(ポカラ近郊のダンプス付近からのアンナプルナ・サウスの眺めではないでしょうか。“flickr”より By Julia Manzerova http://www.flickr.com/photos/7194536@N02/10900284643/in/photolist-hBdNS8-hFqH72-hBbdUq-hGRfpv-hFmbos-hEGs7Y-hEUKij-hEVP5H-huW4SG-hEUHHW-hEUHys-hEVeVY-hEVNAB-hEVeyL-hBJiJR-hEUudD-hye7Ni)
【投票率は70%】
ネパールでは王制廃止後も憲法制定作業が進まず、憲法制定にあたる議会すらこの1年半解散したまま・・・という政治空白が続いていました。この混乱状態をただすべく、19日、ようやく新たな議会を選ぶ選挙が行われました。
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06年に10年間にわたる反政府組織マオイストの武装闘争が終結して以来、今度で2度目の選挙となる。
08年の制憲議会選挙ではマオイストが比較第1党となり、王制を廃止。だがその後も党派対立が続き、政権も3度交代したあげく憲法起草が果たせないまま議会は昨年5月に解散した。
その後は首相不在の中、マオイストなど主要政党間の交渉が行われ、今年3月に選挙管理内閣が発足した。キル・ラージ・レグミ最高裁判所長官が暫定首相となり、選挙による新政権樹立を模索してきた。【11月20日 Newsweek】
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議会もなく、首相も満足に決まらい状況でも、それなりに国民生活は行われるようです。
ただ、それは最低限の行政が行われるということで、現状改善につながるような施策・事業はできません。
カトマンズに数日滞在しただけで、道路は穴ぼこだらけ、計画停電で電気が十分に使えない、水道も不十分・・・という政治の貧困はすぐにわかります。
08年の制憲議会選挙で大方の予想を裏切り第1党となった「ネパール共産党毛沢東主義派」(毛派)から分離した左派グループによると思われる選挙妨害はありましたが、選挙はおおむね順調に終了しました。
選挙に向けて、投票日の2日前から休日になり、当日は車もバイクも通行が禁止されたようです。
“カオス”そのもののカトマンズの街路から車が消えるというのは、なかなか想像しがたい光景です。
****ネパール:新憲法制定へ選挙…政党乱立し混乱続く****
立憲君主制から共和制へ移行したネパールで19日、新しい憲法を定める制憲議会選挙の投票が全国で行われた。
制憲議会は2008年に発足したが、政党間の対立で憲法を定められず、延長を重ねた任期は昨年5月に切れ、解散していた。再度、制憲議会を作り直して新憲法制定を目指すが、今回の選挙には約120の政党が乱立しており、政治混乱は続きそうだ。
一方、06年の内戦終結まで武装闘争を展開していた「ネパール共産党毛沢東主義派」(毛派)から分離した極左グループなどが選挙のボイコットを訴えている。
19日には首都カトマンズ中心部の投票所近くで爆発があり、8歳の男の子を含む3人が負傷。18日夜にもカトマンズなど複数の都市で爆発が相次ぎ、極左グループの妨害工作とみられる。
選挙では、定数601のうち政府任命の26議席を除く575議席を争う。投票は都市部では即日、地方部では20日以降開票される。大勢判明は21日ごろの見通し。有権者は約1200万人。
08年の制憲議会選で第1党になった毛派や、ネパール会議派、統一共産党など主要政党が参加したが、どの党も単独過半数を制する見通しはない。新議会や新政権の発足後も不安定な政治情勢が続きそうだ。
憲法制定ができない異常事態が長年続く中、ネパールでは経済が疲弊。一般国民の間では、政争に明け暮れてきた主要政党への批判が強い。【11月19日 毎日】
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投票率は70%と高く、前回の65%を超えたようです。
****ネパール選挙実施、投票率過去最高****
・・・・今回毛派から分かれたモハン・バイディア派が選挙ボイコットを表明し、33の小党が賛同したが、それにも関わらず投票率は過去最多だった。
2008年選挙の投票率は65.69%だったのに対し、今回は70%にも上った。カトマンズ盆地にあるバクタプール郡の投票率が全国で最も多く86.51%だったことからも、国民の期待が大きかったことがうかがえる。
