
(新疆ウイグル自治区カシュガルの街角で “flickr”より By choongching https://www.flickr.com/photos/choongching/15021915558/in/photolist-oTrf97-oSXDpn-oMaFRZ-p3CFbP-oJsKUR-oLqoXH-p7aBVN-oLoAVM-p5SUCs-p6eBYf-p6eC5h-p419Fb-oWDCbc-p2chVk-p2d7gw-oXTLta)
【政府系メディア:襲撃側は40人が射殺されたり自爆するなどで死亡】
中国・新疆ウイグル自治区では、中国政府の強権的抑圧へ抗議するウイグル族住民と、これを封じ込めようとする当局側との間の緊張状態が続いており、事件も頻発しています。
21日にも、同自治区バインゴリン・モンゴル自治州ブグル県の商店街入り口など少なくとも3カ所で相次いで爆発が起き、2人が死亡、多数が負傷したと報じられました。
当局側が厳しい情報統制を行っているため、それら事件の詳しい情報はなかなか入ってきませんが、相当に大規模な衝突が起きているようです。
****新疆の21日テロで改めて情報公開・・・50人が死亡、当初発表よりはるかに深刻*****
中国共産党系の新疆ウイグル自治区関連の情報サイト、天山網は25日、警察の捜査によるとして、同自治区北部のバインゴルモンゴル自治州ブグル県(中国語表記は論台県)で21日午後3時ごろに発生した同時テロ事件の情報を報じた。
天山網は当初。「死亡は2人」、「(同日夜までに)現地の社会秩序は正常」などと伝えていたが、新たな発表では容疑者を含め50人の死者が出たとされた。
同事件について天山網は当初、「連続して3度の爆発があり、2人が死亡、多数が負傷した」、「現地の社会秩序は正常」などと伝えた。
25日夜の発表では、一般人は6人が死亡し、54人が負傷。警察の反撃により、襲撃側は40人が射殺されたり自爆するなどで死亡した。警察は容疑者2人の身柄を拘束した。警察側は正規の警察官が2人、補助警察官2人が死亡したという。
死者数は合計で50人に達したことになる。負傷した一般人54人はウイグル族が32人で、漢族が22人で、重傷者が3人いるが、生命に危険は及んでいないという。
なお、事件が発生したのはモンゴル族自治州で、モンゴル族やカザフ族もかなり多く生活しているが、警察は、負傷者54人にウイグル族と漢族以外の民族の人はいないとした。
襲撃個所も当初発表では3カ所だったが、商業施設2カ所、警察2カ所の計4カ所に爆発物が仕掛けられたという。
警察によると、首謀者の男は2003年に中等専門学校(日本の職業高校に相当)を卒業し、徐々に「極端な思想」を持つようになった。2008年からは「極端な宗教思想」がさらに高じ、イスラム教の教義に則った調理をしていないとして自宅で食事をせず、政府が発行する結婚証を受け取ったとして、弟の結婚式にも参加しないなどの行動があったという。【9月26日 Searchina】
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爆発物が仕掛けられただけではなく、“襲撃側は40人が射殺されたり自爆するなどで死亡”ということは数百人規模の“襲撃”があったとも推察されます。
7月28日に新疆ウイグル自治区カシュガル地区ヤルカンド県で発生した地元政府庁舎や派出所が襲われた事件も、政府系サイト・天山網は、「容疑者グループにより漢族35人を含めた37人が殺害され、警察当局は59人を射殺、215人を拘束した」と伝えています。
従って、この7月末の事件も1000人規模の事件であったとも推察されますが、ウイグル族亡命組織「世界ウイグル会議(WUC)」は、ウイグル族の死者だけで「少なくとも2千人」と発表しています。
****亡命ウイグル組織、新疆暴動「死者2000人超」 中国発表を上回る可能性****
7月末に中国新疆ウイグル自治区西部で発生した暴動について、米政府系放送「ラジオ自由アジア(RFA)」は5日(米東部時間)、ウイグル族の死者だけで「少なくとも2千人」とする亡命組織「世界ウイグル会議(WUC)」のラビア・カーディル議長の発言を伝えた。RFAは中国語放送でも、現地在住漢族の話として、死者が千人に達したと報じた。
報道が事実なら、事件は当局の発表をはるかに上回る深刻な状況だったことになる。イスラム教のラマダン(断食月)明けの直前に起きた暴動について、中国の治安当局は「テロ事件」として非難を強める一方、死者数は一般市民37人を含む96人と発表していた。
RFAウイグル語放送とのインタビューで、ラビア氏は同自治区カシュガル地区ヤルカンド県のイリシク郷付近で、「少なくとも2千人以上のウイグル人が中国の治安部隊に殺害された証拠を得ている」と語った。発生から3日間程度をかけて中国当局が遺体を片付けた、とも述べた。
