(ズマ大統領の「豪華過ぎる邸宅」写真を掲載する南アフリカメディア 右下はズマ大統領 【12月3日号 Newsweek日本版】)
日本では特定秘密保護法案が今日あっさりと衆議院を通過しましたが、南アフリカでも「国家機密」に関する情報保護法案が注目されています。
【「見てはいけない」「さあ、逮捕してみろ」「禁じられた写真」】
南アフリカでは情報保護法案が2011年11月に下院でいったん可決されましたが、世論の強い批判もあって、公共の利益になる情報の暴露なら免責することなどの改正が上院で加えられ、今年4月下院があらためて採決、ズマ大統領の署名待ちになっています。
****南ア:情報保護法案、大統領署名に注目****
報道の自由を巡り、南アフリカでも政府とメディアが激しく対立している。「国家機密」を暴露した者に最長で禁錮25年を科す情報保護法案が今年4月に国会を通過し、ズマ大統領が署名し成立するかに注目が集まる。
こうしたなか、政府閣僚が大統領私邸の写真報道は「法律違反」と発言し、反発した複数の有力紙が一斉にこの写真を1面に掲載して対決姿勢を鮮明にした。
白人政権によるアパルトヘイト(人種隔離)体制下、反体制的な報道に対し厳しい締めつけがあった南アでは、1994年の民主化後、報道の自由を保障。活発なジャーナリズムは、政界の汚職などをたびたび追及し、政権幹部らを失脚に追い込んできた。
だが、与党「アフリカ民族会議(ANC)」は情報保護法案を提出、2011年に国会で可決された。
法案は「報道の自由を侵害する秘密法案だ」と世論の猛反発を受けて一部修正されたが、再提案され、今年4月に再度賛成多数で可決された。
野党や反対派市民らは、法制化によって汚職や不正を暴く調査報道が萎縮する可能性などを懸念している。
与党ANCは、ネルソン・マンデラ元大統領が率い、黒人解放闘争下で報道の自由の欠如に苦しんだ経験を持つ。自由を勝ち取った後、なぜ規制を目指すのか。
有力紙メール・アンド・ガーディアン紙の元編集長、アントン・ハーバー・ウィットウォーターズランド大教授は「与党のなかには、内部からの情報漏えいにうんざりしている者がいる。我々の社会が持つ強いジャーナリズムに待ったをかけたいのだ」と解説する。(後略)【11月26日 毎日】*******************
その南アフリカで、「国家機密」にあたるのかどうかの具体例としてクロースアップされているのが、ズマ大統領の「豪華過ぎる邸宅」の写真公表の問題です。
****ズマの豪邸をめぐる報道バトル****
南アフリカの新聞各紙は先週、クワズールー・ナタール州にあるズマ大統領の邸宅の写真を一斉に掲載した。与党・アフリカ民族会議(ANC)の「禁止令」を無視した行動だ。
今も数百万人が粗末なバラックで暮らす南アフリカでは、大統領の「豪華過ぎる邸宅」が議論の的になっている。ズマの地元ンカンドラにある豪邸は専用ジムやヘリポート、ミニサッカー場付き。家畜舎だけでも建設に9万8400ドル掛かったと言われている。
さらに昨年には、2800万ドルの公費を投じて改修が行われたと報道された(ズマ本人は疑惑を否定)。
ANCは先週、ズマ邸の写真公開は「違法」であり、違反者は訴追される可能性もあると発表した。
「こちらは『やめてほしい』と丁重にお願いしている立場だ」と、クウェレ国家安全保障相は記者団に語った。「ホワイトハウスの警備体制を撮影した写真が公開されることはない。この点は、どんな民主主義国家でも同じだ。今のメディアのやり方は受け入れられない」
ムテトゥワ警察相は、ズマ邸の写真公開は「機密扱い」の「警備体制」の漏洩に当たる可能性があると説明した。
これに対して南アフリカ全国編集者フォーラムは、写真の公開がズマ邸の警備を危機にさらすことはないとして、今後も掲載を続けると声明で発表した。
「(写真公開は)国民の強い関心の対象になっていると確信する。残念ながら、閣僚たちは法律を盾にして、邸宅改修疑惑をめぐる説明責任から逃げているように見える」
メディアはズマ邸の警備状況が分かる写真を公開したことはないと、同フォーラムのムプメレロ・ムカベラ議長は言う。
「(大統領が)執務時間の大半を過ごす政府庁舎の写真を公開禁止にするようなものだ」
「禁止令」の翌日、新聞各紙が掲載したズマ邸の写真には、「見てはいけない」「さあ、逮捕してみろ」「禁じられた写真」といった挑発的な見出しが付けられていた。【12月3日号 Newsweek日本版】
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現地紙は社説で「我々は写真掲載を続ける。止めることは民主主義の監視役という責務への背信行為となる」と明言しています。
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ズマ大統領の邸宅については、安全面拡充の名目で改装などに多額の公金が使われた、との疑惑があり、南アメディアが追っていた。
21日、クウェレ国家安全保障相が国家安全保障に関する法律に照らせば「メディアも含めて写真撮影・公表は許されない」と述べ、大統領私邸の写真報道は違法との見解を示した。
この発言を受け、有力紙タイムズは22日、1面に私邸の全景写真を掲載し「じゃあ、我々を逮捕しろ」との大見出しを載せた。
さらに社説で「我々は写真掲載を続ける。止めることは民主主義の監視役という責務への背信行為となる」と明言した。
南ア紙の反発をBBC放送(電子版)など海外メディアも報道。
政府報道官は22日、声明で「写真掲載自体は問題ないが、(私邸の)安全面の特徴を報じることは大統領へのリスクとなる」とトーンダウンに追い込まれた。
南アでは6月、国家機密の必要性を認める一方で、情報公開の原則への配慮を求める国際的指針「ツワネ原則」が世界の専門家によって作成された。
同原則によれば、秘密は国防計画や兵器情報などに限定し、情報開示による公益が秘密保持の公益を上回る場合、内部告発者は保護される。【11月26日 毎日】
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日本の崇高な理念に基づく特定秘密保護法案と、南アフリカの「豪華過ぎる邸宅」の問題を同一レベルで論じるのは不見識だと、安倍首相は怒るでしょうが・・・・。