孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム過激派支援を巡り、アメリカとの関係悪化

2011-10-02 20:15:24 | アフガン・パキスタン

(9月27日、首都イスラマバードで中国の孟建柱公安相と会談するパキスタン・ギラニ首相 悪化するアメリカとの関係を牽制する狙いと思われます。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6190138040/

ハッカーニ・ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」】
パキスタンはアメリカのアフガニスタン戦略にとって必要不可欠なパートナーですが、一方で、タリバンなどのイスラム過激派との関係が切れないパキスタン軍・情報機関に対するアメリカの苛立ちも募っています。

米軍制服組トップのマレン前統合参謀本部議長が、パキスタンを拠点とし、カブールで起きた米大使館襲撃事件を実行したとされるイスラム武装勢力「ハッカーニ・ネットワーク」をパキスタン軍情報機関(ISI)が積極的に支援しており、同ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」として行動していると名指し批判したことは、9月23日ブログ「パキスタン  テロ組織との繋がりをアメリカが厳しく批判  昨年に続き洪水被害拡大」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110923)で取り上げたところです。

オバマ政権はパキスタンへの軍事援助の凍結拡大をちらつかせながらパキスタン政府に同組織との関係断絶を迫っています。
“カーニー米大統領報道官は27日、パキスタン政府はハッカーニ・ネットワークとの連携解消に「行動を起こす必要がある」と記者団に語り、活動拠点の一掃などに着手しなければ、年間20億ドルに上る軍事援助のうち、7月に通告した最大8億ドルの凍結をさらに拡大させることを示唆した”【9月29日 産経】

【「我々はハッカーニ派に一銭も払っていないし、銃弾一発たりとも提供していない」】
こうしたアメリカ側の批判に、パキスタン側は、「(アメリカは)同盟を失う」(カル外相)、「事実に基づいていない」(キアニ陸軍参謀長)など猛反発、パキスタン軍事都市に潜伏するウサマ・ビンラディン容疑者の米軍による殺害で急速に拡大した両国の溝は、更に深まっています。

****米国:パキスタンと亀裂 アフガン武装勢力との関係巡り****
パキスタン軍情報機関とアフガニスタンの武装勢力「ハッカーニ・ネットワーク」の関係を巡り、米国とパキスタンの間の亀裂が深まっている。
米国はハッカーニ派の幹部を経済制裁の対象に加え、パキスタンに掃討を迫っている。これに対して、パキスタンは「(米国の)圧力は受け入れられない」と反発しており、「対テロ戦争」で事実上の同盟関係にあった両国関係はきしみを立てている。

米・パキスタン関係は今年5月、イスラマバード近郊に潜伏していた国際テロ組織「アルカイダ」の最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者が米軍に殺害されて以来、悪化している。最近のいさかいは、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長がハッカーニ派について「パキスタン軍情報機関ISIの支援を受けている」と発言したのがきっかけだ。
ハッカーニ派はパキスタン北西部の部族支配地域を拠点とし、9月13日、カブールの米国大使館を襲撃したほか、20日に起きたラバニ元アフガン大統領暗殺事件でも関与が疑われている。

クリントン米国務長官は28日の記者会見で、ハッカーニ派を国際テロ組織に指定することを検討していると述べた。また、米政府は29日、ハッカーニ派の司令官、アブドル・アジズ・アバシン幹部の米国管轄下の資産を凍結し、米国の団体・個人に取引を禁じた。米財務省によると、アバシン幹部はハッカーニ最高指導者から指令を受けてアフガン東部でタリバンの戦闘部隊を指揮しているという。

一方、パキスタンのギラニ首相は29日、イスラマバードの首相府に与野党の指導者や軍高官を集め、悪化している対米関係を話し合う会議を開いた。ギラニ首相は「(米国が)パキスタンに『もっと行動しろ』と圧力をかけることは受け入れられない」と述べ、米国の圧力には屈しない姿勢を示した。

