(バルセロナの魚市場 “flickr” より By Tristan Ferne https://www.flickr.com/photos/tristanf/1367879288/)
【海洋の熱吸収で温暖化はあと10年間は減速か その後は・・・】
2000年頃まで急速に進んできた温暖化のペースが、今世紀に入ってからスローダウンしているそうです。
温暖化を防止するべく取られた対策、つまりは人類の英知の成果・・・・という訳では決してなく(実際のところ、何ら有効な対策を撮りえず、先進国とその他の国々の間で利害対立の議論ばかりが続いているのは周知のところです)、熱が海に吸収されているからではないかという指摘があります。
****地球温暖化の「中断」、深海への熱の貯蔵が原因か****
最近15年間に地球表面の温暖化が減速しているように思われるのは、大西洋と南極海の深海に熱が閉じ込められていることが原因かもしれないとの研究論文が、21日の米科学誌サイエンスに掲載された。
このようなサイクルは20~35年続く傾向があり、熱が表層水に戻れば再び温暖化が加速する可能性が高いことを今回の研究結果は示唆している。
論文の共同執筆者の一人、米ワシントン大学のカーキツ・トン教授(応用数学)・非常勤教授(大気科学)は「温暖化の中断に関しては、毎週のように新たな解釈が提示されている」と語る。
「われわれはその根本にある原因を探るため、海洋で得られた観測結果を調べた」
同教授と中国海洋大学のシャンヤオ・チェン氏の研究チームは、最大水深2000メートルの海水のサンプリングを行う調査用フロートを用いて深海の水温を観測した。
その結果、深海に沈む熱は1999年頃より増加し始めたことが分かった。これは、20世紀の急速な温暖化が横ばい状態になり始めた時期と一致する。
研究チームによると、地表では増大する温室効果ガスが捕捉する太陽熱の量が増加しているにもかかわらず、海面温度はほとんど変化しないという現象がどのようにして起こり得るかは、深海水へ移動する熱の増加で説明がつくという。
また従来の研究結果に反して、太平洋は熱の隠れ家にはなっていないことも判明した。(中略)
同教授は「海水の塩分によって引き起こされる循環サイクルが存在し、これによって大西洋と南極海の深海に熱が蓄えられる」と付け加えた。
「加熱期に急速な温暖化が30年間続いた後、現在は冷却期に入っている」
現在の温暖化の減速はあと10年間続く可能性があり、その後に急速な温暖化傾向に戻る可能性が高いと研究チームは話している。
今回の研究は、全米科学財団(NSF)と中国国家自然科学基金委員会(NSFC)より資金供与を受けて行われた。【8月22日 AFP】
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海洋が熱を吸収して温暖化が止まる訳ではなく、“現在の温暖化の減速はあと10年間続く可能性があり、その後に急速な温暖化傾向に戻る可能性が高い”とのことで、今後“つけ”が回ってくるということのようです。しかも、年後という非常に速い時期に。
【大気中のCO2の急増で海水の酸性化が進行】
二酸化炭素など温室効果ガスの増加は、気温の上昇と同時に、CO2が海水に吸収されることによる海の化学変化(酸性化)を引き起こします。
****CO2濃度が過去最高に 13年、海水の酸性化も懸念****
世界気象機関(WMO)は9日、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の2013年の地球の平均濃度(年平均)が1984年の統計開始以来、最高値の396ppmを記録したと発表した。
CO2濃度は増加傾向が続いており、前年からの増加幅は2・9ppmで、過去最大となった。
発表によると、産業革命前の1750年との比較で、2013年の大気中のCO2の量は推計で約1・4倍。工業化にともなう化石燃料の使用増加などが要因だ。
他の主要な温室効果ガスであるメタンは約2・5倍、亜酸化窒素も約1・2倍に達しているという。
また、大気中のCO2の急増で海水の酸性化が進み、生態系への悪影響が懸念されている。
人間の活動で出たCO2の4分の1は海に吸収されるとされ、海水の酸性化が進む。現在の海水の酸性度は過去3億年において最悪とみられ、今後もこの傾向は続く見込み。
サンゴや藻類、プランクトンなどを始めとした生物に様々な悪影響を及ぼすと考えられる。【9月10日 朝日】
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サンゴが死滅するというのは、“美しいサンゴ礁の海が見られなくなる”といった話ではなく、もっと深刻な問題をもたらします。地表で酸素を供給しているアマゾンの熱帯雨林が消滅してしまうような話です。
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このまま海のアルカリ度が下がっていけば、サンゴ礁の材料である炭酸カルシウムを海水が腐食し、サンゴは死滅しかねないということだ。
サンゴ礁は、4000種の魚類を含む海洋生物の25%の生存に不可欠なものと推測されている。つまり海の熱帯雨林だ。この脅威に関するクレイパスの論文は99年に科学誌サイエンスに掲載され、世間への警告となった。
ここから「海の酸性化」という言葉が生まれた。【8月26日 Newsweek日本版】
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実際のところ、どの程度「海の酸性化」が進んでいるかについては、“「産業革命以前の時代、海水のpH値は8.2だった。今では8.1まで下がっている」とペレジェロは言う。「私たちの対応次第では、今世紀末には平均7.8か7.7になる。5500万年前以来の低さだ」”【同上】とのことです。
