孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・オバマ政権  シリア領内空爆を含む戦線拡大に踏み出す

2014-09-11 23:18:05 | アメリカ

(戦線拡大を発表したオバマ大統領 “flickr”より By Delaylah Blue https://www.flickr.com/photos/126540741@N05/15011385077/in/photolist-oT1sq2-oT4kjo-oSJZga-oS7TMP-paggum-oSNpNJ-paA7TL-oSPhbX-oSQrzT-oSJHEm-pa4eR5-oSvgN6)

【「イスラム国を最終的に壊滅させる」】
アメリカ・オバマ大統領は、シリア・イラクの両国にまたがって勢力を拡大する「イスラム国」に対し、シリア領内の空爆を含む戦線拡大に踏み切ることを発表しました。

****シリアに空爆拡大へ=イラクに追加派兵―対イスラム国、包括戦略・米大統領****
オバマ米大統領は10日夜(日本時間11日午前)、ホワイトハウスで国民に向けて演説を行い、シリア領内のイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」に対して「行動することをためらわない」と明言し、イラクでの空爆をシリア領内に拡大する用意があると表明した。イラクにも米兵を追加派遣する。

オバマ政権が広範な「有志連合」を主導し、イスラム国との戦線拡大を決断したことで、シリア内戦をはじめ混迷する中東情勢は大きな転換点を迎える。国防総省高官は10日、シリア空爆は「周到な準備をした後に決断する」と述べた。

大統領は演説で、イラクで新政権が発足したことを踏まえ、イスラム国との戦いで「反転攻勢に出る」と宣言。「包括的かつ持続的な対テロ戦略を駆使し、イスラム国を最終的に壊滅させる」と強調した。

また、包括戦略の「次の段階」として、イラク空爆の制約を外し、同国領内の全てのイスラム国を攻撃すると述べた。米兵475人を追加派遣し、イラク軍を支援することも明らかにした。ただ、米軍の戦闘部隊は派遣しない。 【9月11日 時事】
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シリア領内空爆の難しさ
シリアに本拠地を持ち、シリア・イラク両国にまたがって活動する「イスラム国」に対して、これまでのイラク領内における限定的空爆では「イスラム国」に大きな打撃を与えられないことは明らかです。

シリア空爆にこれまでオバマ政権が慎重だったのは、ひとつには、シリア空爆が結果的に非人道的との批判が強いアサド政権を利することになり、アサド政権と戦闘を続ける反政府勢力を支援しているアメリカの戦略と矛盾するという政治的・戦略的な問題があります。

もうひとつ、現実的・軍事的な問題として効果的なシリア領内空爆が非常に難しいということがあります。

****及び腰オバマ、勝算なきCIA*****
・・・・米軍の戦闘機には信頼できる「観測手」が必要だ。彼らは地上で敵の部隊の位置を正確に把握し、狙撃手や無人偵察機を標的に誘導する。 

8月後半に初めてISISの戦闘員を狙った空爆は、イラク最大のモスルダムやクルド人避難民を危険にさらした。このときは、米特殊部隊やクルド人工作員が標的まで誘導したと、CIA関係者は語る。

だが、より広範囲な空爆になれば、彼らの手には負えないだろう。

「米兵に交代で観測手をやらせるのは現実的ではない」と、(元CIA職員でイラク情勢に詳しい)スキナーは言う。

ただし、クルド人や米政府が支援しているシリアの反政府勢力「自由シリア軍(FSA)」を観測手として使う
のは論外だとも指摘する。「米軍の戦闘機に(爆弾を落とす)指示を出せるのは、前線の航空管制の訓練を受けた者だけだ」

