孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  ムスリム同胞団、ガザ境界、シリア難民に厳しい対応をとる暫定政府

2013-11-18 22:07:52 | 北アフリカ

(11月4日 モルシ前大統領の初公判が開かれた警察学校付近で、治安部隊と対峙して礼拝するモルシ支持派 “flickr”より By Diario El Carabobeño http://www.flickr.com/photos/52324566@N05/10673319623/in/photolist-hgay58-hg9qB7-hgaxGe-hgpK5X-hb4CUk-hb4zHo-hb6ZBP-hgwff8-hgCWww-horNZ6-hosfiJ-grvgob-hg9t74-hA3KhQ-hA348d-hA2NxS-hA3Gah-hA3rfh-hA2QJe-hA2Tvr-h41kGU-h4WxsE-gvMmEP-gvLRrh-gvMWjv-gvMn9z-gvMFmY-gvMFGs-gvMW7B-gvMFuy-gvMn6D-gR7xdD-gLeHSy-hA2B3X-hA4nAR-hA31Yy-hjneg5-hfRRtK-hndDuN-hndhc6-hneQEZ-hneQvv-hndgfB-hndKxY-hndGxb-hndgKp-hndhpa-hndMg7-hndhyZ-hndDbS-hndMUb)

追い込まれたモルシ支持派からの対話呼びかけに冷淡な反応
ムスリム同胞団を支持基盤とするモルシ政権を、国民の要請に応えるという形の事実上の軍事クーデーターによって転覆したエジプト暫定政権に対し、モルシ前大統領を支持するムスリム同胞団は激しい抵抗を続けてきました。

しかし、軍を背景とした暫定政権による活動禁止措置などの強硬な封じ込めと、ムスリム同胞団を社会の安定を損ねる“テロリスト”として位置付けるイメージ戦略などによって、ムスリム同胞団の活路は狭められ、方針転換も余儀なくされています。

****モルシ派が対話呼び掛け=支持離れで戦術転換か―エジプト****
エジプトのイスラム組織ムスリム同胞団を中心とするモルシ前大統領支持派は16日声明を出し、国内の各政治勢力に「危機打開のための対話」を呼び掛けた。AFP通信が伝えた。

モルシ派はこれまで、7月3日の事実上のクーデターにより発足した暫定政権への抵抗を続けてきた。しかし、国民の支持離れや政権側からの激しい弾圧を受け、戦術転換を模索しているとみられる。【11月16日 時事】 
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モルシ支持派を抑え込みつつある暫定政権は、14日、非常事態令と夜間外出禁止令を3カ月ぶりに解除しました。
今回のムスリム同胞団の対話呼びかけによって、国民和解への道が開けるのか・・・とも思ったのですが、政権運営に自信を深める暫定政権側は直ちにはこれに応じず、更に同胞団を追い込む姿勢を見せています。

****国民和解進まず=暫定政権、支援受け強気―エジプト****
エジプトで事実上の軍事クーデターにより発足した暫定政権が、イスラム組織ムスリム同胞団を中心とするモルシ前大統領支持派の対話呼び掛けに冷淡な反応を示し、欧米が求める国民和解の進展が期待できない状況となっている。

暫定政権は同胞団への国民の支持離れを確信する一方、湾岸諸国やロシアから次々と支援を取り付けて自信を深めているようだ。

暫定政権のボレイ社会連帯相は17日、AFP通信に対し、モルシ派が16日に呼び掛けた対話に関し、軍主導の政権移行プロセスへの協力と暴力放棄がない限り、対話には応じられないとの考えを示した。

暫定政権寄りの世俗系各派も「テロリストとは対話しない」との態度だ。エジプトの人々の間では、社会の混乱を引き起こしたとして同胞団をテロ組織扱いする風潮が広がっている。【11月18日 時事】 
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アメリカは武器・資金援助を凍結して暫定政権への民主化促進圧力をかけていますが、暫定政権側は今月14~15日、ロシアと初の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を行い、ロシア支援を取り付けることでアメリカを牽制しています。

ガザ境界管理はムバラク元大統領時代より厳しい
一方、エジプト暫定政権は、ムスリム同胞団と関係の深いイスラム急進派ハマスが実効支配するパレスチナ・ガザ地区に対し、ガザ経済を支えてきたエジプト側からの密輸トンネルを破壊することで、締め付けも強化しています。

****ガザ戦闘1年:孤立するハマス モルシ政権崩壊で****
昨年11月に起きたイスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの大規模戦闘から、14日で丸1年がたった。

ハマスはこの日、パレスチナ自治区を占領するイスラエルに対する抵抗継続を強調したが、この間、ハマスは隣国エジプトのモルシ政権という大きな後ろ盾を失い、経済の困窮が深刻化。イランやトルコなど旧来の「支援国」との関係強化で、どこまで援助を引き出せるかがカギとなっている。

「イスラエル国家の存在は認めない」。ハマス政治局のマフムド・アルザハール代表が叫ぶと、集まった支援者らが気勢を上げた。(中略)

