
(珍しく笑顔のプーチン大統領とアルゼンチン・フェルナンデス大統領(中央女性)【7月14日 AFP=時事】)
【フェルナンデス大統領「ハゲタカの脅迫には屈しない」】
南米アルゼンチン・・・W杯決勝戦での惜敗で、一部サポーターが暴徒化し、商店の襲撃や現金自動預け払い機(ATM)を破壊、警官隊が催涙弾や放水車を使ってこれを鎮圧しています。
地元テレビによると、双方に複数の負傷者が出たほか、サポーターら数十人が拘束されたそうです。
ただ、アルゼンチンは本来はそんなW杯で騒いでいられる状況ではありません。
周知のように、01年の債務不履行(デフォルト)に続いて、再びデフォルトに追い込まれるかどうか・・・という厳しい局面にあります。
2012年12月12日ブログ「アルゼンチン 景気悪化とインフレーション インフレ率操作の疑惑も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121212)でも取り上げたように、アルゼンチンではインフレーションが進行し、これに対するフェルナンデス大統領の対応はあまり評価できないものでした。
また、そうした経済の脆弱性を背景に、今年1月には通貨危機にも襲われています。
1月25日ブログ「アルゼンチン・ペソ急落 新興国経済への不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140125)
ただ、今回のデフォルトの危機に関しては、アルゼンチン・フェルナンデス大統領の無策というよりは、素人目には「ハゲタカ」ファンドの強欲さが目立ちます。
****「ハゲタカ」が主導するアルゼンチンの債務危機****
紙くす同然だった国債を額面で買い取らせようとする強欲な米ヘッジファンドがこの国を追い込んでいる
あの国が再び債務危機に陥っている。
アルゼンチンは01年に1000億ドルという巨額の債務不履行(デフォルト)を宣言。当時の高利回り債ブームで同国債を買った世界中の投資家に損をさせた国だ。
その張本人が懲りずにまた?
そうではない。今回の危機は01年のデフォルトの続きだ。
当時、アルゼンチン国債などを保有していた債権者の9割以上が、同国政府と交渉。彼らは7割以上の債権カットを受け入れ、わずかな利息を受け取ってきた。だが今に至るまで債権カットに応じず、額面どおりの返済を求めて法廷闘争を続けてきた残り1割の債権者がいる。
彼らを主導するのはアメリカの大富豪ポール・シンガーが運営するヘッジファンドの子会社、NMLキャピタルだ。
NMLキャピタルは数年前、米連邦地裁にアルゼンチン政府を提訴。債務減免に応じた投資家に対する債務返済優先は不公平で、自分たちも同時に返済を受ける権利かあると主張した。
保守派のトーマス・グリェサ判事はこれを認め、高裁に続いて最高裁も先月上訴を棄却した。
金融危機の心配はない?
