(13年8月 パキスタンの女子教育風景 “flickr”より By Jessica Jackson http://www.flickr.com/photos/95495076@N05/9440039712/in/photolist-fobEVo-g7p2Qe-g7oof5-g7oHWZ-g7nMsQ-g7n6Zx-g7psj5-g7o7kZ-g7onAR-dsZC6Z-eFeJGw-dW41uH-h8vWxy-dNpu5F-e7SeRe-f8tFgh-g7pPek-g7oDBP-g7mQ9z-eYxB4F-ei41oV-gJ1RS9-ghZ9dr-gXUXH2-gXU6wU-gXU29U-gXU3NC-gXTZz1-gXU78J-gXU3AS-gXTXoZ-gXU62L-gXUXzX-gXU2nj-gXU18q-gXTZPu-gXTYrF-gXUXh2-gXTZVb-gXU3VS-gXU4us-gXTUPa-gXTWxR-gXU1To-gXTYAi-gXUV6P-gXTVYp-gXTUG6-gXU1vu-gXUVVp-gXU73y)
【「タリバンのもくろみは外れた」】
イスラム過激派からの銃撃を受けてなお、女子教育の重要性を訴えているマララさんの故郷パキスタンで、女子の就学率が上昇しているという、うれしいニュースがありました。
****女子教育、故郷で芽吹く=「マララに続け」就学率急増―パキスタン****
女性が教育を受ける権利を訴えているパキスタンの少女活動家マララ・ユスフザイさんの銃撃事件から1年余。
故郷のパキスタン北西部スワト地区では、今も至る所に検問所が設置され、小銃を提げた兵士が目を光らせる。
張り詰めた空気が漂う中、同地区では「マララに続け」とばかりに、この半年間で新たに約10万人が就学した。その多くは女子生徒といい、学校には失われた活気が戻りつつある。
女性の教育や社会進出を否定するイスラム過激派タリバンは2008年ごろからスワト地区を支配下に置き、次々と学校を破壊。軍の掃討作戦で駆逐された後もその影響力は根強く、マララさんを銃撃したのも、「教義」に反したことへの見せしめだった。
しかし、「タリバンのもくろみは外れた」とマララさんの母校の教師ファザル・カリク氏は語る。事件直後は不登校の女子生徒が増えたものの、「半年ほどたつと『マララに倣いたいが、両親が学校に行くのを許してくれない。どうすればいいか』と相談を受けるようになった」。【11月3日 時事】
****************
【「マララは運よく助かったが、死んでいる活動家がたくさんいる」】
事実なら非常に喜ばしいことですが、事態はそれほど楽観できる状況でもないようです。
上記記事の翌日には、女性活動家の殺害頻発という厳しい現実を伝えるニュースがありました。
****過激派、女性活動家相次ぎ殺害=「マララさん同志」襲撃急増―パキスタン・アフガン****
女性が教育を受ける権利を訴えているパキスタンの少女活動家マララ・ユスフザイさん(16)がイスラム原理主義勢力に銃撃された事件の後も、同国や隣国アフガニスタンで過激派による女性活動家の殺害が相次いでいることが4日、分かった。
日々の脅迫と戦いながら人権向上に取り組む両国の女性活動家2人が来日し、時事通信の取材に語った。
取材に応じたのはパキスタン北西部ペシャワルを拠点に、女性支援のための法整備に尽力しているルクシャンダ・ナズさん(47)と、暴力被害に遭った女性の保護施設をアフガンで初めて創設したマリー・アクラミさん(37)。両国では現在も、マララさんの「同志」とも呼べる女性活動家が襲撃され続けている。
ナズさんによると、今年3月に、貧困問題に取り組む著名な活動家レーマンさんが殺害されるなど、パキスタンでは過激派による女性活動家の暗殺事件が急増。昨年以降12人が凶弾に倒れた。
ナズさんは「殺人は多くの女性にとって真の脅威。女性の人権向上のために活動すると(それを快く思わない勢力によって)制限される。マララは運よく助かったが、死んでいる活動家がたくさんいる」と嘆いた。
保守的なイスラム教国である隣国アフガンでも暗殺事件は深刻だ。アムネスティ日本(東京)によれば、最近では昨年7月、12月に女性人権活動家が殺された。
マリー・アクラミさんは、暗殺事件以外にも「夫が妻の鼻を切り落としたり、駆け落ちした男女の首を家族が切断したりするケースなど、アフガンにおける暴力レベルは確実に悪化している」と説明する。
自身も言われなき嫌疑を掛けられ検察当局に拘束された過去があるというアクラミさん。「私も帰国したら殺害されるのではと考えることもある」と語るが、歩みを止める気持ちはない。「施設に入所した女性は人生を楽しんでいる。彼女たちを支援し続けたい」と意気込んだ。【11月4日 時事】
****************
【「マララさんはイスラムの戒めをばかにしている」】
残念ながら、冒頭のような良いニュースは少ないのに対し、上記のような悪いニュースには事欠きません。
日本でも「はだしのゲン」の図書閉架措置問題がありましたが、マララさんの自伝についても似たような話があるようです。
****マララさんの自伝、図書館で閲覧禁止 パキスタン 私学連盟*****
パキスタンの私立学校15万2千校が加盟する全パキスタン私学連盟は、女子教育の重要性を訴えてイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の銃撃を受けた少女マララ・ユスフザイさん(16)の自伝「私はマララ」を「内容が反イスラム的だ」とし、児童や生徒に閲覧させないため、図書館など教育施設に置くことを禁止したと明らかにした。
