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(「上海福喜食品」の生産ライン 【7月21日 SHANGDU.COM】http://food.shangdu.com/baoguang/20140721/896_5926263.shtml)
【「食べても死にはしない」】
上海にある食品加工会社「上海福喜食品」が、使用期限を過ぎた食品を加工しなおしたり、表示を書き換えたりして、チキンナゲットやハンバーガー用のパテとして販売していることが報じられ、日本でも日本マクドナルドやファミリーマートなどの企業がこの食材を利用していたことから販売中止などの対応に追われています。
こうした食品の安全性の問題に関して言えば、おそらく今回の事件は巨大な氷山のほんの一角にすぎないのでしょう。
****地元テレビ局が伝える食品加工会社の実態****
上海のテレビ局は21日、問題となった食品加工会社の従業員が使用期限切れの肉を使用していた実態を告発するインタビューや、ずさんな衛生管理が行われていた工場内の映像を放送しました。
このうち内部告発をした従業員は、使用期限が過ぎた肉のデータを改ざんしていたと明らかにしたうえで、「改ざんした報告書を当局に見せて実態を隠していた」と話しています。
また、工場内部の映像では、作業中の従業員が「肉が腐っていて悪臭がしている」と話す様子や、別の作業員が「使用期限が切れているが食べても死にはしない」などと話す様子も映っています。
さらに、従業員が地面に落ちた肉を処分せず生産ラインに戻して製品として出荷しようとする様子も放送し、ずさんな衛生管理だと指摘しています。【7月22日 NHK】
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「食べても死にはしない」・・・・偽粉ミルクを飲み数十人の乳児が栄養失調で死亡した事件(2004年)、メラミンで汚染された粉ミルクを飲んだ乳児が腎臓結石になった事件(2008年)、下水道の汚水を精製した地溝油(ちこうゆ)という油が食用油として販売されていた事件(2010年)等々に比べれば、確かにまだましな方かも。
ただ、企業のモラルとして、こうした問題が後を絶たない状況は日本の感覚からすると異質な感があります。
(中国の食の安全性については、こうした企業モラル以外に、そもそも農地が重金属で汚染されているという問題もあります)
企業モラルに限らず、拝金主義の横行、腐敗・汚職の蔓延、職権乱用、人権無視等々、中国社会全体にモラルの欠如があるように見えます。
もちろん、自分を含め人間の心にはダークサイドに引っ張られる部分が必ず存在していますので、日本でも、世界各地でも、不正・犯罪などのニュースには事欠かない訳でもあります。
しかし、一方で個人の心の中、社会にはモラル・倫理観が存在し、その両者のバランスでダークサイドに落ちる事例の数やその程度にも歯止めがかかります。
中国の場合、個人の心の中、社会のモラル・倫理観が脆弱でこのバランスが崩れて、エゴや欲望がストレートに表面化している事例が散見されるように見えます。
共産主義的理念が失われた後を埋めるような価値基準が十分に成立していないまま、生産活動だけが拡大している・・・ようにも見えます。
最近、習近平国家主席は「ハエも虎も叩く」汚職没滅キャンペーンに取り組んでいますが、モラルを欠いた社会への政権側からの是正の試みのひとつではあるのでしょう。
【「引き潮」ムード】
これまで日本企業は中国での生産拡大に努めてきましたが、その流れに変化が出てきていることが最近しばしば指摘されています。
****「引き潮」ムードが高まる中国の製造拠点国内回帰は進むのか? 戻るに戻れない工場も****
空洞化が叫ばれて久しい日本の製造業だが、最近“回帰現象”が起きていると聞く。
生産拠点をベトナムやカンボジアなどポストチャイナの新興国に移す企業がある一方で、「日本に戻す」企業も少なくないようだ。日本の工場立地は今後、どのように再編されていくのだろうか。
東京に本社を置くX社は、10年前から中国で自動車のプラスチック部品加工を行っているが、近年は中国で人件費が高騰し、中国に拠点を置くメリットはほとんどないという。
X社の中国工場は一時は拡大路線をたどり、日本の本社工場とは比較にならないほど大規模で従業員も多い。しかし発展は幕を下ろした。X社では、中国の拠点がなくなっても生産を継続できる体制づくりを急いでいる。目下取り組んでいるのが、日本の生産拠点の拡充だ。
日本に目を向ける最大の理由は、価格競争から抜け出すためである。Y社長は「これからは日本製で戦いたい。メイド・イン・ジャパンなら、中国産の倍以上の価値があります」と意気込む。
そしてY社長はおもむろに2つの部品をテーブルの上に並べた。「右が中国製、左が日本製です。見た目は同じですが、品質はまったく違います。中国製は材料に混ぜ物を加えるから、品質維持が困難なのです」
中国製の部品は、この10年にわたってX社に大きな富をもたらした。だが今では、低コストで生産することが難しくなってきた。
また、市場では「高価な日本製」が再び価値を高めており、Y社長はそこに目をつけている。
「確かに中国で作るのよりもコストはかかります。けれども、日本で作る方がトータルとして得をするんです」(後略)【7月22日 姫田 小夏氏 JB Press】
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“回帰現象”の理由には、日中関係の悪化という政治的側面や、労働コストの上昇という経済的側面もありますが、中国における労働者のモラルの問題も小さくないようです。
