孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブータン  ネパール系難民の“影” 近代化で変わる意識・価値観 

2011-10-13 23:01:57 | 南アジア(インド)

(きょう13日に挙式されたワンチュク国王(31)とペマ王妃(21) 11月の来日時には、大きな話題になりそうなおふたりです。 “The Globe and Mail”より http://www.theglobeandmail.com/news/world/asia-pacific/bhutans-king-weds-commoner-bride-and-crowns-her-queen/article2199559/

ロイヤル・ウェディングに沸くブータン 国王夫妻、来月日本訪問
ブータンと言えば、伝統文化を重視し、物質的な豊かさを目指すのではなく、心の充実度を指標で示す「国民総幸福量」(GNH)を独自の国家目標として追求する国という、経済成長で多くのものを失った日本などからすれば、一種の理想郷的なイメージが強い国です。
そして、若くハンサムな国王は、自ら民主化を推進する英明な君主としても知られています。

そんなヒマラヤの山岳国ブータンでのロイヤル・ウェディングが話題になっています。

****人気の31歳国王が挙式=新婦は英留学の21歳―ブータン****
ヒマラヤの王国ブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(31)が13日、首都ティンプー近郊の古都プナカで一般人のジェツン・ペマさん(21)と結婚式を挙げた。国民に絶大な人気がある国王は5月、英国の大学に留学中のペマさんとの婚約を発表していた。2人は14年前に知り合ったという。

式は国王の意向で簡素に行われ、外国の元首クラスは招かなかった。現地からの報道によると、17世紀創建の寺院で多くの僧が見守る中、国王がペマさんの頭上に冠を授けた。この日は祝日になり、国内各地に2人の写真が飾られた。
端正な容姿から「ハンサム国王」と呼ばれる国王は、英オックスフォード大留学を経て2006年に王位を継承した。

外交筋によると、国王夫妻は11月に国賓として日本を訪問、天皇陛下と会う。事実上の「新婚旅行」先は日本になりそうだ。国王の訪日は当初5月に予定されていたが、東日本大震災の影響で延期された。【10月13日 時事】 
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前国王と現国王は、王制への信頼が篤い国民を自ら説得して、立憲君主制・民主化への改革を推進してきました。
****ブータン総選挙、国王主導の民主化の総仕上げ****
・・・・ブータンでは王室の人気が高く、民政移行に消極的な国民も少なくない。こうした中、直前の週末には2006年に即位したジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王自ら、「何よりもまず投票を」と国民に呼びかけた。同国王は英オックスフォード大学で学んだ経験を持つ。

ブータンの民主化は、2001年にジグミ・シンゲ・ワンチュク前国王が自ら権限を議会に委譲し、プロセスを主導してきた。息子の現国王とともに国内を行脚し、ブータン国民67万人余に民主化の必要を説いて回ったワンチュク前国王は、国営クエンセル紙によると、「今日の国王は良き君主でも、もし悪しき君主が現れたらどうするのだ?」と人々を諭したという・・・・【08年3月24日 AFP】
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国王の「華美な祝いはしないように」という要請にもかかわらず、国民はそんな国王のロイヤル・ウェディングを喜び、祝賀ムードが溢れているようです。
****ブータン:「イケメン国王」結婚式控え祝賀ムード****
ヒマラヤの山岳国ブータンはジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(31)の結婚式を13日に控え、祝賀ムードに包まれている。「イケメン国王」といわれる端正なマスク、気さくな性格で絶大な人気を誇る国王の結婚に、国民の喜びもひとしおのようだ。

ブータンは、物質的な豊かさを目指すのではなく、心の充実度を指標で示す「国民総幸福量」(GNH)を独自の国家目標として追求。国王も華美な祝いはしないよう政府や国民に要請している。

しかし、国営テレビがここ数日、国王とお相手の姿を繰り返し放映するなど、国民の期待は高まるばかり。首都ティンプーでは11日までに、官庁の入り口や道路脇など街のあちこちに2人の写真が飾られた。雑貨店や文房具店などでは、2人の写真やバッジ、カレンダーが飛ぶように売れている。【10月12日 毎日】
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難民過激派:国王が国民総苦痛(gross national sufferings)に関心もつように・・・
理想郷の英明な「イケメン国王」、美しい新王妃、喜びに溢れる国民・・・あまりに“素敵な話”を聞くと、卑しい私などはケチをつけたくもなります。

