(イラン・エスファハーン 10月 “flickr”より By Helen http://www.flickr.com/photos/91353882@N03/10490377614/in/photolist-gYZVMy-gW3xLb-gT5zGP-gT4Sa2-gT5xAK-gjTk6v-h9dhHK-gDd8JK-h3Lg4n-h3K3sp-gDc67J-h5BBhW-gW3FpD-fYVCq4-gT4CB9-h7CRrJ-fJSqdS-gT4R3U-gW3yuW-fMX7sp-fNeH2C-fMX7sV-fZyvnd-gLTmyW-gT4Xa2-h4bnt9-g1jESt-h8WN15-h5ARWX-gT4QaR-g2ppS1-g2pq3b-g2px9M-g2pxjr-g2ppMw-g2pXrT-g2ppL9-g2pxBm-gMRVeF-fN1DMs-fN1DNS-gKUgN5-gHr1e6-fNyDNp-g2pUxg-h2cLSV-gYG4Uv-gDc78m-gT4FBs-gW3y4L-gEdBY5)
【天野IAEA事務局長「慎重ながらも楽観視している」】
国際原子力機関(IAEA)とイランの核協議が10月28,29日にウィーンで行われました。
イランは核交渉ナンバー2のアラグチ外務次官を派遣し、天野之弥・IAEA事務局長と会談。
“技術的問題が主に議論されるIAEAとの協議に核交渉トップ級が出るのは異例で、イランは積極姿勢を改めて示した。”【10月28日 朝日】とのことで、核開発を巡るイランの査察受け入れなどが話し合われたものと思われます。
協議はおおむね順調に行われたようで、IAEAとイランは10月29日、共同声明を発表し、イランの核開発問題の解決に向けた今週の協議は生産的だったとし、来月11日にテヘランで再び協議することで合意したことを明らかにしています。【10月29日 ロイターより】
今後の交渉についても、イラン側のメディア報道ではありますが、天野IAEA事務局長の楽観的な見通しが報じられています。
****IAEA事務局長がイランとの次期協議への楽観視を表明****
IAEA国際原子力機関の天野事務局長が、核問題をめぐるイランとの次期協議に関して、「慎重ながらも楽観視している」と表明しました。
プレスTVによりますと、天野事務局長は1日金曜、アメリカ・ワシントンにある研究者の為のウッドロウ・ウィルソン国際センターで、イランの核物質や核施設は、安全に関するIAEAとの規約の内容と一致しており、平和目的で利用されていると認めたということです。
また、「イランとIAEAは、先月28日と29日にオーストリアのウィーンで大変建設的な協議を行なった」と強調しました。
イランのアラーグチー外務次官は、先月28日に天野事務局長と会談を行い、核エネルギー計画に関するイランの新たなアプローチを説明しました。(後略)【11月2日 Iran Japanese Radio】
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【髪をあらわにして、ポップ音楽に合わせて踊る女性】
経済制裁解除を目指し欧米との協議を重視する保守穏健派ロウハニ政権による柔軟姿勢が功を奏している形ですが、イラン最高指導者ハメネイ師もロウハニ政権の交渉姿勢を後押ししています。
****核交渉の士気くじくな=ハメネイ師、強硬派けん制―イラン****
イランの最高指導者ハメネイ師は3日、テヘランで演説し、核問題をめぐり米欧との協議に臨むイラン政府の交渉チームについて「妥協していると見なす資格は誰にもない」と訴え、重責を担う者の士気をくじく必要はないと強調した。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。
イランの保守穏健派ロウハニ政権は国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国との核協議を10月中旬に再開した。今月7、8の両日、ジュネーブで行われる次回協議を前に、交渉に懐疑的な国内保守強硬派をけん制した形だ。【11月3日 時事】
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また、欧米との対話姿勢を示すような動きも出ています。
****イラン首都から反米スローガン掲示板を撤去、関係改善背景に****
国営イラン通信(IRNA)は27日までに、首都テヘラン市内で反米スローガンが唱えられている掲示板などが撤去されたと報じた。
首都行政当局の報道担当者は記者団に、これら掲示板は市の文化関連評議会の同意なく文化団体が設けていたと述べた。
