(26日バンコクの反政府デモ ホイッスルが必需品のようです。 “flickr”より By ilovemonkeys http://www.flickr.com/photos/ilovemonkeys/11043523123/in/photolist-hPRdBa-hPSWF6-hPTDBp-hPRNSU-hPT1yZ-hPNKC5-hPQ63H-hPP9dL-hPU46Q-hPQRUE-hPPvS6-hPQr4h-hQBabL/)
【「タクシンは出ていけ。軍は介入せよ」】
このブログでも何回も取り上げているように、タイではタクシン元首相を支持する勢力と、反タクシン勢力が国を二分する対立が続いています。
タクシン元首相の妹でもあるインラック首相は、汚職で有罪となり現在国外に逃れている兄タクシン氏の帰国も可能となる恩赦法の制定を試みましたが、下院は通過させたものの、世論の強い批判もあって上院では否決され、インラック首相も廃案とする結果となっています。
インラック政権の恩赦法制定の動きに反発した反タクシン派の抗議活動は、同法案廃案後も政権打倒を目指す行動として拡大しています。
これに対抗する形で、タクシン支持派の活動も起きており、緊張が高まっています。
****タイ首都で大規模な反政府デモ、財務省を占拠****
タイの首都バンコクで25日、インラック・シナワット首相の退陣を求める数万人規模の抗議デモが行われ、デモ隊の一部が財務省の建物に突入し占拠した。デモ隊は他の官公庁ビルも占拠すると警告している。
インラック首相と、汚職で有罪となり現在国外に逃れている兄のタクシン・シナワット元首相に対する抗議デモは、死者90人以上を出した2010年の反政府デモ以来最大の規模にまで膨れ上がっている。
警察の推計では3万人が参加。デモ隊は市内各地で省庁や軍・警察の拠点、テレビ局などへ向かって行進しており、一部は「タクシンは出ていけ。軍は介入せよ」とのシュプレヒコールを叫んでいる。
タイでは立憲革命により立憲君主制が確立した1932年以降、軍が政変に介入する事態が18回にも及ぶ。
バンコクでは、インラック政権がタクシン元首相の帰国に道を開く恩赦法案を提出したことから、ここ数週間にわたって野党主導の反タクシン派デモが続いている。
24日には9万人以上がデモ行進。これに対しタクシン支持派の通称「赤シャツ隊」も同日夜にインラック首相の支持を訴える集会を開き、約5万人が参加するなど緊張が高まっている。【11月25日 AFP】
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過激化する反タクシン派の行動に対し、政府はバンコク全域と周辺県の一部に治安維持法を適用すると発表しています。
****首都に治安維持法適用 タイ反政府デモで緊迫****
タイの首都バンコクで反政府デモを続ける野党・民主党を中心とする勢力は25日、財務省などのビルを占拠し、外務省でも座り込みを始めるなど、行動をエスカレートさせた。
この事態を受け、インラック首相は同日夜、バンコク全域と周辺県の一部に治安維持法を適用すると発表した。
同法は検問の設置や市民の移動規制など警察が混乱予防措置をとりやすくする法律で、これまでも首相府や国会の周辺などに適用されていた。
首都全域への適用は極めて異例で、政府が対抗措置を強く打ち出した形だ。デモ参加者との間で緊張が高まる恐れがある。
26、27日に下院でインラック氏らに対する不信任動議の審議・採決が予定されていることから、デモ隊はこれに合わせて混乱を引き起こし、政権に圧力をかけたい考えとみられる。
地元メディアなどによると、デモ隊は25日朝、政府機関や軍、テレビ局など13カ所に向かってデモ行進を開始。一部は夕方までに解散したが、デモを率いる民主党のステープ元副首相の一団約2千人は財務省ビルなどに入り、すべての部屋で座り込んだ。
その後、学生を中心とするデモ隊約2千人が外務省の敷地内になだれ込み、駐車場などに居座った。
インラック首相は財務省の占拠後、記者団に「こうした行為はタイの国際的信用を傷つける」と退去を呼びかけた。しかしその後、外務省にも混乱が広がり、治安維持法適用拡大を決めた模様だ。
警察は今のところデモ隊の排除には動いていないが、同法適用後はいつまでも放置できないとみられる。
