(イラク難民キャンプで、母親と一緒に水汲みを待つ少女 “flickr”より By International Federation https://www.flickr.com/photos/ifrc/14667743192/in/photolist-om9231-omaMva-oj8T77-onVKcg-okXZcj-onGJ8G-ocnYpz-o4G7qt-o4EXPL-o4Ff7y-omaM8g-o4EY5f-omaMoX-okTjaB-omaMcV-oj8SRN-omaMiM-onVKvT-oj8Tou-o4F7Ln-nXHbR7-nZq4od-ogC3n8-nZrbtT-odgBoU-nWx56D-o2Q3Bd-obhEWF-o7eLUQ-nXYdei-nXY5yN-oheikB-odqvx7-ofaJGg-nXYd4Z-ohei1D-ohei2a-nXZ4Rx-nXZ4RH-nXZ4zk-ohehzZ-ohehUg-ofhit9-ofaPvK-nXXRsE-nXXREo-ofpo1j-ofaJcD-odqveb-o6f7TH)
【出口が見えないシリア・イラク】
ひとの関心にはキャパシティーがあると言ううか、忘れやすいと言うべきか、新しい出来事が起きると、それまでのことは意識の外に置かれてしまいやすいものです。
現在、ウクライナやパレスチナ・ガザで事態が切迫しているため、どうしても関心はそちらに向いてしましますが、シリアやイラクの情勢が好転している訳では決してありません。
****イラクとシリアはウクライナとガザより深刻だ****
ウクライナとガザの情勢がメディアの関心を集める影で、忘れられた2つの内戦が悪化の一途をたどっている
このところ世界はガザとウクライナに目を奪われ、シリアとイラクの内戦のことは忘れてしまったようだ。メディアの報道では"目新しさ"が優先されるらしい。
シリア内戦は延々と続いているが、メディアが取り上げるのは、化学兵器使用の疑いが出たり、アメリカが空爆を行う可能性があるなど、劇的な変化が起きたときだけだ。
シリアでもイラクでも最近はガザやウクライナのような派手な変化は起きていない。
だがシリアでは先週、アサド政権側とスンニ派の過激派組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)の戦闘で700人以上の死者が出た。2日間の戦闘による犠牲者としては、シリア内戦における過去最悪の記録だ。
イラクの首都バグダッドでも今週、ISISの自爆テロで31人の死者が出た。その多くは民間人だ。
ISISは武力で占拠したイラク各地で政治的支配を進めている模様で、彼らの支配地域には油田もあり、密売ルートで石油を売り、新たな資金源にしている。
イラク政府が派閥対立に引き裂かれ、機能不全に陥っているかぎり、ISISの台頭は押さえられそうもないが、シーア派、スンニ派、クルド人指導者の間での権力分配をめぐる話し合いはいっこうにまとまらない。
そうしたなか、イラクの治安部隊がシリアのアサド政権が使用したことで悪名高い樽爆弾(樽状の容器に金属片などを詰めて殺傷力を高めた爆弾)を空爆に使い、民間人の犠牲者を出した疑いが浮上し問題になっている。
ガザ、イラク、ウクライナ、さらには南シナ海と、「弧状に連なるグローバルな不安定要因」がオバマ政権を試練に立たせているという議論を最近よく耳にするが、こうした言説には大きな問題がある。
長年火種がくすぶってきた地域における一時的な戦闘激化と、それよりもはるかに大規模で、国際情勢を大きく変容させかねない出来事を同列に扱っているからだ。
ガザの状況は悲惨きわまりないとはいえ、遅かれ早かれ停戦合意がまとまり、戦闘は収束するだろう。
東ヨーロッパの人々は警戒心を募らせているが、ウクライナ東部の紛争が地域全体に広がる可能性は低く、せいぜい国境を接する国々に飛び火する程度だろう。
イラクとシリアはこれとは事情が異なる。
この2つの内戦はいっこうに終わりが見えず、混迷は深まる一方で、これといった政治的解決策は見当たらない。
長年存続してきた国家の枠組みが崩れ、この一帯が国際的なテロの温床となる危険性もある。
さらに、この2カ国からあふれ出す難民は近隣諸国にも緊張をもたらす。アメリカが最も直接的な責任を負うのも、この2つの国の危機だ。
いま最も関心を集めている悲劇はいずれ幕引きを迎えるだろうが、イラクとシリアの混迷のドラマは落としどころがまったく見えない。【7月24日 Newsweek】
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確かに、撃墜されたマレーシア航空機の298人の犠牲者は痛ましいことではありますが、ウクライナではロシア・プーチン大統領と欧米との間で“落としどころ”を探る段階となっています。