会議でギラニ首相は「米国との認識の違いは建設的な対話で解決すべきだ」と米側との接触を続ける姿勢を示す一方、「我が国の国益を守らなければならない」と主張した。パキスタン政府は「パキスタン・タリバン運動」など国内テロ組織の攻撃に悩まされており、ハッカーニ派を新たな敵にしたくない思惑があるとみられる。
会議に出席したパシャISI長官はロイター通信に「我々はハッカーニ派に一銭も払っていないし、銃弾一発たりとも提供していない」と支援を否定した。【9月30日 毎日】
*******************************

パキスタン政府としては、国内の実質的最高権力である軍の機嫌を損ねることはできませんし、反米感情が非常に強いパキスタン国内世論に対しても、アメリカへの弱腰姿勢を見せることはできません。

沈静化を図るオバマ大統領
アメリカもこうした事態をまずいと思ったようで、オバマ大統領がパキスタン批判をトーンダウンさせ、沈静化を図っていますが、今のところパキスタン側の態度は硬いままのようです。

****米軍高官のパキスタン批判 大統領が修正****
オバマ米大統領は9月30日、パキスタン情報当局がイスラム武装勢力のテロ攻撃を支援していると批判したマレン統合参謀本部議長の議会証言について、「両者の正確な関係についての情報は、われわれが望むほど明確ではなかった」と述べ、マレン氏の証言内容を事実上修正した。

パキスタン政府はイスラム武装勢力「ハッカニ・ネットワーク」との関係を強く否定し、「米国は同盟国を失うことになる」と警告。米国とパキスタンの関係は悪化の一途をたどっており、オバマ大統領が沈静化を図った形だ。
ラジオ番組のインタビューでオバマ大統領は、「パキスタン軍の三軍統合情報部(ISI)と武装勢力が協調関係にあるとの明確な情報は現時点ではない」と述べる一方、マレン氏の証言は「パキスタン国内に武装勢力の『安全なる聖域』が存在することへの不満の表明だと思う」と擁護した。【10月2日 産経】
*****************************

【「アメリカは今すぐにでも、パキスタンの態度を変えさせる必要がある」】
オバマ大統領の発言にもかかわらず、パキスタン軍・情報機関とイスラム過激派の関係は誰もが指摘するところです。
ただ、パキスタンはアメリカの要請で国内イスラム過激派掃討作戦も一定に行っており、パキスタンが何を考えて行動しているのか、外から見るとわかりづらいものがあります。

下記は、元駐アハガニスタン米大使ザルメー・カリルザド氏によるものですが、こうしたわかりづらさがアメリカにとっては、10年に及ぶアメリカのアフガニスタンでの努力・犠牲を無にしかねない“パキスタンの二枚舌”との苛立ちになります。

****アメリカを歎くパキスタンの二枚舌*****
アフガニスタン再建の障壁はアメリカの目をかすめてタリバンを支援し続けるパキスタンだ
    
・・・・反政府勢力は5年ほど前から勢いを増しているが、その責任の一端はアメリカとアフガニスタン政府にある。民間人犠牲者の増加や国家再建の遅れ、政府官僚の腐敗は国民を幻滅させた。だがより重要な問題は、パキス
タンが国境越しに反政府勢力を支援していることだ。

オバマ政権は当初から、アフガニスタン再建にはパキスタン政府への対処が重要であることを認識し、パキスタンには強硬な姿勢を取ってきた。
アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンの暗殺のような特殊作戦だけでなく、無人航空機による攻撃を実施。パキスタンで主要テロリストを殺害したり、反政府勢力の隠れ家を破壊してきた。
それでもパキスタン軍部・情報機関とアフガニスタンの反政府勢力とのつながりを断つことには成功していない。

パキスタン政府の真意が分からないことも事態を複雑にしている。パキスタン当局はアメリカとアフガニスタンとの当局者協議で反政府勢力とのつながりを否定したが、誰もそんなことは信じていない。
マイク・マレン米統合参謀本部議長は先日、9月13日にアフガニスタンで起きた反政府勢力による米大使館攻撃にパキスタンの情報機関が関与していたと語った。

目標は「パキスタン帝国」 
パキスタン政府自体が内部分裂している可能性もある。
より穏健な一派は、タリバン支援によってアフガニスタンに友好的な政権を樹立し、インドににらみを利かせたいと考えている。一方、中央アジアに「パキスタン帝国」を築くことを目指す強硬派も存在するのかもしれない。

