(21日に裁判権を含む「安全保障協定」について話し合われるロヤ・ジルガ会場 “flickr”より By Ali http://www.flickr.com/photos/47177648@N00/10687104065/in/photolist-hhocGV-diF16u-hhv4Xo-aECGd4-duiWZ6-aKzUHM-7PpyYL-fTHcHe-ejFwiv-aDJPwF-8ymQAb-8jNMbx-8dFxWJ-bDcsMF)
【米軍残留の条件となる裁判権問題をロヤ・ジルガで判断】
最盛期に10万人まで達したアフガニスタン駐留米軍は、現在は5万人程度に半減しています。
14年末までには“撤退”することになっていますが、15年以降については、アメリカ側はアフガニスタン治安部隊の支援やアルカイダ残党との戦闘などを目的とした1万人前後の部隊を残留させることを検討していると言われています。
ケリー米国務長官は10月11日、アフガニスタンを訪問し、“撤退”以降に残留する米軍兵士の地位に関する「安全保障協定」について、カルザイ大統領と協議を行いました。
この協議で、両国は「安全保障協定」締結へ向け一部で合意しましたが、アメリカが求める米兵の裁判権の問題では合意できませんでした。
アメリカは、犯罪を起こした米兵をアメリカ側で裁くことを求めていますが、アフガニスタン側には“主権の侵害”とする批判も強く、罪を犯した米兵に対する裁判権の放棄について、カルザイ大統領は「アフガニスタン政府の権限を越えている」として判断を留保。他の合意内容も含め、各部族の長老・代表で構成されるロヤ・ジルガを1カ月以内に招集して最終判断を仰ぐ方針を示しています。
“ロヤ・ジルガの代表は国会議員や地方代表らで、国会内では野党を含め米軍の駐留継続を求める声が強い。ただ、03年に米軍が軍事介入したイラクでは、裁判権の問題で国会承認が得られず、米軍が11年に完全撤退した経緯もある。”【10月14日 朝日】ということで、この問題がこじれると“完全撤退”の話が出てきます。
最終判断が国会ではなく伝統的意思決定方法であるロヤ・ジルガに委ねられるというのもアフガニスタンらしいところですが、その注目されるロヤ・ジルガは今月21日に開催予定です。
アフガニスタンの一大勢力であるタリバンはロヤ・ジルガの開催を非難し、参加を拒否していますが、ロヤ・ジルガ開催場所を狙った自爆テロも行っています。
****アフガンで自爆攻撃、国民大会議に反対のタリバンが犯行声明*****
アフガニスタンの首都カブールで16日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンによる自動車爆弾を使った攻撃があり、少なくとも6人が死亡、22人が負傷した。
政府関係者によると、爆発があったのは21日にアフガンの部族の長老らが米国との安全保障協定について協議するロヤ・ジルガ(国民大会議)の会場となる大型テントから150メートルほど離れた場所。
内務省によると、治安部隊が追跡していた不審な車に警察が発砲したところ、乗っていた男が車を自爆させたという。
タリバンは事件当日の夜に犯行声明を出した。2001年に米軍主導の攻撃によって政権が崩壊したタリバンは、ロヤ・ジルガの開催を非難し、参加を拒否。タリバンの構成員に出席しないように命じるとともに、「協定締結を承認すれば裏切り者として罰する」と警告していた。(後略)【11月17日 AFP】
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【「不幸な結末に至らない方がおかしい」】
ロヤ・ジルガに委ねられた駐留米兵に対する裁判権の問題とは別に、アメリカ国内には、撤退後に残留しても治安は悪化することが予想され、また、復興には巨額の費用を要することから、「完全撤退すべきだ」との声が出ています。
****米でアフガン復興に悲観論 治安悪化、巨額の費用 完全撤退促す声も****
2014年末までにアフガニスタンから戦闘部隊を撤退させる米国で、アフガニスタン復興への悲観論が広がっている。
戦闘部隊撤退後は治安悪化が予想されるうえ、復興にかかる巨額の費用の捻出に厳しい目が向けられているからだ。
米国は15年以降も1万人前後の部隊の駐留を検討しているが、識者からは完全撤退を促す声も出ている。
ただ、テロとの戦いなどにおいてアフガンは重要な意味を持っており、オバマ政権は難しい判断を迫られることになる。
米政府は2002会計年度以降、合計約970億ドル(9兆5千億円)を割いて、アフガン治安部隊の創設やダム、高速道路の建設などの復興事業を進めてきた。
しかし戦闘部隊の規模縮小とともに治安を確保できる地域が縮小。米政府のアフガンに関する監査機関は10月、戦闘部隊撤退後の安全を考えれば、国土の約80%で事業の監督ができなくなるとの試算を公表した。