継続的な空爆には、市民の中にISIS部隊の動きを追跡する偵察要員も必要だと、複数の元CIA関係者は言う。

「アメリカには情報がない」と、03年のイラク侵攻前に、クルド人地域でフセイン政権に対抗する反政府勢力を組織した経験をもつファディスは語る。

「敵は民家の中で自動小銃を構えている。シリアにはアメリカの諜報網がない。この町では『この家がISIS
の拠点だ』と、教えてくれる人はいない」

信頼できる諜報員からの正確な情報がなければ、「正しい」民家を攻撃できず、市民の犠牲者は膨大な数になるだろう。その事実をISISが宣伝しないはずがない。

「ISISに入り込まなければ、攻撃すべき相手を見分けられない」と、スキナーも言う。「彼らは数多くの反体制グループと交じり合っている。攻撃しても構わないグループもいるが、それでは目的を達成できない。極めて複雑な問題だ」

理想としては、「穏健派」とされるFSAがISISに圧力をかけつつ偵察をして、空爆を支援するのが望ましい。しかし、FSAの勢力は今やISISに完全に圧倒されている上、痛ましいほど軍備が乏しい。しかも米軍がイラク軍に供給した兵器の大部分は、ISISの手に渡っている。(後略)【9月9日号 Newsweek日本版】
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国民はオバマがもっと力強い姿勢を見せることを期待している
こうした問題にもかかわらず、シリア領内空爆を含む戦線拡大にオバマ政権が踏み込まざるを得なかったのは、「イスラム国」による二人の米国人ジャーナリストの処刑公開などを境に、“内向き”で外国の揉め事への関与に消極的だった世論が、「(「イスラム国」に対する)戦略はまだ持っていない」(8月28日の記者会見での質問に対する発言)とのオバマ大統領に対する苛立ちを強めていることが背景にあります。

****夢想家大統領に背を向ける世論****
米政策 世界的な問題を交渉で解決しようとしてきたオバマに国民の過半数は手ぬるいという判断を下している

・・・・・オバマが国際社会を一つにまとめて、ISISの増長とプーチンの挑戦に対抗できるか。政権の威信はそこに懸かっている。
だが、オバマを冷ややかな目で見る者は国内外で少なくない。

その理由の1つに挙げられるのが、オバマの言動に一貫性がないことだ。例えば、ISISを「ガン」と呼んで非難した翌週に、シリア領内のISISの拠点を直ちに攻撃する可能性を否定。「戦略はまだない」とまで発言して、世間を驚かせた。

このエピソードは、シリアのアサド政権が自国民に化学兵器を使用した際のオバマの反応を思い出させる。(中略)

米市民処刑が世論に影響
だがこの時の危機と、オバマがISISとロシアをめぐり現在直面している危機には重要な相違がある。

昨年8月、オバマがアサドを攻撃しなかったことに対し、国民からそれほどブーイングは起きなかった。当時、世論の51%はアメリカが他国の問題に関与し過ぎていると答え、関与しなさ過ぎると答えたのはわずか17%たった。

1年後に実施された世論調査では、両者の差はわずか8ポイントに狭まり、アメリカは関与し過ぎるという割合は39%、関与しなさ過ぎるという割合は31%になった。

もっと重要な点は米国民の54%が、オバマの外交政策と国家安全保障政策は「手ぬるい」と回答していることだ。

この1年間でアメリカ人が考えを改めた理由はいくつかある。

まず1つは、ISISが2人のアメリカ人ジヤーナリストの首を切断して処刑し、こうしたケースがまた起こり得ると多くの国民が恐怖心を抱いたためだ。

米軍が犠牲を払ってイラクで成し遂げたことが、ISISによるファルージャやモスルの陥落で無に帰したと憤る人々もいる。

プーチンがクリミア半島を掌握し、ウクライナに強硬手段を取る問、アメリカが手をこまねいていたことにいら立つ人もいる。

パレスチナのガザ地区を激しく爆撃するイスラエルが、最重要同盟国であるアメリカの意向をまったく気に掛けなかったことに愕然とした人もいる。
アメリカの最も近しい友好国から敬意を払われないとすれば、他国からの尊敬など期待できない。

こうしたいくつもの例から分かるように、国民はオバマがもっと力強い姿勢を見せることを期待している。
アメリカ人は、アメリカが今以上の重荷を担うことを望んでいる。そうしなければどんな事態が起きるかを、現実に思い知らされたからだ。

