
(トルコ国境に押し寄せるクルド人難民 “flickr”より By Comparateur Hotels-live.com https://www.flickr.com/photos/hotelslive/15132348259/in/photolist-p4VmHU-p4Vmau-pmo46y-p4UGXW-p5cxZE-pmMhYv-pmkJDk-p4SDy2-pmBVoG-p4Xkft-p4cstY-p4Hj13-pmvCs8-pjxcsb-pmzi3H-pjx6Rb-p55TkC-p55UmL-p57mLQ-p551oD-pkV346-p4Hfty-pmrvhp-p4G2C7-p4XtiK-pmC5ev-pmuU9e-pkXC7d-pkorEN-p4ceWc-pmvwF9-pmorGz-p5boXJ-pjxEMG-p4EuAD-p4nZvB-p57bdo-pkEwqv-piCvsf-p4aEru-p4bawG-pmzjiZ-pmxLEs-p4yFSM-p5ewBz-p4Y5jp-p4bppa-pkSDsj-pmANTE-p55ncU)
【「『イスラム国』のようながんを根絶するのは時間がかかる」】
シリアとイラクにまたがって勢力を拡大する「イスラム国」に対し、アメリカ・オバマ政権はシリア領内の空爆実施に踏み切りました。
イラク領内だけでは、シリアにも活動拠点があり、それらを移動する「イスラム国」へ打撃を与えることが困難なことからのシリア領内空爆実施です。
しかしイラクとは異なり、アサド政権とも敵対するシリアでは有効な地上軍との連携が当面期待できず、空爆の効果も限定的とも見られており、イラク・アフガニスタンからの撤退を掲げて政権を獲得したオバマ大統領は、新たな長い戦争に突入したとも評されています。
****米がシリアに空爆拡大 新たな段階に****
イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」の壊滅を掲げるアメリカ政府は、イラクに続いてシリアにも空爆を拡大しました。
しかし、「イスラム国」を壊滅に追い込むには空爆だけでは難しく、オバマ大統領にとって終わりの見えない戦いを強いられる新たな段階に入ったという見方が出ています。
中東地域を管轄するアメリカ中央軍は、22日から23日にかけてシリア国内にある「イスラム国」の拠点に対して、戦闘機や巡航ミサイルの「トマホーク」などを使って攻撃を行ったと発表しました。
中央軍は、空爆にはアメリカのほか、サウジアラビア、ヨルダン、UAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、それにカタールの中東の5か国が参加、もしくは支援したとしています。
そして、シリア北部のラッカにある「イスラム国」の司令部や訓練施設などに対し、14回攻撃を行い、艦船からは「トマホーク」47発を発射したとしています。
アメリカは、先月8日以降、イラク国内で「イスラム国」に対する空爆を続けてきましたが、シリア国内での空爆は初めてで、今回の作戦は最大規模のものとなりました。
オバマ大統領は当初、シリアへの空爆には慎重な立場でしたが、アメリカ人ジャーナリストが「イスラム国」の戦闘員によって殺害され、世論調査でシリアへの空爆拡大を支持する人が70%を超えるなか、今月10日にテレビ演説を行い、シリアに空爆を拡大する方針を表明していました。
オバマ大統領は、23日からニューヨークの国連本部で「イスラム国」との戦いについて各国首脳と話し合う予定で、24日にはみずから議長として安保理の首脳級の会合を開き国際的な包囲網を強化したい考えです。
しかし、「イスラム国」を壊滅に追い込むには空爆だけでは難しく、オバマ大統領にとって終わりの見えない戦いを強いられる新たな段階に入ったという見方が出ています。【9月23日 NHK】
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中東湾岸諸国の参加は、アメリカが進めた「有志連合」形成の成果ではありますが、カタール軍機は空爆自体には参加せず支援に回ったと報じられており、どの程度攻撃に関与するのかは未確認です。