私学連盟のミルザ・カシフ・アリ会長は7日、産経新聞に対し、マララさんの自伝について「混乱を生み出し、パキスタン国家とイスラムのイデオロギーに従っていない。マララさんはイスラムの戒めをばかにしている」と批判した。
具体的には、英作家サルマン・ラシュディ氏の「悪魔の詩」にイスラム教徒が冒涜(ぼうとく)的だと反発した事態について、マララさんの父親が学生時代、本を焼いたり抗議運動をしたりするのではなくペンの力で対抗すべきだと述べたと紹介していることに、「世界中のイスラム学者が『悪魔の詩』を批判しており、このようなことを書くべきではない。言論の自由は良いが、限度もある」と述べた。
イスラム教の預言者ムハンマドの名を口にしたときに唱える言葉「彼に平安あれ」が「本の中にまったく見当たらない」と問題視し、「マララさんが銃撃を受けた際は彼女を支持したが、当時の行動は誤りだったといわざるをえない。子供たちを混乱から守る必要がある」と強調した。
パキスタンでは、昨年10月の銃撃事件後、マララさんが欧米で活動し、ノーベル平和賞候補になったことに批判的な意見を持つ人も多い。パキスタンの公立学校は「私はマララ」に特段の措置をとっていない。
同書の日本語版は12月に出版が予定されている。【11月9日 産経】
******************
【TTPが暴力的な活動を強化させていく恐れ】
また、アメリカの無人機攻撃で殺害された「パキスタンのタリバン運動(TTP)」指導者ハキムラ・メスード司令官の後任に、マララさん銃撃に関与したと言われているファズルラ師が選ばれました。
****パキスタンのタリバン運動、新指導者を選出 マララさん銃撃に関与****
イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」は7日、マララ・ユスフザイさん銃撃事件への関与が疑われる強硬派のイスラム聖職者を新たな指導者に任命した。また政府が提案している和平交渉については、「時間の無駄」だとして応じない考えを示した。
1日に米国の無人機攻撃で死亡したTTPの最高指導者ハキムラ・メスード司令官の後継者に選ばれたのはマウラナ・ファズルラ師。
パキスタン北西部のスワト(Swat)渓谷で、TTPによる2年間の暴力支配を指揮した人物とされる。
パキスタンの情報機関は、女子教育の権利を訴えるマララさんが2012年10月にスワトで銃撃された事件にファズルラ師が関与しているという見方を示している。
同師が2007年に出身地であるスワトを支配し始めて以降、TTPは厳格なイスラム法に基づき、犯罪者を公の場で斬首やむち打ちの刑に処したり、学校を燃やしたりしていた。
2009年になって軍が同渓谷を奪還すると、同師は逃亡、以後は隣国アフガニスタン東部の山間部に潜伏しているとされる。パキスタン政府は、パキスタン国内で発生した攻撃は同師が国外から指示しているとみている。
■和平交渉が実現しない恐れ、暴力の激化を懸念する声も
AFPの取材を受けたTTPのシャヒドラ・シャヒド報道官は、「和平交渉の実施など議題にすら上らない。現政府に権力はなく、主権政府どころか米国の奴隷に成り下がっている。和平交渉を行っても時間の無駄だ」と断じた。
パキスタンの武装勢力に関する専門家で著書もあるイミティアズ・グル氏は、ファズルラ師のような容赦のない指導者が選ばれたことは、TTPが暴力的な活動を強化させていく恐れを意味すると警告。
同氏はAFPに対し、「ファズルラ師の選出により、TTP結成以降のパキスタン国内で行われてきたテロ行動が継続されることになる。TTPは政府との交渉に本気で取り組むつもりがないことがうかがえる」として、「TTPは今後さらに残虐さを増すだろう」と語った。【11月8日 AFP】
****************
TTPは、武装勢力との和平を掲げて交渉姿勢をみせてきたシャリフ首相らの与党勢力をもテロ対象とする報復を宣言しています。
****パキスタン 首相派もテロの対象 タリバン運動が報復宣言****
8日付のパキスタン紙ドーンによると、パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の幹部は最高指導者メスード司令官の殺害の報復として、シャリフ首相の与党などを攻撃の標的にすると明らかにした。
タリバン運動の広報担当者は、メスード氏の後任に選ばれたファズルラ氏が、政府提案の和平交渉を拒否したと発表しており、シャリフ政権の対話路線は破綻寸前に追い込まれた。
報復予告は、タリバン運動幹部が7日、アフガニスタン国境に近い部族地域で記者会見して表明した。
ファズルラ氏は、女子教育の重要性を訴える少女マララ・ユスフザイさん(16)の銃撃事件が昨年起きたスワト出身。銃撃事件にも関与したとされる。
タリバン運動は30以上のグループの連合体で、メスード氏が和平提案を歓迎していたのに対し、別グループのファズルラ氏はテロ攻撃を続けていた。シャリフ派のシャー上院議員は産経新聞に「時間をかければファズルラ氏を交渉のテーブルにつかせられる」と話すが、スワトのジャーナリスト、アラム氏は「対話の可能性は極めて低くなった」と述べた。
タリバン運動は5月の総選挙まで、当時の与党にテロの標的を絞っていたが、今後は政権を奪回したシャリフ派もテロの脅威にさらされる。対米関係の強化と武装勢力との和平という両立困難な目標を掲げたシャリフ首相は苦しい立場に置かれている。【11月9日 産経】
******************
女子教育や女性活動家にとっても、更に厳しい状況が生まれることも懸念されます。