取りあえず静観するというオバマの外交姿勢は1年前なら支持されたが、今はもう通用しない。傍観者でいることは日増しに評価されなくなっている。(後略)【9月16日号 Newsweek日本版】
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“イスラム国への対応強化を求める声は米国人記者2人の殺害などを受けて拡大。米紙ワシントン・ポストなどが4~7日に実施した世論調査では、イラク空爆支持は71%と、6月の45%から大幅に増えた。シリア空爆も65%が支持し、逆に大統領のこれまでの対応を「慎重過ぎる」とする回答が53%に上った。”【9月11日 毎日】

この時期の方針転換は、劣勢が予想される中間選挙を控えて、大統領・民主党への逆風を和らげようとする意向の表れとの指摘もあります。

ただ、“「無策」というこれまでの批判が「不十分」という批判に変わるだけに終わる可能性もある。”【9月11日 毎日】とも。

第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている
国際問題への直接的関与に消極的なオバマ大統領の外交政策には以下のような批判もあります。

****世界の脅威に策を持たないオバマの危険なミニマリズム****
・・・・しかし親オバマ派は、彼の外交政策を擁護するために奇抜な論理を考えついた。
政治評論家のピーター・バイナートはオバマの政策を「果敢なミニマリズム」と呼ぶ。

オバマが本当に反撃するのは、米本土に直接の脅威がもたらされた場合だけだという。「シリアで多大な犠牲が出ても、タリバンがアフガニスタンを動揺させても、イランが核兵器を持っても構わない。オバマはアメリカ国民に危害を加えるであろう相手にだけ剣を抜く」(中略)

この考え方が危険なのは、アメリカが世界から手を引けば、悪の勢力がその空白を埋め、アメリカの同盟国が脅威にさらされる点だ。結局アメリカは問題解決に乗り出す羽目になり、代償はさらに大きくなる。

第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている。アメリカが世界の平和を保てば、アメリカの繁栄につながるという考え方だ。

政治評論家のロバート・ケーガンは、オバマは国民が望んだミニマリズムの外交政策を取ったが、結局誰も喜ばなかったと指摘した。

ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ロジャー・コーエンはこう書いた。「国民が求める大統領は、彼らの思いをただ受け取るのではなく、国を引っ張る人物だ」

激動の時代である。いま必要なのは、第二次大戦後に現れたような実行力と先見性のある指導者だ。安全保障の構造や同盟関係を再構築することも重要だ。世界もアメリカも、自ら時代を形作る大統領を求めている。(後略)【9月11日 Newsweek】
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安全保障政策を最終的にはアメリカに頼る日本にも大きく影響する問題です。

今後の展開
問題はこれからどうなるのか・・・という点です。

ウクライナについては、ロシア・プーチン大統領が犠牲を払ってでもウクライナから手を引かない姿勢を明らかにしている一方で、アメリカにはロシアと戦争をするという選択肢はない以上、「どうしようもない」というところです。

それに比べれば、少なくともイラクにおける「イスラム国」に対しては、一応イラク国内でクルド人・スンニ派をい含む挙国一致内閣が成立し、国際的に見てもシーア派のイランも、スンニ派のサウジアラビアも、アメリカと利害が対立することが多いロシア・中国も、みな反「イスラム国」で一致するという、非常に珍しい状況になっています。

もちろん、本音は様々です。例えば、クルド人勢力は強力なイラク中央政府は望んでおらず、アメリカが独立を約束しない限りは本気では「イスラム国」に対処しないのでは・・・とも思われます。

とりあえずは反「イスラム国」で結束した状況を考えると、少なくとウクライナに比べれば“やりやすい”とも言えます。

シリア領内空爆については事情は異なりますが、イラクで「有志連合」なり「挙国一致内閣」なりが機能すれば、その分、アメリカとしてシリア領内に余力を振り向けることも可能でしょう。