米国、イラン両国の関係は1979年のイラン・イスラム革命時の在テヘラン米大使館占拠事件を契機に断交し、これ以降、厳しい対立状態が続いていた。しかし、今年8月にイラン大統領に就任したロハニ師が欧米諸国との対話促進を打ち出した後、雪解けの兆しが見え始めていた。
ロハニ大統領は欧米諸国との衝突材料となっている核開発問題でも柔軟姿勢に転じ、新たな提案を示したとされる。またオバマ米大統領とは書簡を交換し、国連総会への出席時には電話会談も行った。両国首脳の直接接触はイラン・イスラム革命後、初めてだった。
テヘラン市内の反米スローガン掲示板の撤去は、両国関係のこれらの好転を反映したともみられる。【10月27日 CNN】
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柔軟姿勢で欧米との核交渉を進めるロウハニ政権のもとで、国内的には従来の社会的規制が緩和されていることが報じられています。
****「警官急に消えた」イラン、女性も頭髪あらわに****
イランのロハニ大統領は、3日で就任から3か月を迎えた。
「過激主義からの転換」を訴えるロハニ師に呼応し、改革派や都市住民はイスラム教に基づいた社会的タブーを排除する動きを強め、改革機運は高まっている。
だが、保守強硬派との対立は深まっており、核開発を巡る欧米との交渉の行方とあわせ、難しい政権運営を迫られそうだ。
◆消えた警官
テヘラン中心部ミラッド地区にあるコンサート会場。10月31日夜、1000人の若者が、ポップ音楽に合わせて踊っていた。女性の大半が、頭髪を覆う「ヘジャブ」を後ろに下げ、金色や茶色の髪があらわに。会場前には、ヘジャブ不正着用を取り締まる警察の車両があったが警官の姿は見えなかった。
「会場内を巡回する警官が急に消えた。ロハニ大統領のおかげだよ」。会社員キャリミさん(45)は興奮気味に話した。
8月の大統領就任後、社会的自由拡大や規制撤廃を求める声は日増しに高まる。先頭に立つのは、改革派でロハニ師との関係が深いラフサンジャニ元大統領だ。支持者の集会などで、女性の権利やメディアの言論の自由拡大を公然と要求している。
前最高指導者ホメイニ師の孫娘のエシュラギ氏も10月11日付のアラブ系紙インタビューで、「女性のヘジャブや服装規定に反対する。女性は服装を楽しめばいい」と発言した。
ロハニ師の閣僚にもタブーを無視する動きが相次ぐ。
ザリフ外相は、アフマディネジャド前政権下で禁止されたツイッターを毎日利用、ナジャフィ副大統領は、取り締まり対象である女性の「水たばこ」の利用を容認する考えを示し、国民の喝采を浴びた。煙を水に通して吸引する水たばこは、イスラム圏で好まれている。【11月4日 読売】
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【原油生産でも外資導入へ】
また核交渉だけでなく、イラン経済を担う原油生産においても、欧米外資に対するこれまでとは異なる姿勢が見えています。
****原油投資誘うイラン、欧米に示す好条件 ****
イランは疲弊した経済の再建と欧米との関係改善を図るため、外国企業に油田への投資を促す有利な契約条件を示す計画だ。
折しもイラン政府と米政府はイランの核開発計画の制限について、ここ数年で最も建設的な交渉に入っている。イランの石油産業を痛めつけてきた経済制裁が緩和される可能性が出てくるなかで、今回の見直しが浮上した。
■外国企業に大きな意味を持つ見直し
石油相の顧問を務めるホセイニ氏はインタビューの中で、外国企業がイランのプロジェクトに権益を持つことを認めない「バイバック」と呼ぶ契約を廃止すると述べた。
ホセイニ氏は、政府は「双方にメリットにある」契約形態を考えており、有力企業であれば「米国勢であれ欧州勢であれ」恩恵を受けられると話す。今後3年間で1000億ドル以上の投資を呼び込む試みの一環だとしており、来年3月にロンドンで詳細を発表できる見通しだという。
イランはこれまで、外資がいかなる形であれその膨大な石油・ガス資源の一部を保有することを拒んできただけに、今回の見直しは大きな意味を持つ。イランは世界最大のガス田と世界第4位の油田を有している。
ホセイニ氏は「今回の取り組みで契約の文言が国際基準に大きく近づき、(海外企業が)再び殺到するのを期待している」と話した。
コンサルティング会社IHSエナジーのシニアアドバイザー、ロビン・ウエスト氏は「イランには強力な資源ナショナリズムの長い歴史があり、これが変わるとは思えない。彼らはいつも極めて強気な条件を掲げ、収益の大部分を囲い込みつつ投資リスクを石油会社に押しつけようとしてきた」と指摘する。
だが、イランの古い油田には欧米メジャー(国際石油資本)による多額の投資が必要なのも事実で、イラン政府はそのために「極めて魅力的な条件」を提示せざるを得ないとウエスト氏はみている。もしイランが本当に契約条件の見直しを実行すれば「過去との真の決別になる」とも付け加えた。