バンコク中心部の民主記念塔で開かれてきた反政府集会への参加者は24日、一時十数万人規模に達したが、25日朝には5万~6万人に減っていた。【11月26日 朝日】
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反タクシン派は財務省に加え、新たに、農業、観光、運輸の3省庁を占拠。
一方、当局は26日、デモを率いる野党・民主党のステープ元副首相に対し、財務省への不法侵入などの容疑で逮捕状を取っています。
****反タクシン派の反政府デモ 新たに3省庁占拠****
タイの首都バンコクで反政府デモを激化させる反タクシン元首相派は26日、前日から占拠を続ける財務省に加え、新たに、農業、観光、運輸の3省庁を占拠した。
政府機能のマヒは必至で、タクシン氏の妹のインラック政権は2011年8月の発足以来、最大の危機を迎えている。
反タクシン派は財務省敷地内に特設ステージを設置し、約3000人がインラック政権打倒を訴え座り込みを続けた。
25日に外務省敷地を占拠したデモ隊は引き揚げたが、新たに3省庁を占拠し、内務省を取り囲んだ。
反タクシン派の報道担当者は「明日(27日)は全国規模に運動を拡大する」と話しており、事態が収束に向かう気配はない。
政府は25日夜に治安維持法の適用を首都全域に拡大。警察当局は26日、デモを率いる野党・民主党のステープ元副首相に対し、財務省への不法侵入などの容疑で逮捕状を取った。
ただ、デモの強制排除など強硬手段に出れば政権批判がさらに強まる恐れがあり、政府は慎重な対応を迫られている。
一方、タイ下院は26日、インラック首相に対する不信任案の審議を始めた。反タクシン派のデモは国会審議に圧力をかける狙いもあるとみられる。【11月26日 毎日】
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2008年11月におきた反タクシン派による空港占拠や、2010年5月の強制排除で日本人カメラマン村本博之をはじめ、一般市民約90人が死亡することになったタクシン支持派による9週間に及ぶバンコク中心街占拠など、これまでの経緯をみると、政権側も容易には強硬手段には出られないと思われます。
2010年5月の強制排除で多数の死者を出した当時のアピシット首相(民主党)は殺人罪で起訴されています。
治安維持法を拡大したインラック首相は、今のところは「力に頼らない」と述べて、強制排除の可能性は否定しています。
インラック首相に対する不信任案の下院審議の結果報道はまだ目にしていませんが、与党が多数を占めていますのでおそらく否決されるのでしょう。
ただ、それではなかなか収束しないように見える反タクシン派の抗議行動です。
【「誰の手にも負えず、誰も新たな道を示せない。共通の土台がないんだ」】
何度も繰り返されるタクシン・反タクシン両勢力の実力行使ですが、政権が強行した恩赦法が廃案になったことでタクシン元首相の帰国は当分は難しくなったように思えます。
****恩赦ごり押しはタクシンの大誤算****
タイ 亡命中の兄の帰国・復権に道をつけるインラック首相の「国民和解」策は頓挫 混迷が続くこの国に最も必要な改革とは
タイのインラック・シナワット首相は11年の総選挙で勝利したとき、繁栄と国民の和解を目指すとフェイスブックで誓った。
だが、今の情勢では目標達成はとても望めない。
インラックは汚職などの罪で実刑判決を受けて国外逃亡中の兄タクシン・シナワット元首相の帰国・復権につながる包括的な恩赦法の成立を目指した。
しかし上院審議を目前にした今月5日、首都バンコクで少なくとも1万人が集会とデモに参加するなど抗議のうねりが広がった。
インラックは「国民が許すことを学べば、この国は前進する」と訴えたが、騒ぎは収まらず、政治危機の再燃が懸念される事態になった。
国民の怒りに押される形でインラックは7日、「恩赦法案は終わった」と官言。
法案を全面的に撤回した。
タクシン派と反タクシン派の対立がタイ政治を混迷に陥れてから7年余り。インラックの4年の任期も半ばを過ぎたが、混乱収束の兆しは見えない。
恩赦法阻止では、反タクシン派のアピシット前政権で副首相を務めた野党民主党のステープ・トゥアクスパン議員が旗振り役となり、バンコクの民主記念塔に多数の市民が結集した。
恩赦法が成立すれば、タクシンの資産460億バーツ(約1448億円)の凍結が解除される可能性もあった。