シリア・イラク国境を固め、シリアとイラクをつなぐ補給路を分断するだけでも、「イスラム国」への打撃となるでしょう。

基本的には、アメリカがアサド政権敵視政策を放棄して、その行動を監視しつつもアサド政権の存続を許容し、「イスラム国」への対応だけでなくシリア国内でいつ果てるともしれず続く内戦に終止符を打つべきだと考えますが、現実にはなかなか・・・。

ただ、アサド政権崩壊で権力の空白が生じれば、「イスラム国」のような過激派勢力がその空白を埋めることになり、事態は更に悪化することはイラクの例でも明らかになったとも思えます。

****米主導の対イスラム国作戦、今後の展開は****
■シリア国内での軍事作戦
シリアで活動するイスラム国戦闘員を標的とした空爆は、オバマ大統領が計画する軍事作戦における最大の賭けといえる。

米国の空軍力を活用し得る能力を持ったシリアの穏健派反体制勢力が地上に展開していない以上、同国での空爆は、隣国イラクよりも限定的なものになる可能性が高い。

専門家や元米政府関係者らは、空爆はシリア東部のイスラム国支配地域に的を絞ったものになるとの見方を示し、オバマ政権がパキスタンとイエメン、ソマリアで国際テロ組織アルカイダのメンバーを標的に行った無人機攻撃と同様の作戦が行われる可能性を指摘している。

オバマ政権が、軍事作戦を無人機攻撃に限定するのか、あるいはイスラム国やシリア政府の支配地域で空軍機が撃墜されたり不時着したりする危険を冒してでも有人戦闘機・爆撃機を作戦に投入するかは、今のところ不明だ。(中略)

■航空作戦の強化
米軍が8月8日からイラクで開始した空爆は今のところ、1日平均10回程度の限定的な攻撃にとどまっている。

だが、オバマ大統領の空爆拡大の方針発表を受け、攻撃のペースは今後、加速していくと予想され、欧州の同盟国の一部も参加する構えを見せている。フランスが既に参加に向けて準備を進めていることを明らかにしているほか、英国もこれに続く可能性がある。(中略)

航空作戦の拡大には、米政府が周辺国の基地の利用許可を取り付ける必要があるが、これは中東諸国の各政府にとって常にデリケートな問題だ。

■現地部隊に対する訓練と武器供与
オバマ政権は航空作戦に加え、最終的にはイスラム国を撃退できるだけの地上部隊を国内に構築したい考えだ。

イラクに対しては、米国は既に300人近い軍事「顧問」を派遣し、イスラム国の攻勢によって大きな痛手を負った治安部隊の再編制を支援している。米国を含む各国の政府は今後も、イラク政府と同国北部クルド人自治政府の治安部隊ペシュメルガへの訓練と武器の提供を継続するとみられる。

一方のシリアでは、穏健派の反体制勢力を対象とした訓練と武器の提供も優先事項となる。だが、米政府関係者の間では、シリア国内に無数の勢力が展開していることや、内戦の多面性からみても、こうした努力が成果を生むまでには幾年もかかるとの見方が出ている【9月11日 AFP】
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中国も「有志連合」に関心
現実性はともかく、中国も「有志連合」に関心を有しているという報道もあります。

****中国、有志国連合参加に前向き 対イスラム国、ウイグル族が戦闘員参加の可能性**** 
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は9日、オバマ政権が中国に、イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派「イスラム国」に対抗する有志国連合への参加を打診、中国は「興味を示している」と報じた。米政府高官の話として伝えた。

同紙によると、有志国連合への参加打診は、中国の習近平国家主席が9日、訪中したライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会談した際に伝えた可能性があるという。

中国側は最近、少数民族のウイグル族のイスラム教徒がイスラム国の外国人戦闘員として加わった可能性があると指摘している。

米高官は同紙に「中国は国内外でのテロへの懸念を強めている。米国の国益や価値観と一致するような方法による(中国参加の)機会がないか検討している」と述べた。【msn産経】
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中国がアメリカと共に戦うという話になると、日本は?という話にもなります。
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