孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア・アフガニスタン・ミャンマーそしてタイ 民主主義は貧しい国々には享受できない贅沢なのか?

2014-07-19 23:05:39 | 東南アジア

(7月12日 ケリー米国務長官の仲介後に“和解”を演出するアブドラ(右)、ガニ(左)両候補 本当の和解になるのか・・・? “flickr”より By U.S. Department of State https://www.flickr.com/photos/statephotos/14450241810)

インドネシア:集計操作による“逆転負け”を危惧するジョコ氏
自由で公正な選挙による民意の反映が民主主義の根幹をなすことは言うまでもないことですが、選挙における不正や、選挙結果を敗者側が受け入れないなどで、特に民主主義が定着しきれていないような国においては選挙が政治・社会の混乱を助長することも珍しくありません。

庶民派のジョコ・ウィドド・ジャカルタ州知事(53)と、スハルト元大統領の元娘婿で、軍のエリートであるプラボウォ・スビアント氏(62)の争いとなったインドネシアの大統領選挙については、7月9日ブログ「インドネシア大統領選挙 ジョコ氏勝利宣言 社会的課題:宗教的不寛容と腐敗・汚職」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140709)で、民間調査機関が出す非公式の開票速報によると、ウィドド氏が逃げ切ったようだ・・・と書いたのですが、プラボウォ陣営は敗北を認めておらず、22日発表予定の公式結果次第では混乱も懸念されています。

****インドネシア大統領選1週間 譲らぬ「勝利確信」 2候補の対立激化****
インドネシア大統領選は16日で投開票から1週間となる。選挙管理委員会が22日までに発表する公式結果を前に、民間調査で劣勢とされたグリンドラ党のプラボウォ・スビアント候補(62)=元陸軍戦略予備軍司令官=は、勝利を「確信している」とアピールする一方、連立政党への締め付けも強化する。

当選が確実視される闘争民主党のジョコ・ウィドド候補(53)=ジャカルタ特別州知事=の陣営との対立は選挙後も過熱し、不正集計の懸念も高まっている。(中略)

 ◆不正集計も懸念
有利だと伝えられるジョコ氏の懸念は、集計操作による“逆転負け”だ。集計作業は町単位まで進み、今後は県や州レベルで行われる。

ただ、英字紙ジャカルタ・ポスト(電子版)は15日、ジョコ氏に不利な操作が行われているという地方選管幹部の証言を伝えた。

プラボウォ氏も「多くの投票箱が盗まれたと報告を受けた。不正があれば証拠を集める必要がある」とし、選管の結果次第では憲法裁判所に異議を申し立てる構えだ。

憲法裁の結果が確定する8月下旬まで、混乱が続く可能性もある。【7月16日 産経】
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問題は多々あるにせよ、インドネシアはそれなりの民主主義を実現してきた国です。

そのインドネシアで選挙が失敗するということになると、政治的基盤の十分でない国において、そもそも民主主義は達成できるものなのか?実態にそぐわない制度なのか?という懐疑的な見方にもつながります。

****模範的な民主的移行」か「選挙の大失敗」か****
国が岐路に立っていると表現するのは、月並みな決まり文句だ。

だが、今後数週間に何が起きるかによって、インドネシアは「模範的な民主的移行」という印の付いた道を進むか、さもなければ「選挙の大失敗」という標識で示された別の道を進む可能性がある。(中略)

しばしば模範として引き合いに出される国がうまくやり遂げられないのだとすれば、もしかしたら民主主義は本当に、貧しい国々には享受できない贅沢なのかもしれない。

そのため、インドネシアが選挙の行き詰まりにどのように対処するかが地域全体で注視されている。(後略)【7月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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アフガニスタン:「全票調査」で国の分裂が回避できるかの瀬戸際
もうひとつ、選挙結果が保留状態になっている国があります。アフガニスタンです。

アフガニスタン大統領選挙の1回目投票ではリードしたアブドラ元外相ですが、決選投票ではガニ元財務相の逆転が報じられています。

アブドラ元外相は大規模な不正によるものだとして受入を拒否、アメリカのとりなしもあって全票を調査するという事態となっています。

****アフガニスタン大統領選 全票調査開始****
アフガニスタンの大統領選挙で大規模な不正が行われた疑惑が持ち上がっている問題で、17日からおよそ800万票に上るすべての票について、不正がなかったかを確認する調査が始まり、混乱の収拾につながるか注目されます。

アフガニスタンの大統領選挙の決選投票は、暫定結果でガニ元財務相がアブドラ元外相を10ポイント以上、上回りましたが、これに対しアブドラ元外相が大規模な不正があったとして受け入れを拒んだため、先週、アメリカの仲裁によって有権者が投じたおよそ800万票すべてについて、不正がなかったかを確認する調査の実施が決まりました。

これを受けて選挙管理委員会は17日、首都カブールで国連などの支援のもと調査を始めました。

調査は3週間から4週間かけて行われる予定で、決戦投票に臨んだ2人の候補は今後、出される調査結果に従うとしており、選挙を巡る一連の混乱が収拾されるのかが注目されます。

