孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

辛亥革命100年  中国・台湾、それぞれの思惑

2011-10-10 21:57:58 | 東アジア

(2月20日 北京 「ジャスミン革命」の呼び掛けに応じた者をねじ伏せる警官 三民主義を掲げる孫文が主導した辛亥革命の「最も忠実な継承者」を自負する中国は、新たな「革命」を警戒しているようです。 “flickr”より By ~囧~  http://www.flickr.com/photos/chaneagle/5718104083/ )

【「(共産党が辛亥革命の)最も忠実な継承者だ」】
孫文が主導し、清朝を倒す辛亥革命の発端となった武昌蜂起から10日で100年となるのを前に、北京の人民大会堂で9日、辛亥革命100周年記念大会が開かれました。
この大会には、死亡説が一時出ていた江沢民前国家主席(85)も出席して、健在ぶりをアピールしています。

****共産党が辛亥革命の継承者」 胡主席、記念式典で強調****
9日、北京で開かれた中国の辛亥革命100年の記念式典で、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は重要演説を行い、中国共産党が革命の「継承者」だとの歴史観を強調。革命を主導した孫文の志を受けた「中華民族の偉大な復興」に向け、中国と台湾の平和統一実現を求めた。

式典は辛亥革命のきっかけとなった1911年10月10日の武昌蜂起から100年を迎えるのを前に開かれた。共産党指導部は胡氏ら政治局常務委員9人全員が顔をそろえ、辛亥革命を重視する姿勢を示した。革命の歴史を通じ、自らの政権の正統性を主張し、中台統一に向けた中華民族の団結を訴える狙いだ。

胡主席は演説で「(辛亥革命が)清王朝を覆し、数千年の専制君主制を終わらせた」と革命を高く評価する姿勢を表明。共産党が「(革命の)最も堅固な支持者であり、最も親密な協力者であり、最も忠実な継承者だ」と位置づけた。【10月9日 朝日】
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胡錦濤国家主席は孫文と共産党の関係を「中国共産党員は孫中山(孫文)先生の革命事業の確固たる支持者であり、最も忠実な継承者である」と表現し、「中華民族の発展と進歩の歴史における新たな時代を切り開いた」と共産党の功績を強調しています。

【「両岸の対立を終結させ、共に中華民族の偉大な復興のため努力しよう」】
孫文については、歴史の教科書に出てくる三民(民族、民権、民生)主義ぐらいしか知りませんが、“中国指導部は民族主義に自らの「正統性」を見いだそうとする。この日の演説でも胡主席は「中華民族の偉大な復興」との表現を23回も使い、「民族独立と人民解放の歴史的任務を成し遂げた」とアピールした。”【10月10日 毎日】

更に、胡錦濤国家主席は、孫文が「統一は全中国国民の願いだ」と述べたことを引用し、「平和的に統一を実現することは、台湾同胞を含む全中国人の根本的な利益に最も合致している」、「血のつながっている運命共同体だ」、「両岸の対立を終結させ、歴史の傷を慰め、共に中華民族の偉大な復興のため努力しよう」と、中国の主張である“中台統一”を展開しています。

“中台統一”については、台湾との関係でも後述するとして、“民族主義は満州族である清王朝を打倒して民族の独立をめざす事を意味し、辛亥革命、第一次国共合作を経て欧米列強の帝国主義による半植民地状態からの脱出と、漢民族と少数民族の平等を意味する五族共和へと発展する”【ウィキペディア】ということで、見方によれば“漢族中心の民族観”ともなります。
現在の、チベット、ウイグル、モンゴル各族の自治権要求あるいは分離独立の問題も、漢族中心の民族主義から生まれていると言えます。

新たな「革命」を警戒する中国
中国共産党が孫文の革命事業の“最も忠実な継承者”ということですが、孫文の“民権主義”と中国共産党による一党強権支配がどのようにつながるのか、部外者は理解に苦しむところです。

****中国、遠い孫文の理想****
・・・・北京の国家大劇院では香港の劇団が中心となって孫文を描いた歌劇が9月末から上演される予定だったが、直前に取りやめとなった。(中略)孫文をどう描き、辛亥革命の意義をどのようにとらえるべきか、当局は神経をとがらせている。

貧富の格差拡大や汚職の深刻化への国民の不満が高まるなか、当局は集会開催を封じ込め、人権活動家への締め付けを強化した。(中略)「民主共和」の理想を掲げた孫文の革命から100年。継承者を自任する中国共産党指導部が、新たな「革命」を警戒する構図が浮かび上がっている。

中国指導部が民権主義とは対極にある強権政治の色合いを強めるなか、各地で5年に1度の人民代表選挙(地方議会選挙)が実施されている。

社会矛盾を自らの手で解決しようと、共産党や政府系団体の推薦を受けない「独立候補」が次々と中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で立候補を表明し、「一党独裁体制に風穴を開けるのでは」と期待が集まった。だが、当局は独立候補が連携して独裁体制を脅かすことを警戒し、「民主の芽」を摘もうとしている。