おかげでアルゼンチン政府は、今月30日までにNMLキャピタルなどに債務約15億ドルを支払わなければならなくなった。支払わないのなら、公平性の観点から他の債権者への利払い5億3900万ドルも禁じる、とグリエサは命じている。
そうなれば、資金はあるが支払いができない「テクニカルーデフォルト」になる可能性が高い。
もしヘッジファンドの要求に応じれば、既に債権カットを受け入れた債権者からも同じ扱いを求める訴訟が相次ぐ
だろう。その総額は150億ドルとも200億ドルとも。
これに対してアルゼンチン政府が保有するキャッシュは160億ドルにすぎない。
これが尽きたら、本当のデフォルトだ。
そもそもヘッジファンドにアルゼンチンを訴える資格はあるのか。
法的には当然あるが、道義的には疑問だろう。なにしろ、NMLキャピタルらが所有するアルゼンチン国債は、01年にデフォルトして紙くず同然になった後に買い集めたもの。
アルゼンチン政府によれば、それを額面価値で取り返せば1600%の利益になる。
アルゼンチンのフェルナンデス大統領が「ハゲタカの脅迫には屈しない」と語るのも無理はない。
アルゼンチンは01年のデフォルト以降、国外からはほとんど資金調達ができていない。このため、再度デフォルトしても金融危機が世界に波及する恐れはないと言われる。
だがデフォルト以後リーマン・ショックまで8%の経済成長を実現してきた努力は台無しになる。
「金融機関が国や世界より自分の利益を優先することは分かっていたが、ハゲタカファンドの強欲度は新たな高みに達した」と、コロンビア大学のノーベル賞経済学者スティグリッツは英ガーディアン紙に語った。
今回の場合、アルゼンチンはむしろ被害者なのだ。【7月15日 Newsweek日本版】
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“デフォルト以後リーマン・ショックまで8%の経済成長を実現してきた(フェルナンデス政権の)努力”という部分にはやや異論もありますが、紙くず同然の債券を集めて執拗に額面通りの返済をせまるヘッジファンドのやり様は、まるであこぎな街金のようでもあり、まさに「ハゲタカ」にふさわしいイメージがあります。
マネーの世界では当然の行動でしょうし、法律的にも認められた訳ではありますが・・・・。
債務不履行(デフォルト)の危機に陥っているアルゼンチンは6月30日、債務減免に応じた投資家に対する利払いの期限を迎えましたが、ニューヨークの米連邦地裁判事は、ヘッジファンドとの合意がないままその他債務者への利払いを行うことは認められないとして、アルゼンチンの米銀への口座入金を認めませんでした。
デフォルトまで1カ月間の猶予期間があり、このひと月で関係者との交渉で解決を目指しますが、アルゼンチン側とヘッジファンド側の主張は平行線で、今後の見通しはあまり明るくないとも言われています。
ただ、“市場では「ギリギリの段階で解決策が見つかる」との観測もある”【6月29日 産経】とも。
【12日にプーチン大統領、1週間後には習近平国家主席】
国際的には、01年のデフォルトによって欧米からは冷遇されているアルゼンチンですが、「捨てる神あれば・・・」でしょうか、ここにきて中国・ロシアがアルゼンチンに接近しています。
****アルゼンチン大統領、中ロ首脳の支援に期待****
アルゼンチンが10年に及ぶ米国裁判所でのヘッジファンドと法廷闘争に負けた後、同国のクリスティナ・フェルナンデス大統領は中国とロシアの指導者に支援を求める。
7月第3週にブラジルで開催されるBRICS首脳会議に先駆けて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12日にアルゼンチンを訪問、その1週間後には中国の習近平国家主席がアルゼンチン入りする予定だ。
両首脳の訪問時に、アルゼンチンはいわゆる「ホールドアウト」債権者との戦いに対する単なる政治的支援以上のものを期待しているかもしれない。
シェールガス・オイル田の開発に欠かせない外国投資
アナリストらによれば、パタゴニアにある巨大なバカ・ムエルタのシェール層が、中国とロシアがアルゼンチンに対して抱く興味の背景にある一方で、アルゼンチン政府としても、世界第2位のシェールガス埋蔵量と第4位のシェールオイル埋蔵量を誇るバカ・ムエルタを開発するために外国からの投資を切望しているという。
アルゼンチンは、2001年に約1000億ドルの債務でデフォルト(債務不履行)して以来、資本市場から締め出されてきたが、政府がここ数カ月でいくつかの紛争を解決しているため、外国の投資家との関係は徐々に正常に戻りつつある。