バンコクのビジネス街シーロム地区ではビジネスマンたちが法案に抗議して目抜き通りを封鎖。株式市場も混
乱に嫌気し、4日の取引終了時点ではタイ企業の時価総額のうち7億7675万バーツ(約24億4400万円)が泡と消えた。
抗議の声が全土に広がるなか、タイの名門大学25校をはじめ、多くの民間機関も法案に抗議する声明を発表した。
インラック政権と与党タイ貢献党が法案をごり押ししようとしたことが、タクシン派の強力な支持基盤に修復不能なダメージを与えた可能性もある。
最貧地域であるタイ北東部はタクシン派の牙城で、11年の総選挙ではタイ貢献党が圧勝した。
だが、この地域で最近実施された世論調査では、恩赦法に反対する人は46・6%に上り、賛成派は31・6%にすぎなかった。
恩赦法は下院では今月1日に野党のボイコットを押して強行採決され可決した。
このとき与党議員は全員賛成票を投じたものの、内心では反対の議員も多かった。
実際タクシン派の中心的な実動部隊「赤シャツ隊」はこの法案に反対し、下院での採決を前にタクシンの「適切な」
復帰を望むと声明を発表。恩赦で罪を水に流すことを暗に批判した。
不毛な報復合戦が続く
赤シャツ隊のメンバーは、タクシン失脚後に政権の座に就いたアピシット・ウェチャチワ前首相の断罪を強く求めている。
10年4月と5月にタクシン派のデモを鎮圧するため軍隊が出動し、赤シャツ隊のメンバーなどに90人余りの死者が出た。この責任を問われアピシットとステープは先月末に殺人容疑で起訴されたが、恩赦法が成立すれば2人の起訴も取り下げられることになる。
これについては、恩赦法成立を目指すインラック政権が反タクシン派の譲歩を引き出すための交渉カードにしようと、殺人容疑での立件を急いだとの見方もある。
だが、赤シャツ隊をはじめタクシン派はアピシットらが恩赦の対象になることに反発。タクシンの息子パントンテもフェイスブックに10年のタクシン派「虐殺」の罪をもみ消すことは許せないと書き込んだ。
身内からも逆風が吹き荒れるなか、インラックとタクシンは恩赦法の意義を必死で訴えた。
「いずれ一線から退くわれわれ(対立世代)が国家の利益を顧みず権力闘争を続ければ・・・傷つき衰弱した国で後を継ぐ子供たちの世代が生きることになる」と、タクシンは下院の採決を前にシンガポールのタイ字新聞で訴えた。
だが恩赦法は上院に上程されても成立は危うかった。さらに、上院が可決しても、裁判で違憲性が問われ無効になる可能性があった。
インラックとタクシンに誤算があったのではないか。
この法案でタクシン人気が試され、国民がタクシンの復権にノーを突き付ける結果になった。
一方、反タクシン派は少なくとも表面上は抗議の高まりで勢いを得たかに見える。ステープは民主記念塔での集会を率い、アピシットもシーロム地区での抗議運動を主導した。
とはいえ、実際のところ恩赦法に抗議した人たちの多くは、インラックをタクシンの操り人形にすぎないとして批判する一方で、ステープとアピシットにも不信感を抱いていた。
結局のところ、恩赦法騒動で誰も得しなかったと、タイのタマザート大学のタネット・アポンスワン教授はみる。タクシン派と反タクシン派の不毛な報復合戦は終わりそうもない。
インラックも和解に貢献できず、恩赦法に国民が猛反発したことから、タクシンが帰国すれば事態はさらに悪化するだろう。「誰の手にも負えず、誰も新たな道を示せない。共通の土台がないんだ」とタネットは言う。(後略)【11月19日号 Newsweek日本版】
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タクシン支持地域や赤シャツ隊においても“タクシン帰国”のゴリ押しには抵抗があるというのは、興味深いところです。
国民和解のためには、タクシン元首相には“過去の人”になってもらう必要があります。
それでも、赤シャツ隊のアピシット前首相への恨みに見るように、両勢力の和解には道筋が見えません。
いつも言われるのは、従来はタイ政治の混乱を調停してきた国王が高齢となり、ほとんど前面にでなくなったことで、和解が更に難しくなっているということです。
街頭での実力行使で政権を揺さぶるという不毛の対立から抜け出すには、国王の権威に頼らない民主主義の確立が求められていますが、その道がどこにあるのか・・・・軍に介入を求めるのは安易に過ぎます。
国民的人気も高かったインラック政権の恩赦法ゴリ押しで、更に混迷が深まったようです。