また、現地情勢に詳しい漢族女性はRFAに対し、「巻き添えになった人を含めて(死者は)千人に上る」と述べた。女性は暴動の実行犯グループとして、治安当局と同様に自治区の分離・独立を叫ぶ「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」を名指し。「この組織は爆弾のほか銃器も持っている。(爆弾を)あちこちで投げつけるほか、大刀で人を襲った」と述べ、一部は外国勢力が関与したと語った。暴動は28日から3日間続いたという。
事件発生後、外国メディアのヤルカンド県への立ち入りは厳しく制限されている。【8月7日 産経】
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当然に「世界ウイグル会議(WUC)」の発表もプロパガンダ的な誇張があるのでは・・・とも思われますが、現地は厳しい情報統制が行われていて、一体何が起きているのか真相はわかりません。
****「今も毎日連れ去られる」****
当局は(7月末のカシュガル地区ヤルカンド県で起きた)事件後、ウイグル族への取り締まりを一層強め、インターネットを遮断して報道を制限している。
ウイグル族男性は「『テロリストを見つけたらすぐに通報するように。報奨金も出る。夜は危ないから外に出ないように』と当局に言われている。留置場は人でいっぱいだ」。
現場近くに住むウイグル族女性(30)は「今も毎日、住民が当局に連れ去られている。当局は逃げた人間がいないか、民家を一軒一軒しらみつぶしに調べている」と語った。
記者は今月18、19の両日にヤルカンド県に入った。事件直後に行こうとして阻まれた地元政府庁舎にはたどりついたが、現場に近づくにつれ、当局が住民に厳しい箝口令(かんこうれい)を敷いている様子がうかがえた。
現場から35キロほど離れたヤルカンド県内で、ウイグル族の老人は「絶対に行かない方がいい」と言った。複数のタクシー運転手は現場に向かうのを拒んだ。「あそこはあまりにも敏感。住民と言葉を交わしただけで捕まるぞ」
「事件翌日に住民が集められ、事件の話をしてはいけないと当局者に念押しされた」「事件についてむやみに話すなと、当局から言われた」。こうした住民の声が相次いだ。【8月26日 朝日】
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【テロと言うよりは、民族政策への住民抗議】
数百人、あるいは千人規模の群衆が政府施設などを襲うというのは、当局側が主張するような一部テロリストによるテロ事件というよりは、中国政府の少数民族統治政策に対する住民の抗議行動といった方がいいように思えます。
中国当局はイスラム的なウイグル族の文化・風習を抑圧しようとしていますが、こうした対応が住民の反発を煽っていることも想像されます。
****ベールの女性ら乗車禁止=バスの警備強化―新疆カラマイ市****
中国新疆ウイグル自治区カラマイ市で、長いひげをはやした若い男性やベールで顔を覆った女性らの公共バス乗車が禁止された。
乗客には荷物検査も実施され、市で開かれる自治区のスポーツ大会に合わせたテロ対策やイメージアップが目的とみられる。カラマイ日報が6日までに伝えた。
「テロ」が続発する新疆ウイグル自治区では、イスラム教に対する抑圧を強化中。服装などの規制はウイグル族の反発を強める可能性がある。
このほか、星と月のマークの入った服や黒い装束を着て乗車することも禁じられた。主要なバス停には警備員が配置され「公共交通の安全」を強化するという。【8月6日 時事】
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【「中国は法治国家であり、中国の司法機関は法に基づき処理する」】
当局側は、住民との協力体制を強化するということで、情報提供に懸賞金を出すことを決定しています。
****「テロ」情報に1700万円=新疆で懸賞金規定―中国****
中国公安省機関紙・人民公安報によると、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市当局は11日までに、警察による「テロ」容疑者拘束につながる重要情報を提供した通報者らに対して最高で100万元(約1700万円)の懸賞金を付ける規定を公布した。
民族対立に起因した衝突事件が相次ぐ中、住民との協力態勢を強化する。【9月11日 時事】
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変わったところでは、異民族間の結婚奨励金制度もあります。
****中国・新疆、少数民族と漢族の結婚に高額奨励金****
民族対立が深刻化する中国新疆ウイグル自治区で、少数民族と漢族が結婚すれば毎年1万元(約17万円)の奨励金を出す地域が現れた。
民族融和を狙ったとみられるが、物議を醸しそうだ。
同自治区の政府系ニュースサイト「天山網」によると、南部のチャルチャン県が8月下旬に制度を発表した。
結婚すれば5年間に限り奨励金があるほか、子供が同県内で就学すると費用はすべて無料。専門学校や大学の入学者には毎年5000元(約8万5000円)を支給し、医療や就職でも優遇措置がある。