大体、ブータンは、バックパッカーのような貧乏旅行者は“入国お断り”の国です。
ビザをとるためには、旅行中のスケジュールを事前に申請せねばならず、滞在期間中は1日200ドル(来年からはハイシーズンは250ドルに上がります。また、ひとり旅行の場合は40ドルの追加料金が必要になります。)の滞在費を支払う必要があります。

この滞在費の何割かが国に納められ、残りで、宿泊、食事、ガイド・ドライバーの費用が賄われるシステムのようです。1泊1万円のホテルで旅行し、ちゃんとしたレストランで食事される方にとっては、むしろ安くあがるシステムかもしれません。

私はバックパッカーではありませんが、普段、1泊1000円とか、せいぜい2000円といった安宿を使い、街中の小さな食べ物屋で食事を済ませる・・・そんな旅行している身には、ブータンのシステムは費用もかかるし、何より、すべて管理されているような窮屈感があります。禁煙国家で、タバコの販売も禁止されています。(外国からの持ち込みは、税金を払えば可)
貧乏外国人の流入による伝統文化の汚染を防ぎ、併せて、国庫収入も潤うという仕組みでしょうか。

それはさておき、
08年3月5日ブログ「ブータン難民 “桃源郷”の光と影」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080305
08年3月25日ブログ「ブータン 初の国民議会選挙 民主化か民族浄化か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080325
で取り上げたように、南部には定住歴の浅いネパール系住民が多く暮らしており、伝統文化を重視する前国王時代からの施策によって、こうしたネパール系住民が国外に追い出される形の“民族浄化”が進行するという“影”の面もあります。

****南部問題 ****
1958年の国籍法を下敷きにして、1985年に公民権法(国籍法)が制定されたが、その際、定住歴の浅い住民に対する国籍付与条件が厳しくなり、国籍を実質的に剥奪された住民が、特に、南部在住のネパール系住民の間に発生した。そもそも、ブータン政府は彼らを不法滞在者と認識しており、これはシッキムのような事態を避けたいと考えていたための措置だったといわれる。

その一方で、ブータンの国家的アイデンティティを模索していた政府は、1989年、「ブータン北部の伝統と文化に基づく国家統合政策」を施行し、チベット系の民族衣装着用の強制(ネパール系住民は免除)、ゾンカ語の国語化、伝統的礼儀作法(ディクラム・ナムザ)の順守などが実施された。

1988年以降、ネパール系ブータン人の多いブータン南部において上記「国家統合政策」に反対する大規模なデモが繰り広げられた。この件を政府に報告し、ネパール系住民への対応を進言した王立諮問委員会のテクナト・リザル(ネパール系)は反政府活動に関与していると看做され追放される。

この際に、デモを弾圧するためネパール系ブータン人への取り締まりが強化され、取り締まりに際し拷問など人権侵害行為があったと主張される一方、チベット系住民への暴力も報告されている。混乱から逃れるため、ネパール系ブータン人の国外脱出(難民の発生)が始まった。後に、拷問などの人権侵害は減ったとされる。

国王は国外への脱出を行わないように呼びかけ現地を訪問したが、難民の数は一向に減らなかった。この一連の事件を「南部問題」と呼ぶ。
後に、ネパール政府などの要請によりブータンからの難民問題を国連で取り扱うに至り、ブータンとネパールを含む難民の流出先国、国連(UNHCR)により話し合いが続けられていたが、2008年3月、難民がブータンへの帰国を拒んだため、欧米諸国が難民受け入れを表明し、逐次移住が始まる予定である。【ウィキペディア】
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今回のロイヤル・ウェディングに際しても、ネパール系難民の反政府組織による爆弾事件があったようです。
****ブータンの連続爆発で犯行声明、国王結婚式を前に****
国王の結婚式を控えたブータンで11日、反政府組織「ブータン統一革命戦線(URFB)」が前日の10日に起きた爆発事件の犯行声明を出した。

爆発は10日夜、インド国境沿いのプンツォリンで発生し、ブータンの警察当局によるとインド国籍の4人が負傷した。ネパールを拠点とする反政府組織URFBは、国王が「ブータンの人々の国民総苦痛(gross national sufferings)」に関心を持つよう、小規模の爆発を起こしたと述べた。

URFBの存在が浮上したのは4年前。民族的、政治的な迫害を受けたとして1990年代初頭にブータンを逃れてきたネパール系住民数万人が暮らすネパール東部の難民キャンプで結成された。URFBはブータン初の総選挙を前にした2008年1月にブータン南部で発生した連続爆発についても犯行声明を出していた。