だがガザ市内では、空爆で破壊された建物の多くが、がれきのまま残っている。
イスラエルはハマスがガザを武力制圧した2007年以降、人や物の出入りを規制する封鎖政策を開始。「軍事転用される」として建設資材も制限しており、復旧作業は進んでいないという。

さらにエジプトで7月に起きたエジプト軍のクーデターで、ムスリム同胞団出身のエジプト・モルシ政権が倒れた。ムスリム同胞団はハマスの母体で、後ろ盾を失った影響は大きい。

エジプト軍は、唯一最大の物資搬入ルートとなっていたエジプト側からの密輸トンネルの大半を破壊し、ガザの経済活動に打撃を与えている。

市民の不満や困窮を背景に今月、インターネットで大規模デモを呼びかける動きも見られたが、実際の行動は見られなかった。

ハマス内務省のイスラム・シャフワン報道官は取材に対し、「生活が苦しくなったのはエジプトの政変による影響だと市民は理解している。我々ハマスに不満が向けられることにはならない」と語った。

ただ、ハマスは先月も職員の給与を分割払いにするなど、弱体化の可能性も指摘される。事態打開へのカギは、エジプトに代わり「イランやトルコなどからの援助をいかに拡大させられるか」(ハマス外交担当)だという。

ただ、ハマスはシリア内戦で「市民殺害」を批判してアサド政権と決裂したため、アサド政権と親密なイランとの関係も希薄化した。イランは従来、ハマスに月1億ドル規模の支援を続けていたが、1500万ドル程度にまで縮小したとされる。

ハマスは現在、「イランと親交の深い幹部を窓口に立て、改めて支援拡大を要請している」(ハマス治安当局者)。シャフワン報道官によると、トルコやカタールも新たな支援の方針を示し、具体案を協議中という。

 ◇トンネル封鎖、経済打撃
ハマス経済省、タリク・ルパド報道官談話 ガザが必要とする食料や物資、燃料の約6割は、エジプトからのトンネル(密輸)で搬入されていた。
しかしエジプトのクーデター後、トンネルが破壊されたので、物価と失業率が上昇し、経済に大打撃を与えている。

ガソリンは、トンネルのあった時代は1リットル3〜4シェケル(100円前後)だったが、現在はイスラエル側から購入せざるを得なくなり、2倍に高騰している。

電気は元々、供給不足だが、こうした燃料を使い発電機で補ってきた。今はそれも制限せざるを得ない。以前は1日8時間の停電だったが、最近は12時間停電せざるを得ない。電気不足で製造業も稼働を制限され、失業率は以前の27%から44%にまで拡大している。【11月15日 毎日】
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暫定政権のガザ封鎖はムバラク政権時代よりも厳しくなっているとも指摘されています。

****封鎖ガザ、新たな困窮 エジプト新政権、密輸トンネルを破壊****
・・・・昨年のガザ空爆で、エジプト(モルシ政権)はカンディール首相をガザに派遣するなど、ハマスとの蜜月ぶりを見せつけた。停戦を仲介したのもエジプトだった。

しかし7月のエジプト軍のクーデターで状況は一変した。ハマスの母体であるムスリム同胞団出身のムルシ前大統領が失脚。

エジプト軍は、ハマスがムルシ氏に協力して国内でテロを企てたとして敵視。それまで許容されてきた密輸トンネルのほとんどを破壊した。

状況は、イスラエルによるガザ境界封鎖に協力したムバラク元大統領時代より厳しいという。密輸トンネル業者のアブハリールさん(50)は「ここ4カ月は収入ゼロ。60人いた労働者は失業した」と憤る。

トンネルには、雇用創出の意味合いもあった。つい数カ月前までは、約5千人が密輸トンネル業に従事していたが、その7割が失業したという。【11月14日 朝日】
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ハマスは、エジプト暫定政権へ封鎖姿勢の緩和を求めています。
ただ、国内でムスリム同胞団への締め付けを続けていることや、シナイ半島で活動するイスラム過激派対策もあって、暫定政権のガザ境界への強い姿勢は当面続くと思われます。

****ハマス幹部、エジプトに要請 ガザ封鎖 見直しを****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの幹部アハマド・ヨセフ氏は、本紙取材に応じ、ガザ境界の密輸トンネル網を破壊し、検問所の出入りを制限するエジプト暫定政権に、ガザ封鎖政策の見直しを求めた。 

ハマスの母体は、エジプトのモルシ前政権を支えたイスラム原理主義組織ムスリム同胞団。七月に前政権を崩壊させた軍主導のエジプト政権は、ガザとの境界で、トンネル網の破壊を進めている。

ハマスの首相格ハニヤ氏の元政治顧問であるヨセフ氏は「トンネル網を通じた流通に数千人が従事し、ガザ経済の半分が依存してきた。大半が破壊され、二~三週間で全て機能しなくなるだろう」と指摘。「エジプトからの物資が不足し、人々が税金を払えず、財政にも影響が出ている」と認めた。

