孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  スコットランド独立賛成派が急伸 現実味を増すイギリス分離の可能性

2014-09-08 23:02:48 | 欧州情勢

(独立後も年金は保証されるとのことですが、大丈夫でしょうか? “flickr”より By Scottish Political Archive https://www.flickr.com/photos/scottishpoliticalarchive/15117511165/in/photolist-p2Tcoe-p7fkoB-oPKkKM-p7dvL1-p5drns-p5dhxJ-oPLd7Y-oPKrVn-p7dmXE-p5dkX9-oPKQY7-p7dtif-p6Z8Vc-oPKMM7-oPLeFu-p5drP9-p6Z6hr-oPLbrn-p6Z284-p7fmw8-p7fx38-p7djEo-oPLhS9-oPL8An-p7dfx5-oPKHP7-p6Z42K-oPLb2K-p7drEq-oPL5RA-oPLbFw-p5dpcL-oPKjKk-p7fohT-p7fwcR-oPLeMF-p7doYJ-oM3bYU-nUFKY9-oMadM7-ooGdPu-p7CgC6-oMiDNL-p6mQmg-p2R4j9-oKoSUh-p2VXaV-oKkEAH-p7ALsK-oZhxPN)

独立しても経済への悪影響はないと考える人が増えた
日本国内でも、歴史的にも文化的にも固有のものがあり、先の戦争でも大きな犠牲を出した沖縄の人の心が本土の人間にわかるかと言えば、どうだろうか・・・という感があります。

ましてやイングランドとスコットランドの関係は、“イギリス”という一括りの見方に慣れている遠い異国の人間には、歴史的流れをなぞることはできても、その本当のところはなかなか理解できないものがあるのでしょう。

燕麦(カラス麦)をイングランドでは飼料用に使うのに対し、スコットランドでは食用にすることに関し、スコットランド人嫌いの詩人・批評家サミュエル・ジョンソンが、自身が編纂する辞書でスコットランドを侮蔑するかのように「燕麦:穀物の一種であり、イングランドでは馬を養い、スコットランドでは人を養う」と定義したところ、サミュエル・ジョンソンの弟子でもあったスコットランド・エディンバラ生まれのジェイムズ・ボズウェルはお返しに「それ故に、イングランドはその産する馬によって名高く、スコットランドは人材において名高い」と反論した・・・・というのは有名な話です。

今月18日に行われるスコットランド独立に向けた住民投票については、2月9日ブログ「イギリス スコットランド独立を問う住民投票を9月に実施 論戦本格化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140209)でも取り上げました。

独立をめぐる是非・環境等については当時と全く変わらないのですが、投票の予測が大きく変わりました。

当時は、独立支持率は過去の世論調査で25~40%程度にとどまっているとされており、保守党キャメロン政権はこうした数字を背景に投票での勝利を見越し、敢えて住民投票は阻止せず、むしろ、この際住民投票でイエスかノーか白黒をはっきりさせよう・・・という強気の姿勢でした。

ところが、ここひと月、特に先週マレーシアを旅行している間に、数字が大きく動いていることが報じられています。

****スコットランド、独立機運高まる 世論調査、賛成が上回る*****
英国を構成する4地域の一つスコットランドで、独立の是非を問う18日の住民投票を前に、独立機運が高まっている。

最新の世論調査で、独立に賛成する人の割合が初めて反対を上回った。約300年間、連合を保ってきたスコットランドの独立が現実味を増す結果に、衝撃が広がっている。

7日付の英紙サンデー・タイムズによると、英世論調査会社YouGovと行った世論調査の結果、独立賛成が51%、反対が49%だった。

回答者全体のうち態度を決めかねている人など7%を除いた数字だが、賛成が反対を上回るのは同種の調査で初めて。

同社は、独立しても経済への悪影響はないと考える人が増えたと分析する。

独立推進派でスコットランド自治政府のスタージョン副首相は「勇気づけられる数字。だが投票当日までやるべきことは山ほどある」と気を引き締めた。

一方、独立反対運動を率いるダーリング前財務相は「分離すれば元には戻れない。(投票の)結果は(反対と)明白だと思っていた人たちへの警鐘だ」と危機感をあらわにした。

スコットランドでは北海油田の開発で経済的自立の可能性が高まった1970年代以降、独立機運が盛り上がった。99年に自治政府と議会を設立。2011年の議会選では、独立派のスコットランド民族党(SNP)が単独過半数を制した。

英政府や主要政党は、「引き留め」に必死だ。

与党保守党のオズボーン財務相は7日、英BBCの番組で「スコットランドの財政や福祉に関する自治権限をいっそう強める計画を近く発表する」と述べた。

独立をめぐる議論では、スコットランドが英通貨ポンドを使い続けられるかや、欧州連合(EU)にとどまれるかも焦点だ。独立の場合、英国は外交や国防でも大きな影響を受ける。

SNPは非核化を掲げており、英国はスコットランド南西部の海軍基地に保有する唯一の核戦力、潜水艦発射弾道ミサイル「トライデント」の移設を余儀なくされる可能性がある。

