
(2009年7月7日 ウルムチ騒乱を鎮圧する治安部隊に抗議するウイグル族女性 “flickr”より By China Digital Times Editor https://www.flickr.com/photos/90657270@N00/3699801851/in/photolist-6CPGvM-6CWsfZ-6D1Bk7-6CPFPV-6CWs3z-6DgHb5-6CWsae-6CPFDB-6CWsc6-6CTRrh-6DgGMC-6DgtvS-6Dduy2-6D1AHE-6CTQG7-6Vxobh-6CWrzF-6D1ALL-6CPFC8-6D1ADE-6DcktK-6DhCyd-6D1AwS-6DduyH-6D1B3q-6D1ATJ-6CPFxa-6DcjZP-6FYNHj-6Vtida-6Vxo75-6VxnNA-6VtioD-6VE11N-6Vtibg-6VtigM-6Vxo4s-6VE14u-6D1AVu-6CLLKf-6CPFBi-6Dhydw-6J4CN2-6J8z8f-6J8Fzs-6J4yqK-6J8EUd-6J8zXo-6J8HLS-6J4ECp)
【ウルムチ騒乱から5年 強まる締め付け】
2009年に起きたウルムチ騒乱から5日で5年を迎えるということで、中国のウイグル族関連の記事が各紙で見られます。
****騒乱5年、ウルムチ締めつけ 大量拘束、スラム街強制撤去…****
中国新疆ウイグル自治区ウルムチで約200人の死者が出た2009年の騒乱から5年を迎える5日を控え、政治や宗教活動に絡んで労働矯正処分などを受けた経験があるウイグル族が相次いで拘束されている。
「安定重視」を掲げる習近平政権は、なりふり構わぬ取り締まりを続けている。
「5月30日深夜1時に警察が夫を連行した。『7月5日が過ぎれば帰すから騒ぐな』と言われた」
区都ウルムチ北部のウイグル族居住区で食料品店を夫婦で営んでいた30代の女性は、その夜から夫(40)と連絡が取れない。
女性の夫は90年代末、イスラム教の宗教活動に絡み、2年間の労働矯正処分を受けた。熱心な信徒だったが犯罪とは無縁だったという。女性は「連行の理由もわからない。警察は何も教えてくれない」と話す。
ウルムチでは4月30日に鉄道駅で、5月22日には朝市で大規模爆発事件があり、当局は取り締まりを強化。これまで約380人を拘束したと宣伝している。
中国の少数民族自治地域は国土の6割に及び、資源に富む。同自治区は長大な国境線を有し、その治安は国の安全保障や経済政策にも直結し、安定確保は当局にとって最重要課題だ。
当局が過激派の「巣窟」とみるスラム街の撤去も本格化。ウルムチ北部の一号立井地区では6月初旬、大規模な住居の取り壊しが始まった。
貧しい自治区南部からの出稼ぎ者が大勢住んでいた。今では当局者の詰め所が設けられ、武装部隊が警戒する。
住民によると、長年再開発の移転交渉が続いていたが、最近300~400戸が強制退去に。
地元のウイグル族男性は「政府は貧困がテロにつながると考え貧しい人々を追い出した」。
住民は帰郷したり、わずかな補償金を受けて市内の別の地区に移ったりしたという。
だが、中国語の能力や宗教習慣の違いが原因で、ウイグル族の就職は容易ではなく、新たな反発を生む悪循環に陥っている。【7月1日 朝日】
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習近平政権の“なりふり構わぬ抑え込み”のひとつとして、「テロ」関係者の一斉判決も報じられています。
****113人に一斉判決=「テロ」封じる実力誇示―中国新疆*****
中国新疆ウイグル自治区の政府系ニュースサイト・天山網は29日、カシュガル地区の裁判所が地区内の各地で、「テロ」などに関わる69事件、113人の被告に対し、一斉に判決を言い渡したと伝えた。
テロ組織を指導した罪などで4人が無期懲役、他の109人も有期の懲役刑となった。
判決があったのは25日午前。被告は大半がウイグル族とみられる。
当局は多くの民衆を集め判決大会を開くなどしており、厳しい処罰の公開や報道は「テロ」を封じ治安を維持する実力を誇示する狙いがある。【6月29日 時事】