反政府勢力を支援するアメリカとは敵対関係にあるシリア・アサド政権は、アメリカからの事前通告があったとしています。今後のアサド政権側の対応は明確ではありません。
****シリア 米から空爆の事前通告あった****
アメリカなどがシリア国内で空爆を開始したことについて、シリア外務省は国営メディアを通じて声明を出し、「アメリカが22日にシリアの国連代表部に対し、ラッカにある『イスラム国』の拠点に対して空爆を行うと伝えてきた」として、アメリカから事前に通告があったことを明らかにしました。
ただ、シリア領内での空爆を巡るシリア政府の立場については、これまでのところ明らかにしていません。
アサド政権は、これまで「イスラム国」への対応について「テロとの戦いのため、国際社会と協力する用意がある」と述べる一方で、シリアの承認のない攻撃は主権の侵害であり、認められないとの立場を示していました。【9月23日 NHK】
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なお、アメリカの空爆は「イスラム国」だけでなく、アサド政権と戦闘を続けるアルカイダ系「ヌスラ戦線」に対しても実施されています。
アサド政権側とのなんらかのやり取りがあったのでしょうか。
****アルカイダ系に8回空爆=米軍****
米中央軍は23日、シリア・アレッポ近郊で国際テロ組織アルカイダ系勢力に計8回の空爆を行ったと発表した。
AFP通信などによると、空爆の対象は、反体制派「ヌスラ戦線」。背景は不明だが、事実上アサド政権への援護となる。【9月23日 時事】
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アメリカは、「イスラム国」との地上戦が期待されるシリア反政府勢力の穏健派への武器供与や訓練も急いでおり、約5千人の訓練や武器供与に、今後1年で約5億ドル(約535億円)を投じる計画です。
ただ、そのためにはアメリカ議会から得る必要がある上、対象となる勢力や戦闘員の選定も必要です。
“オバマ大統領が10日の演説で「『イスラム国』のようながんを根絶するのは時間がかかる」と述べたように、米軍の掃討作戦は長期化を余儀なくされそうだ。”【9月17日 朝日】というのが一般的な見方です。
今後の展開次第では、やはりアメリカ自身が地上軍を派遣しないと・・・という話になることも考えられます。
オバマ大統領が重ねて否定している地上軍派遣の話が、アメリカ国内一部ではすでに出始めています。
“デンプシー統合参謀本部議長は議会で、有志連合を柱にしたイスラム国対策が失敗して米国に脅威が迫れば、「地上部隊の活用も含め、大統領に進言する」と証言。オバマ大統領が否定してきた地上部隊の投入を制服組トップが示唆したとして、物議を醸した。”【9月20日 時事】
そうなると、いよいよイラク、アフガニスタンに続く第3の戦争ということになります。
【「最も裕福なテロ組織」】
「イスラム国」については、組織が急拡大しており、戦闘員は3万人を超えているとも見られています。
また、豊富な資金力を有し、インターネット動画を活用した巧みな広報戦略もあって、1万人を超す外国人を集めているとも言われています。
****<イスラム国>油田、身代金で日収1億円 支配面積英国並み****
米政府の国家テロ対策センターのマシュー・オルセン所長は3日、ワシントン市内で講演し、イラクとシリアで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」が、勢力下の油田や身代金、密輸などで毎日100万ドル(約1億円)の収入を得ていると述べた。
また、イスラム国が戦闘員約1万人を擁し、支配地域の面積は英国(約24万4800平方キロ)とほぼ同じだと指摘。周辺のレバノンやヨルダン、トルコでも小規模な攻撃を行う能力があると分析した。
オルセン氏によると、イスラム国の目標はイラクやシリア、米国など「背教者」と見なす政府の打倒とイスラム共同体の指導者カリフが率いる国家建設。米国を「戦略的な敵」と見ているという。
戦闘員には多数の外国人が含まれており、外国での攻撃にこうした要員を派遣する懸念があると指摘。シリアには過去3年間で約1万2000人の外国人戦闘員が渡ったが、このうち1000人以上が欧州系、100人以上が米国系だという。(後略)【9月4日 毎日】