同自治区の都市住民の可処分所得(2012年)は約1万8000元(約30万円)で、奨励金は極めて高額だ。民族問題に詳しい漢族の評論家は「安定確保のために結婚を使うのはおかしい。効果は出ないのでは」と指摘している。【9月4日 読売】
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あの手この手で・・・という感がありますが、政府の方針に対する反対・批判は一切許さないという強硬な姿勢はますます強まっています。
****ウイグル族学者に無期懲役=国家分裂罪―言論封じ込め・中国****
中国でウイグル族が直面している厳しい現実への理解と問題解決を訴え、国家分裂罪に問われた中央民族大学(北京)の著名なウイグル族経済学者、イリハム・トフティ氏(44)に対し、新疆ウイグル自治区ウルムチ市中級人民法院(地裁)は23日、無期懲役の判決を言い渡した。弁護人によると、無罪を強く主張したイリハム氏は「判決に不服だ。抗議する」と訴えた。
イリハム氏は判決前、接見した弁護人に「どんな結果でも受け入れる」と覚悟を決めていたが、「自分の裁判を通じて新疆の法治への関心を高めたい」と語っており、上訴する意向とみられる。法廷で抗議したイリハム氏は、当局者に退廷させられた。
イリハム氏は2005年、インターネットサイト「ウイグルオンライン」を開設。新疆ウイグル自治区で民族対立に起因した衝突や爆発が多発して社会が不安定化する中、不信感や憎悪が拡大する漢族・ウイグル族間の和解を穏健に訴えてきた。
共産党指導部は、党・政府のウイグル政策を批判するあらゆる言論を「法」の名の下に封じ込める狙いだ。【9月23日 時事】
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漢族・ウイグル族間の和解を穏健に訴えてきたイリハム・トフティ氏が「国家分裂罪」に問われたことには、国際的な批判も高まっています。
****「平和的異議申し立ては犯罪ではない」米長官、中国にウイグル族学者の釈放求める****
ケリー米国務長官は23日、中国で「国家分裂罪」に問われ無期懲役などの有罪判決を受けたウイグル族学者、イリハム・トフティ氏について、「深く心配している」とする声明を発表し、中国政府にイリハム氏や勾留されている学生の釈放を求めた。
声明で、ケリー氏は「平和的な異議申し立ては犯罪ではない」と指摘。その上で、イリハム氏らを沈黙させることはウイグル族との「緊張状態を悪化させる」と強調した。【9月24日 産経】
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こうした国際批判に 中国政府・外交部の華春瑩報道官は24日の記者会見で激しく反論しています。
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・・・・米国などで、イリハム氏の逮捕・拘束・判決について批判が出ていることについては「個別の国は、いわゆる民主、人権などを旗印として、イリハムが起こした事件について勝手気ままに論じ、あれこれと指図する。あげくのはてには釈放せよと、理不尽な要求をする場合すらある」と非難。
イリハム氏の釈放を求める声についてはさらに「中国の内政と司法の主権に対する粗暴で理不尽な干渉だ。中国は強烈な不満と反対を堅持することを表明する。すでに、該当国には厳重に抗議した。われわれは該当国がただちにダブルスタンダードというやりかたを放棄し、中国への内政干渉という誤ったやり方をやめるよう督促する」と述べた。(後略)【9月25日 Searchina】
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【漢族改革派知識人の支援の動きは比較的鈍い】
イリハム・トフティ氏の弁護士は25日、判決を不服として近く上訴する意向を明らかにしています。
****穏健派ウイグル族学者、無期懲役判決受け上訴へ*****
中国で国家分裂罪に問われ、無期懲役判決を言い渡された少数民族ウイグル族の学者、イリハム・トフティ氏の弁護士は25日、判決を不服として近く上訴する意向を明らかにした。(中略)
中国の言論統制に絡む事件では、改革派知識人らが支援活動などを行うのが通例だが、ウイグル族であるイリハム氏に対する漢族の支援の動きは比較的鈍い。【9月25日 読売】
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中国当局の強硬な姿勢、アメリカの批判、それへの中国側の反発・・・こうしたところは容易に想定できる話ですが、興味深かったのは、中国国内改革派においても“ウイグル族であるイリハム氏に対する漢族の支援の動きは比較的鈍い。”という点です。
ミャンマーにおいても、西部ラカイン州のロヒンギャに対する扱いについて、国際社会が批判しているなかで、ミャンマー国内のスー・チー氏ら民主派と呼ばれる勢力からの声が殆ど聞かれない・・・という話とも共通します。
人権に関する意識は民族の壁を乗り越えることができない・・・というのが現実でしょうか。