目下の焦点は、その両者の国際的綱引きにあるとも言えます。
今回犠牲によってロシアの行動が制約されることになれば、ウクライナ東部の混乱にも収束の可能性も出てきたとも言えます。
一般市民が多くを占める700人を超す犠牲者を出しているパレスチナ・ガザ地区についても、イスラエルはガザという野外監獄を管理する看守としてハマスを必要ともしており、また、ハマスが徹底抗戦してもイスラエルの基盤が揺らぐ訳でもなく、いずれ停戦が模索されるものと思われます。
それなら、何のための住民の犠牲なのか・・・という憤りはありますが。
一方のシリア・イラクの方は、相手が妥協することが考えられないイスラム過激派であること、アサド政権・マリキ政権ともに問題を抱えていることから、出口が見えません。
このまま混乱が拡大すれば、「イスラム国」による中東地図の書き換え、クルド人の分離独立問題、難民を抱えるレバノン、ヨルダンの不安定化等々、新たな問題を引き起こしかねません。
【非現実的なアサド排除】
強権姿勢・非人道的行為が非難されるシリア・アサド大統領は3期目を迎え、反体制派・欧米が目指すアサド排除はますます非現実的となっています。
****シリア・アサド大統領「和解実施」 3期目就任、強権化に懸念も***
内戦下のシリアで16日、アサド大統領の3期目の就任式があった。
内戦当初は政権存続を危ぶむ見方もあったが、強硬な軍事策で反体制派の攻勢を食い止めた。任期は7年。アサド氏は国民和解を進めると表明したが、政権は今後、さらに強権化するおそれもある。
アサド氏は演説で「大統領選挙の結果はテロと戦う国民の意思を表している」と述べた。さらに「イラクでイスラム過激派が出てきたことはシリアだけでなく、中東全体への深刻な脅威だ」と語った。
テロとの戦いを進めるため、「国民和解の実施と、汚職の追放、経済の再生と社会基盤の再建」などを3期目の課題として掲げた。
首都ダマスカス市内には至る所にアサド氏の看板が立ち、ポスターが張られている。「あなたと共に」「最善の選択」「国のために」との文句が並ぶ。
中心部の繁華街シャアラン通りで衣料品店を営むマジド・サンマンさん(47)は「この2カ月ほどで売り上げは3割以上伸びた。治安が回復し、人々に気持ちの余裕がでて、やっと服を買おうという気になっている」と話した。
反体制派は一時、ダマスカス中心部から5キロまで迫り、中心部に迫撃砲弾が着弾することもあった。しかし、政権軍は1年前から郊外の反体制派支配地域を包囲。「兵糧攻め」を続けた結果、首都近郊の反体制派の力は衰えた。
さらに政権軍は、最大の激戦地・北部アレッポで、住宅地に爆薬を入れた「たる爆弾」を投下。国際的な非難を浴びつつも支配地域を広げた。
政権軍は、隣国イラクにまたがる地域でイスラム国家の樹立を宣言した過激派「イスラム国」の掃討も続ける。
ダマスカスで活動する野党勢力「シリア建設潮流」のアナス・ジョウデ副代表は、「和解と言っても軍事力による停戦であって政治的な解決にはほど遠い」と批判的だ。
同組織は6月の大統領選をボイコットした。「アサド氏は政治改革を約束したが、実現していない。このままでは強権化が強まる」とみる。
ただ、ジョウデ氏は「シリア国民連合」などの反体制派がアサド氏の排除を求めていることも「非現実的だ。現実を無視している」と批判した。【7月17日 朝日】
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そのアサド政権とイスラム過激派組織「イスラム国」の衝突も激しくなっています。
****<「イスラム国」>シリアでも勢力拡大…国土の35%制圧****
イラクへの侵攻を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」が、隣国シリアでも勢力を拡大している。
シリア反体制派組織によると、北部ラッカ県と東部デリゾール県を中心に国土の35%を制圧し、従来は衝突が少なかったアサド政権との攻防も激化した。
対照的に欧米が支援する反体制派は、トルコやヨルダンとの国境に押し込められ、北部アレッポでも守勢に回っている。(中略)
イスラム国は従来、北部や東部での実効支配拡大に注力し、国土西半分に拠点を置くアサド政権側との「すみ分け」ができていた。
だがラッカ、デリゾール両県の支配を固めたことで、政権側への攻撃も本格化させた模様だ。
アサド政権側は、イスラム国の支配地域を空爆しているが、首都ダマスカス郊外や北部アレッポでの反体制派との戦闘に追われ、本格的に反撃する余裕がない。(後略)【7月21日 毎日】
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【反攻態勢がとれないイラク】