前国王が導入した政策を批判
ブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(31)と学生のジェツン・ペマさんの結婚式は13日に始まる。
URFBは、国王の結婚を祝福する一方で、「暴力的な手段に訴えることをわれわれに強いた」前国王の政策から現国王が距離を置くことを望むと述べ、「われわれの今後の活動を決めるボールはいま、国王陛下側のコート内にある」と述べた。

URFBなど複数のグループは、ブータンで導入された民族衣装の義務化やネパール語の禁止などの政策の責任が、2006年に現国王に譲位した前国王にあると批判。一連の政策導入で、ネパール系住民は国外避難を余儀なくされたと述べている。
一方、ブータン政府は、難民たちは不法移民だったと述べている。

難民キャンプでは、他にもブータン共産党やブータンの虎などの武装組織が結成されている。【10月11日 AFP】
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【「都市の住民は、西洋において適切とされるイメージのほうに、はるかに影響を受けている。」】
こうした過激派難民の反政府活動よりも現実的な“社会変化”につながりそうなのが、近代化が進むなかでの国民の意識の変化です。

****近代化するブータン、男根像に「羞恥心」感じ始めた市民たち****
ヒマラヤの奥深くに位置する王国ブータンでは、悪霊を退散させるシンボルとして太古から、家の壁面に男根が描かれてきた。しかし、近代化が進む同国の首都ティンプーでは、この男根画をめったに見かけなくなってきている。
今でも地方部ならば全国に存在するこの伝統的な絵柄が首都から消えつつあることは、外部の影響から独自の文化をひたすら守り続けてきたブータンの水面下で、大きな変化が起きていることを示唆している。

インドと中国の間の地政学的に脆弱(ぜいじゃく)な位置にありながらも、一度も植民地化されたことのないブータンでは、西洋的な価値観の影響を恐れ、1974年まで外国人観光客が訪問したことはなく、1999年までテレビ放送は禁止されていた。(中略)

■「少し恥ずかしさを感じるようになったようだ
だが、マンションやショッピングセンターの建設ラッシュにより、都市を抱く急勾配の谷間の景色が変ぼうを遂げているティンプーでは、人びとの態度が変わってきた。

「ここの人びとは少し、恥ずかしさを感じるようになったようだ」と、シンクタンク「ブータン研究センター」の研究員ダショー・カルマ・ウラ氏は語る。「都市の住民は、西洋において適切とされるイメージのほうに、はるかに影響を受けている。こういったもの(男根絵)は他では見かけないですから」

国の発展を測る際、国民総生産(Gross National Product)を尺度とする経済的な発展ではなく「国民総幸福量(Gross National Happiness)」を目標に掲げていることで有名なブータンでは、自国文化の保護は開発の四本柱の1つだ。

政府庁舎では伝統衣装の着用が国民に義務付けられており、公立学校では瞑想が行われ、宗教的な祭りは広く支持を得ている。また観光は、環境と社会への影響を抑えるために制限されている。外国人訪問者は、1日最低200ドル(約1万5000円)以上を支払うことが義務付けられ、ブータン人ガイドを同行させなければならない。

都市の若者世代に西洋化の波
政策の策定・提議を行っている国の機関、国民総幸福量委員会のカルマ・ツェテーム次官は「私の世代と子どもたちの世代の間に変化があるのは気づいている」と語る。「変化が特に目立つのはティンプーなどの都市部だ」。より大きな車を買うことが何よりも大事といった消費文化的な態度が忍び寄ってきていると言う。

ツェテーム氏が最も懸念しているのは、12年前までブータンが水際ではねのけてきたものだ。「テレビを通じた影響が最も大きい。10ドル以下で40~50チャンネルを見ることができる。ホームコメディやそういった類いの番組に付随する価値観(が問題)だ」

首都の路上では伝統衣装を着た人びとが、見るからに新品のトレーナーに野球帽姿の若者たちと入り交じり、ブータンの国技である弓術の矢を売る店の隣には、コーラを飲みながら携帯電話でフェイスブックを見る若者があふれるゲームセンターが並んでいる。(中略)

ブータンでは、今も国民の7割がヒマラヤ山脈の谷間にある山村で暮らしている。多くの地域は現在でも徒歩でしか近寄ることができない。ウラ氏によればこれらの地域では、木製の男根像が今も「好色で風刺的な」地元の祭で使われたり、野原に置かれて動物を守ったりしている。「人はたいてい、何かを失うまでそれに気づかない。失ってから始めて気づくのだ。仏教の価値観の影響下にあるブータン文化は、保存されるべき価値の非常に高いものだ」(ウラ研究員)・・・・【9月7日 AFP】
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