広東省広州市では、区や県レベルの人民代表選挙に少なくとも14人が「独立候補」として立候補を表明していた。しかし、当局が家族に立候補を断念させるよう圧力を加えたり、資格審査で拒否するなどの妨害工作をした結果、9月の選挙で当選した人はゼロだった。

住宅の強制立ち退き問題をテーマに小説を出した四川省の作家、李承鵬氏や上海の作家、夏商氏ら著名人も微博上で立候補の意向を表明していたが、当局からの圧力で立候補を断念している。夏氏は微博で「(共産党)体制は当選も落選も操ることができると分かった。皆さんに偽りの民主という真相を知ってほしい」と吐露した。【10月10日 毎日】
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“中国の選挙法では、日本の国会にあたる全国人民代表大会の委員は、間接選挙で選ばれるが、区、県、郷の地方議会(全議席約200万)は直接選挙だ。18歳以上の中国国民で有権者10人の推薦があれば誰でも立候補できる。しかし、当局が指名した以外の候補のほとんどは立候補の資格審査で当局に拒否され、当選は極めて難しい”【10月5日 産経】というなかでの、共産党や政府系団体の推薦を受けない「独立候補」の闘い、及び、当局による抑え込み・妨害活動については、7月3日ブログ「中国  共産党以外の民主党派、共産党支持を受けない独立候補の現状」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110703)でも取り上げたところです。

台湾:辛亥革命100周年ではなく「中華民国100年」】
孫文、辛亥革命は、中国共産党が重視する以上に、孫文を“国父”とする「中華民国」台湾にとっては重要な意味を持ちます。
台湾では、辛亥革命のスタートした10月10日は、双十節(建国記念日)として祝われます。

****台湾で大軍事パレード、中国と距離置く姿勢強調****
台湾当局は、兵員約1800人と戦闘機、戦車、ミサイルを動員した過去最大規模の軍事パレードを中心に「中華民国建国100年」を祝う盛大なイベントを台北の総統府周辺で10日に予定しており、中国と距離を置く姿勢を強調している。

2008年に発足した台湾の馬英九政権は、1992年に中台が共通認識に達したとされる「『一つの中国』を中台それぞれが独自に解釈する」ことを認めた。「一つの中国」では中国との認識は一致しているが、台湾は、自らの「中華民国」を正統政権と解釈する立場をとっている。
このため、台湾側が祝うのは、中華人民共和国を生んだ革命史の中での「100年」ではなく、「辛亥革命が清朝を倒し、中華民国が樹立された」(馬総統)という歴史を踏まえた「建国100年」だ。

統一に向けた動きの進展を望む中国は、祝賀行事の共同開催を台湾に呼びかけてきた。しかし、対中政策で「統一せず」を掲げる馬総統は「別々にやればいい」と、拒否してきた。来年1月の総統選で再選を目指す馬総統は、大多数が統一を嫌う世論を重視し、慎重な対中姿勢をとっている。【10月10日 読売】
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“中台統一”を呼び掛ける中国側に対し、馬英九総統は双十節式典で演説し、“中国当局に「(革命を主導した)孫文の理想である自由で民主的で皆が富める国家を実現することを忘れてはいけない」などと呼び掛けた。その上で、辛亥革命によって成立し、台湾が国号とする「中華民国」が今も存在する事実を直視するよう中国側に強く求めた”【10月10日 時事】とのことです。

経済的には中台接近を進め、その成果を誇る国民党・馬英九総統ですが、政治的な“中台統一”とは一線を画していることを、中国に呑みこまれることを不安視する世論にアピールする必要があります。

【「孫文を教える時間は10分ぐらい」】
辛亥革命に対する思いは、台湾の中でも“外省人”と“本省人”では差があるようです。
“辛亥革命は中国大陸での出来事だ。辛亥革命の当時、台湾は日本に統治されていた。中台分断で中国大陸から台湾に逃れてきた外省人やその子孫と、もともと台湾で生まれ育った本省人やその子孫とでは、辛亥革命を「我がこと」と思うか否かの差は大きい。辛亥革命に焦点を当てると、両者の根深い対立に火をつけかねない。外省人である馬総統が、10日の式典を辛亥革命100周年ではなく「中華民国100年」としたのにはこうした背景もある”【10月10日 毎日】

***台湾の「国父」孫文、進む脱神話化〈辛亥革命100年****
「国父」。孫文は台湾でそう呼ばれる。中華民国をつくり、台湾の政権を握る国民党の創設者でもある。赤い100台湾ドル紙幣にほほ笑む姿が描かれ、議会や学校には必ず肖像が掲げられている。台北の国父記念館には巨大な座像がある。

だが、台北市内の公立高校で歴史を担当する男性教諭(33)が向き合う現実はちょっと違う。「100台湾ドル札は蒋介石だと思っていたり、孫文と孫中山(中山は孫文の号)が同じ人物だと知らなかったりする生徒がいるんです」
中国近代史は1年生の学年末の5、6月ごろ、駆け足で教えている。「孫文を教える時間は10分ぐらい。私が学んだころは孫文の英雄物語を詳しく聞かされたものですが……」