米議会では、汚職体質が指摘されるアフガンで米国民の巨額の血税が浪費されることへの懸念が強い。上院軍事委員会のマカスキル議員(民主)は米ワシントン・ポスト紙に対し、戦闘部隊撤退後に「不幸な結末に至らない方がおかしい」と話した。
またオバマ政権はアフガニスタンと駐留米兵の地位に関する「安全保障協定」の締結を前提に、アフガン治安部隊の支援などを目的とした8千~1万2千人の部隊の駐留を検討。このための費用やさらなる復興事業には年間140億~200億ドルかかるともみられており、今後の議会承認には曲折も予想される。
米ジョージ・ワシントン大学のスティーブン・ビドル教授は、これだけの資金をかけても治安回復の見通しは暗く、血税が無駄遣いされる公算が大きいことなどを踏まえ、「米国はアフガンから完全撤退すべきだ」と指摘する。
しかし米国にとって、国際テロ組織アルカーイダやイスラム原理主義勢力タリバンが拠点をもつアフガニスタンの治安回復の重要性は高い。
また隣国パキスタンとの関係強化を狙う中国を牽制(けんせい)する意味でも「アフガニスタンへの影響力を維持すべきだ」(政府高官)との声もある。【11月5日 産経】
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治安に関して一定の成果を出していたイラクとは異なり、アフガニスタンではタリバンが勢力を維持しており、米軍撤退に合わせて、その勢力を拡大させることは当然に予測されます。
汚職と腐敗にまみれた、国民からの支持も低いアフガニスタン政府にその難局を乗り越える力があるようには思えません。
犠牲者と血税の無駄遣いを避けるために完全撤退を・・・というのは、これまた当然の主張ですし、最近の内向き志向が強まるアメリカにあっては予想される流れでしょう。
また、社会保険制度改革問題で大きな躓きを見せ、移民法改正案やTPPの貿易促進権限など懸案事項でその指導力に疑問がもたれているオバマ大統領が、議会内の反対意見を抑えるのもかなり困難を伴う作業でしょう。野党共和党は残留に賛成する者が多いのかもしれませんが。
ただ、完全撤退して、結果タリバンが主導的な力を得るとか、内戦状態の混乱に陥るということになれば、アフガニスタンでのアメリカの戦いは何だったのか?という話にもなりますし、シリア問題やアジアにおける中国の勢力拡大によって疑念がもたれてきているアメリカの世界における存在感が更に薄まることも考えられます。
長年のアフガニスタンでの戦闘において、タリバンを結局駆逐できなかったこと、また、国民に信頼される健全な統治機構を構築できなかったことの結果として、残留しようが完全撤退しようが、アメリカにとって望ましい展望はあまり期待できないように思えます。
【不確かな未来に対する保険?】
一方、アフガニスタン国民は今後の治安悪化・混乱を見据えて、防衛的な動きを見せているとも報じられています。
いささか“深読み”に過ぎるようにも思えますが・・・。
おそらく“不確かな未来に対する保険”というよりは、ケシ栽培抑制対策が有効に機能しない“現在の欠陥”の結果ではないでしょうか。
****アフガニスタンのケシ作付面積、過去最高を記録 国連****
国連(UN)は13日、今年のアフガニスタンのケシ作付面積が過去最高を記録したと発表した。米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍の来年の撤退を前に、農民が「保険」として作付を増やしたのが原因だという。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の年次報告書によると、アフガニスタンにおける2013年のケシ作付面積は前年の15万4000ヘクタールから36%増加して20万9000ヘクタールとなり、ヘロインの主原料であるアヘンの生産量は前年比で約50%増加した5500トンに達した。
作付面積は過去最高だった2007年の19万3000ヘクタールを上回ったが、アヘン生産量はアフガニスタン南部の悪天候でケシの収穫量が減少したことから2007年の7400トンよりも少なかった。
また、アヘンの出荷価格は約33%上昇し、その総額は2013年のアフガニスタンの国内総生産(GDP)の4%にあたる9億5000万ドル(約950億円)相当となった。
アフガニスタンでは、現在約7万5000人が駐留するNATO軍が2014年内に撤退すれば国内が混乱と無秩序に陥るとの恐れが広がっている。UNODCは「農家は、来年の国際部隊撤退から生じかねない不確かな未来に対する保険として蓄財を試み、作付面積を増やしたのかもしれない」と述べた。【11月13日 AFP】
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