有権者12,147,865人に政府が写真付きの証明書を発行したことで、なりすまし投票ができず公正な選挙だったことが、投票へのモチベーションにもつながったと選挙管理委員会は分析している。
郡庁所在地に投票箱を集めて開票することになっており、山国であるネパールではそこまで移送するのに時間がかかることから、大勢判明までまだ時間がかかりそうだ。
すべての投票箱が到着してから数えることになっており、苦肉の策ではあるもののその方が不正が生じにくいとしている。陸路では輸送できない113か所の投票は、ネパール国軍がヘリで運ぶことになっている。
全国的に比較的平穏に実施されたが、西部のロルパ郡では反対派が投票箱を川に投げ捨てたことから、治安を強化し22日(金)に再選挙を行うことになった。【11月20日 日本ネパール協会】
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ヒマラヤ山脈の奥深い村など、車が通行できる道路がないエリアが多く、開票作業といっても大変なようです。
それにしても“有権者12,147,865人に政府が写真付きの証明書を発行”というのは、行政能力がそんなに高いとは思われないあのネパールにしては・・・という感があります。
ネパールでは国民が写真付きの身分証明書(ナガリクタ)を所有しているようなので、顔写真が全員登録されているのでしょう。
とはいえ、先述のようなヒマラヤ山脈の奥深い村々の有権者全員にそうした証明書を配布するというのは、それほど簡単な作業ではないように思われますが。
もっとも、70%という高率は、“国民の期待が大きかった”だけでなく、投票所に行かないと後々面倒が・・・といった村落共同体的強制力が働いてのものでしょう。
【毛派惨敗で、混乱の懸念も】
注目される選挙結果ですが、第1党の毛派が惨敗のようです。
現地在住の方の今日のブログによれば、現時点で議席が確定したのが“UML(統一共産党)が38人、コングレス(ネパール会議派)31、マオイスト8”とのことです。
毛派の議長で首相にもなったプスパカマル・ダハール氏(通称プラチャンダ)が小選挙区でネパール会議党候補に敗北したとの情報もあります。
そうなると、つい数年前まで国軍と武装闘争を行っていた毛派がおとなしく選挙結果を認めるのか・・・という懸念が出てきます。
****ネパール制憲議会選挙 結果巡り混乱も****
ネパールで19日行われた制憲議会の選挙は、開票が進むにつれて劣勢が明らかになってきているネパール共産党毛沢東主義派が、開票作業に不正があると主張して作業の即時中止を求め、今後、選挙結果を巡って混乱することも予想されます。
ネパールで19日、投票が行われた制憲議会選挙は開票作業が続いていて、現地の報道によりますと、前回5年前の選挙で第2党になった「ネパール会議派」と第3党の「統一共産党」が、多くの選挙区でトップ争いをしています。
一方、武装闘争を放棄して前回第一党になったネパール共産党毛沢東主義派は、都市部を中心に劣勢が明らかになってきており、ダハル党首は21日、記者会見し、開票作業に不正があると主張して作業の即時中止を求めました。
これに対しネパールの選挙管理委員会は、主張には根拠がないとして開票作業を続ける姿勢を示していますが、毛沢東主義派は開票所から立会人を引き上げるなどしていて、今後、選挙結果を巡って混乱することも予想されます。
ネパールは、5年前に王制を廃止して共和制に移行しましたが、その後の新しい国づくりが政党間の対立によって停滞していて、国民の間には毛沢東主義派への失望が広がっていました。【11月21日 NHK】
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毛派惨敗の理由は、左派の分裂のほか、公約が実現されず、腐敗がはびこっていることや強引な政治手法への国民の不満・批判があるのではと指摘されています。
もっとも、それらは毛派に限った話でもありません。
そもそも、武装闘争で恐れられていた毛派が前回選挙で第1党なったことが驚きの結果であり、ネパール版“チェンジ”でした。
しかし、ここ数年の混乱で毛派に対する期待・幻想が色褪せた・・・というところでしょう。
毛派が選挙結果を受け入れ、不毛の対立に陥らないことを願います。
なお、前回選挙では、ながくネパール政治から疎外されていた南部マデシ地方を代表する政党が躍進しましたが、今回どういう結果になるかも注目されます。