*****「俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記******
・・・・A社長にとって、中国の従業員は名実ともに“家族”だった。従業員の個人的なトラブルのみならず、その家族まで面倒をみた。盆暮れの労いや病人の見舞いなども決しておろそかにはしなかった。
おかげで十数年も共に働く「老員工」(古株)にも恵まれた。B社は地元が誇る唯一の日本企業でもあった。
それから12年が経った昨年末、A社長はある大きな決断をした。それは中国からの撤退だった。
「我慢の限界」――それがA社長の偽らざる心境だった。
「物は盗む、仕事はしない。(月給が)10元違えばよそに行く」と、農村出身の従業員にはほとほと手を焼いた。
10年前はハングリーさと手先の器用さが評価された中国の労働者たちも、昨今は「80后(80年代生まれの若者)は1時間で辞職する」など、質の劣化が進んでいる。
日本で採用し一人前に育てたはずの人材も、中国に赴任させれば一人の例外もなく会社の金を使い込んだ。(後略)【7月4日 DIAMOND online】
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政治的・経済的問題だけなら頑張ってなんとか・・・ともなりますが、随分と過激な表現ではありますが、“物は盗む、仕事はしない”ではその気も萎えてしまいます。
【撤退は経営者が最後に課される「悶絶の苦しみ」】
前出【7月22日 姫田 小夏氏 JB Press】では、“戻るに戻れない工場も”ということについては、日本の向上を閉めて中国進出したため「できれば撤退したい。しかし、帰るところがない」という事情が紹介されています。
しかし、それとは別に、そもそも地元が企業の撤退を許さないという事情があり、撤退したくてもできない・・・ということもあるようです。
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中国から撤退するには、会社自体を解散する清算や破産以外に、合弁パートナーに自社持分の譲渡をするという方法が採られることが多い。
いずれのケースも董事会(取締役会に相当)での承認が必要となるが、そもそも中国人役員らにとっては職を失うことにもなりかねず、なかなか彼らは首を振らない。
中国ではよく台湾人が“夜逃げ”という手段を選ぶが、それにはもっともな理由がある。つまり、撤退を正攻法でやっても埒が明かないのである。
しかも、「撤退させたくない」のが地元政府の本音だ。「はい、そうですか」とハンコを押してくれるわけがない。
・・・・撤退は経営者が最後に課される「悶絶の苦しみ」であり、中国脱出のための「最後の闘い」となるのである。【同上】
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そのため、撤退相談に乗る「撤退ビジネス」が活況を呈しているそうです。
****中国撤退ビジネス、活況 税や解雇の対策指南****
日本企業が中国から撤退する動きが加速している。
人件費、土地代などが高騰し、尖閣問題などの政治リスクも改善する見通しが立たないからだ。
ただ、中国からの撤退は、実は容易ではない。難しさを象徴するように、撤退相談に乗るコンサルタントや弁護士が増え、「撤退ビジネス」が活況を呈している。
東京都のコンサルタント会社「ケイエス」(赤井嘉晴社長)。もともとは中小企業向けに中国進出を助言していた。だが、2012年の尖閣諸島国有化を受けた反日デモ以降、「撤退・縮小」の相談が急増。「中国ビジネス撤退支援」を事業に加えた。
彼らが指南するのが「撤退障壁」への対処法だ。外資系企業が解散するには地元政府の認可が必要。複数のコンサルタントは「認可審査の際に、過去の税金支払いを調査されるため膨大な手間と時間がかかる」と証言する。
多くの外資系企業は進出後、地域ごとに数年間、企業所得税が免除される。しかし、免除期間を経過せずに会社を解散しようとすると、免除された分の全額の支払いを求められるケースも珍しくない。
従業員の解雇にも「経済補償金」が必要だ。経済補償金の法定額は、例えば1年勤続の場合は1カ月分の月給額で、2年勤続では2カ月分となり、12年以上は一律12カ月分となる。
しかし、従業員の補償金積み増し圧力は強く、実際には法定額以上がかかるという。
撤退にも膨大な資金が必要で、企業の海外展開を支援しているコンサルタント会社「コンサルビューション」(東京都)の高原彦二郎社長は「経済補償金を支払うために、日本の本社から撤退資金を送金してもらうケースもある」と語る。(後略)【7月8日 毎日】
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中国からの企業撤退を決行する壮絶な「最後の闘い」の具体事例については、前出“「俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記”【7月4日 DIAMOND online】http://diamond.jp/articles/-/55505に詳しく紹介されています。
想像以上に大変なことのようです。
「中国が世界の工場である時代は終わった」のか?
進出企業が増えれば、撤退企業も増加するのは当然ですから、「引き潮」ムードについてはもう少し検証が必要な感もあります。
いずれにしても、生産拠点としての役割が減少したとしても、日本にとって中国が最大の市場であることは変わりはないでしょう。