モルシ前政権は密輸トンネル網を黙認し、ヨセフ氏は「ガザの大きな支援者だった」と指摘。
エジプト暫定政権のトンネル破壊の理由については「われわれが同胞団の一部だからだ」と説明した。悪化しているシナイ半島の治安対策より、ハマスへの圧力強化がより大きな狙いだとの認識を示した。

その上で「イスラエルのガザ包囲を手助けしているとして、エジプトのイメージが悪化する。エジプトは、トンネル破壊がエジプト、ガザ双方を傷つけると理解してほしい」と方針転換を求めた。【11月15日 東京】
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シリアから戦禍を逃れてきたパレスチナ人が当局のターゲット
エジプト暫定政権は、パレスチナ人が多いシリア難民に対しても厳しい姿勢で臨んでおり、人権団体からは批判も出ています。

****エジプト当局がシリア難民を不当拘束」、人権団体が批判****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は今週、内戦下のシリアからエジプトに避難した難民1500人以上がエジプト当局に身柄を拘束され、その多くが国外退去処分になっているとする報告書を発表した。
うち250人は子供で、生後2か月足らずの乳児も含まれているという。

HRWの11日の報告によると、拘束は数週間から数か月に及んでいる。拘束されたシリア難民の多くは「ボートで欧州に密航しようとした」人々で、特に、シリアから戦禍を逃れてきたパレスチナ人が当局のターゲットになっているという。

HRWは、難民たちが国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の保護を求めようとするのをエジプト当局が阻み、エジプトから退去するか「無期限の拘禁」を受けるかを迫っているとして、エジプト当局を批判した。

報告書によると、エジプト当局は「拘束したパレスチナ人に対し、無期限の拘禁が嫌なら、48時間有効の通過ビザしか発効してくれないレバノンに向かうか、内戦下のシリアに戻るかを選べと強要している」という。

エジプトでは今年7月にムハンマド・モルシ大統領(当時)が軍によって解任された後、モルシ氏を支持していると報じられた難民に対する取り締まりが強化された。
HRWによれば今も約300人のシリア難民が拘束されており、うち3分の2がパレスチナ人だという。

10月にも国際人権団体アムネスティ・インターナショナルがエジプト暫定政権によるシリア難民の扱いは不当だとして非難声明を出していた。これに対しエジプト側は難民を不当に扱った事実はないと反論していた。【11月16日 AFP】
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シリア・ダマスカス南部のヤルムーク難民キャンプには約15万人が暮らしていましたが、シリア内戦の影響を受けて、昨年末同キャンプにおいても反体制派とアサド政権寄りのパレスチナ人武装勢力との戦闘が起きました。

シリア政府軍は12月中旬、このパレスチナ難民キャンプを空爆、戦闘激化によって10万人ほどが避難したと報じられています。

****シリアのパレスチナ難民キャンプで戦闘激化、10万人避難か****
内戦状態が続くシリアの首都ダマスカス南部にあるパレスチナ難民キャンプで、先週末から激しい戦闘が続いており、19日までに約10万人のパレスチナ難民が逃げ出したとみられることが、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の発表で分かった。

UNRWAのリサ・ギリアム(氏は19日、AFPに「人びとは今も群れをなして逃げ出している」と語った。
ヤルムーク難民キャンプには約15万人が暮らしていたが、その3分の2が既にキャンプを去ったようだという。
また、10万人という数字は推定に過ぎないと強調しつつ、この難民キャンプでの戦闘は「いまだなお続く人道的危機」だと加えた。

ヤルムークは16日、昨年3月にシリアの民衆蜂起が始まってから初めて空爆を受け、少なくとも8人の民間人が死亡した。その後、同地域には反体制派側と政府側の戦闘員が入り、この小さな難民キャンプは激しい戦闘に揺るがされていた。

ギリアム氏によると、キャンプを逃れたパレスチナ難民はダマスカス市内の別の場所やシリア国内の別の地域に向かい、学校やUNRWAの事務所に避難している。

隣国のレバノンへ向かう難民も増えており、先週末までにシリアからレバノンに逃れたパレスチナ難民は約1万人に上るが、キャンプで戦闘が勃発してからはさらに3000人が国境を越えたか、入国の手続きを行っているという。
向こう数日間でさらに2000人がこれに加わる可能性もある。【12年12月21日 AFP】
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シリア難民のなかに多くのパレスチナ人が存在するのは、こうした事情があると思われます。
ただ、エジプト当局が意図的にパレスチナ人をターゲットにした取締りを行っているのか、そうであるとして、その理由が“難民にはモルシ支持が多い”ということだけなのか・・・そこらあたりはよくわかりません。

いずれにしても、イスラエルを意識した“アラブの大義”においては中東アラブ諸国によって前面に担がれるパレスチナ難民ですが、イスラエルとの紛争で故郷を追われ、シリアの難民キャンプでは空爆を受け、エジプトでは追放され、また、レバノンも通過ビザしか出さない・・・と、現実は冷淡なものがあります。
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