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事実上のクーデターで軍部がモルシ政権を倒したエジプトでは、行政庁舎などを襲撃して警察官ら2人を殺害したとして、6月21日、ムスリム同胞団関係者183人に死刑判決が言い渡たされています。4月にも683人に死刑判断が下されたましたが、4人は終身刑、496人は無罪となっています。
まあ、そうしたエジプトに比べればまだまし・・・・と言うか、どっともどっちと言うべきか。
1月に拘束されたウイグル族学者、イリハム・トフティ氏についても厳しい扱いが報じられています。
トフティ氏はネットなどで民族対立が激化する新疆の実情を伝え、冷静な問題解決を促したほか、昨年10月に起きた北京・天安門への車両突入・炎上事件では海外メディアに対して当局の対応を批判しました。
新疆ウイグル自治区ウルムチ市の公安当局は1月に同氏を拘束し、2月に正式逮捕しています。
これまでは弁護士との面会も認められていませんでした。
****ウイグル族の学者、拘置所で絶食強制…中国****
中国公安当局に国家分裂容疑で逮捕されている中央民族大学の学者、イリハム・トフティ氏(44)が、拘置所で10日間にわたり食事が提供されないなどの虐待を受けたとして、当局を告発した。
イリハム氏の弁護士が2日明らかにした。
少数民族ウイグル族のイリハム氏は6月26日、新疆ウイグル自治区ウルムチで初めて弁護士との面会が認められた。
弁護士らによると、食事提供停止のほか、20日間以上にわたり足かせをかけられたり、イスラム教徒が口にできない食材を出され、事実上の絶食を強いられたりした。体重は16キロ減ったという。
また、自身のサイト「ウイグルオンライン」で新疆の「独立を宣伝した」などとする容疑について、「自分のいかなる言行も分裂を支持していない」と無罪を強く主張したという。【7月2日 読売】
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【強圧的な締め付けに反発も強まる】
中国治安当局は、ウイグル族女性が全身を覆う衣装を着用したり、スカーフで頭部や顔を隠したりすることを禁止するなど、ウイグル族の宗教・文化の独自性を認めない締め付けを強めています。
こうした強圧的な対応はウイグル族の反感を強め、衝突を誘発することにもなっています。
****ラマダンの断食禁止=政府機関など徹底―中国新疆****
イスラム教のラマダン(断食月)が始まった中国新疆ウイグル自治区で、政府機関などが公務員や教員に、ラマダン中の宗教活動禁止を徹底するよう指示を出している。
当局発表で197人が死亡した区都ウルムチの大規模騒乱から5年となる5日を控え、当局の厳しい規制は、イスラム教徒の多いウイグル族の反発を招く可能性がある。
同自治区トルファン地区商務局はホームページに、共産党幹部や公務員に対し、断食やモスク(イスラム礼拝所)での宗教活動参加を厳禁する指示を掲載。
本人だけでなく、家族や友人らにも「宗教・迷信思想の侵食を防ぎ、違法な宗教活動と積極的に闘う」よう指導することを求めた。【7月4日 時事】
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習近平政権は“互いの文化を尊重して融和に努める”といった“軟弱な”考えは毛頭ないようで、力による封じ込めが目立ちます。
しかし、徹底的な抑圧政策にウイグル族の反発は逆に強まり、過激思想が広がるという悪循環も起きています。
****反動で過激思想拡大****
タクラマカン砂漠が広がる自治区南部ホータン地区。ウイグル族の男性は半年前、知人に誘われ、郊外にある民家を訪れた。
「中国はイスラム教徒の敵だ」。パソコンに映し出された数分間の動画の中で、ひげを伸ばした男が中国政府への「聖戦」を呼びかけていた。
組織名は覚えていないが、自治区の分離・独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の動画の可能性がある。男性は恐ろしくなり、知人と連絡を絶った。
「暴力の世界に踏み込むことはできない。ただ、記録媒体に保存して持ち運べば、監視が強いネットを介さなくても簡単に広がるのだと思った」。ホータン出身の男性はそう振り返った。
ウイグル族の中でも厳格なイスラム教徒が多いホータン地区。中心部では、「テロ組織に打撃を与えよ」と横断幕を掲げたトラックが多数の武装警察隊員を乗せて移動していた。
ホータン出身のウイグル族によると、40歳以下のウイグル族が長いあごひげを生やしていると拘束され、道ばたで多数で集まると警察から解散するよう要求される。
「抵抗すれば射殺されることもある」といい、情報の拡散を防ぐためにメッセージ交換アプリ「微信」が携帯電話から発信ができなくなっているという。
公安省は6月下旬、「テロ」に関わる情報提供者に対する報奨金制度を設けるよう各地の公安当局に指示。自治区内では「密告」を恐れて互いに疑心暗鬼になる人も多く、重苦しい雰囲気が漂っていた。
30代のウイグル族の男性は「とても生きづらい。どこか外国に逃れたいが、ウイグル族はパスポートも簡単にとれない。行く場所もない」とうなだれた。【7月2日 毎日】
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中国政府は、一連の無差別殺傷事件について、自治区の分離・独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」によるテロ行為と断定して厳しい取締りを行っています。
しかし、本当にETIMによる組織的テロ行為なのかについては疑問視もされています。
****中国、「対テロ」主張…ウイグル政策を正当化****
ウルムチなどで相次いだ無差別殺傷事件について、中国政府は自治区の分離・独立を目指すETIMが関与した「組織的なテロ」と断定し、「中国も国際テロの被害者だ」との主張を強める。
米国が掲げる「対テロ戦争」と同一だと訴える狙いがあるが、ウイグル政策を正当化したい思惑も垣間見える。
国家インターネット情報弁公室は先月24日、ETIMがネットを通じてテロ行為を扇動しているとする動画を公開。昨年6月の警察署襲撃事件で主犯とされた男が「(聖戦を呼びかける)動画を何度も見て、携帯にもダウンロードした。次第に聖戦を渇望するようになった」と供述する様子を流した。
だが、現在のETIMには「中国国内でテロを組織する能力はない」との見方が強い。
一連の事件で、通常のテロなら出る犯行声明はない。5月にウルムチの朝市に車両が突入して爆発した事件では、2台の車両が使われたにもかかわらず爆発規模は小さかった。
国際テロ組織に詳しい西側外交筋は「プロのテロリストによるものではない。反発を強めたウイグル族が、ネットで得た情報で爆発物を作り、個別に実行しているのではないか」との見方を示す。
ただ、イスラム過激派の影響が強まって過激化する恐れはあり、「聖戦」を呼びかけるETIMを強く批判する中国政府の懸念もそこにあるとみられる。
区都ウルムチでは、4月と5月に起きた爆発事件を受け、出稼ぎに来ている自治区南部のカシュガルやホータン地区出身のウイグル族が、自治区政府の命令で故郷に帰還させられている。
一連の事件で容疑者とされたのは南部出身者が圧倒的に多く、「誰が敵で誰が味方か分からない状態になっている」(自治区共産党に近い関係者)からだという。
自治区では最近、カシュガル地区などの裁判所が「テロ活動」に関わったとして多数のウイグル族とみられる被告に対し一斉に判決を出すなど、中国当局は強硬姿勢を強める。
ただ、そうした政策がウイグル族のさらなる反発を呼ぶ可能性は高い。【同上】
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【アメリカの撤退で、中国が標的とされるリスク増大】
一連の事件がETIMによる組織的テロ行為なのかどうかはともかく、世界中からイスラム武装勢力が集まるパキスタンの部族地域で、中国から逃れてきたウイグル族の独立派が製作したとみられるPRビデオが出回るなど、中国を敵視するイスラム過激派が目立つようになっており、中国は神経をとがらせています。
****標的にされる中国 「全イスラム教徒の敵」****
パキスタンの部族地域に集まる国際的な過激派のサークルの中に、ウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」が目立つようになったのは2007年ごろからだ。どういうルートでたどり着いたのか、中国領内の同胞とどうつながっているのかははっきりしない。
組織は自身を「トルキスタン・イスラム党」と名乗り、指導者のアブドラ・マンスール司令官は今年撮影されたビデオで、08年に中国と北京五輪への「聖戦」開始を宣言し、昨年1年間だけで20件以上の攻撃を行ったと主張。「中国は我々だけの敵ではない。全イスラム教徒の敵だ」と訴えた。
対テロ戦を「米国対イスラム世界」の構図に持ち込もうとしたアルカイダと同じく、ウイグル問題を「中国対イスラム教徒」の問題に拡大しようとする思惑がのぞく。(中略)
■アフガンで増す存在感
「パキスタンは中国の真の友人だ。中国はパキスタンがETIMの取り締まりを支持していることに感謝し、対テロ協力の一層の深化を願っている」
中国軍の范長竜・中央軍事委員会副主席は4日、訪中したパキスタンのラヒル・シャリフ陸軍参謀長と会談し、こう述べた。シャリフ氏も「ETIMは両国の共通の敵。パキスタンは徹底的に取り締まる」と応じた。
中国とパキスタンは、ともに隣接する大国インドとの戦争を経験し、「敵の敵は味方」という共通の利害から、核開発や軍事部門から経済協力まで多岐にわたる分野で関係が深い。
さらに、昨年6月に誕生したシャリフ政権は、中国新疆ウイグル自治区から伸びるカラコルム・ハイウエーを、中国の全面支援で02年から開発が進むアラビア海沿岸のグワダル港につなげる経済回廊計画を提唱する。
回廊は分離独立運動がくすぶる同自治区に経済発展をもたらし、米国の影響下にあるマラッカ海峡を経ずにインド洋への道を開く。中国にも重要な計画だ。
一方、アフガニスタンのカルザイ大統領も、後ろ盾だった米国との関係がこじれるにつれて中国に接近。12年間の在任中に6度訪中し、習近平国家主席から「古い友人」と呼ばれるまでになった。
今年6月に訪中した際には「もし選び直すチャンスがあるなら、アフガンは効率的な中国式の発展モデルを選ぶだろう」と中国国営中央テレビの取材に答えている。
カルザイ政権下で両国の貿易額は、ほぼ10倍に拡大した。中国はインフラ整備への支援や無償援助と引き換えに、銅や石油などの共同開発権を獲得し、大手の国有企業を進出させてきた。
■進出先の治安、米軍頼み
ただ、中国の誤算は、パキスタン、アフガンともに、治安がなかなか安定しないことだ。進出先で中国人が襲われる事件が相次ぎ、開発は計画通りに進んでいない。
米政権は国際テロ組織アルカイダの本体は弱体化したとみて、アフガン駐留米軍を16年末までに完全撤退させる。パキスタンでも、無人機使用が国際的な批判にさらされ、攻撃の規模を縮小しつつある。
中国は、周辺国に米国が軍事展開することに否定的で、国境を接する中央アジア・キルギスでの駐留にも反対した。だが、アフガンでは米軍に頼るしかなく、カルザイ氏によれば、米軍のアフガン駐留延長にも賛成していた。
中国の懸念の背景には、米軍が11年末に撤退して以降、治安が悪化したイラクでの事態がある。(後略)【6月27日 朝日】
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アメリカがイラクの戦闘で多くの血を流した結果、もっとも大きな利益を手にしたのは石油利権を獲得した中国であるともいわれています。アフガニスタンでも同様の話があります。
アメリカが“内向き”傾向を強めて世界から手を引き始めると、中国は各地でのリスクに自ら対応する必要に迫られます。
特に、隣接するアフガニスタン・パキスタンのイスラム過激派の存在は厄介です。
経済開発で利益を誘導しながら(その大部分は漢族と、それにつながる一部ウイグル族に独占されているとも言われていますが)、社会的・文化的には強い締め付けを行うという、これまでのようなウイグル政策でやっていけるか疑問です。自治区における対立が更に先鋭化・過激化するおそれがあります。