キャメロン首相は「今日の危険な世界では、世界屈指の防衛力と国家安全機構を持つ英国にとどまった方がいい」と呼びかけている。【9月8日 朝日】
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“8月初めの調査では、反対の割合が賛成に22ポイントの差をつけていた。しかし賛成派が若者中心に戸別訪問などの大規模なキャンペーンを展開したほか、最新の公開討論で、スコットランド民族党のサモンド党首(自治政府首相)が反対派のダーリング前財務相に圧勝したことで、今月1日の調査で差が6ポイントに一気に縮小していた。”【9月7日 毎日】ということですから、ここひと月で流れが一気に賛成派に傾いているようです。

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スコットランド自治政府のスタージョン第1副首相は同紙に対し、「賛成こそがスコットランドに豊かさをもたらすことを、人々が気付き始めている」と語った。

住民投票で可決されれば、英国政府と協議を進めた上で、2016年3月に独立を目指す方針。

可決された場合、キャメロン首相の責任を問う声が強まるのは確実で、15年5月にも実施される総選挙の結果も左右しそうだ。

英メディアによると、政府は週明けにもスコットランド自治政府の自治権限を拡大する措置を発表する見通しで、独立派の切り崩しに全力を注ぐ構えだ。【9月7日 毎日】
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楽観的な青写真
キャメロン首相が大慌てなのは当然ですが、現地報道によれば、エリザベス女王もが住民投票に「大きな不安」を感じており、最新情報を毎日報告するよう要請したと伝えたとのことです。

なお、スコットランド自治政府は独立後もエリザベス女王を元首として仰ぐ方針です。

前回ブログで触れたように、“元首はエリザベス女王。通貨は英国銀行が発行する英ポンド。イングランドとの陸の国境に検問は設けず、人の往来は自由。外交面では、欧州連合(EU)に残ることが可能だと独自に解釈し、北大西洋条約機構(NATO)にも加盟申請する”というのが、独立を目指すスコットランド自治政府の青写真です。

「今までと変わらない」ことを強調する形で中間層を取り込もうという戦術のようにも見えますが、そんな青写真にイギリス政府もEUもNATOも同意している訳でなく、現実にはかなり厳しいものがあります。

特にイギリス政府の協力なくしては、ポンドもEUもNATOも難しいでしょう。
そうなると、「今までと変わらない」という訳にはいきません。

枯渇も近い北海油田を抱えて、「こんなはずではなかった・・・」という話にもなります。

権限を委譲された議会で足りないものは?】
すでに、スコットランドは独自の議会を有しており、相当の自治権を有しています。
現在のスコットランド議会の権限については、以下のとおりで、徴税、外交、安全保障以外の分野では広範な権限を有しています。

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委譲された中には、農業、漁業、林業、経済開発、教育、環境、食品規格、健康、内務、スコットランド法(司法)、警察、消防、地方自治、スポーツ、芸術、運輸、訓練、観光、研究、統計、社会福祉などがある。スコットランド議会はまた、所得税を1ポンド当たり3ペンスまで変更する権限を持っている。

留保事項はスコットランド議会の立法権限の範囲外にある事項である。スコットランド議会はそうした留保事項については立法することはできず、ウェストミンスターのイギリス議会に立法権限があり、また行政権限もイギリス政府とその大臣にある。

これには人工妊娠中絶、放送政策、公務員、イギリス製品およびサービスの共通市場、憲法、電力、石炭、石油、ガス、原子力、防衛および国家安全保障、麻薬政策、雇用、外交政策、ヨーロッパ関係、運輸安全規制に関する大半の事項、宝くじ、国境警備、社会保障、イギリスの財務・経済・通貨システムの安定である。【ウィキペディア】
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スコットランドにおける権限を委譲された議会の設立を求める運動は昔からありましたが、最終的に設立が認められたのは1997年9月の住民投票によってであり、これを推し進めたのはトニー・ブレア氏のもとで政権を獲得した労働党でした。

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スコットランド議会についての主に保守党からの反対意見は、それはスコットランド独立につながる危険なもので、独立派のスコットランド国民党に権力を与えるものだというものだった。

その時点で1707年連合法により2国が連合してから300年経っていなかったのであるが、1997年5月までイギリスの首相を務めた保守党のジョン・メージャーは、スコットランド議会は「1000年に及ぶイギリスの歴史」の終焉をもたらすと主張した。

同様に連合主義者である労働党はこれに対して、権限委譲はスコットランド国民党を弱体化さ、自治を長く望んできたスコットランド人に対する救済策となると主張して、これに反論した。【ウィキペディア】
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もしこのまま住民投票で“独立”という道を進むことになれば、当時の労働党・ブレア首相の“権限委譲はスコットランド国民党を弱体化させる”という見方ははずれ、“スコットランド議会は「1000年に及ぶイギリスの歴史」の終焉をもたらす”という保守党メージャー氏の見方に沿う形にもなります。

ひとりキャメロン首相の誤算という話でもありません。

冒頭に述べたように異国の人間にはわからない部分が多々ありますが、すでに自治権を有している状況で、独立がなぜ必要なのか?・・・という疑問はあります。

自由や競争を柱とする米国型の社会・経済政策を推進する中央政府に対し、スコットランドでは欧州型社会民主主義への支持率が高いと言われていますが、今ある自治権を十分に活用してきたのでしょうか?