イラクの方は、イスラム過激派組織「イスラム国」の拡大という“国家的危機”にありながら、マリキ首相の居座り、相変わらずシーア派・スンニ派・クルド人の対立で、反攻態勢がとれない状況です。
****<イラク>連邦議会、新議長を選出…次期政権樹立へ一歩****
イスラム過激派「イスラム国」が主導するスンニ派武装勢力の侵攻が続くイラクで15日、連邦議会が開かれ、スンニ派のサリム・ジュブリ氏を新議長に選出した。
憲法の規定では、議会は今後30日以内に大統領を選出し、大統領が首相候補に組閣を命じる。
4月の連邦議会選挙に基づく次期政権樹立に向けて一歩踏み出した格好だが、首相の座を巡って、続投に意欲を見せるマリキ首相と反マリキ派の政争が続いている。
15日の本会議には、反マリキ派も含めた大半の議員が出席し、スンニ派の最大会派が推すジュブリ氏が議長選で勝利した。
2003年のフセイン政権崩壊後、イラクでは首相をシーア派、大統領をクルド人、議長をスンニ派から選ぶことが慣例化している。次の焦点は大統領の選任となる。
クルド人はシーア派に対して首相候補を一本化するよう求めている。マリキ首相の党派は最多議席を占めており、続投の道を模索している。だが、シーア派内でも混乱を招いたマリキ氏に反発する声は強い。
スンニ派武装勢力は北部や西部の広域を支配し、バグダッド近郊でも戦闘が続いている。【7月16日 毎日】
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“一歩踏み出した”と言うより、この非常時に“一歩”しか動けていないと言うべきでしょう。
「イスラム国」の方は、その原理主義的性格が前面に出てきていることが報じられています。
****改宗か死か ISISがキリスト教徒に最後通告****
イスラム過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に掌握されたイラク第2の都市モスルで、キリスト教徒が「改宗か死刑か」の選択を迫られ、逃亡を余儀なくされている。
ISISは18日、モスル市内のキリスト教徒に対し、19日正午までに改宗しなければ、55万イラクディナール(約4万8000円)の人頭税を納めなければならないとの通告を出し、いずれにも従わない場合は「剣で死刑にする」と言い渡した。
これを受けて19日早朝、計52世帯のキリスト教徒が自宅から逃げ出した。
改宗や納税を拒否する住民は市外への退去を認められたものの、身に着けた服以外、現金や貴金属などを持ち出すことは禁じられた。(後略)【7月21日 CNN】
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「イスラム国」の主張を額面通りにとれば、「改宗か死刑か」ではなく、「改宗か納税か、さもなくば死か」ということです。
異教徒に対する人頭税はイスラム草創期からの伝統的異教徒対策ですが、信仰の自由を当然の権利とする現代の欧米的価値観からすれば到底容認できません。
ただ、異教徒を認めない十字軍的世界にあっては、一定に異教徒の存在・権利を許す施策でもありました。
しかし、異教徒に辱めを与え、イスラムの優越性を見せつけるようなやり方で徴収されたとも言われています。
イラクの平均年収の5%ほどとも言われる今回の55万イラクディナール(約4万8000円)という金額が負担可能な金額なのか、支払えば本当に生命・権利が保証されるのか、実質的なキリスト教徒追放策にすぎないのか、シーア派住民はどのように扱われるのか・・・その実態はよく知りません。
本当に生命・権利が保証されるのなら、アルカイダ以上に過激・凶暴と言われ、シーア派樹民を殺しまくっていた「イスラム国」しては、寛容な施策とも言えるかも。
シリア・イラク以上に忘れられた紛争も多々あります。
そのひとつ中央アフリカでのイスラム教徒とキリスト教徒の間の殺し合いに、停戦が成立したという歓迎すべきニュースもあります。
****中央アフリカ:武装勢力が停戦合意****
アフリカ中部・中央アフリカ共和国で戦闘を続けていたイスラム教徒とキリスト教徒の武装勢力が23日、停戦に合意した。
同国では武装勢力同士の衝突が宗教対立に発展し混乱が続いてきた。人口の2割以上に当たる約100万人が避難生活を余儀なくされた危機的状況が収束に向かうか注目される。
隣国コンゴ共和国のサスヌゲソ大統領が仲介し、同国の首都ブラザビルで、イスラム教徒主体の武装勢力セレカとキリスト教徒の民兵組織アンチ・バラカが停戦に合意した。【7月24日 毎日】
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