ホセイニ氏は、イランに対する経済制裁は「正式かつ迅速、一斉には」解除されないかもしれないが、それでも企業や政府間で合意に達する道は残されていると話す。
■経済制裁で原油生産が大幅に落ち込む
欧米による経済制裁で原油生産が落ち込んだ結果、イラン経済は打撃を受けている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、9月の生産量は日量258万バレルと、イラン・イラク戦争の悪影響に苦しんでいた1989年以来の最低水準に落ち込んだという。経済制裁発動前の2011年は日量350万バレルだった。
ホセイニ氏は、欧米企業が長い間イランでの原油投資に及び腰だったのは魅力に乏しい契約条件のせいだと認めたうえで「欧米の石油会社と長期にわたる良い関係を築けなかった」と述べた。「過去の経験を生かし、石油会社として当然の期待を理解し、受け入れるつもりだ」としている。【10月29日 フィナンシャル・タイムズ】
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経済制裁によるイランの原油輸出の窮状については、下記のような報道もあります。
****イラン、中国に2兆円余りの「石油代未払い」を指摘―中国メディア***
1日、環球時報によると、イラン紙テヘラン・タイムズは中国がイランに220億ドル(約2兆1500億円)の石油・天然ガス代が未払いになっていると報じた。写真は天津市の中国石油大港油田公司。
2013年11月1日、環球時報によると、イラン紙テヘラン・タイムズは中国がイランに220億ドル(約2兆1500億円)の石油・天然ガス代が未払いになっていると報じた。
統計によると、中国はすでに米国を抜いて世界最大の石油輸入国になった。2013年1~9月、中国は1600万トンの石油をイランから輸入し、その額は123億ドル(約1兆2000億円)に上っている。しかし、米国のイランに対する経済制裁により、買い手は現金で石油代を支払うことができず、イランは相手国の商品を購入して輸入する措置を取っている。
米国の圧力により、欧米の一部の国では石油購入をあきらめるか、量を減らして物々交換の形で清算せざるを得ない状況になっている。イランが未払い問題を持ち出したのは、中国に米国と交渉してくれるよう働きかける意図があるとみられるが、中国はイランに対する制裁に参加していないため、清算の問題はイラン自身が解決するしかない【11月2日 Record China】
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なお、イランの中国への原油輸出については7月、現金が使えないため、中国から地下鉄車両を購入する予約をし、その代金を石油で支払うという物々交換が報じられていましたが、上記記事との関連はよくわかりません。
【核交渉成果が出ないときは・・・・】
経済制裁による原油輸出の困難、市民生活への影響などがあって、この状況を打開すべくロウハニ政権が誕生し、最高指導者ハメネイ師も今のところ政権を支援している訳ですが、当然ながら、ロウハニ政権の国内外における改革・柔軟姿勢に対する保守強硬派の不満・反発は強く存在します。
****「米国に死を」=人質事件34年、数千人がデモ―イラン****
イランの首都テヘラン中心部の米大使館跡地前などで4日、保守強硬派の市民らが集結し、反米デモを行った。AFP通信によると、デモには数千人が参加。「米国に死を」とスローガンを叫び、気勢を上げた。
イランでは1979年11月4日、解決に444日要した米大使館人質事件が発生し、その後両国の外交関係は断絶している。9月にオバマ米大統領とイランのロウハニ大統領の電話会談が実現したが、この日の反米デモは関係改善の機運に冷や水を浴びせた形だ。【11月4日 時事】
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また、イラン経済が経済制裁で困難な状況にあると言っても、そうした枠組みから独占的利益をあげている既得権益層も必ず存在します。革命防衛隊関連企業などが指摘されています。
核交渉の阻害要因としては、アメリカ議会内に反イラン勢力や、イランへの妥協を拒むイスラエルの存在などもあります。
核交渉が進展して早い段階で制裁解除につながる目に見える成果が出ないと、既得権益層や保守強硬派の抵抗が一気に表面化することも予想されます。
髪をあらわにして、ポップ音楽に合わせて踊る女性・・・保守強硬派による揺り戻しを考えると、「浮かれていて大丈夫だろうか?」と、ちょっと怖い感じもします。