パキスタンがタリバンを支援し続ければ、アメリカは大きな戦略的打撃を受けかねない。アメリカは今すぐにでも、パキスタンの態度を変えさせる必要がある。
それには抜け目のない外交が必要だ。タリバンとの和平交渉にパキスタンを関与させるべきで、除外されればパキスタンは合意成立を妨げるような行動を取りかねない。
タリバンが和平交渉を拒んだ場合、パキスタンは彼らが領内に構える隠れ家を攻撃する必要がある。アメリカから巨額の援助を供与されていることを考えれば当然だろう。

一方、パキスタンが協力を拒むなら、アメリカはパキスタンの軍部・情報機関への援助を打ち切り、パキスタン領内に潜むタリバンらに対する攻撃を増やすべきだ。多くの国を巻き込んでパキスタン政府に圧力をかける必要もある。
米軍が撤退し始めても、アフガニスタン情勢へのアメリカの大きな影響力が薄れたわけではない。10年にわたる努力を無駄にしてはいけない。アフガニスタン再建を成功させるために、パキスタンの協力を引き出すべく全力を注ぐべきだ。【ザルメー・カリルザド(元駐アハガニスタン米大使) 10月5日号 Newsweek日本版】
*****************************

パキスタンがタリバンを支援するのは、米軍撤退後のアフガニスタンにインドに対抗して親パキスタン政権をつくりたいためと言う話はよく聞きますが、「パキスタン帝国」というのは初耳です。

パキスタンの影響力を用いてタリバンに間接的圧力
上記記事にあるタリバンとの和平交渉については、ラバニ元大統領殺害を受けて、アフガニスタンのカルザイ大統領はタリバンとの直接交渉を打ち切り、パキスタンを通じてタリバンへ圧力をかける方策に転じたと報じられています。

****タリバンとの直接対話打ち切り…アフガン大統領****
アフガニスタンのカルザイ大統領は30日、国内の宗教指導者らとの会合で、旧支配勢力タリバンとの和平交渉について「別の道を模索すべき時にきている」と述べ、直接交渉を打ち切る意向を表明した。
交渉を担当してきたラバニ元大統領がタリバン側との協議の最中に殺害されたことを受け、直接対話に見切りをつけたものとみられる。

カルザイ大統領はまた、「唯一の道は、すべての敵が潜むパキスタンと交渉することだ」と述べ、今後はパキスタン政府との交渉を通じて和平を目指す考えを明らかにした。アフガン側は、パキスタン政府がタリバン指導部に強い影響力を行使しているとみており、その影響力を用いてタリバンに間接的圧力をかける方法へと、戦略転換を図るものだ。【10月1日 読売】
****************************

このことは、パキスタンがタリバンを実質的に支援していることを前提としたものです。
アメリカとしては、パキスタンに圧力をかけつつ、パキスタンの対面を損なわない配慮も必要となります。

【「中国の友はわれわれの友であり、中国の敵はわれわれの敵である」】
一方、パキスタンは中国との接近でアメリカを牽制する構えで、アメリカに自分をなるべく高く売ろうとの思惑でしょうか。

****中国への傾斜鮮明 ギラニ首相、孟公安相と会談****
パキスタンのギラニ首相は27日、首都イスラマバードで中国の孟建柱公安相と会談し、「中国の友はわれわれの友であり、中国の敵はわれわれの敵である」と述べ、緊密な両国関係を強調した。

アフガニスタンの米国大使館襲撃事件に関与したとされる武装勢力ハッカニ・ネットワークをパキスタンが支援しているとして、米国が関係断絶を迫る中で、反発を強めるパキスタンが、中国に擦り寄る姿勢を明確にしたとみられる。

孟氏は「中国は、主権と独立、領土保全を維持しようとするパキスタンの努力を絶対的に支持する」と述べ、同ネットワークに対する軍事作戦をパキスタンに求める米国を牽制(けんせい)した。
孟氏は、パキスタンの治安機関との信頼醸成のため1億1千万ルピー(約1億円)の援助と備品を提供することを明らかにしたほか、経済・技術分野で総額2億5千万ドル相当の支援を行うことでパキスタン側と合意した。【9月29日 産経】
*******************************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする