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(“flickr”より By hassan abu alzait https://www.flickr.com/photos/125807054@N05/14674449044/in/photolist-o5rDqG-ojUu2u-o5rChj-omJos9-o5sKbp-omWqpH-ooGgst-ooGgDa-o5rCdG-o5rCqW-omWq5z-o5rJDr-omJqDd-o5sKD8-ooGh6H-o5rCZm-o5rQu3-ooGfRZ-o5rMjM-o5rKpe-ooGhDg-ooVxbB-ooVAiP-onaH6n-o5F4Ba-ooWAgn-onbFrZ-o5G7kJ-ooWzBr-o5G3Mx-omUiQa-ooWAmT-omYCKQ-ona6ZC-ok9MJf-ok9Nib-o5G6do-onbFTF-ooX7PM-opdSJa-o5naBy-omYQwA-onbYdz-okai47-ooBbKH-o5mCCD-o5YkEM-omUPnM-oka1FC-o5XnT7)
【侵攻の目的は「トンネルを破壊することだ」】
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ヘブロン近郊のユダヤ人入植地で、16~19歳のイスラエル人3人が行方不明になり、6月30日に遺体で発見。
イスラエルに敵対するハマスの犯行と断定するイスラエルの厳しい捜査にパレスチナ側で高まる反発。
イスラエルが実効支配する東エルサレムで7月2日未明、パレスチナ人の少年が拉致・殺害されるという“報復”と見られる事件が発生。(この件に関しては、未成年を含むユダヤ人の男6人が逮捕され、「国粋主義的な動機」で犯行に及んだとされています。)
両事件を契機に、ガザ地区からのハマスなどによるロケット弾攻撃とイスラエルによる空爆が8日頃から本格化する形で対立はエスカレート。
そして17日には、懸念されていたイスラエル軍による地上戦開始という最悪のシナリオをたどっています。
ガザ地区での地上戦は2009年1月以来です。
“ネタニヤフ首相は17日夜、地上侵攻の理由について、「ハマスがエジプト主導の停戦案を受け入れず、イスラエルへの攻撃を続けた」との声明を発表した。首相はその上で、侵攻の目的を「トンネルを破壊することだ」と述べ、ハマスが武器搬入などに使う地下トンネルへの攻撃を挙げた。”【7月18日 読売】
地下トンネルを叩くには地上戦しかない・・・との判断です。
****ガザのトンネル、クモの巣状…ハマス移動に活用****
イスラエル軍が17日、イスラム主義組織ハマスの拠点、パレスチナ自治区ガザに侵攻したのは、地下トンネルを使ったハマスのイスラエル領侵入が発覚し、これを阻止するには地上作戦しかあり得ないと判断したためだ。
軍はトンネルを徹底的に破壊し、イスラエルへの攻撃を絶つ戦略を描いているとみられる。
イスラエル政府筋によると、地上侵攻の直接の契機は、17日早朝、ガザ地区からハマスの武装集団13人が地下トンネルを使ってイスラエル側に入り、ロケット砲などで農園を攻撃しようとしたことだ。
未然に発見したイスラエル軍が空爆により撃退したが、政府内では、トンネルがイスラエル住民の生活圏に接近していたことに衝撃が広がったという。
イスラエル軍は今回、地上作戦の主要な目標として、「トンネルを通じたテロリストの侵入を防ぐこと」を挙げた。
トンネルは、ガザの地下にクモの巣のように張り巡らされ、ハマスの移動経路となり、テロ攻撃やイスラエル兵の誘拐などに使われてきた。ハマスによるロケット攻撃の発射拠点はトンネル内にも隠されていた。
トンネルは住宅密集地の下にもあるため、空爆だけでの破壊は不可能だ。
今年3月にハマスの政治集会で演説したハマス指導者のイスマイル・ハニヤ氏は、「イスラエルは我々の地下からの攻撃に恐れおののく」と警告。
これに対し、強硬右派のリーベルマン外相は、「トンネルを破壊するには、ガザ地区を占領するしかない」と訴えてきた。
イスラエル首相府は地上戦について、「ハマスによるイスラエルへの危険な侵入に対して市民を防衛する義務がある」との声明を発表した。【7月18日 読売】
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【国外の後ろ盾を失い追い詰められたハマスの“賭け”】
ハマスとイスラエルの衝突は2012年11月にもありましたが、このときは“ハマスの源流であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が主導するエジプトのモルシー政権が早くから仲介に乗り出し、イスラエルが地上侵攻に乗り出す前に停戦合意が成立。ハマスは、ガザ封鎖の緩和や、エジプトがそれを保証することなどの「外交的成果」を挙げた。”【7月18日 産経】と言う形で地上戦は回避されました。
しかし“今回、エジプトのシーシー政権が提示した停戦案は、無条件での戦闘停止後に停戦合意の詳細を協議するとするもので、ガザ経済の改善に向けて封鎖解除を強く求めているハマスにとっては不十分な内容だ。同政権がハマスに不利といえる提案をしている背景には、敵対する同胞団と緊密な関係にあるハマスを弱体化させたいという、イスラエルと共通した思惑がある。”【同上】ということで、地上戦突入となっています。
2008年末の衝突から09年1月の地上戦に突入した際には、地上作戦はイスラエルが一方的に停戦を宣言するまで2週間にわたって続き、この衝突によるガザの死者は1400人超に上っています。
ハマスがエジプトの停戦案を拒否してイスラエルとの衝突に突き進む背景には、シリア・エジプトの支援を失い、追い詰められている状況があるとも指摘されています。
****ハマスが挑む「最後の戦い」****
エジプトの政変が打撃に
・・・・そもそも、最近のハマスは苦しい状況に追い込まれている。
対立してきたマフムード・アッバス議長率いるパレスチナ自治政府と歩み寄り、6月に暫定統一政府を発足させたのも、おおむね弱さの表れと見なせる。
ここにきて、ハマスは国外の後ろ盾を失いつつある。既に数年前に、長年支援を受けてきたシリア政府と決別。拠点をシリアからカタールに移した。
エジプトの政治状況も大きな打撃になっている。昨年7月の軍事クーデターで、ハマスの設立母体であるイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が政権を追われた。その後、新政権を主導してきたアブデル・ファタハ・アル・シシ現大統領は、同胞団を非合法化し、幹部を容赦なく逮捕・殺害している。
シシはエジプトとガザの問のラフア国境検問所も封鎖。ごく短時間、人道目的に限ってのみ通行を許している。
エジプト軍は、エジプトとガザを結ぶ非合法の地下トンネルも徹底的に破壊した。ガザヘの重要な物資供給ルートだったトンネルが使えなくなったため、小麦粉から高級自動車、さらにはありとあらゆる武器に至るまでの密輸が困難になった。
追い詰められた末の賭け
この結果、ガザでハマスの威信が大きく低下している。しかもアッバスは、暫定統一政府の設立で合意した後も、ハマスがカタールからガザに送金することを阻み続けている。
ガザのハマス職員への給料は何力月も支払いが遅れており、乏しくなる一方の予算をめぐる派閥対立も激化し始めた。
6月に3人のイスラエル人の少年が誘拐・殺害される事件が起きて以降、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区でハマスの施設を徹底的にたたいている(アッバス率いる自治政府がこれを暗黙に支援しているケースもあるようだ)。ハマスのメンバーが大勢逮捕されているほか、系列の慈善団体が閉鎖され、銀行口座が凍結された。
ハマスの側には、暫定統一政府を樹立することを通じてガザだけでなく、ヨルダン川西岸でも政治的影響力を取り戻したいという思惑があった。しかし現実には、ガザに撤収せざるを得なくなっている。
現在の戦闘を引き起こした大きな原因の1つは、追い詰められたハマスが捨て鉢の賭けに打って出たことだと、テルアビブ大学のウジ・ラビ教授はイスラエル・ラジオで指摘している。
その賭けが当たってハマスが巻き返しに成功するのか、それとも裏目に出て大きな打撃を被ることになるのか・・・すべては今回の戦いで決まる。【7月22日号 Newsweek日本版】
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イスラエルに包囲されて厳しい封鎖状態にあるガザ地区がこれまでやってこれたことの方が不思議なことです。
エジプト国境の地下トンネルが生命線になっていましたが、エジプトの政変でその生命線が断たれてはガザ地区・ハマスの置かれた状況は厳しいものがあります。
アッバス議長の自治政府も、イスラエルによるハマス弱体化を黙認している・・・というは、さもありなんという感はあります。
ただ、イスラエルによる犠牲者が増え続けるなかでこれを黙認すること、あるいは戦闘停止に向けた存在感を示せないことは、パレスチナ住民の支持を失ない、存在意義を問われる大きな危険もあります。
ハマスにしてみれば、ここで妥協してもジリ貧にしかならない、それぐらいなら賭けにでようか・・・という流れでしょうか。イスラエルへのパレスチナ住民の怒りは、イスラエルと敵対するハマスの存立を支えます。
ハマスの停戦拒否の背景として、現在ハマスを支援しているカタールとトルコの関与を指摘する向きもあります。
****ガザ侵攻:停戦交渉巡り、乱れる周辺国の足並み****
・・・・イスラエルメディアによると、エジプトが14日に提示した停戦案をハマスが拒絶した背景には、カタールとトルコが拒否するよう促したとの情報もある。
カタールやトルコは、仲介に加わって交渉をハマス有利に進めたい思惑があるとみられる。
15日にはカタールのタミム首長とトルコのギュル大統領が会談し、ガザ情勢を協議した。
だがイスラエルは交渉がハマス寄りに進むことへの警戒感から、両国が仲介に加わることに否定的だ。【7月18日 毎日】
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【住民犠牲をこれ以上増やさないことが最優先されるべき】
カタールやトルコの仲介とは言っても、イスラエル軍が地上戦に突入した今となっては、地下トンネル・ロケット弾施設を徹底的に破壊するという目的を達成する以外にイスラエルが攻撃を止める要因としては、パレスチナ住民の犠牲者が増大して国際的な圧力が高まったときしかないでしょう。
しかし、ウクライナでのマレーシア航空機撃墜という事態を受けて、国際的関心も分散されてしまいかねません。
パレスチナ住民の夥しい血が流されることでしか事態が動かないというのは、愚かしいことです。
住民の犠牲を顧みず、勝算のない戦いに突き進むハマスは、住民の命を軽んじている点ではイスラエルと同じです。
速やかな停戦を行うべきです。