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****シリア空爆 イスラム国「最も裕福なテロ組織」 高水準の装備や宣伝動画****
シリアやイラクで支配地域を広げているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」は豊富な資金力から「世界で最も裕福なテロ組織」とも言われる。
高水準の装備やハリウッド映画さながらのプロパガンダ動画など、欧米メディアでは米中枢同時テロを引き起こした国際テロ組織アルカーイダなどとは次元の違う組織だとの分析も出ている。
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、イスラム国は支配地域で産出される原油の売却や銀行からの略奪なども資金源としている。
人質の解放と引き換えに身代金を要求するほか、企業や個人から営業許可料や通行料金を徴収したりもしているという。
米国務省高官は「イスラム国は毎月数百万ドル(数億円)の収入を得ている」と分析している。
豊富な資金力は装備の充実につながる。米国式の防弾チョッキを身に着け、暗視ゴーグル装着可能なヘルメットをかぶった兵士の姿も確認されている。
運搬可能な防空システムや対戦車ミサイルなどの高度な兵器も保有しているとみられ、戦闘の際の組織的攻撃態勢など兵士はよく訓練されているという。
プロパガンダも際立つ。動画には空撮やスローモーションなどの演出も盛り込まれ、仏メディアは「ハリウッドの新作映画の広告と間違えるような映像だ」と伝えた。
米軍によるアルカーイダのビンラーディン容疑者殺害をテーマにしたハリウッド映画「ゼロ・ダーク・サーティ」と類似したシーンがあるとの指摘もある。
インターネットを通じた宣伝工作は、欧米などの若者を引きつける効果を生んでいるようだ。米メディアは、イスラム国には1万人超の外国人兵士が参加していると伝えている。【9月23日 産経】
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身代金の扱いは難しい問題もありますが、原油売却については対策が可能なのではないでしょうか。
従来のアルカイダ系イスラム過激派と異なり、一定領土を有するイスラム主義にのっとった“国家”を宣言していますが、その首都はシリア北部のラッカとされています。
****ラッカは「イスラム国」首都****
今回、空爆が行われているラッカはシリア北部に位置する都市で、内戦の混乱の中、去年3月に反政府勢力が政府軍を撤退させ、その後、勢力を拡大した「イスラム国」が安定した支配を続けています。
「イスラム国」は、イラクとシリアの両国にまたがる地域にイスラム国家の樹立を宣言し、ラッカをその首都と位置づけています。
イスラム国の指導者であるバグダディ容疑者もラッカにいると指摘されています。
アメリカの軍事関係のシンクタンクによりますと、ラッカは内戦が始まる前の2004年の調査で、人口およそ22万人のシリアで6番目に大きい都市でしたが、内戦の間も比較的治安が安定していたため、戦闘の激しい周辺の都市から避難してくる住民が相次ぎ、一時はおよそ80万人が暮らしていたとみられています。
ラッカで、イスラム国は、住民から税金のような形で金を徴収しているほか、「イスラム法の秩序を維持するため」だとして警察組織を立ち上げて治安の維持に当たるなど行政を機能させて支配していると伝えられています。
その一方で、キリスト教徒などイスラム教徒以外の住民に対しては、イスラム教への改宗を求め、それに応じない場合は財産を差し出すよう強要しているほか、従わない男性を殺害したうえ、女性や子どもを拘束して人身売買を行っていると非難されています。
ラッカやその周辺には、イスラム国が、戦闘の末、シリア軍やイラク軍から奪った大量の武器を保管する倉庫や兵士の訓練施設、それに司令部などがあるとみられ、アメリカのメディアは、こうした施設が今回の空爆の標的になっていると伝えています。【9月23日 NHK】