直近では、米最高裁判裁が先月、デフォルト後に債務再編の受け入れを拒んだホールドアウト債権者に全額返済しなければならないとした米連邦地裁の判決の見直しを求めたアルゼンチンの控訴を棄却した後、アルゼンチンはホールドアウト債権者と交渉を始めている。(中略)
中国は水力発電プロジェクトや鉄道に大型投資
中国企業は既に、パタゴニアの水力発電プロジェクトや、アルゼンチンとチリの太平洋岸を結ぶ鉄道への大型投資を固める予定だ。
この鉄道ができれば、アルゼンチン最大の貿易相手国としての中国の立場――中国はアルゼンチンの豊富な穀物、特に大豆の主な輸出先であるだけでなく、アルゼンチンは中国から大量に電化製品を輸入している――が強まる可能性がある。
ジェジャティ氏は、中国との100億ドルの通貨スワップの計画が復活していると話す。通貨スワップによって、中国はアルゼンチン向けの輸出代金を人民元で受け取ることができるようになり、ホールドアウト債権者の問題が解決されるまで海外で借り入れできないアルゼンチン政府のドル不足の圧力を和らげられる。
人民元は準備通貨ではないが、貿易での人民元の利用拡大は、中国の金融面の影響力強化に寄与する可能性がある。折しもBRICS諸国――ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ――は7月15日にブラジルで、国際金融機関に対する米国の支配に挑戦する開発銀行を立ち上げようとしているところだ。
2001年にデフォルトした際、国際社会から爪弾きにされたアルゼンチンにとって、習、プーチン両氏のブエノスアイレス訪問は大きな前進だ。
10年以上の孤立を経て、国際社会への復帰へ大きな一歩
「アルゼンチンは10年以上も孤立し、その間、重要な指導者が誰もアルゼンチンに来なかった。両氏の訪問はアルゼンチンが国際舞台に復帰する上で大きな重要性を持つ瞬間だ。各国指導者は再びアルゼンチンを訪れ始めている」と国際関係の専門家、ホルヘ・カストロ氏は言う。
カストロ氏によると、昨年10月の中間選挙でお粗末な成績を収めた後に政策を180度転換してから、アルゼンチン政府は大幅に強化されたという。
同氏は、外貨準備の急激な減少を食い止めた1月の通貨切り下げや、スペインのレプソルのアルゼンチン資産を2012年に接収したことについて同社に補償し、長く懸案になっていたパリクラブ(主要債権国会議)に対する100億ドルの債務を返済することに合意したことを引き合いに出す。
また、政府が何年もホールドアウト債権者と交渉するのを頑なに拒んだ後で、アクセル・キシロフ経済相は11日にニューヨークに戻り、今月末に13年間で2度目となるデフォルトを回避することを目指して、支払いを巡る交渉を続けることになっていた。
「昨年は政府が急降下していたが、その状況は好転している」とカストロ氏は言う。「政府が交渉しているという事実が重要だ」【7月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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“世界第2位のシェールガス埋蔵量と第4位のシェールオイル埋蔵量”というのは、中国・ロシアならずともそそられるでしょう。
また、アメリカに対抗して中南米に影響力を広げるという政治的な効果もあります。
アルゼンチン・フェルナンデス政権もアメリカとは距離を置く左派政権でもあり、また、フォークランド紛争の当事者ということで欧米とは折り合いがよくありません。
****米を意識? ロシア、中南米に秋波 アルゼンチンに原発輸出を提案****
中南米歴訪中のロシアのプーチン大統領は12日、アルゼンチンのフェルナンデス大統領と会談し、原子力協力協定に署名した。
ロシア側は、原発2基を輸出する計画も提案。欧米と対立が深まる中、中南米との経済協力を深める姿勢を鮮明にした。
ウクライナ問題で欧米から批判を受けているプーチン氏は、米国と距離を置く国が多い中南米諸国を重視。
ブエノスアイレスでの夕食会のあいさつでは「重要な国際問題で我々の立場は一致する。共に多極的な世界を支持している」と指摘した。
アルゼンチンは、ロシアによるクリミア併合を非難する国連総会決議の採決を棄権。
借金返済ができなくなる債務不履行の危機に直面する中で、一括返済を求める米投資ファンドを批判している。
プーチン氏は、フェルナンデス大統領が欧米のダブルスタンダード(二重基準)を批判していることを評価する考えも示した。【7月14日 朝日】
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フェルナンデス大統領が批判する“欧米のダブルスタンダード”の具体的内容は知りませんが、世の中ダブルスタンダードだらけであることは間違いありません。