。(後略)【8月14日 AFP】
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“900人の殺害に関与”とのことですが、日本の常識では、それまで警察は何をしていたのか・・・という話になります。しかし、それがメキシコの現状です。
【「麻薬組織への強硬姿勢を見直すべきだ」】
比較的最近の麻薬組織関連の事件としては次のようなものが報じられています。
あまりの状況に、国内では「麻薬組織との休戦」を求める声も出ているとか。
****メキシコ:武装集団がカジノ放火 50人以上死亡*****
メキシコ北部の工業都市モンテレイのカジノで25日夕(日本時間26日朝)、武装した男8、9人が押し入り、ガソリンをまいて放火し、逃走した。建物は炎と煙で包まれ、ほぼ全焼。逃げ遅れた客や従業員ら50人以上が死亡した。現地からの報道によると、カジノは麻薬組織によるみかじめ料の要求を拒否していたといい、放火は報復の可能性がある。
メキシコでは、06年に就任したカルデロン大統領が主導する「麻薬組織との戦争」で、銃撃戦や殺人事件が頻発して約4万人が死んでいる。今回は比較的裕福な人々が犠牲となっており、国内には「麻薬組織への強硬姿勢を見直すべきだ」などと麻薬組織の過激化を恐れる声が出始めた。(中略)
カルデロン大統領は26日、「民間人を狙った近年では最悪の事件だ」と怒りをあらわにした。一方、フォックス前大統領は「麻薬組織に休戦を呼びかけ、恩赦を与えるべきだ」と述べ、政府の強硬姿勢を批判した。
また、メキシコからの麻薬流入に頭を痛めている米国のクリントン国務長官は26日、「麻薬組織を崩壊させようと努力するメキシコを支援し続ける」との声明を発表。オバマ米大統領も「野蛮で非難すべき事件だ」とコメントした。【8月27日 毎日】
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****トラックから35人の遺体、メキシコ****
メキシコ東部ベラクルス州で20日、2台のトラックの中から少なくとも35体の犯罪組織構成員の遺体が発見された。
州都ハラパで記者会見した同州のレイナルド・エスコバル検察官によるとガード下の道路に駐車されていたトラックから男性23人、女性12人の遺体が見つかった。これまでに身元が判明した犠牲者は全て、殺人、誘拐、麻薬取引などの犯罪歴があった。(後略)【9月21日 AFP】
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なお、遺体が見つかる前日には、同州内にある3か所の刑務所から、少なくとも32人の受刑者が脱獄したとのことで、ライバル組織との抗争やメキシコ軍との戦闘が進行する中で、熟練のガンマンをそろえるために麻薬組織が組織的な脱獄に関与していると見られています。・・・まるで西部劇の世界です。
【記者殺害数は年々増え、昨年以降15人】
麻薬組織の力に抑えられているのは警察だけでなく、マスメディアも同様です。麻薬組織絡みの大きな事件も地元では殆んど新聞などでは取り上げられないそうです。
勇敢にも麻薬組織の意向に沿わない記事を書けば、報復・・・ということになります。
****麻薬抗争のメキシコで記者殺害相次ぐ 避難・出社拒否****
麻薬抗争が激化するメキシコで、記者が殺される事件が相次いでいる。いずれも麻薬組織が関与しているとみられ、事件が集中する南東部ベラクルス州では、記者らが次々と避難。ユネスコは7月29日、事件を非難し、真相究明を求める声明を出した。
ユネスコによると、今年に入ってメキシコで殺された5人の記者のうち4人はベラクルス州での事件によるもの。その1人は同州の地元紙ノティベルの警察担当の女性記者、ジョランダ・オルダス・デラクルスさん。取材に出て行方不明となった数日後の7月26日、首を切断された遺体で見つかった。6月には同紙の事件・政治担当のコラムニストやその息子の事件担当の写真記者も殺害された。
ジャーナリスト保護委員会(CPJ、ニューヨーク)によると、デラクルスさん殺害事件後、同紙や他紙の記者らが出社しなくなったり避難したりする例が相次いでいる。メキシコの記者殺害数は年々増え、昨年以降15人。警察や軍の情報を漏らすよう麻薬組織から脅され、事件に巻き込まれる例も目立つという。【8月2日 朝日】
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【ネットへの報復 頭部切断、歩道橋からつり下げる】
マスメディアが報復を恐れて報道できない麻薬組織に関する情報を、一般の人々が「Twitter」や「Facebook」やブログを使って伝えていますが、こうした個人の行動に対する報復も激化しています。
****メキシコ:新聞社幹部殺害 ネットに麻薬組織情報書き込み****
米国と国境を接するメキシコ北部タマウリパス州のヌエボラレドで24日、インターネットに麻薬犯罪組織の動きを知らせる書き込みをしていた地元紙女性幹部の遺体が発見された。タマウリパス州では昨年6月に知事選の候補者が射殺されるなど、事実上無法地帯となっている。
殺害されたのは「プリメラ・オラ」編集幹部マリソル・カスタネダさん。インターネットに「ラレドの赤ちゃん」というハンドルネームで、麻薬犯罪組織の監視場所や麻薬の取引場所に関する情報を載せており、軍隊や警察が彼女の情報を利用していた。
カスタネダさんは頭を切り落とされ、遺体の近くに「私はラレドの赤ちゃん。自分で書いたことのためにここにいる。信じたくない人もいるだろうけど、私が陸軍や海軍を信じたからこういうことが起こったの」と書いた紙が残されていた。麻薬犯罪組織「ロス・セタス」によって殺害されたとみられる。
ヌエボラレドでは今月初めにもインターネットのブログやツイッターに麻薬犯罪組織について書き込んだ男女2人が殺害され、遺体が歩道橋からつり下げられる事件が発生していた。
メキシコで犯罪組織に殺害された記者の数は00年から74人に達した。麻薬組織犯罪について実名で報道することは年々難しくなっており、カスタネダさんはインターネット上で本名を明かしていなかった。
ロス・セタスはヌエボラレドを本拠地とする同国で最も凶暴な麻薬犯罪組織で、昨年8月に中米不法移民72人を誘拐して虐殺したほか、今年8月には北部の中核都市モンテレイでカジノを襲撃、52人を殺害している。【9月27日 毎日】
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“セタスは、「殺し屋」となったメキシコ軍特殊部隊の元兵士らによる組織”【9月21日 AFP】とのことですから、警察や一般兵士では対打ちできないのかも。特殊部隊はCIAの訓練も受けていたとか。
この麻薬犯罪組織「ロス・セタス」のメンバー募集“広告”が、【10年8月16日 音の谷商店 お米販売ブログ(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/3523577.html)】に紹介されていますが、その内容には驚きます。
市民たちはTwitterなどを使って、警察とカルテルの衝突場所等の危険地帯をリアルタイムで報告しあっているとのことですが、“NY Times紙の記事を書いたケイブ氏によると、ドラッグ・カルテルは従来の主流メディアについてはコントロールできているが、「ウェブの脱中心化された情報構造には脅威を感じている。彼らがこれを制御することは難しくなってきている」という。ヌエボ・ラレドで今回複数が見せしめに殺されたのも、ドラッグ・カルテルがソーシャル・ネットワークに脅威を感じている証拠だ”【10月3日 WIRED】
とのことです。
「アラブの春」や、つい最近ではアメリカのウォール街抗議デモなどで、その原動力として注目されているソーシャル・ネットワークですが、メキシコでは“命がけ”にもなります。