アフガニスタンでは、駐留する国際部隊の大部分がことし末までに撤退する予定で、新たに選ばれた大統領が、国内の異なる民族を結集した挙国一致の体制を築けるのかが今後の課題となりそうです。【7月18日 NHK】
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両者の対立の背景には、アブドラ元外相を支持する少数派のタジク人、ガニ元財務相を支持する多数派のパシュトゥン人という民族対立があるだけに厄介です。

今回の“逆転劇”はパシュトゥン人が多い地方で予想を大きく上回る投票率となったことによるものですが、それがまっとうな投票なのか、選挙管理委員会ぐるみで100万票規模の不正があったのか・・・。
(ガニ氏が地盤とする東部ホースト州では1回目に比べ決選投票では得票が4・6倍に、南部カンダハル州で7・6倍に増加しています。)

すでに選管事務局長が、ガニ氏得票を水増しする不正を指示した盗聴テープを暴露され、辞任に追い込まれています。

アブドラ陣営はガニ氏勝利の結果を認めず、自分たちの政府を別に立ち上げることも宣言する事態となっており、国家が二つの政府に分裂する危険をはらんでいます。

周知のようにアフガニスタンはタリバンとの戦いに未だ決着がついていませんが、今年末までに米軍など外国戦闘部隊が撤退するスケジュールで動いています。

そんな折に、“ふたつの政府”などといった事態になれば、国家は破綻します。
インドネシアよりはるかに重大な危機に瀕しています。

アメリカとしても、事態がこれ以上混乱すれば膨大な流血を犠牲として得た結果が吹き飛んでしまいますので、“支援打ち切り”をちらつかせながら両者の協力を取り付け、なんとか穏便に選挙を乗り越えようとしています。

ただ、「全票調査」といっても大変な作業ですし、一体どうやって不正の有無を確認するのでしょうか?

****800万票が対象****
・・・合意を受けて、全国34州に保管されている投票箱をカブールに運ぶ。運搬を、米軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)が担当する。

その後、両陣営の立ち会いの下で、800万票を検査する。

投票用紙につけられた印などから不自然さを感じ取り、不正を認定する微妙な作業で、両陣営を同時に納得させるのは、困難が予想される。

検査を監督する国連のクビシュ氏は「票の検査の信頼性を確保するため、国際機関は一刻も早く監視団を派遣してほしい」と要請した。

ケリー氏は「両者は検査結果に従うと約束した」と強調。支持者らを検査後に納得させられるのか、両候補の手腕が問われる。(後略)【7月14日 朝日】
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記名式ならまだしも、印では・・・・。なかなか不正有無の判断は難しいのでは。

前回大統領選挙でも不正が問題となり、国際的な圧力で心ならずも決選投票を強いられる形となったカルザイ大統領と、不正を問題視するアメリカの関係悪化を招きました。

その遺恨もあって、今回の選挙の国際管理を拒んだカルザイ大統領にも大きな責任があります。

アブドラ氏に関しては、国際圧力で決選投票を行うことになった前回選挙でも、公正な選挙が期待できないとして決選投票をボイコットした経緯があり、同氏の不正の訴えについては「またか・・・」という空気も国内にあるようです。

現実問題としては、アフガニスタンのような事情・状況にある国では多少の不正が行われるのはやむを得ない現実です。すべての不正を問題視しては選挙が成立しないのが実態です。

100万票規模といった大規模不正が行われたことが明らかにならなければ、多少の問題はあったとしても選挙結果を受け入れることが必要でしょう。

全票調査実施にあたって、“敗れた側が新政権に参加することでも合意した”【同上】と報じられています。
そのような穏便な結果になることを願います。

ミャンマー:大統領を目指すスー・チー氏を阻む壁
大統領選挙への出馬資格で揉めている国もあります。ミャンマーです。

軍事政権時代に制定された現行ミャンマー憲法は、最大野党の国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー氏(69)の大統領就任を事実上禁じる内容となっています。

従って、スー・チー氏が大統領に挑戦するためには、スー・チー排除を念頭に置いた現行憲法の改正が必要となります。

しかし、憲法改正を審議するミャンマーの上下両院合同委員会は6月、大統領資格に関する条項を対象としない決定を下しています。

大統領を目指すスー・チー氏は巻き返しを図ろうと、国内外で活動を活発化させています。

****スー・チー氏、アウン・サン将軍暗殺の日に演説****
ミャンマー独立の英雄、アウン・サン将軍の暗殺から67年となる19日、実の娘で最大野党、国民民主連盟のアウン・サン・スー・チー党首が、ヤンゴンの連盟本部で演説した。

スー・チー氏は「かつて国民は独立のため団結した。今は民主化のため手を携えなければならない」と述べ、民主化路線への意欲を示した。

英国人と結婚し子供をもうけたスー・チー氏は、外国籍の配偶者、子弟がいる人物の大統領就任を禁じた憲法の条項改正を訴える。

国民民主連盟は、条項改正を求めて5月に署名運動を開始し、19日が運動最終日となった。300万人以上が署名したとされ、近く議会に提出されるが、改正論議が高まるかどうかは不透明だ。【7月19日 読売】
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一方、自分たちに都合の悪い結果が予想される選挙の実施を拒否し、クーデターを起こし、選挙制度を変更してしまおう・・・というのがタイです。

タイの話は長くなりそうなので、また別の機会に。

そんなこんなで、アジアの国々を見渡しても、“自由で公正な選挙による民意の反映”というのはなかなか難しい課題であり続けています。
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