昔、学生時代に酸とアルカリを使用した粗雑な中和滴定などを行いpH値の変化を追ったこともありますが、そのときの不届きな印象からすれば、“8.2が8.1に・・・・誤差の範囲じゃないの? 大体、産業革命以前のpHがどうやってそんなに正確にわかるの?”とクレームをつけたくもなりますが、“今世紀末には平均7.8か7.7”ということになると、あきらかな海洋生態系の変化をもたらすでしょう。
長い地球の歴史で見ると、かつて酸素がなかった時代に、海洋の光合成生物が大増殖して酸素を大量に放出し、この有害物質である酸素によってそれまでの生物は死滅・退避し、変わって酸素を使う生物が主役に躍り出ることになった・・・・というようなダイナミックな変動があります。
「海の酸性化」もそうした変動の一環として、5500万年に実際に起きているそうです。
酸性度が高くなると炭酸カルシウムの貝殻が溶けてしまいますので貝類は死滅します。
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約5550万年前の暁新世と始新世と呼ばれる地質年代の問に、極端な温暖化が10万年ほど続いた時期(PETM)がある。
この時期に入ると「それまでは貝殻の化石で真っ白だった堆積物が、急に赤に変わる」とペレジェロは言う。「貝が消えた証拠だ。再び白くなるのに10万年以上かかっている」【同上】
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更に、海水の化学変化と温度変化によって、海底の堆積物に混ざっている安定したメタン化合物が分解され、大量のメタンガスが大気中に放出される可能性もあります。
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メタンガスの温室効果は二酸化炭素の何倍も大きく、過去にも地球温暖化を加速させたことが知られている。海底堆積物のサンプルからすると、大量の海洋生物が消滅し、海の表面温度が4~6度も上昇したPETMの時期にもメタンの放出が起きていた可能性がある。
当時の海面は今よりも最高で100mも高かった。現在のヨーロッパの大部分、北米の北東沿岸部、南米のアルゼンチンが水没するレベルだ。
ペレジェロが憂慮するのは変化の速さだ。「PETMの時期には今よりも海水のpH値が低かったと考えられるが、今回は変化が10倍も速い。これでは生物が進化や適応を通じて生き延びる時間が足りない」と、ペレジェロは言う【同上】
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“今世紀末には平均7.8か7.7”ということであれば、その変化スピードはPETMの時期の10倍どころではなく、桁違いの激変ではないでしょうか。
こうした「海の酸性化」だけでなく、魚など海洋生物が生きられない「デッドゾーン」の増加も指摘されています。
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汚水や大気中の二酸化炭素、海へ流出した化学肥料が植物性プランクトン(藻類)の栄養となり、大発生を引き起こす。
大発生した藻類の死骸は海底に沈み、腐敗の過程で酸素を消費する。そのため一帯は低酸素ないし無酸素状態となり、酸素を必要とする生物が死滅する。
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【魚類を食べられるのは金持ちだけ】
藻類が死骸が出す有害物質もあります。こうして魚が住めない「デッドゾーン」が増加します。
“その数は60年代から飛躍的に増え、今では全世界で400ヵ所もあると考えられている。”【同上】とのことです。
なお、クラゲは酸性化に強いそうで、“一説によれば、今世紀末の庶民が口にできる海産物はプランクトンとクラゲだけで、たまにしか市場に出ない魚類を食べられるのは金持ちだけだという。”【同上】とも。
「海の酸性化」「デッドゾーン」に加えて、人口増大に伴う乱獲の進行もあるでしょうから、上記の光景は近未来の予測としては非常にありうる光景のように思えます。
上記記事の結論としては、“「環境の変化に適応できる生物もいるが、実際には耐えられずに消えていく種のほうが多い。海の死は既に始まっているのだ”ということです。
【わからないけれども・・・・】
気候変動や海洋の環境については、わからない部分が多々あります。と言うより、断定できるものがほとんどないと言うべきでしょう。
****<エルニーニョ現象>発生の確率は5割 秋から冬にかけ*****
気象庁は10日、異常気象の原因となる「エルニーニョ現象」について、秋から冬にかけて発生する可能性は5割程度と発表した。
エルニーニョ現象は、南米ペルー沖の赤道海域で、海面水温の高い状態が続くことで発生する。日本で夏に発生すると冷夏に、冬は暖冬になりやすい。
同庁は4月、同現象の発生を今夏と予想。その後、7月に「秋から冬にかけて発生の可能性が高い」、8月には「秋から冬にかけて発生する可能性がこれまでよりやや低下した」と修正している。【9月10日 毎日】
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この話について、TVで面白い解説を行っていました。
予測発表文は文字数が少ないものほど確信が強く、曖昧な表現が増えるほどに文字数が多くなるそうです。
で、気象庁の発表は、4月の文字数が少ない断定的予測が、7月、8月と次第に文字数が増えるものとなっていましたが、今回9月発表は文字数が減ったそうです。
確かに、断定的な予測になったのですが、その予測内容は“可能性は5割程度・・・つまり、わからない”ということです。“わからない”ということを断定したという話です。
別に気象庁をからかうつもりはありません。
今の科学では、“わからない”というのが正直なところなのでしょう。
今年のエルニーニョについてすら、そういったレベルですから、今後の「海洋の熱吸収」「海の酸性化」の予測など非常に難しいものがあるかと思われます。
しかし、誰が見ても明らかな事態となったときには、すでに後戻りできない段階に至っていることが予測されます。
多少の不確かさはあっても、早期に対応していく必要があるように思います。