1949年、共産党との内戦に敗れ台湾に撤収した国民党は、その後も中国の正統政権を主張し続けた。孫文とその後継者が奮闘した大陸での出来事こそが「我々の歴史」であり、台湾の歴史は軽視された。
しかし80年代に国民党独裁が崩れ、言論、結社の自由が保障されると、台湾の民意が政治の主役になっていくと同時に、歴史の研究や教育でも台湾に光が当てられるようになる。90年代末には高校歴史科に「台湾史」が登場、「中国史」の比重は下がった。孫文の思想を教える「三民主義」の科目は廃止された。

国民党支配への抵抗から台湾に生まれ育った民進党が2000年に初めて政権をとると動きは加速、孫文の脱神話化が進んだ。
06年に改正した教育綱要は「孫文の経歴や主張はかいつまんで説明する。辛亥革命でほかの立憲派勢力が果たした役割も議論する」。孫文だけが歴史を動かしたわけではないという観点だ。民進党系知識人は「国父という舶来品のもとで台湾人は弾圧された。そもそも孫文と台湾は無関係」(鄭欽仁・台湾大名誉教授)と考える。

08年に国民党が政権を奪回した結果、来年から「中国史」の時間は増え、各出版社は新しい教科書を作成中だ。それでも今の流れを押し戻すことは難しい。【9月30日 朝日】
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【「一つの中国」という大いなる虚構
“中台統一”が実現されておらず、台湾と中国が各々自己を主張する今も、“一つの中国”という枠組みが存在します。この「一つの中国」の主権統治者については、敢えて触れず、お互いが都合よく解釈するという、意図的にあいまいにした「92年合意」が、この枠組みと言うか“虚構”の土台にあります。

****中台:「一つの中国」あいまい化 92年交渉文書明らかに****
台湾の対中国窓口機関「海峡交流基金会」(海基会)は毎日新聞などに対し、1992年に「一つの中国」の主権統治者を明確にしない「92年合意」に至るきっかけとなった中国側の窓口機関「海峡両岸関係協会」(海協会)からの手紙の現物を明らかにした。92年合意に関する公式文書は存在しておらず、台湾野党・民進党や台湾メディアによると、手紙の現物が公表されたのは初めて。合意形成にいたる詳細なやりとりが記された交渉文書として、注目を集めそうだ。

来年1月の総統選で再選を目指す与党・国民党の馬英九総統と中国側は、92年合意を土台に関係改善を進める意向。一方、台湾が中国に吸収されると警戒する民進党の総統候補、蔡英文主席は対中交渉の新たな基礎となる「台湾の総意」の作成を訴えており、92年合意を巡り、台湾与野党と中国の3者間で論争が激化している。

92年合意は、中台双方の窓口機関が香港でこの年の10月28~30日に行った協議と、その後の手紙のやり取りや電話で決まった。
台湾側の海基会が毎日新聞などに明らかにした中国側の海協会から92年11月16日の日付で届いた手紙は、A5判で計4枚。

それによると、双方が「それぞれが『一つの中国』の原則を堅持することを口頭で表明する」ことで一致。だが、台湾側は10月の協議の際に「『一つの中国』の意味は各自で異なることを認知する」と付け加えていた点が手紙でも改めて確認された。
これに対して中国側は手紙の中で、「『一つの中国』の政治的意味には触れない」と記述していた。

台湾側は、国民党政権が中国共産党との内戦に敗れて中国大陸から台湾に逃れた1949年以来、「中華民国」は存続し、中国側と対峙(たいじ)する立場を「各自」と表現して強調してきた。中国側は「中華民国を倒して中華人民共和国を建国した」という立場で「各自」を認めなかった。手紙は、中国側が「触れない」との表現で意図的に問題をあいまいにしたことを示している。

民進党の蔡主席は、92年合意について、「双方が都合良く解釈しており、合意に達していない」と指摘。「一つの中国」の原則は「時代に合っていない」と主張している。一方、馬総統と中国側はともに蔡氏を批判し、「92年合意を基礎としてきた協議は進められなくなり、両岸関係は再び不安定になる」と批判している。【10月2日 毎日】
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民進党側も、中台関係が不安定化することは世論対策上、避ける必要があります。
民進党・蔡主席は、8日夜、遊説先の高雄市の集会で、「台湾は中華民国」と発言し、「中華民国は亡命政権」としてきた従来の主張を修正しています。“民進党が政権奪還した場合、馬英九政権が進めた中国との関係改善が後退するとの見方への配慮とみられる。”【10月10日 産経】とのことです。

中台接近を進める国民党は台湾の主権をアピールし、台湾の独自性を重視する民進党は中台関係への配慮を見せるという、それぞれ反対派を意識した世論対策です。
こうした形で過激な主張は排除されるというのが、選挙・民主主義の優れた点とも言えます。

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