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そのラッカでの教育政策については、以下のようにも報じられています。
****<イスラム国>思想統制を強化 歴史、哲学、芸術の授業撤廃****
シリアとイラクで勢力を伸ばすイスラム過激派組織「イスラム国」が実効支配地域で教育カリキュラムを大幅に変更し、歴史や哲学、芸術の授業を撤廃してイスラム教の聖典(コーラン)の授業を導入するなど思想統制を強化していることが22日、毎日新聞が入手したイスラム国発行の文書から判明した。
文書は2通。今年夏にイスラム国が実効支配するシリア北部ラッカで、イスラム国の「教育委員会」が発行し、教育関係者らに配布した。文書では、歴史や哲学、公民、体育、音楽、図工の授業は廃止し、コーランやイスラム教の預言者ムハンマドの生涯や言行録に関する授業を新たに導入するよう指示している。敵対するシリアのアサド政権が作成した教材の使用も禁じている。
歴史や哲学などの授業が廃止された理由は不明だが、異文化や多様な思想を排除し、イスラム教を厳格に適用する自分たちの統治に合った考え方を根づかせる意図があるとみられる。またイスラム過激派は、偶像崇拝や退廃につながるとして、芸術に否定的だ。
教師に対しては、イスラム国が統治の基本に据えるイスラム法の講座を受けることを義務づけ、未受講者には授業を担当させない。
また小学生以上はクラスを男女別にし、男児クラスは男性教師、女児クラスは女性教師が担当するよう指示している。共学校では監視カメラを取り付け、男性教師が女生徒と接触しないように見張るよう要求。女性の教員や生徒には、ニカブ(目以外の全身を覆う布)の着用を義務づける。
基礎教育を無償としているアサド政権と異なり、学期当たり1000シリアポンド(約700円)の学費も徴収する。シリアやイラクで戦死した戦闘員の遺族は学費が免除される。
また学校の新設や自宅での学習についても「教育委員会」の事前の承認を義務づけた。【9月23日 毎日】
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イスラム教の教育を重視することや、芸術に否定的ななことは彼らの主張からすれば当然と思われます。
少なくも上記記事に関して言えば、思ったより“普通”の教育を行っているようにも感じられます。
宗教的戒律が厳しいサウジアラビアなどと同程度ではないでしょうか。
また、女性の教育を否定したタリバンなどとも異なるようです。
【孤立した「イスラム国」】
急拡大し、そのことが更に資金と人員を引き付けることにもなっている「イスラム国」ですが、致命的な問題があります。
それは、(ナイジェリアの「ボコ・ハラム」のような組織を除いて)協力国・組織がなく孤立していることです。
「イスラム国」に関しては、シーア派イランもスンニ派サウジアラビアもその台頭を警戒しています。
ロシアも、アメリカのシリア空爆にはアサド政権の承認が必要との立場を崩してはいませんが、少なくとも「イスラム国」を支援する立場にはありません。
国内にイスラム問題を抱える中国も、イスラム過激派台頭を警戒しています。
一昨日ブログで、「イスラム国」とトルコの関係をクルド・PKK対策の面からとりあげましたが、これも水面下の限定的なものでしょう。
イスラム過激派内部においても、もともとアルカイダを絶縁された組織ですが、アルカイダとの勢力争いが見られます。
****インド・アルカーイダ結成 増長のイスラム国に対抗****
国際テロ組織アルカーイダが今月3日、インドやバングラデシュ、ミャンマーで活動する「インド亜大陸のアルカーイダ」の結成を発表した。イラクなどで増長するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」との勢力争いが背景にあるとみられる。インド当局は国内でのアルカーイダの活動を確認していないもようだが、警戒を強めている。(後略)【9月8日 産経】
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こうした孤立した状況にあっては、その勢力を長期に維持するのは困難と思われます。
アメリカなどの「イスラム国」対応も、こうした孤立状態を続けさせることに注意を払うべきでしょう。