欧州型社会民主主義のためには強い財政基盤も必要です。

目指すところ・立場の違いを安易に独立で解決しようという考え方には違和感も感じます。
それでは社会がどんどん細分化されていくばかりです。互いに譲歩して妥協することで、より大きなメリットを目指すことはできないのでしょうか?

****英首相は残留の利点強調****
・・・・キャメロン首相は、英国は「世界で最も古く、最も成功している単一市場の1つだ」「われわれが共にとどまれば、スコットランド経済の機会は増し、スコットランドの消費者の選択肢の幅は広がり、スコットランドの雇用も安定する。なぜ、そうした大きな利点を、大きな未知に踏み入ることでリスクにさらそうというのだろう?」と述べ、英国残留のメリットを強調した。【8月29日 AFP】
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独立してもやっていけるということと、独立した方がいいかという問題は別物です。

もっとも、スコットランドとイングランドの併合は「史上最も偉大な合併」だとするキャメロン首相ですが、併合された者の立場を十分に理解しようとしてきたか・・・という点は、今後も反省する必要があるでしょう。

結局は住民の意思次第
なぜ独立なのか・・・には疑問も感じますが、今後については住民投票次第です。
もし、“独立”という結果になったなら、できるだけ遺恨をのこさず、きれいに分かれ、今後とも協力していく関係をつくるべきでしょう。

「分離すれば元には戻れない」(独立反対運動を率いるダーリング前財務相)とのことですが、やってみてうまくいかない場合は、また戻ればいいのでは。

国家を形成するか否かは結局は住民が決めるべきもので、国家という枠組みはしょせんその程度のものに過ぎません。

その流れでいけば、クリミアもウクライナ東部も・・・という話にもなってきます。
実際、一緒にやっていく方策を真剣に検討し、どうしても一緒にはいられないということであれば、武力でそれを押しとどめることもない・・・・というふうにも思えます。

そこにロシアが介入してくるので話がこじれますが、基本的には“国際秩序の変更は認められない”云々より住民の意思が優先されるべきでしょう。極論すれば、みんなが好きなようにやって、そのうえでみんなが仲よくすればいいだけの話です。

ロシアもスコットランドの成り行きを注目していることでしょう。

****スコットランド住民投票 独立の行方を欧州注視 スペインでも実施の動き****
英国からの独立の是非を問う北部スコットランドの住民投票は8日、実施まで10日に迫った。欧州では近年、中央政府からの独立・分離を目指す地域の動きが活発化している。スコットランドの行方は英国のみならず、各地でくすぶる独立の動きを改めてクローズアップすることになりそうだ。

欧州では債務危機以降、貧しい地方のために富を奪われているとの意識が裕福な地域にあり、独自文化を背景にした従来の独立志向に拍車を掛けているという事情がある。

とりわけ、独自の言語を持つスペイン北東部カタルーニャ自治州では、同州政府が11月9日に独立に関する住民投票を実施すると公言している。スペイン第2の都市バルセロナを州都とし、その経済規模は全国の約2割を占める。

州政府の調査によると、独立支持は45%に上り、反対は28%。5月の欧州議会選挙で、独立を目指す左派政党が国内第1党の座に就いた。スコットランドの住民投票の結果次第では独立への機運がさらに高まる可能性もある。

ただ、英国と異なり、スペイン政府は投票阻止の方針を貫く。ラホイ首相は国家主権に関わる独立問題は国民全体で決めるべきだとの姿勢。投票は「違憲」で、強行の場合は提訴する構えだ。これに対し、カタルーニャ州のマス首相は「英国のように法的枠内で行いたい」と漏らしている。

北部オランダ語圏と南部フランス語圏の対立が続くベルギーでは5月の総選挙で、北部の分離独立を目指す「新フランドル同盟」(N-VA)が躍進し、前回選に続き第1党を維持。前政権で同党は排除されたが、今回は新政権樹立に向けた連立交渉に加わり、初の政権参加が実現するかに関心が集まっている。

一方、ロシアのプーチン政権も「地元住民の意思」を盾にウクライナ情勢に介入してきた経緯があり、スコットランドでの住民投票の行方を注視している。独立賛成票が過半数を占めた場合、ロシアは3月のウクライナ南部クリミア半島併合や、同国東部での親露派支援を正当化するために結果を援用する可能性が高い。

ただ、ロシアは世界有数の多民族国家であり、民族主義や地域の分離運動が自国内で高まる事態には潜在的な警戒感もある。【9月8日 産経】
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まあ、この手の問題は、自国に都合のいいものは強調し、都合の悪いものは無視するという、ダブルスタンダードの世界ではありますが。

それにしても、イギリス・キャメロン首相はEU離脱の住民投票も抱えています。
スコットランドは独立し、EUからは離脱するという選択になると・・・大変です。
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